月とコーヒー (文芸書)

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198647728

作品紹介・あらすじ

これは、忘れられたものと、世の中の隅の方にいる人たちのお話。
喫茶店〈ゴーゴリ〉の甘くないケーキ。世界の果てのコインランドリーに通うトカゲ男。映写技師にサンドイッチを届ける夜の配達人。トランプから抜け出してきたジョーカー。赤い林檎に囲まれて青いインクをつくる青年。三人の年老いた泥棒。空から落ちてきた天使。終わりの風景が見える眼鏡──。
人気作家が腕によりをかけて紡いだ、とっておきの24篇。

感想・レビュー・書評

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  •  吉田篤弘さんの、24篇からなる短編集です。手のひらサイズの美しい装幀の上製本で、とても可愛らしくプレゼントにもよろしいかも‥
     表題の作品は収められておらず、あくまでも本書のタイトルなんですね。吉田さんは「あとがき」に次のように記してます。

     ①「(本作は)一日の終わりの寝しなに読んでいただく短いお話」 ②「『月とコーヒー』というタイトルは自分が小説を書いていく上での指針となる言葉のひとつ」 ③「いつでも書いてみたいのは、そうしたとるにたらないもの、忘れられたもの、世の中の隅の方にいる人たちの話」

     この「あとがき」すごくいいです。もうこれで全てを表している気がします。駄文レビューなんぞ不要ですね。特に上記③は、本書に限らず、吉田さんの創作の根幹をなす文章と思えます。

     まさに、窓には月、傍に珈琲、そんな静かな夜に本書を手にし、短い一編の物語をゆっくり読み進める‥。唐突に始まる夢のような、コーヒーの湯気のようにふわりと消える各編の物語は、心を凪いでくれ、安眠に誘われます。

     こんな物語を夜更けに読みながら、その世界観に浸るとともに、ふと吉田篤弘さんが、ひっそりと、こっそりと物語を創造している姿を想像します。
     吉田さんにとっての『月とコーヒー』は、私にとっては間違いなく、躊躇わず『本と珈琲』です。やっぱり、ある方にとって取るに足らず、なくても生きていけるものでも、誰かにとっては極めて重要なものがあるんですね。

     本書から派生し、〈インク三部作〉と呼ばれる『それでも世界は回っている 1〜3』に、まだ辿り着きません‥。

  • 吉田篤弘さん…あとがきで「月とコーヒーというタイトルは自分が小説を書いていく上での指針となる言葉のひとつ」と。生きていくために必要ではないかもしれないけれど、日常を繰り返していくためになくてはならないもの…また温かいもの、大切にしたいものを頂きました。幾つか気に入った短篇「つづきはまた明日」「冬の少年」「セーターの袖の小さな穴」

    • koalajさん
      m.cafeさん
      初めまして。
      コメントありがとうございます!
      こちらこそ今年もよろしくお願いします。
      吉田篤弘さんの世界、とっても好きです...
      m.cafeさん
      初めまして。
      コメントありがとうございます!
      こちらこそ今年もよろしくお願いします。
      吉田篤弘さんの世界、とっても好きです。
      温かくていいですよね。
      私、m.cafeさんの本棚がすごく好きで、読みたいなぁと思う本がいっぱい。
      これからも参考にさせていただきますね♪
      2022/01/05
    • m.cafeさん
      koalajさん
      koalajさんの本棚におじゃますると、私もほっとします。
      きっと好みが似ているのでしょうね。
      吉田篤弘さん、今年もたくさ...
      koalajさん
      koalajさんの本棚におじゃますると、私もほっとします。
      きっと好みが似ているのでしょうね。
      吉田篤弘さん、今年もたくさん読みたいですね。
      これからも、どうぞよろしくお願いします♪
      2022/01/05
    • koalajさん
      m.cafeさん
      ふふっそうですね♪
      好きなものが似ているのかも。
      こちらこそよろしくお願いします!
      m.cafeさん
      ふふっそうですね♪
      好きなものが似ているのかも。
      こちらこそよろしくお願いします!
      2022/01/05
  • ふつり、と急に終わってしまう短い24編のお話。
    あとがきで吉田さんは、
    「あれ、もうおしまい?この先、この人たちはどうなるのだろうーーーと思いをめぐらせているうちに、いつのまにか眠ってしまうというのが理想」
    と述べている。

    やっぱり吉田さんの傍にはいつも夜がある。
    夜って不思議な時間だと思う。
    月明かりだけの時間。
    思いがけず感傷的になる時間。
    空想の翼が広げられる時間。
    音が消える時間。
    街や人が眠りに向かう時間。
    身近な人や、暖かな食事、部屋の明かりや、布団の温もりが恋しくなる時間。
    太陽が明るく照らす、街が活動的な時間とは全く別の世界が広がる。
    あとがきでも吉田さんは"生きていくのに必要なのは太陽とパンだけれど、月とコーヒーがなくなってしまったら、なんと味気なくつまらないことでしょう"というような事を語っておられる。
    なんか嬉しい。

    さて本書は終わりだけでなく、物語の始まりも唐突だ。
    「本当を云うと、この世界に「果て」と呼んでいいところがあるとは思えないのです。」
    だとか、
    「〈ツアー〉を申し込んだのは彼の姉でした。」
    だとか、
    「熊の父親が旗の店を営んでいることは、皆、知っていたのでした。」
    だとか。
    これらは全て物語の最初の1行。
    確かどこかの本で吉田さんは「物語はいつも途中から始まる」というような事を仰っていたように記憶している。
    言われてみて、そうよねーなんて1人納得。
    だって私達も昨日の続きを生きているわけで、物語の登場人物たちも、読者がページを開いた途端に動き出すわけじゃなく、彼らは彼らの世界で生きているのだから(と思いたい)。

    このあと彼女はどうしたんだろう…
    彼と彼女はうまくいったのかしら…
    そんな素敵な想像をせずにはいられない1冊だ。
    こういう物語の欠片たちから、長編作品が生まれていくのだろうな。
    アイデアノートを覗かせて貰ったようで、わくわくする1冊だ。

    そうそう。
    24編中、少しだけ先を知ることが出来る物語が1つ含まれている。
    それは「青いインク」。
    山崎と戸島は出会えたのか?
    山崎の作り出す青いインクの素晴らしさを、伝えることは出来たのか?

    因みに本書の「青いインク」から生まれたお話が、インク三部作「それでも世界は回っている 1」~「それでも世界は回っている 3」だ。
    「3」については今年の2月末に発売らしい。
    これらも読んでみたいなぁ。
    でもまだ月舟町関連の本をここに2冊積んでいる(汗)
    落ち着け、私。
    まずは月舟町シリーズを読み終えてからインク三部作だな。

    24編中、好きだったのは、
    インク三部作の発端となりそうな三作「青いインク」、「青いインクの話のつづき」、「ヒイラギの青空」。
    それから「鳴らないオルゴール」、「美しい星に還る人」、「熊の父親」。

  • ☆4

    「忘れられたものと、世の中の隅の方にいる人たちのお話。」

    以前から気になっていた作品。単行本なのに、文庫本ほどのサイズ感がとっても可愛いです!

    24編の短編集なのですが連作ではないので、ちょっとした空き時間や、寝る前に読み進めるのにちょうど良かったです❁⃘*.゚
    吉田篤弘さんの作品は初めてだったのですが、独特の世界観に魅了されました!
    他の作品も是非読んでみたいと思います。

  • 24篇の短いお話。

    毎夜、寝る前にちょこちょこと読める。
    えっ!続きも…と期待したくなるのもあり、で。
    「セーターの袖の小さな穴」は、隣り町で旅するだけで終わりなのか、と。本屋を開かないの?と言いたくなった。

    甘くないケーキ、シチュー、サンドイッチなどの食べ物が、絡んだお話に惹かれたり…もして。

    気になってしまった話は、「隣りのごちそう」
    食には、拘らないや、と思っていても隣りから聞こえてくる料理をする音。
    この音って、気になるんだよー。
    何作ってるのかな?から始まり次に匂いで、作りたくなる。
    だけどやっぱり音だなぁ。気になるなぁ。
    …で、次の日に同じのを作ってみる。
    次の日も次の日も。
    最期は、真似される。終わりかたよ〜

  • とにかく心地良さが流れる作品だった。

    なんと言っても眠る前に鍵のついた日記を開くような感覚を思わせるこのコンパクトなサイズが可愛らしい。

    そして開くと、まるで待っていてくれたかのように出迎えてくれる数々のショートストーリー。
    どの物語も最後の一文がなんとも言えない心地良さだ。
    まるで眠りの入り口で夢の世界へのチケットを切ってくれるような心地良さ。そのままストンと眠りにつける心地良さ。
    これは毎晩読みたくなる、大人のための、自分で読む大人の読み聞かせ本かな。
    手元に枕元に置きたくなる。

    • あいさん
      こんばんは(^-^)/

      吉田作品、1作読んで心地よくて次も読もうと思いつつ…
      この本はショートショートなんだ。
      それならば、気楽...
      こんばんは(^-^)/

      吉田作品、1作読んで心地よくて次も読もうと思いつつ…
      この本はショートショートなんだ。
      それならば、気楽に読めそうね♪
      いつも紹介ありがとう(⁎˃ᴗ˂⁎)
      2019/06/10
    • くるたんさん
      けいたん♪
      こちらこそいつもありがとう♡

      私も吉田作品はまだ2冊だけ。これはショートだからほんと寝る前に読むのにぴったり♪

      ミステリだと...
      けいたん♪
      こちらこそいつもありがとう♡

      私も吉田作品はまだ2冊だけ。これはショートだからほんと寝る前に読むのにぴったり♪

      ミステリだと興奮しちゃったりするよね(笑)。これは大人の童話の世界だからスッと眠りに誘われた気がするよ♪

      装丁も素敵だからたまに読みたくなる吉田作品◟( ˃̶͈◡ ˂̶͈ )◞
      2019/06/10
  • 「さあ、これから!」というところで終わってしまい「うっううっ~」と急ブレーキをかけられる感じ。元々短編では消化不良気味な私にとってこの短編は短すぎました。いいお話が揃ってるからもう少し続きが読みたい。

    • アールグレイさん
      こんにちは、
      ゆうママです、
      突然のコメント、お許しを
      短編集って、そう。「天使と悪魔のシネマ」Day to Day」が、最近読んだ中でその...
      こんにちは、
      ゆうママです、
      突然のコメント、お許しを
      短編集って、そう。「天使と悪魔のシネマ」Day to Day」が、最近読んだ中でその類いかと思います。この本は今年の1月に読んだのですね!
      突然に失礼致しました。
      (^_^)/
      2021/05/24
    • raindropsさん
      こんにちわ。
      ゆうママさん、コメントありがとうございます。

      短編集、いいのもあるんですけど、今回の本は私には短すぎました。私が未熟だからな...
      こんにちわ。
      ゆうママさん、コメントありがとうございます。

      短編集、いいのもあるんですけど、今回の本は私には短すぎました。私が未熟だからなのかもしれません。

      教えていただいた二冊は未読ですが、「Day to Day 」は内容見た限り、かなり短い見たいですね。ちょっと見てみたい気もします。

      また、面白い本があれば教えてください。
      2021/05/25
  • 冴え冴えとした月を眺めながら、温かくて香ばしいコーヒーが飲みたくなる、24のショートストーリー。
    コーヒーのお供に出される様々な食べ物…甘くないケーキやきりっとしたサンドイッチ、ドーナツ、マスタードを塗っただけのパン等々。
    コーヒーって何にでも合う飲み物なのだな、と改めて思う。
    特に「大胆にして繊細」な『ジョーカーのサンドイッチ』は今すぐにでも食べてみたい。

    老人たちの暮らすシニアハウスでの一夜を描いた『アーノルドのいない夜』、アパートのお隣さんの夕食が気になる『隣のごちそう』、バナナに対するアツい思いを猿くん達が語り合う『バナナ会議』、恥ずかしがり屋のオルゴール修理職人の『鳴らないオルゴール』、遠く離れた星からやって来た女性に地球を案内する『美しい星に還る人』、ちょっとお茶目な泥棒三人組『三人の年老いた泥棒』が良かった。
    因みに私はちょっと熟れた位のバナナが好きです。

    ちょうど今時分の秋から冬にかけて、キンと澄みきった冷たい夜空に浮かぶ月を眺めながら、眠る前の一時に読むのにぴったりのショート集だった。
    秋の夜長にぜひ。

  • なんか、いいぞ。
    不思議な空気感。文体。
    決して読みやすい文章ではないのに…。意図しての文体だろう。不思議だ。
    喫茶店でコーヒーを飲みながら読むのにイイ。
    月とコーヒーが必ず出てくる24個の短編集のようだ。まだ3話。
    10ページくらいの短編。星新一みたいな雰囲気もある。
    それぞれの終わり方に余韻がありすぎるようにも感じるけど、余計にそれが想像力をかき立てられる。
    創造的。

    『隣のごちそう』良かったです。人って些細な事で影響し合っていると言う人間関係の機微を感じさせてくれます。

    その後の話もそれぞれの「良さ」があります。

    なんだろう…この世界観…

    人生の選択性…永続性…
    短い文章…哀愁…

    慣れてくると最初に感じた読みにくさを感じなくなった。

    「バナナ会議」面白い。やっぱり、こう言うちょっと突飛な話しが好きなんだなぁ。
    バナナの食べ方の会議をする猿たちって…笑

    あと6話まできた

    なんだろうなぁ。この余韻…
    掻き立てられるわぁ。美術館にいるような…余白感。

    これは…相当好きだぞ。

    「3人の年老いた泥棒」絵本を読んでいるような錯覚を覚える作品。まとまりがあってキレイに完結した作品だ。

    「冬の少年」これもキレイだなぁ。忘れてしまった何かを思い出させてくれる。主人公が感じた感覚を読者もトレース。異常なまでの同期する感覚。

    短編の良さが…スゴすぎる…

    全ての話に「可能性」を感じる…
    その世界の続きをのぞきたい気持ちになると言うか…それと同時に現実世界への可能性も想起され、なんかワクワクしてくる…

    また一人。好きな作家を発見してしまった…

    あと2話まできた。

    「ニ階の虎の絵」なんか…人生において大切な何かを感じさせてくれる…受け継がれるレシピ…不思議なひと工夫。つながり…

    読了。最後の話は、青いインクの話の続編になっていて、この短編集の最後に相応しい話でした。
    著者のあとがきにもあるように、もう終わり?と感じる面もありましたが、それも最初だけの感覚。読んでいくうちに世界観にどっぷり。ただ著者の思惑通りにいつの間にか寝てしまうレベルの作品ではないです。想像力を掻き立てられて、興奮しがち。逆に眠れなくなるのでは笑

    読んだ方へ
    青いインクを万年筆に浸し、何かを書きたくなりますよね〜

    まだ読んでない方へ
    絵本が好きな人、ちょっと変わった不思議な世界観が好きな人にぜったいオススメです

    あと、心が疲れてる人にも良いかも。セラピーのような効果もありそう…

    マジおすすめ!

  • 24の掌編が収められた小説集。あとがきで著者が言っているように、内容も文章の長さも『一日の終わりの寝しなに読』むのに丁度いいと思う。今回は普通に読んだが、再読の機会があれば一編ずつゆっくりと読んでみたい。これから手にする、という人はあとがきから読んでみると良いかも…。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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