雨夜の星たち (文芸書)

  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198653026

作品紹介・あらすじ

できないことは、できません。
やりたくないことも、やりません。

三葉雨音は他人に感情移入できない26歳。
同僚星崎くんの退職を機に、仕事を辞める。
他人に興味を持たない長所を見込まれ三葉は
「お見舞い代行業」にスカウトされ、
移動手段のないお年寄りの病院送迎や
雑用をする「しごと」をはじめる。

文芸界の注目著者が
「めんどうな人」の機微を描く!

【著者からのコメント】
「雨夜の星」は目に見えません。
でもたしかにそこにあります。
空気を読むという言葉があります。
空気は目に見えません。
見えないけれどそこにあるものは、
良いものとはかぎりません。
その場の空気を読むことばかりに心を砕き、
いつのまにか決定的に間違った方向へ
進んでいく。そんな危険だって、
とうぜんあるのではないでしょうか。
空気は読めなくてもいい。
あるいは読めても従わないという選択肢だって
きっとあると信じて、この物語を書きました。

【主な登場人物】
◆三葉雨音 26歳。職業はお見舞い代行。
他人に興味がない。
◆霧島開 三葉の雇い主。
喫茶店の店主で、ホットケーキが苦手。
◆リルカ スナックで働く、
感情豊かで共感能力が高い霧島の彼女。
◆星崎聡司 三葉の元同僚。
湯気の立つ食べものが苦手。失踪中。

【依頼人たち】
◆田島セツ子 病院への送迎。聞き上手な80代。
◆権藤 肝臓の病気で入院中の70代。
因縁の相手。
◆清川好美 手術の付き添い。
配偶者なしの42歳。

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍に向かうなか、三葉雨音26歳の話は淡々と進行していくようであっても毅然とした温かさを感じてしまった。彼女には取説がある。察することができないのでして欲しいことも、して欲しくないことも言葉にして言って欲しい。できないことは断るので遠慮はいらない。付添いサービスを利用する依頼者に必ずそう説明する。利用する側からしてみれば好き嫌いあるだろうけど、あわなければ断ればいいことだし、断りづらい雰囲気のほうが拗れそうで面倒な気がする。
    他人に感情移入できず空気を読むことができない。なんともわかりやすい性格だし私が依頼者ならちょっと面白そうなので彼女を指名したいかな。
    その距離感どこまで維持できるか試してみたいし、無関心でいてくれることって結構難しいと思うんだけどな。
    指示されないことでクレーム言う依頼者にキッパリ反論できる三葉ちゃんは可愛げないけど強いと思う。
    表紙絵の傘の裏地に描かれた木馬でぎこちないけど素敵なサプライズできるのだから心がないとかじゃないし、不器用で、正直で優しくていい子だと思いました。
    「友だち」が「恋人」に劣る存在じゃなく同列に考えてるとこが目からウロコで何かと恋愛に結びつけないと納得しない圧力に一石を投じるような思考が新鮮に思いました。

  • 寺地さん着々と読み進めてますー!

    さらっと読める1冊でした(^^)


    こちらの作品は
    常識的にとか、察するとか、普通なら
    ということが苦手な三葉の話


    この話はあーわかるーと共感するというより
    はっ!なるほど!と
    気づかなかった考え方を
    教えてもらうような作品でした


    三葉は病院の付き添いや
    見舞いに行く「しごと」をしています


    私もつい最近入院していて
    入院には保証人がいること
    しかも夫ではダメなこと

    また見舞いに来て欲しくても
    小さい子どもとの見舞いはダメなこと

    手術の説明には家族が
    必ず同席しなければならないこと
    しかも平日の日中に。

    など、親がいなくて
    小さな子どもを抱えている身としては
    なかなかままならないな…と感じたことを
    ふと思い出しました

    そういう人にとっても
    なかなかいいサービスだよなと
    本編とは少しズレますが
    そんなことを思いながら読んでました



    そして全体としては
    いろんな考えがあるなと
    面白く読ませてもらいました
    こういう気づきのある作品は好きです(^^)


    家族なんだからって
    必ず仲良くできるわけではない

    大人になってまで
    そんなにいつまでもいつまでも
    感謝する必要はない

    というようなセリフに少し救われました



    それにしても
    お姉ちゃん!!!

    そんなことを思ってたのかと思うと
    切ないです。。。


    人って難しいな。。。


  • 寺地作品5冊目。全ての作品に共通するのが「不器用でも必死に生きる」ということ。ほとんどの人は自分は不器用だと思っているんじゃないかな。だからこそ必死に生きなければならない。その傍らに一緒にいてくれる人がいると、生きることへのカタルシスになる。人間1人では生きていくのは難しい。傍らに一緒にいてくれる人と頼り、頼られ生きている。主人公・雨音の不器用さは『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子と相通じる行動パターン。彼女の性格は強いのか?否、感度が異なるだけのこと。自分に合った人、職場に出会えることって幸運だよね。④

    【ネタバレ 備忘録】かつて「毒親」という言葉がはやったけど、この世に毒にならない親などひとりもいないのではないだろうか。毒の濃度は人それぞれだろう。でも、運悪く毒が濃いめの親のもとに生まれてしまったからと言って、そこですべての人生の勝負が決まるわけじゃない、と思いたい。だって決まってしまったらつまらない。すくなくともわたしの勝負はまだついていないと思いたい。

  • 「できないことはしない」
    「やりたくないこともしない」
    こんなことが許されてしまう生活って
    楽だろうか?
    少し寂しさを感じは、しないだろうか?


    性格というのは、様々な色のような気がする。十人十色というように。
    とても明るくハキハキした人、消極的で控えめ、そして無気力な人。
    この本の主人公、三葉雨音は後者だ。
    せっかく就職した会社なのに、周りに溶け込めず上司ともうまくいかず、辞めてしまう。
    よくないことは続くもので、アパートが取り壊しになるという。困っていた時にたまたま入った、喫茶店の二階を借りられることになった。その家主は雨音に「しごと」という頼みごとをし、それを
    薦める。


    「しごと」を始めることになる雨音。
    それは、通院の送迎、家族に代わっての
    お見舞い。
    ・・・・他人に共感せず、感情移入もしない。この仕事は私に合っている。必要以上の感傷は、人生の妨げになるから・・・雨音はそう思っていた。

    私が思う限りでは、雨音は少しずつ
    他人を気にし始めていると思う。
    人生に登場人物は少なくなく、様々な経験があり、達成感のような喜びも欲しい。雨音には、もっと変わって欲しい。
    きっと、変わっていくと思う。


    関係のないことを書きたい。
    オリンピックが始まっている!
    コロナ過で無観客試合という、常識外れの特別なオリンピック。多分歴史に残るだろう。私は、スポーツなど何もできないくせに、観戦は好き!読書と観戦が
    私の中でケンカをしている。アーッ、
    今晩はバレーボールが待っている!


    2021、7、30 読了

    • ポプラ並木さん
      自分なんて、何を書くべきか悩まないで思ったことを気ままに書いています。でも255文字ピッタリになるようにしています。意外とこの文字数は絶妙で...
      自分なんて、何を書くべきか悩まないで思ったことを気ままに書いています。でも255文字ピッタリになるようにしています。意外とこの文字数は絶妙です。ワクチンはどうだったかな?ちょっと腕が違和感があると思うけど、問題ないと思います。2日程度で治まります。ご自愛くださいね。今読んでいる本は「安楽死特区・長尾和宏」です!面白い!
      2021/08/07
    • ポプラ並木さん
      アールグレイさん
      久しぶりの共読ですね。
      暗黙の了解、これが苦手な人がいるんだね。コンビニ人間の主人公とかぶりました。不器用でも必死に生きて...
      アールグレイさん
      久しぶりの共読ですね。
      暗黙の了解、これが苦手な人がいるんだね。コンビニ人間の主人公とかぶりました。不器用でも必死に生きていこうと思います!
      2023/02/04
    • アールグレイさん
      こんにちは(^_^)/ポプラさん

      今読んでいる本が、まだ終わらず焦っています!なんと、取置期限が明後日までの本があります!・・・・何だっけ...
      こんにちは(^_^)/ポプラさん

      今読んでいる本が、まだ終わらず焦っています!なんと、取置期限が明後日までの本があります!・・・・何だっけ?月の立つ林?
      以前はこのような状態になると、よっぽど心に刺さった本でないと、内容を忘れてしまう。でも、ブクログにレビューを残すことでそんなことはなくなりました。
      ブクログ最高!!
      来週、とうとうその時がやって来ます。
      そんなことを忘れて、読み耽っていたい。
      (;-・。・-;)
      2023/02/04
  • 「ここ、空気乾燥してない?」って言われたとして、それが「喉が渇いたから飲み物を買ってきて欲しい」という意味だと思いますか?私は思いません。
    「喉渇かない?」でも難しいかも?「別に渇いてないです」。終了〜。

    確かに私は気が利かないが、飲み物買ってきて欲しいならサクッとそう言ってくれればよくない?何故相手に忖度ヲ期待するんだろう?そして気づいてもらえないと「気が利かない」と言って怒り出すのだろう。めんどくさいな。


    物語の主人公は忖度とか共感をしない、できない、26歳の女性。
    でも感情がないわけでも、冷たいわけでもない。
    ただ、自分の常識に照らし合わせて相手のことを勝手にわかったような気になったりしないだけ。

    なんだろう。
    色々と刺さる作品でした。



    • こゆきうさぎ148さん
      こんにちは!
      寺地はるなさんの最新刊…おもしろそうですね(o^^o)
      「ここ、空気乾燥してない?」を「飲み物ほしい」に変換できる…わけないじ...
      こんにちは!
      寺地はるなさんの最新刊…おもしろそうですね(o^^o)
      「ここ、空気乾燥してない?」を「飲み物ほしい」に変換できる…わけないじゃん!て思いました(^^;)そもそも、人の気持ちなんて、こちらが推測した通りかどうかなんてわからないし、本人ですらわかってないこともありますよね…察することが当たり前、察してもらって当然という生き方は、しんどいなあと感じました。
      もちろん、伝え方は大事ですが、自分の気持ちや希望は言葉にして明確に伝えることは大事だよな…とこちらの感想を読んで思いました。
      「雨夜の星たち」を手に取る日が楽しみになりました!ありがとうございました。
      2021/06/20
  • 淡々と読み進めた一冊。
    淡々と紡がれた文章、世界はまさに雨音そのもの。余分な心情描写もなく、自分はこうだからこうする…それを淡々と読み進める、進めるしかない読書時間だった。

    共感と感情移入と無縁で生きられたらどれだけ楽か。 
    感情のレベルは人それぞれだけれど正直、人間味、人としての成長に欠ける気がした。

    傘に描いたメリーゴーランド。それを「しごと」という雨音。
    でも確実に彼女の中に大切な感情が生まれていた瞬間だと思う。

    鋼のような心を持つ彼女に見え隠れする温かみある感情。読後、ほんの少し…彼女に寄り添えた気がした。

  • 常識的にふるまえない、孤独がちな若い女性が主人公。
    退職後に始めたバイトは、お見舞い代行。
    人にあまり感情移入しないから向いている、と言われたのだった。

    三葉雨音は26歳。
    他人にあまり興味がなく、人が話していても聞き逃したり、よそ見をしたりする癖がある。
    空気、常識、暗黙の了解といったことが苦手でした。
    会社で違和感を感じていたものの、何とか勤めていたのだが、同僚に星崎というもっと不器用な人がいて、何かといじられていた。
    周りの人間にさほど悪意はなく、むしろ仲間に入れようという意識からだった?らしいのだが。
    そのあたりをただ見ていた三葉は、星崎君が辞めた時に、次は自分が標的になると感じて、辞めたのだった。

    喫茶店の2階の部屋に引っ越し、家主の霧島開に「しごと」をしないかと言われる。
    時折頼まれて、お年寄りの通院の送り迎えや、お見舞いなどの世話をしているのだった。
    三葉は淡々と仕事をこなしていきますが、病気の人と付き合うのは冷静な三葉でも、そう簡単ではない。
    「頼まれたことはしますが、察したりはしない。できないことはやらないし、やりたくないこともやりません。」といった説明を最初にすると、わかってくれる人、笑う人も、いきなり怒り出す客もいました。

    霧島には近くのスナックに勤めているリルカという恋人がいる。丸っこくて感情豊かなリルカは、三葉とは正反対。
    親切にしてくるリルカは、三葉が断っても意に介さない。「共感能力が高い」と設定に書いてあるけど、三葉の気持ち、わかってないんじゃ…?
    実はリルカには彼女なりの理由があって、普通になれと言ってるわけじゃないのだった。

    三葉のクールな視線で語られる出来事は、トーンは明るくはないが、どこかユーモラスでもあります。
    母親が過干渉で、「あなたのために」とすべて押し付けてきて、どう説明しても承知しない人だとわかってきます。
    三葉はもともと変わった子だったらしいけれども、母親と対抗し自分を守るためにこうなった側面も相当あるのですね。

    何も変わろうとしていないように見えるかもしれないが、実はずっと気になっていることを抱え続けている三葉。
    星崎君が家を出ていたり、行方がわかりそうでわからなかったり、探しに行く三葉。
    さらに霧島の家族の事情、三葉の従姉妹や姉のことなど、いくつかの出来事が絡み合います。
    頑固な男性の依頼が無理なのだが、その代わりになるようなものをと考えてみたり。
    自分の殻を破るような行動も起こし始めるのです。
    これ、他人に興味がないとは言わないんじゃ…
    考えを深めていく三葉に、そうだよね…
    と、遠くからエールを送りたい気持ちになりました。

    印象的な言葉:
    p90
    入院患者のセツ子さんに、初めて打ち明けた話をした後で、
    三葉「今までに何度も『あなたを育ててくれたお母さんなんだから大切にしないと』と言われてきたんですけど」
    セツ子さん「親が子供を育てるのはあたりまえ。大人になってからまで、そんなにいつまでもいつまでも感謝する必要はありません」

    p165
    嘘や建前は言わないのは自分が楽したいだけだろうという非難に対して
    三葉「怒ってはいません。それに、楽をしたいだけという自分の感覚が悪いとも思わないので、わたしは気にしません」

    p180
    母親との関係を相談してきた女子高生に対して、三葉「『傷つけずに伝えたい』とまで気をもむ必要はありません。感謝と遠慮は違う。子離れしなければならないのは本人の問題なので、彼女自身が解決する」
    セツ子さんが言ってくれた言葉を考え続けた後なのですね。
    部分だけ抜き書きすると結構強い言葉。
    でもたぶん、口調は穏やかでしょう。
    人を否定するようなことは、自分もしたくないと思っているから。

    p195
    「もしかしたら簡単に相手のことをわかった気になりたくない、と思ってるんちゃう?」
    霧島がこんな風に言ってくるようにね。

  • コロナ禍のまさに今を書いたお話でした。
    三葉ちゃんみたいにまわりの空気を読まない人は、メンドクサイ。でも、なんか憎めず羨ましくも感じました。
    星崎くんとのやりとりはなんだかほっこりしました。

    ところどころクスッと笑えておもしろかったです。
    リチャードきなこぱん...が頭に残っています。

  • 寺地はるなさん3冊目。お見舞い代行業を個人的に営む喫茶店の店主に雇われている主人公の雨音(26)。一風変わった職業という意味では真っ先に原田ひ香さんの『ランチ酒』シリーズが思い浮かんだ。そんな雨音と喫茶店主、その恋人のような関係のリルカ、元同僚の母と息子、お見舞い代行依頼者たちとの淡々とした日常が描かれている。雨音は感情や他人と仲良くしたいという感覚が乏しいため、起こった出来事に対して感情的にならずスルーしていく様子が一貫して描かれていた。特別なことは起こらないし、主人公の生活がガラリと変わるといった展開もなく物語は終わる。「普通」の感覚の人にとっては、雨音は幸せなのか、とか、楽しいのか、とか疑問が生じるかもしれない。作中でもウザめの男性が登場し、お節介を焼いていた。それに屈せず淡々と対応する雨音は、くよくよしない分エネルギーの消費もないだろうし、強いと思った。「普通」の価値観とは結局人それぞれで、実際はないようなものなんだろうなと改めて実感した。

  • あ〜私こういう人好きだわ(*´ω`*)

    雨音みたいに生きたいと思う人
    こういう面倒な人嫌いと思う人
    色々いるだろうなと思うし…
    日本って国は「察しろよ」「空気読めよ」みたいなとこあるから嫌だわ〜


    食事会で気を効かしたつもりで人の皿に取り分けるのも勘弁して欲しい
    お酌するのもされるのも嫌い
    ママ友達と集団でお茶飲むのも嫌い

    でも何不自由なく幸せな毎日なんですよ(〃ω〃)



    • 土瓶さん
      幸せバンザイ└(゚∀゚ )┘
      幸せバンザイ└(゚∀゚ )┘
      2022/08/30
    • みんみんさん
      土瓶さんこんにちは〜♪
      夕飯の買い物して手抜きの家事をして笑
      好きなだけ読書…変わり映えのない毎日

      平凡な毎日が幸せ\(//∇//)笑笑
      土瓶さんこんにちは〜♪
      夕飯の買い物して手抜きの家事をして笑
      好きなだけ読書…変わり映えのない毎日

      平凡な毎日が幸せ\(//∇//)笑笑
      2022/08/30
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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ、大阪府在住。2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。『今日のハチミツ、あしたの私』が勝木書店グループ「KaBoSコレクション2020」金賞を受賞、2021年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。『彼女が天使でなくなる日』『大人は泣かないと思っていた』『カレーの時間』『ガラスの海を渡る舟』『川のほとりに立つ者は』『こまどりたちが歌うなら』『いつか月夜』『雫』など著書多数。

「2025年 『そういえば最近、』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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