- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198658175
作品紹介・あらすじ
第26回大藪春彦賞候補にノミネートされた「川崎警察 下流域」の第2弾。
神奈川県警川崎署のデカ長・車谷一人(くるまだにひとり)の活躍を描く、長篇警察ミステリー。
京浜運河沿いで死体があがった。身元は暴力団員、伊波肇の母親照子。
陰部をナイフで抉られ、腹部から腸がはみ出る陰惨な殺しだ。対抗する組の犯行か? だが、家族には手を出さないのがヤクザの掟だ。それが破られたとなると、報復の連鎖で大変なことになる……。
発見現場に臨場した川崎警察署捜査係デカ長の車谷一人は、軽のバンの荷台から不審な荷物を下ろして走り去ったふたり組の男がいたことを聞きつける。男の一人は足を大きく引きずっていたという。
被害者は故郷の沖縄に里帰りし、事件当日午後二時着の飛行機で羽田空港に帰ってきた。だがその後の足跡が不明だった。
翌年五月に沖縄は本土返還を控えており、帰郷はそれからの方が便利ではという大家に「返還されてからでは、遅い」と伝えたという。
捜査を進めるうちに、空港から照子を軽バンに乗せたのが、死体発見現場で目撃されたふたり組で、どうやら照子の知り合いらしきことがわかった。
有力容疑者として浮かびあがった男を、全力で探す車谷。
だが、予想外のところで別の殺人事件が起きた。被害者は沖縄の開発や本土との交流に尽力しているという大阪の会社社長。
本土復帰を目前にした沖縄を食い物にしようする者たちの暗躍が明らかになるにつれ、ふたつの事件が絡み合っていく……
好評『川崎警察 下流域』が第26回大藪春彦賞候補となった著者による、書下ろし長篇警察サスペンス第2弾!
感想・レビュー・書評
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前回に引き続き昭和の時代を思い出す小説でした
読みながら、想像の中で
汗臭い街並みが浮かんできました
実際に起こっていそうな悲しい結末でした詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1970年代、昭和の川崎を舞台にした『川崎警察』シリーズ第二弾が登場。何と言っても読みどころは、巷に溢れる凡百の警察小説シリーズと異なり、昭和という時代とその世相を背景に起こる事件を、その当時の方法で捜査してゆくという点に尽きる本シリーズなのだが、70年代を関東で過ごしたぼくにとっては、当時の空気感のようなものが懐かしい。70年代を主に十代で過ごしたぼくよりもさらに少しだけ若い作者の手によって、こうした時代を蘇らせる作品が書かれるとは珍しい。今あの時代を振り返るのはさぞかし大変な作業だったろうと想像される。しかし、この時代、とりわけ沖縄返還の前年という独特に揺れる国内の空気を見事に再現しているのが本作。いつもながら、仕事の丁寧さがとても有難い。
そう、本作の軸は沖縄返還を翌年に迎えるというその独特な歴史的転換点を捉えている点である。1971年6月17日が返還の日なのだが、本書で扱われる事件とその捜査は前年の1970年。ぼくはこの本の時代は、未だ14歳、中学3年、卓球部で頑張っていた頃になるのかな。こうした時制の小説を読むことは、この小説で語られている時代の自分を振り返り思い出そうとする気持ちに繋がる。確実に、この作品を読む楽しみ方の一つである。
さて本書の軸となる事件だが、つきなみに思われる女性の遺体発見。河川敷での二つの焼死体発見といった事件が世間を賑わせているこの四月に、よりによってこちらは異なる意味で同様に河川敷に放置された惨殺死体。現実の事件の方は次々と関連する容疑者が確保されているが、物語は事実より奇である。本書の遺体は死後に下腹部を切り裂かれた中年女性ということで、奇妙さに奇妙さが重なる。
そしてスマホもパソコンも十分にないアナログの時代である。警察の捜査も、科学捜査やネット犯罪などとは無縁の、極めて人間対人間の具体的な暴力が現状を曝していることになる。今よりもずっと関連付けやすい人間関係と、利害関係。しかしだからこそ剥き出しの暴力が人を傷つけ、法外な利益を得るという直接的な動機が凄惨な殺人に直結しやすい。
この作品で注目したいのは、返還後の沖縄で予想される土地価格の高騰という背景。沖縄を行き来するのに未だビザが必要であったこの時期だからこそ、土地を売りたい地元の人間とそれを買って利ザヤを得たい無法者たちが跋扈するのである。こうしたその時代だけに起こり得る社会現象に眼をつけた作者の視点が本作品の強烈な個性に繋がっているところにぼくは瞠目したい。
そしてこのシリーズでは特に感じられる、あの時代ならではのアナクロな刑事たちの人間めいたやりとりは、今更ながら人間の体温が感じられるように身近で嬉しい。科学捜査やネット犯罪で埋もれている現代のTVニュースとは無縁の、熱い血の通った捜査官たちの個性やいささか行き過ぎとも言える恫喝や暴力、荒っぽさが何とも昔の刑事映画を思い起こさせる懐かしさでいっぱいである。
どうかぼくと同じ時代、小説やテレビや映画で刑事ものを熱く見ていた世代に本書を読んで頂きたい。昭和のセピアカラーのスクリーンが本書の空気から蘇ってゆく様を体感して頂きたいものである。 -
あえて昭和の色を出すためにそういうwちょっと古〜い感じの文体を使っているのか、それとも新進気鋭wだった作者もちょっと甘い作り方になってしまったのか。ステレオタイプから違うパターンにできるかどうか次作で確認したいですね。
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上手い!
話の運びの上手さから事件が次々と展開を替えていくのを、読者は車谷刑事と共に事件にのめり込んで行かされる。この展開がスムーズであるため無理なく楽しめた。
返還前の沖縄からの麻薬密輸から、政財界のフィクサーの殺害、密輸に関わって死亡した母親の思い、沖縄の貧しさの中で助け合いながら育った子供たちの思い、自らを犠牲にしても相手を助けようとする思い。
これらを読み進めるうちに小説への感情移入が加速してゆく。
物語終章を迎える間際にぐっと涙腺が緩んでしまう熱い展開もあり、車谷の語る母親の最後と相俟って、心を熱くする警察小説となっていた。
前作の「川崎警察下流域」も良かったが、
車谷デカ長の清濁合わせ飲む的な、川崎の町の平和の為にはヤクザでも手を組む姿が小説の熱さにも繋がっている。 -
スマホと防犯カメラとDNA鑑定がない時代の刑事物。現代と違った面白みと人情がある。やや長くて利害関係も複雑なため、登場人物たちの動機が把握しきれなくなったのは残念。
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「川崎警察」シリーズの二作目。
昭和の刑事たちの汗臭さがぷんぷん匂う物語である。
いいも悪いも、部下の扱い、捜査方法、どれをとっても、泥臭い。
昭和の雰囲気をまとってはいても、車谷はどちらかというと、人情刑事である。
バラバラにとっ散らかったパズルのピースをたんねんに人ずつ集め、全体図を完成させていく、そんな根気が試される。
読者も、根気よく、物語の展開に付き合わされるのだが、
それが苦にならない。あ、また、一つ、ピースがはまったと、ワクワクさせられる。
時は、沖縄復帰の前年。川崎で女性の無残な遺体がみつかる。
闇に隠された人の欲、欲の犠牲になる少女たち、
沖縄という特殊な地の想い、そして、家族…。
一つ一つの謎が微妙に絡まりあい、事件をより複雑にしていく。刑事という名の男たちが、必死に真相を追いかける。 -
川崎警察シリーズ第2弾。沖縄の本土復帰を翌年に控えた川崎で一人の女性の陰惨な死体が見つかった。沖縄の土地利権と少女たちの集団就職の裏に隠された大人の醜い商売。泥臭い警察小説だけれど面白くて一気に読んだ。昭和の家族の絆や愛は今よりもずっと濃くて互いが互いのためだけに幸せを願っていた。最後は泣けた。
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昭和の川崎を舞台にした刑事たちの奮闘を描いたシリーズ。今回は沖縄の本土復帰直前の時期、高度成長期を迎え、貧しい地方からの集団就職で景気を支えてきた時代の負の側面に焦点を当てる。いつの時代にも強く誠実に生きる人たちがいる…。
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つかみはバッチリ、中盤から枝分かれが多く・・・あれ!