一橋桐子(76)の犯罪日記

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198651886

作品紹介・あらすじ

「刑務所に入りたい!」
高齢者の切なる願いは、
人に迷惑をかけずに生きることだった。


<著者からのコメント>
テレビや雑誌で、
凄惨な事件や驚愕の出来事などを
見るのが苦手です。
しばらく、そのことばかり考えて
何も手につかなくなったり、
眠れなくなったりします。
そんな時は事件の当事者の、
いったいどこに分岐点があったのか、
どこでどうすれば事件に巻き込まれなかったのか
答えが出るまで考えてしまいます。
残念ながら、
答えが見つからないこともしばしばです。
桐子さんは小さな幸せから放り出されました。
彼女が事件に巻き込まれないように
一緒に考えてはくださいませんでしょうか。
共に、はらはらしてくださったら幸いです。


<担当からのコメント>
私も桐子さんと同じ、
「人に迷惑をかけないで生きていきたい」と
思っていました。でもこの本を読んで、
「迷惑をかけて生きていてもいいのかもしれない」
と考えが変わりました。
人に迷惑をかけてこそ、生きている証なのだと!
人とのつながりが疎遠になっている今この時代
だからこそ、読んでもらいたい作品です! 

<編集長からのコメント>
まだ41歳の私ですが、
76歳の桐子に激しく共感しました。
この老後は決して他人事じゃない――。

万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人
どれが一番長く刑務所に入れるの?


老親の面倒を見てきてた桐子は、
気づけば結婚もせず、76歳になっていた。
両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで
細々と暮らしているが、貯金はない。
同居していた親友のトモは病気で
先に逝ってしまった。
唯一の家族であり親友だったのに……。
このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。

絶望を抱えながら過ごしていたある日、
テレビで驚きの映像が目に入る。
収容された高齢受刑者が、
刑務所で介護され
ている姿を。

これだ! 光明を見出した桐子は、
「長く刑務所に入っていられる犯罪」
を模索し始める。

第一章 万引
第二章 偽札
第三章 闇金
第四章 詐欺
第五章 誘拐
最終章 殺人

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『刑務所に入りたい』と思ったことはあるでしょうか?

    さてさてのレビューはその冒頭に意味不明な問いかけをするのが、ブクログ界ではすっかり有名になりました?(笑)。しかし、いくらなんでもさすがにこれはない!全くもって意味不明?と思ったあなた、本当にそうでしょうか?確かに”今の”あなたは、『刑務所に入りたい』なんて考えることなどないのかもしれません。しかし一方で、『最近はむしろ刑務所に入りたい、なんて言う、高齢者』が増えているという現実があると言います。

    『刑務所はもちろん、住むところを提供してくれますし、食べ物もあります。お風呂もちゃんと入れますし、医師もいます。お正月にはおせち料理も出るんです… 寝たきりになったら、介護もしてくれます』。

    そんな説明を聞いて、それでもあなたは、そんな質問は意味不明?と言い切れるでしょうか?

    内閣府の2015年の統計によると65歳以上の高齢者の男性で13.3%、女性では21.1%もの人が一人暮らしをしているとされています。そんな人たちが『こうして独りきりで生きていて、元気なうちはいい。けれど…』と不安な思いを抱くのは自然な感情だとも思います。そして、そんな不安な将来を思えば思うほどに、『刑務所にはすべてがそろっている』と、その存在を『入りたい』先、と意識し出すことがないとあなたは言い切れるでしょうか?

    この作品は、73歳から始まった、仲の良かった友人との二人暮らしに『人生がきらきら輝』いていたという女性の物語。そんな女性が3年後の友人の死をきっかけに一人暮らしの未来に不安を感じ始める物語。そしてそれは、そんな女性が『刑務所に入れば楽になる』と考え、『あんまり人に迷惑をかけず、一番、重い罪になるのって何かしら』という先に、刑務所入りを試みる物語です。

    『トモが死んだ』と、高校時代からの友人であるトモ(知子)が亡くなったことを思うのは主人公の一橋桐子(ひとつばし きりこ)。そんな友人のトモは生前、『口うるさい』亭主に苦労させられ、『長患いののちに亡くなった時』七十三となっていました。そして、再会した二人。そんな時、『二人で一緒に住まない?』というトモの提案をきっかけに『埼玉県の、池袋から東上線で四十分ほどの一軒家』で同居を始めます。一方の桐子は、『両親の介護』もあって『清掃のパート』をしながら『ずっと独身』を続けてきました。『ビルのトイレを磨きながら、このまま孤独に死んでいくんだろう』と思っていた桐子は、トモと暮らすようになって『人生がきらきら輝きだし』たと感じます。しかし、それから三年で死んでしまったトモ。そして、『家だけでなく、食卓も寂しくなった。でも、そんなことよりも、心が寂しい』と思う桐子。そんな時『桐子さん?久しぶり』と、『トモの共通の友人、三笠隆』から電話がありました。『桐子とトモの憧れの対象でもあった』という隆。そんな隆と久しぶりに『駅前のチェーン系カフェ』で再会します。『四方山話』に花を咲かせていると、『お待たせ、たーくん』と一人の女性が現れました。『こちら、斉藤薫子さん。僕のフィアンセ…』、『薫子はまだ五十九なんですよ』と隆は女性を桐子に紹介します。『のろけ話を散々聞かされて』『心底疲れ』た桐子は、『テレビを観ながら…ぼんやりとご飯を食べ』ます。そんな時『高齢者の再犯率が高くなっている…』、『刑務所から出てきても、すぐにまた、犯罪を起こして、塀の中に舞い戻』る、というニュースの画面を注視する桐子は、『食べ物もあり…お風呂もちゃんと入れますし、医師もいます。お正月にはおせち料理も出る』、『寝たきりになったら、介護もしてくれ』るという説明に『はっと胸をつかれ』ます。独り身の不安を『ずっと自分の中にしまってきた』という桐子は、『刑務所にはすべてがそろっている』と感じます。そんな翌日、帰宅した桐子は一人の見知らぬ老人が家の前にいるのを見かけます。トモに線香をあげたいというその男を招き入れお茶を出す桐子。そして翌日、現金がすべてなくなっていることに気付きました。『お焼香を装ったコソ泥ですね』と警察で言われるも顔をろくに覚えていないことに愕然とする桐子。そんな桐子は、スーパーで『イチゴ大福をバッグ』にこっそり入れます。『刑務所に入れば楽になる』と考える桐子。そんな桐子が犯罪を犯すことで『刑務所に入る』という試みを実践に移すべくあれやこれやと奔走する物語が始まりました。

    「一橋桐子(76)の犯罪日記』というように、書名に主人公のフルネームと年齢が含まれるという不思議な書名を冠したこの作品。『日記』という言葉から、”日記体”で書かれた作品なのか?という思いもよぎりますが、実際には文体は普通で、あくまで、主人公の桐子が頭に思い浮かべ関わり合いを持つことになる六つの犯罪が、六つの章に渡って描かれていく、これを『日記』という表現で表していると考えていただくとイメージがわくと思います。

    そんな物語の六つの章の章題はすべて犯罪の名前が付けられています。〈万引〉〈偽札〉〈闇金〉〈詐欺〉〈誘拐〉〈殺人〉と順番に刑罰が重くなっていくそれぞれの犯罪。そんな名前が付けられた章題が掲載された目次のページだけ見ると、この作品はドロドロとした闇の世界が描かれる小説なのか?と錯覚しそうになります。しかし、主人公の桐子の人物像からはこのような犯罪のイメージがどうしても湧きません。そんな桐子は、テレビのニュースで『高齢者の再犯率が高くなっている』ということを耳にします。そして、『一度、刑務所から出てきても、すぐにまた、犯罪を起こして、塀の中に舞い戻ってしまう』高齢者が増えているという現実を知ります。2020年の「犯罪白書」によると、刑法犯の全体数は減少の一途を辿っているにも関わらず、65歳以上の高齢者の犯罪は増加しており、今や全体の22%という高い割合、さらにその70%以上が70歳以上の高齢者という驚くべき状況にあることがわかります。しかも再犯率は50%を超えていると言いますから状況はかなり深刻です。

    『こうして独りきりで生きていて、元気なうちはいい。けれど、倒れたら?正直、死んでしまうのはまだましで、死にきれずに介護が必要な身体になったらどうしたらいいのだろうか』。

    この作品で桐子の中に渦巻く漠然とした不安。上記で挙げた「犯罪白書」が示す数字を思うと、この漠然とした不安と高齢者犯罪の増加の傾向は無視できなくなってきます。また、この数字を見ると、この桐子の思いは決して小説の中だけの話ではなく、現実の高齢者の目にも映っているものではないか、といきなり身近なこととしてリアルさを増してきます。高齢者となった桐子の目に映る『刑務所にはすべてがそろっている』というこの考え方。そして、物語は、この決して軽んじることのできない考え方の先に進もうとする桐子にさらに光を当てていきます。

    あなたは、刑務所に入ることを目的として犯罪を犯そうという考え方をどう思うでしょうか?そして、あなたは、そんな考え方を実行しようとする自分を思い浮かべたことはあるでしょうか?

    世の中で起こる犯罪の数々を見ていると、”犯罪とはそういうことを元々起こす予備軍のような人が起こすもの”といったようなどこか別の世界の出来事と感じることがあります。しかし、この作品の桐子は、今まで犯罪とは無縁の人生を生きてきました。親の介護を姉に押し付けられ、それでいて財産分与は等分を持っていく姉、一方でそんな介護に追われる中で独り身のままに年老いて76歳になった桐子には、上記に列挙したような犯罪の名称はピンときません。しかも、『刑務所にはすべてがそろっている』と思う一方で、亡くなった『姉の子供には絶対、迷惑はかけられない』、『幸い、姉の子供たちとは名字が違うから、犯罪者になったところで、大きな迷惑はかからないだろう』という心配りの感情まで見せる桐子。また、刑務所に入ることを念頭にしているにも関わらず、『その犯罪でね、あんまり人に迷惑をかけず、一番、重い罪になるのって何かしら。何かご存じだったら教えて?』とあくまで他者への思いやりの気持ちが先立つ桐子。しかし、一方で現実には犯罪というものの第一歩は身近にあるということをこの作品は示します。それが、『桐子はパン売り場に戻り、イチゴ大福をつかんだ。そして、すとんとかごではなく、自分のバッグの中に落とした』。そして、『そのまま、他のものはレジを通してきちんと金を払い、買い物バッグにつめた。何食わぬ顔で出入り口に進んだ』という読者に緊張感漂うこのシーン。『こんなに簡単にできてしまうなんて』という桐子が初めて経験する犯罪行為、それが『万引』でした。『万引は成功率の高いギャンブル』、『うまくすればほとんど捕まらず、必ず儲かる』、『だから、強い快感になってしまう』というその犯罪。誰もが犯罪に手を染める可能性がある、犯罪とは決して”そういうことを起こす予備軍”だけのものではないことがわかります。また、この作品に描かれていく、意図して犯罪を起こすことによって、『刑務所に入る』というその心理。一方で『罪を犯すのって、結構むずかしいね』、『刑務所ってなかなか入れないようになってるのかもしれないわね』という会話には、犯罪というものの違う見方も示してくれました。

    このように書いてくると、未読の方にはこの作品は何か深刻な物語が展開するかのように映るかもしれません。しかし、この作品の作者は原田ひ香さんです。重いテーマを扱ったとしても物語自体は決して重くはなく、極めてとっつきやすく描かれるのはこの作品も同様です。そんな原田さんは『テレビや雑誌で、 凄惨な事件』のニュースを見ると『いったいどこに分岐点があったのか、 どこでどうすれば事件に巻き込まれなかったのか答えが出るまで考えてしまいます』とおっしゃいます。そして、そんな原田さんは主人公・桐子の言葉を用いてこんな観点も投げかけます。

    『人の死…特に、老人の死というのは結局、これまでの人生の答え合わせなのかもしれない』。

    高齢化社会が進むこの国にあって、高齢者の犯罪は決して人ごとと切り捨てられない未来が誰の身にも迫っています。そして、その先にある死というものに、その人が歩んできた人生の答えが見れるという非常にシリアスな観点が語られるこの作品。原田さんの見事な筆の力もあってぐいぐい読み進めることのできるその物語には、書名や章題、そしてテーマから予想される重々しさではなく、極めて清々しい結末が用意されていました。人によっては出来過ぎと感じるかもしれないその結末。しかし、この作品を読んだあなたの心の中には、楔をグサリと入れられたかのようにいつまでも桐子の姿が残り続けると思います。そう、決して他人事ではない自らの老いを物語に投影してしまう、この作品はそういったとても怖い側面も持ち合わせているとも感じました。

    とても重いテーマと、軽い筆致が絶妙な塩梅を見せるこの作品。高齢化社会を生きるあなたに、是非一読をお薦めしたい傑作だと思いました。

  • 今月3冊目の原田ひ香さん。お世話になっております。

    『刑務所に入りたい!』

    独り身の桐子76歳、唯一の家族であり親友が他界した。
    このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう、
    年金も少ないし貯金も少ない、ギリギリの生活。
    そうだ、寝床あり3食付きの刑務所に入ればいいのだ。
    でも、人に迷惑をかけずに刑務所に長く入れる犯罪って何?


    主人公である桐子が刑務所に入れる方法を模索する物語。
    人には迷惑をかけずに刑務所に入りたい彼女。

    とにかく刺さります。ページをめくる手が止まりません!
    重い内容かと思いきやまさかの癒されてしまいました。

    決して他人事ではないいつかの老後。
    いくら貰えるか分からない年金。
    高齢者だと1人で家を借りることも仕事探しも困難。
    こんなこと考えたら気持ちが沈むのに、
    本書からは勇気と元気をもらえますm(_ _)m

    きっと主人公の桐子さんが心豊かだから。
    常に感謝して、謙虚で、言葉美しく品のある彼女。
    やはりそんな人の周りには素敵な人ばかりです。

    癒されました、考えさせられました。

    20代半ばの私よりも76歳の桐子さんの方が心が豊かなのは間違いないでしょう。。。

    桐子が見つけた1つのこたえ。
    『老人の死というのは、これまでの答え合わせなのかもしれない』
    病院のお見舞いなどやお葬式に顕著に現れますもんね。。
    周りに愛を与え、そして愛される人間になりたいものです。

    愛されている桐子は周りから支えられ応援され
    自分の進む道を見つけていく。


    少しだけ老後のことも考えて生きてみようと思います。
    答え合わせの準備をしなければ。


    原田ひ香さん今回も素敵な作品をありがとうございました◎

  • 映画「ジーサンズ はじめての強盗」を思い出させる、と言ってもそこまで過激な犯罪日記ではないのだが、品の良いお婆さんの目線、物腰が細かく描写され、丁寧な性格が登場人物からも作者の筆力からも伝わってくる。派手なエピソードで大きく抑揚があるストーリーではないが、何だか登場人物の心理が凄くわかるなーという感じで、共感性が高いので物語に引き込まれ、面白くて一気に読んでしまった。

    高齢者目線では、世の中の悪意や善意の見え方が変容する。それは身体的な老化と共に相対的弱者になり、弱った相手に対し、良い方にも悪い方にも接し方を変える人がいるからだろう。こうした弱者に対して、悪い方を強調させて救いがないのがイヤミス、救われるのがカタルシスだろうか。この物語がどういうバランスで善悪を配置したかは記載しないが、とにかく、心温まる犯罪の話。

    また、良い小説と良い作家に出会った。

  • とても面白かった。
    76歳の一橋桐子が同居人のトモに先立たれ、結婚歴もなく子どももいない自分がこの先どうやって生きていけばいいのかと憂いて、なんとか刑務所に入って老後を送れないかと奮闘する話。
    読む前はおどろおどろしいものを想像していたけれど、刑務所に入るために頭を悩ます桐子の姿がちょっと可愛くて可笑しくて笑ってしまうことが何度もありました。
    でも基本的には老いる哀しみや死への恐怖が描かれていて、他人事ではないと誰もが思いながら読むはず。
    最終的には人との繋がりなんだな、と思わせてくれる着地点でした。
    桐子本人は気づいているか分からないけれど、真面目でチャーミングな桐子がたどり着いた着地点。
    「人の死‥‥特に、老人の死というのは結局、これまでの人生の答え合わせなのかもしれない」
    サラッと読めるけど、読後、胸に残るものがたくさんある、そんな作品でした。

  • ずっと気になってましたが
    ドラマ化を機に手に取りました

    ドラマは見ていません。

    主演が誰なのかだけは知ってたので
    当てはめながら読んでました
    そのおかげかイメージしやすく
    あっという間に読めました


    それにしても、世知辛い世の中ですね…

    生きていくのってホントに大変で
    これからどうなっていくのか
    ずっと不安はつきまとって
    そして気を抜くとあっという間に転げ落ちる


    桐子さんはあんなに働き者なのに
    こんなに不安を抱えながら生きなきゃいけない
    なかなかいい方向に進まないので
    ヤキモキしながら読みました

    歳をとって1人で生きていくって
    怖いですね…


    それにしても普段気にしたことなかったですが
    刑罰って結構軽い気がしました
    罪を犯しても、結構すぐ出られるんだなと

    この本を読んでると
    犯罪を犯してただ刑務所に
    入るだけっていう感じがしますが
    そうじゃなくて
    罪を犯すと社会からの
    信用も失うってことなんですよね


    刑罰がどうこうよりも
    そもそも罪を犯すのと犯さないのでは
    一気に全てが変わってしまう。


    一歩そっちにいってしまうと
    なかなか新たに社会的な信用を得るのが
    難しいことがよくわかりました


    ラストは桐子さんの人柄のおかげで
    たくさんの人の助けを得られたので
    ホッとしましたが…


    でもこの大変さが今の世の中のリアルなのかな
    という気がしました

  • 原田ひ香さんの本は初めて。
    まず「犯罪日記」という題名に惹かれる。
    なんだか恐ろしいストーリーが展開されそう。
    と読み始めるが、とてもテンポの良い文章で、犯罪とは無縁と思われる老女が主人公。

    76歳の一橋桐子は独身で、両親の死後は清掃のパートをしながら、細々と暮らしてきた。
    三年前からは、高校時代からの親友トモと一緒に暮らし、貧しいながらも輝いた日々を送っていた。
    しかしあっけなく、トモは病で亡くなってしまう。
    そこから物語は始まるのだが…

    家族のいない桐子は、日々の生活も苦しい程にお金もない。
    住む家さえ探すのに苦労し、哀しみと不安に押し潰されそうになる。
    そんな“老後貧乏”がテーマになっているのに、この物語はどこかコミカルで面白い。

    桐子は、“人に迷惑をかけたくない”という思いから、刑務所に入ろう、と考える。
    で、第一章から最終章までは、
    万引・偽札・闇金・詐欺・誘拐・殺人。
    と、犯罪名になっている。

    読み終えて一番感じたことはやっぱり、人間は一人では生きていけない。
    という事かな。
    桐子は人柄なのだろか、関わった人達とどんどん繫がっていく。
    女子高生の友達まで出来た。
    孤独な老人のように見えて、そんな事ない。
    たくさんの人達と関わり、助けたり、助けられたり。

    人に迷惑をかけても良いんじゃないかな?
    迷惑をかけたり、かけられたり…

    すごく面白かった。
    だけど、自分の老後も、考えると恐くなるなぁ。

    • さてさてさん
      aoi-soraさん、こんにちは!
      この作品強烈ですよね。各章題だけ見ると、どんな恐ろしい物語が展開するのだろうと思いますが…まさか、です...
      aoi-soraさん、こんにちは!
      この作品強烈ですよね。各章題だけ見ると、どんな恐ろしい物語が展開するのだろうと思いますが…まさか、ですよね。
      ただ、やがて誰にも訪れる老後を考えると、章題の物語の方がまだ怖くないのかもしれない。考えたくないですが老後というものを考えてもしまう作品だと思いました。aoi-soraさんと、気持ち同じです!
      2022/08/30
    • aoi-soraさん
      さてさてさん、おはようございます。

      本当に自分の老後を考えるのが恐いです。
      この物語の桐子だって、まさか自分が犯罪者になろうだなんて...
      さてさてさん、おはようございます。

      本当に自分の老後を考えるのが恐いです。
      この物語の桐子だって、まさか自分が犯罪者になろうだなんて、思ってもいなかったはず。
      それが真剣に刑務所入りを考える日が来るなんて!
      って感じでしょうね。

      ワタシは、大丈夫かしら?!
      2022/08/31
    • さてさてさん
      aoi-soraさん、それを言われると

      ワタシも大丈夫かなあ?

      と不安になってしまいます。刑務所に入るって思った以上に難しいとも...
      aoi-soraさん、それを言われると

      ワタシも大丈夫かなあ?

      と不安になってしまいます。刑務所に入るって思った以上に難しいとも言える物語ですが、いずれにしても他人事ではないのだと思いました。
      aoi-soraさんの”繋がっていく”という視点、なるほどと思いました。人と人との繋がりがやはり欠かせないということなんでしょうね。
      書名に主人公の本名と年齢が入っているというのも唯一無二の気がしますし、なかなか面白い作品と出会えました!
      2022/08/31
  • 76歳、独身、結婚歴は一度もなし。
    同居していた親友に先立たれ、一人ぼっちになり途方に暮れる桐子。
    僅かな年金と清掃のパートで日々を細々と暮らす中で、刑務所で”快適”に過ごす高齢者達の姿をテレビで見かける。
    他の人に迷惑はかけられない。ちゃんと刑務所に入ってそこで無事死ねるように、と自分の始末を自分一人でつける決心をする。

    刑務所に入れば、住む場所はもちろん、食事ももらえ風呂にも入れ、その上病気になったら介護までしてもらえるなんて…。今まで考えたこともなかった。
    刑務所に入るための犯罪が様々あって、しかも意外と刑務所に長くは居られないものなんだな、とちょっと驚いた。

    「私は失うものは何もない」
    そうきっぱり言い切る桐子。
    けれど残りの人生を生きていく上で、周囲の人の信用を全て失うことになるのはどうかな。自尊心を失うのもね。
    「老人の死というのは結局、これまでの人生の答え合わせ」
    桐子の日々の暮らしを覗いてみて、老いて生きていくことの難しさに胸苦しくなった。
    桐子はちょぅど私の母親と同い年(干支も申)。
    母親の老後もだけれど、自分自身の未来の生活に不安を感じる。
    居場所、収入、健康、役割、話し相手、生きがい…考えるべきことは尽きない。
    自分の人生の答え合わせを出来る限り満足させるためには…正解はなかなか出ないけれど、これから老後を迎えるにあたり、とても参考になった。

  • 万引き、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人
    人に迷惑をかけない方法で罪を犯し、刑務所に入りたい桐子。
    この本を読んで、罪を犯すのは難しいと悟りました。常識や倫理を学び大人になったのだから。
    そして最近、罪になると思わず行動して逮捕される人の多いことも気になります。
    さすが垣谷先生、ほっこりしました。
    お金も大切だけと、真面目に生きていこうと思う。
    自分の生きてきた結果は最後にわかるんだから。

  • 生涯独身を貫き身寄りのない桐子さんが一緒に暮らしていた親友のトモを亡くし先行きがどんどん不安になっていく...いっそのこと犯罪を犯して刑務所に入った方が楽なのでは?といろいろな犯罪計画をしていきます。でも、なるべく人に迷惑をかけず長く刑務所にいられるような...。そんなところに桐子さんの人の良さを感じました。
    桐子さんが本当に犯罪を犯してしまうんじゃないかとハラハラドキドキしました。誠実に真面目にコツコツと人生を送ってきた桐子さんだからこそ自然とまわりが手助けをしてくれいい方向に導いてくれたのかな!?と、最後はホッコリできたので安心しました。

  • またしてもタイトルと表紙で選んでしまった本。

    高校時代からの親友と二人、仲良く暮らしていたが、たった3年で友は亡くなり、一人取り残されてしまった桐子。
    寂しさの募る日々、しかもそれだけでなく、住む場所やお金の問題も重くのしかかってくる。

    なんというか、これからの自分の老後のことを思うと身につまされるというか、、、ひどく重苦しい気持ちになりながら読んだ。
    20代の時に読んでいたら、まだ軽やかな気持ちで読めたのだろうか…?

    真面目に誠実に生きている桐子が最後に報われて良かった。
    自分の老後もこんな風に良い人ばかりと巡り合えたらいいのだけれど…。

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著者プロフィール

1970年神奈川県生まれ。2005年『リトルプリンセス2号』で、第34回「NHK創作ラジオドラマ大賞」を受賞。07年『はじまらないティータイム』で、第31回「すばる文学賞」受賞。他の著書に、『母親ウエスタン』『復讐屋成海慶介の事件簿』『ラジオ・ガガガ』『幸福レシピ』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』「三人屋」シリーズ等がある。

原田ひ香の作品

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