歌舞伎座の怪紳士

  • 徳間書店 (2020年1月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784198650087

作品紹介・あらすじ

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第13回エキナカ書店大賞受賞著者が贈る
劇場型ミステリー!
====================


祖母にもらった一枚のチケットが
私の人生を変えた

岩居久澄、27歳。
無職。家事手伝い。
将来がちょっと不安ーー。

心のどこかに鬱屈を抱えながら
過ごしていた久澄のもとに、
奇妙なアルバイトが舞い込んだ。

祖母の代わりに芝居を観に行き、感想を伝える。
ただそれだけで一回五千円もらえるという。

二つ返事で了承した久澄は、
初めての経験に戸惑いながら
徐々に芝居の世界にのめり込んでいく。  
歌舞伎、オペラ、演劇……。
どれも楽しい。
けれど、久澄には疑問があった。

劇場でいつも会う親切な老紳士。

私が行く芝居に必ず「彼」がいるのは、
なぜだろう?

みんなの感想まとめ

心に鬱屈を抱えた主人公が、祖母からの一枚の歌舞伎チケットをきっかけに新たな一歩を踏み出す物語です。無職の27歳、久澄は家事手伝いとして実家で過ごしながら、自己肯定感の低さに悩んでいますが、観劇を通じて...

感想・レビュー・書評

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  • 久澄27歳。会社でのセクハラ、パワハラによって心を病んで実家で家事手伝いをしている。
    母親が正社員でバリバリ働いているので、金銭的には困っておらず家事や犬の世話をして少しの小遣いを貰って暮らしています。
    そんな久澄ですが自分の状況を呑気に甘んじてはいない。とにかく自己肯定感が低い。ちょっとイラッとするくらい暗くてネガティブな女性です。
    でも母親目線で読んでるからとにかく心配(。>ω<)

    苦手な祖母からもらった歌舞伎のチケット。勇気を出して行く事で、少しずつ強くなっていく…ほんとに少しずつゆっくりゆっくり。

    歌舞伎座で偶然出会う初老の紳士とのやりとりもゆったりと心地よいです。
    タイトルの怪紳士…偶然が重なる不思議&歌舞伎座でちょっとした日常ミステリー的な事件が起こるからこのタイトルかな♪

    疲れた心にホッと一息…癒しの一冊。
    怪紳士の正体はちょっと素敵なお話でした♪
    続きが気になりますね_φ(・_・


    • ゆーき本さん
      母は子どもが何歳になっても心配するものだ( ¯ω¯ )
      母は子どもが何歳になっても心配するものだ( ¯ω¯ )
      2023/11/08
  • 職場が原因でメンタルを病んでしまったニートの久澄(27歳)。
    家族に生活費を全て負担してもらう代わりに、家事手伝いとチワワの世話をし、月三万円の報酬を貰っている。このぬるま湯感凄い。
    舞い込んできたバイトは、観劇(歌舞伎、オペラ)をし、感想を教えること。
    毎回出くわす親切な紳士は誰。
    歌舞伎、オペラの知識、謎解き、久澄の心情の変化がバランスよく描かれ、観劇の雰囲気が伝わりました。いつか歌舞伎を観たいと思っています。しかし難しくて自分には場違いなイメージがありましたが、少しだけ取っ付き易くなりました。
    久澄がいつもと違い、着飾って観劇に行く場面が好きでした。心の内面が沈んでいるとき、まずは外見から、この気持ちは大切と思う。久澄の心の葛藤の部分で、共感するところがありました。
    誰かがあなたを責めようとして発することばは、自分がいちばん言われたくないことば。刻んでおこう。
    何がきっかけで、再生への道が開けるかわからないと思えた作品でした。

  • ある理由で働けなくなり実家に引きこもっている久澄に祖母しのぶから頼まれたバイトは、自分の代わりにお芝居を見に行き感想を教えること。
    劇場に行く度、何故か出会う六十代と見られる紳士は、男性に対する不信感と恐怖心を抱える久澄でも気軽に話せるほど穏やかで自分を尊重してくれる。
    そんな中、劇場に行く度に奇怪な事件に遭遇し…。

    他人のペットボトルをこっそり入れ替える女性客、一般席の久澄に桟敷席と代わってくれないかと頼む客、爆破予告で遅れる第二幕…。
    様々な事件を怪紳士が謎解きするのかと思っていたら、主体的に謎解きするのは久澄で怪紳士は手助けしてくれる役。人に対して萎縮するばかりの久澄が段々と堂々意見を言えるようになっていく。
    しかし事件の謎解きは出来ても物事が解決出来るものではないことも知る。

    久澄の友人が言うように、或いは久澄自身も自覚しているように彼女は恵まれた境遇だと思う。
    両親は早くに離婚して母と姉との三人家族とは言え、母親は正社員でキャリアも積んでいるし、姉は眼科医として自立している。
    久澄は実家の家事と姉のペットの犬の世話を引き受ける代わりにお小遣い程度とはいえ報酬を受け取っている。多分それは母親と姉が久澄に惨めな思いをさせないための気遣いだと思うが、母親の安定した収入があるから久澄は申し訳ない気持ちを持ちつつも引きこもり生活を出来るし、祖母から頼まれたバイトとは言えお芝居を楽しむことも出来る。

    しかしだからと言って久澄が苦しんでいないわけではないし、このままではいけないとも思っている。
    逆に久澄が羨むほど完璧に見える友人も姉も苦しみがあった。
    久澄が激しく気後れするほど完璧で隙のない祖母しのぶだって、その息子、つまり久澄の父親の育て方は完璧ではなかった。そこに久澄が気付けばもっと気楽に向き合えそうだが。

    肝心の怪紳士の正体については予想とは違っていた。こういう関係もあるのか、と不思議な感じ。

    祖母しのぶと同じく敷居が高いと感じていたお芝居の世界。歌舞伎やオペラなどに対する作家さんの思い入れを改めて感じる。映画より安く観られる席もあることを知った。
    私の読書趣味もそうだが、虚構の世界だからこそ楽しめて、そこが前を向くきっかけだったり心の拠り所になったりする。生活に役立とうがそうでなかろうが良いじゃないか、その人の心を照してくれるなら。

    謎解き小説というよりは久澄の再出発の物語だったが、心地よい読後感だった。

  • 岩居久澄、27歳。
    無職。家事手伝い。
    将来がちょっと不安ーー。
    生活に不満はないけど、不安はある。
    家事手伝いの岩居久澄は、心のどこかに鬱屈を抱えながら日々を過ごしていた。
    そんな彼女に奇妙なバイトが舞い込んだ。
    祖母の代わりに芝居を見に行き、感想を伝える。
    ただそれだけで一回五千円もらえるという。
    二つ返事で了承した久澄は、初めての経験に戸惑いながら徐々に芝居の世界にのめり込んでいく。
    歌舞伎、オペラ、演劇…。どれも楽しい。
    けれど、久澄には疑問があった。
    劇場でいつも会う親切な老紳士。あの人っていったい何者…?


    タイトルがとっても変(笑)
    オペラ座の怪人のもじり…?
    期待せずに読み始めた。
    近藤さんらしい軽妙な文章で描かれた連作短編集のミステリーと思ってた。
    料理をし、母の弁当を作り、姉の愛犬の散歩の日々。
    殆ど引きこもりの久澄に、祖母から頂き物のチケットを無駄にしたくないので
    観劇し感想を聞かせて欲しい。アルバイト料は5千円。
    読み進めるにつれて主人公久澄が今の様な状態になった原因が明かされる。
    会社での加重労働で身体が疲弊しているうえ、上司のハラスメントに傷つき、
    パニック障害を発症し、ニート生活を送る様になったのだった。

    この依頼を受けて、観劇を続ける内に歌舞伎がとても大好きになり、
    観劇が大好きになった久澄。
    少しずつ自分の気持ちに変化が起こり、変わってゆき始める。
    久澄の周りの姉や親友。
    彼女達も誰にも言えない悩みを抱えていた。
    傷付いた人たちが、皆少しずつ元気になってゆく。
    一歩踏み出してゆく姿がとても良かったです。

    空気がぱんぱん詰まったボールじゃなくても
    へこんだまま転がっていくことだってできるんですね。

    「誰かがあなたを攻めようとして発する言葉は、自分が一番言われたくない言葉です」
    このことば胸に刻んでおきたいです。

  • 何だか“オ〇ラ座の怪人”をモジったようなタイトルの本書。
    劇場×ミステリって感じなんかな?と勝手に期待して読んでみました。

    とある事情でパニック障害を発症し、仕事を辞めた久澄。
    現在は実家で家事をこなし、犬のワルサのお世話をしつつ、将来の不安や焦燥感を抱える日々を過ごしています。
    そんな久澄に、祖母の代わりに芝居を観に行き感想を伝えるというバイトの話が舞い込み、貰ったチケットで早速歌舞伎座に観劇に訪れますが、奇妙な出来事に遭遇して・・・。

    私も以前久澄のような状態になった事があるので(実家暮らしではないですが)、本書で綴られている彼女の焦りだったり自己否定感だったりという心理描写に、かなり共感するものがありました。
    日本の社会って、メンタル疾患に対する理解が無さすぎるので、ちゃんとメンタルクリニックで“病気”と診断されているのに“甘え”と捉えられたり、本書の中でもあった、祖母のしのぶさんの「・・じゃあ、そろそろ働かないとね」という台詞のように、まだリハビリ中なのに社会復帰を焦らすような発言をされたりと(この台詞はマジでNG!焦って社会復帰しても再発しちゃうかもなのに・・)、周囲の無理解がキツイんですよね。
    その点、久澄は母親と姉が彼女の状態を受け入れているので、環境的には良い方かも(あ、でもそれだけに負い目があるか・・)等々と思いながら読みました。
    と、主人公にわかりみが過ぎて、つい熱く語ってしまいましたが、本書は職場のクズ男のせいで心を病んでしまった久澄が観劇を通して徐々に再生していく展開となっております。
    さらに、歌舞伎やオペラといった"敷居が高い"と思われがちな、お芝居の知識や劇場の雰囲気も味わえて、且つ劇場で遭遇する様々な謎を解いていくというミステリ要素もあるという・・まさに"一粒で二度・三度おいしい"内容となっております。
    観劇初心者の久澄の視点で劇場の様子や演目の説明がされているので、読んでいるこちらも一緒に舞台を観ているような気分にさせてもらえるのも楽しいですし、芝居の世界に興味を持った久澄が自分や周りと向き合って、前に進んでいくという希望の持てる爽やかな読後感というのも良きでした。
    因みに、久澄が行く先々の劇場で出会う謎の紳士は、タイトルのような"怪"紳士ではなく、とても素敵なおじ様ですよ~。

    ありきたりで何ですが、この作品を読むと"舞台を観に行ってみたい"と思っちゃう事請け合いでございます~。

  • 面白さもある素敵な作品だった。

    心に鬱屈を抱えた主人公が一枚の歌舞伎チケットを機に一歩を踏み出していく物語。

    ありがちなテーマではあるけれど、劇場で毎回出会う老紳士、遭遇する不可解な謎というミステリアスな雰囲気、歌舞伎やオペラとの心の重ね合いがこの作品にひと匙ふた匙もの魅力を添えていたと思う。

    芸術や文化から得る刺激、次へと繋がるステップは読んでいて心地良かったし、謎の老紳士の心に響く言葉も印象的。

    謎が明かされていく面白さといい、ほんわか柔らかさ温かさが胸に広がるこの読後感といい、素敵な作品だった。

  • 岩居久澄は、人間関係から、適応障害を罹患し、不安な将来を抱え込み、生活する、失業中の27歳。

    家事と、愛犬の面倒を見ることで、母と姉から、僅かなアルバイト料を貰って、鬱屈を抱え、生活していたが、花の師匠をしている、父方の祖母から《自分の代わりに芝居を見に行き、感想を伝える》それだけで、一回、五千円もらえるという、アルバイトを提案されて、了承する。

    初めての歌舞伎観劇。戸惑いながら、回を重ねる度に、芝居の世界に惹かれていく。

    しっかり者の姉の不倫。
    劇場でいつも会う、親切な老紳士。
    いつも、凛としている祖母との関係。
    友人との、ちょっとした心のすれ違い。

    歩けなくなったら、もう一度歩き出す勇気が出るまで、立ち止まれば良い…と。

    いろんな経験をして、ようやく、一歩を踏み出す久澄。

    読後感は、すこぶる良。

  • 職場で心に傷を負ってしまい自宅で引きこもり状態の久澄。母や姉の日常の雑務の手伝いはしているが自分の立場に不甲斐なさを感じている所に祖母から代理で観劇に行き、感想を伝えるというバイトを頼まれ、行く先々で起こる謎を何故か何時も出会う老紳士の手を借りつつ解いていく。始めは紳士頼りなのが少しずつ自分の力で謎を解くようになり、それに伴い周りに目が向き人生を見つめ直して立ち直っていく過程が優しく丁寧でしみじみ。歌舞伎や演劇の内容が判りやすく魅力的に描かれていて、幕見席の存在等の情報もあり気軽に行ってみたくなった。

  • 訳あって無職で実家暮らしの主人公の世界が、お芝居や人との出会いによって少しずつひらけていく。

    心温まるストーリーに加えて、ミステリなので、すっかり引き込まれました。
    等身大な姿で地道に生きる主人公”久澄”。親近感がわいて、もう少し欲深くてもいいのにと思ってしまう。ページを捲るごとに少しずつ、彼女の世界が広がっていくのが読んでいて楽しかったです。
    各章の謎解きもさることながら、紳士の正体がとても気になって…成程!という展開でした。エピローグまで読んでスッキリ。

    ”久澄”と一緒に自分も元気になれる小説でした。ミステリはあまり読み返さないですが、この本は再読したいです。

  • 歌舞伎やお芝居などの舞台に魅せられて、人生が変わっていく女性の物語。

    心の病を抱えて家にこもっている久澄。家事と犬の世話が役目。そんな日常に舞い込んできた歌舞伎の鑑賞。「怪紳士」のおかげもあって、久澄の考え方や生き方に影響を与える。久澄がゆっくり前向きになっていく、心境の変化が心地良い。

    我が家にも引きこもりがちな家族がいるので、こんなふうに夢中になれるものが見つかればいいなぁと思いながら読んでいた。

    あと、バリバリ働くお母さん、かっこいい。毎日娘にご飯作ってもらって楽しく働けるの、サイコー。

  • 仕事を辞めて、家で引きこもっていた主人公が、歌舞伎を見に行き、そこで出会う人と関わり、少しずつ社会に出ていけるお話だった。歌舞伎の舞台を見に行きたいと思った。年上男性の堀口さん、いい人だったな。親切が連鎖しているすてきなお話だった。

  • 会社の人間関係に疲れパニック障害になってしまった岩居久澄
    バリバリのキャリアウーマンの母と眼科医の姉に気後れしながらも家事手伝いという名目で引きこもる日々

    決して今の状況を良しとしているわけではなく、世間体や常識に惑わされながら苦しむ姿が健気です気の毒で
    こんなに真面目だからパニック障害にもなるのだろう

    あるひ、父方の祖母しのぶから
    「自分が行けない歌舞伎やミュージカルなど観劇に代わりに行って感想を聞かせてほしい」
    という申し入れがある

    これをきっかけに、歌舞伎に興味を持ち、少しずつ外に出られるようになっていく
    どういうわけか、久澄の行く先々の劇場で会う謎の初老の男性
    『オペラ座の怪人』ならぬ『歌舞伎座の怪紳士』だ

    祖母しのぶとこの紳士との関係は?

    歌舞伎のいろんな演目の筋も随所に出てきて、歌舞伎ファンにはたまらないだろう

    私は歌舞伎や演劇の鑑賞シーンよりも
    久澄の心の葛藤や少しずつ自分を偽ることなく自分を取り戻していく過程が読んでいて、共感できた

    近藤史恵さんの文章、とても読みやすくて気に入っている
    フランス料理やロードバイク、今回は歌舞伎など
    読む度に新しい世界に誘ってくれる

  • 祖母からもらった歌舞伎座のチケットで観劇する主人公、いろんな出来事を経て自分を取り戻していく話。歌舞伎を少しでも観たり知っていたらもっと話にのめり込めたんだろうと少し残念です。

  • 岩居久澄(いわいくすみ)27歳、家事手伝い。
    実は会社でのセクハラ、パワハラで心と身体を壊し、仕事が出来ない状態なのだ。
    幸い、家事は得意で、正社員で働く母の代わりに家事をこなし、一人暮らしで多忙な、眼科医の姉から、ペットのチワワの世話を任されている。

    ある日、祖母のしのぶからアルバイトを頼まれる。
    芝居の切符をよく頂くが、足が悪くて毎回は行けない。
    代わりに行って、席を埋めてもらえないか。
    そこで久澄は、初老の紳士に会う。

    最初のチケットは、歌舞伎。
    歌舞伎初心者の久澄によって、演目の内容が丁寧に語られる。

    お話の内容は、3段階くらいに分かれている。
    久澄が劇場で遭遇する事件を、謎の紳士「堀口さん」と一緒に解いていく…というところから、2段階目は、古くからの友人との関係、姉の香澄の事情、久澄が働けなくなったわけなど、生き辛い女子の事情だ。

    久澄は歌舞伎に興味を持つ事によって、活力を得る。
    そして、人について考える。
    自分自身の関わることは、目が曇って意外に見えないもの。
    それが、芝居や物語に描かれているものならば、客観的に見られるのだ。
    ハッと気づかされたことを、自分の身に置き換えてみる事もできる。

    「好き」を力に再び外に出ることが出来た久澄。
    家に戻って、重いものを下ろした姉の香澄。

    三段階め。
    最後、久澄は一人で謎を解く。
    完璧に見えるしのぶさんにも、若い頃の苦い思い出があった。
    芝居のチケットをくれて、明るい所へ導いてくれた人たちへ、ささやかな恩返しができたかな?
    誰かのために何かできるのは、自分に余裕が生まれた証拠だ。
    欠けた月がゆっくり満ちてくるのを見るような読み終わりだった。

    愛犬家の近藤さんならではの、ワンちゃんの描き方もキュンとした。

  • 事情あって無職生活を送る主人公に訪れた転機、それは歌舞伎の一枚のチケットだった。
    劇場で度々出会う老紳士とともに、歌舞伎を観て人々と出会っていく中で、やがて主人公がひとつの気づきを得てゆく連作短編集です。
    いつものさばさばとした語り口で、寄りすぎずに主人公の境遇を語り、事件を説き、やがて未来への道筋をそうっと差し示していく。押しつけがましくない距離感ある描き方だから、さらりと読ませつつも伝えたいこともしっかり理解できるバランス感がいつもながら巧いです。
    現代劇は観に行きますが、歌舞伎の世界はさっぱりな私でも、過剰すぎない適切な説明のおかげで、面白く感じていく理由や感情を揺さぶられる意味もとらえやすいと思いました。
    時代がどんなに経っていても、描かれているのは究極、人と人の複雑な感情の行き交いの模様であり、それは未来永劫変わることもないでしょうから。

  • この作家さんは相変わらず読みやすい。
    話の中にするすると入っていけて、ちょっとした謎もあり、とても楽しく読めました。

    無職、彼なし、心に傷あり、の久澄はある日、祖母のしのぶさんから、バイトを頼まれる。
    しのぶさんの代わりに、頂き物のチケットでお芝居を見に行き席を埋め、感想をメールで送るというものだ。
    このバイトで、久しぶりに外出するようになった久澄が、小さなミステリーに関わりながら、少しずつ今までの生活から前に進み始める。

    私自身は観劇などの経験がほぼないのだが、こんなバイトを親族に頼まれたら是非行ってみたいなぁと思う。

  • 心を病み、無職の久澄が祖母から依頼された歌舞伎観劇をきっかけに、少しずつ心を回復させていく。堀口さんの言葉が胸に刺さる。人は自分の言われたくない言葉を人にぶつけてしまう…。好きな事を見つける事の大切さを感じる。人から羨ましく思われても、本人はどうなのかは分からない。自分の生き方で生きるんだなぁ。

  • 心温まるストーリー。

    主人公はある事がきっかけで歌舞伎に魅了されていくのだが、未知の世界の魅力を知る事で少しずつ前向きに生きていくようになるところが素敵だと思った。

    自分を否定したいような気持ちになっている人に読んでもらいたいと思った。

    つまづくことは誰にでもあるし、それによって人としての厚みとか魅力を増すことにも繋がるような気がする。

    謎解き的な要素があるのも良かった。

  • 作者お得意の日常の謎もの。
    大学を卒業して、就職した会社で先輩社員のセクハラに遭い、精神を病んで、無職の久澄は無職ながら、働く母の為に食事の準備をしたり、多忙な姉の代わりに犬の世話をしながら、日々を送っていた。
    そんな久澄は、離婚した父方の祖母・しのぶから、歌舞伎や演劇などを見に行って欲しいと依頼を受ける。
    不安に思いながらも、外に出ることを決めた久澄は初めての歌舞伎にすっかり魅了される。
    そして、歌舞伎やオペラなどを見に行く度に不思議な出来事に巻き込まれるが、その謎を解き明かしてくれる謎の紳士。
    果たして、彼は誰なのか?
    なぜ、久澄が行くところに彼が必ず現れるのか?
    様々な謎を解きながら、そして、歌舞伎などを見ながら、自分と向き合い、徐々に歩き出そうとする久澄の姿も見逃せない。
    ライトな感じではあるが、心が疲弊している時に読むと、久澄と共にちょっとずつ元気になれる、そんな勇気もくれる一冊。
    歌舞伎も観たくなるね~。

  • 心の不調で半ば引きこもりのような生活をする久澄が祖母から頼まれた観劇代行。最初は報酬目当てで引き受けたものの、徐々に芝居に興味を持っていく。そして劇場でたびたび出会う問題と、親切な老紳士。謎の解明とともに久澄自身の問題も徐々に解きほぐされていく、穏やかな読み心地のミステリです。
    私も思っていました。歌舞伎って、ハードルが高いと。価格も高いと思っていたけれど、そうでもないのかあ。こういうのを読むと、俄然興味がわいてしまいますね。そして虚構が何になるかって聞かれたらたしかにとっさに答えられませんが。だからって無くてよいものだとは全然思えませんし。何にせよ、好きなものがあるというのは素敵なことに間違いないな。誰にとっても生きやすいとは言えないこんな世の中だからこそ、拠り所は必要です。

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著者プロフィール

1969年大阪府生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。1993年『凍える島』で「鮎川哲也賞」を受賞し、デビュー。2008年『サクリファイス』で、「大藪春彦賞」を受賞。「ビストロ・パ・マル」シリーズをはじめ、『おはようおかえり』『たまごの旅人』『夜の向こうの蛹たち』『ときどき旅に出るカフェ』『スーツケースの半分は』『岩窟姫』『三つの名を持つ犬』『ホテル・カイザリン』等、多数発表する。

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