金融探偵 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
3.20
  • (38)
  • (139)
  • (333)
  • (69)
  • (13)
本棚登録 : 2033
感想 : 173
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198926267

作品紹介・あらすじ

失業中の元銀行員・大原次郎は、再就職活動中に金融絡みの難題について相談を受けた。これまでの経験と知識を生かし、怪事件を鮮やかに解決していく。出納記録だけの謎めいたノートの持ち主を推理するスリル満点の「誰のノート?」他全七篇。ミステリー連作集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「つくづく銀行員というのは、つぶしの利かない仕事だ。」(p14)と独りごちる失業中の元銀行員・大原次郎。
    転職活動が難航する一方で、元々他人を放って置けない性分から偶然、とある相談を解決(?)に導いたことをきっかけに『金融探偵』なる稼業を始める。


    7話構成。

    〈銀行はやめたけど〉 プロローグ的位置付けの短い話。一応事件らしきものは発生するが、まだ『探偵』と呼べる程の活動や機転はみられず。

    〈プラスチックス〉 次郎が起こした交通事故の相手・狭山桂子。事故により一時的にか記憶を失った彼女がポツポツと語った身の上には所々に辻褄の合わない部分があり、調べていくうちに突如桂子は姿をくらましてしまう。更に調査を進めると、半年前に「狭山桂子」という女性は既に亡くなっていた事が判明し…。
    二転三転する展開は面白いのだが、金融の要素は薄いような?

    〈眼〉 移植を受けた角膜に残った記憶を辿る、少しファンタジックな話。
    白い軽自動車を見て、普通、「あれは銀行の業務用車じゃないか?」(p127)と思い至るだろうか。そして行き当たる銀行行員殺し。うーむ、ちょっと強引かも。この話でも次郎は特に活躍してないような。

    〈誰のノート?〉〈家計簿の謎〉 まさかのアート・ミステリ前後編。わかりにくい。
    結局、戸川洋二が遺した3冊のノートは島崎藤村の家計簿ではなかったんだよな?それら贋物を山瀬がでっち上げ、洋二に高値で売りつけた。洋二はパリ時代にモナ・リザの贋作作りに手を出しかけた疑惑がある。羽根は洋二の過去につけ込む意図があったとして、何故贋作と知りつつノートを盗もうとしたのか?山瀬はどうやってこんな精巧な贋物を用意出来たのか?結局、ノートは誰の手によるものなのか?ifの匂わせがあるにせよ、たいへんモヤモヤ。

    〈人事を尽して〉 7話のうちでは最も金融探偵っぽい話。

    〈常連客〉 なんだかスッと腑に落ちない。北沢の自作自演計画に便乗して意趣返しをしようとした川嶋、という構図なのだろうが、実際輸送車は強奪されているし未然に防いでやろうとかでもなくて、自分も更に北沢を騙して一億円せしめようとかでもなく…。本当にただ嫌がらせ電話をかけていただけというスケールの小ささ。



    全事件にカネが絡んでいるから『金融探偵』とはあながち間違いではなかろうが、大抵の事件にはカネが絡むものでは。
    もっと銀行員ならではの捜査や活躍を期待したかった。

    次郎の転職はどうなったのだろう。



    27刷
    2022.1.24

  • 銀行を辞めた主人公が就職先が決まらずにやむを得ずに金融問題の探偵を始める話。自分も金融関係につとめていたので銀行ものとか好きですが、この話は探偵ということで一味違ってまた面白い。しかしなんだか儲かってなさそうだしハラハラしてしまった。

  • S図書館 2004年
    7編の短編
    東京産業銀行が清算となりその前に解雇された大原次郎が主人公
    銭湯の大家に頼まれ、借入の相談に乗ったことをきっかけに、職探しをしながら探偵を始めることに
    全編に次郎が登場
    「誰のノート」「藤村の家計簿」は連作

    銀行はやめたけど
    プラスチック

    誰のノート
    藤村の家計簿
    人事を尽くして
    常連客

    《誰のノート、藤村の家計簿の内容》
    戸川耀子が叔父の資産を相続したことに始まる
    次郎は貸金庫の手続き立会いをした
    遺品は3冊の古いノートだった
    これは(耀子の)祖父から預かったもので、持ち主に返して欲しいという手紙付き
    ノートにはパリでの家計簿、ルーブル美術館に行ったことが記載
    図書館で調べたり画家or留学生or記者or作家らしいと追究していく
    ノートの持ち主は島崎藤村だった
    しかし贋作と判断
    それは藤村がサロンの美術展へは通っていたが、ルーブル美術館に行ったことがないはずで、でっち上げだろうという
    つまりノートに「ルーブル」と書いてあるから偽物ということ
    祖父は騙されたのだろうか、名作の名前が飛び交う…

    《感想》
    全部面白い
    少し古い作品だし読むのを躊躇していたが読んでよかった
    「金融探偵」よりいいネーミングを考えて欲しいかった勿体無い
    内容は金融が絡んでないものもある

    連作の作品は、ノートは贋作とわかっていながら、弱みに漬け込まれて祖父は買ったのだろうと推測し、いったい誰のノートなのかわからず疑問を残したまま終わる
    よって賛否両論の感想があった
    しかし次郎の言葉から、裏付けはないが、藤村は知りすぎてルーブルのことは書けなかったのではないかと考えており、次郎自身はノートは本物と考えていると推察する
    この話は真贋の内容より、戸川画伯は一旦は贋作に手を染めたが世に出さず、思いをとどまらせたことが重要だと受け止めた
    もやもや感を残すのは、答えが1つでないということで、読者が楽しんで想像すればよいのだろう

    半沢シリーズでも壁に描いた絵が価値あるという話があったから、池井戸氏は少なくとも美術に興味があるのだろう

  • 池井戸潤さんの本はこれが16冊目。
    「半沢直樹シリーズ」や「空飛ぶタイヤ」等々から入った私は池井戸さんがミステリーでデビューしたことをすっかり忘れておりました。
    この「金融探偵」も探偵の前に金融とついているのだから金融限定なのかと思っていたのですが…
    7編の連作短編。
    読み始めるとどうやらそんな感じではなく、「眼」を読んだ時には「あれ?」と不思議な感じに。
    「誰のノート?」・「家計簿の謎」にはぐいぐいひきこまれました。
    解説ではこの「誰のノート?」のアイデアを活かした長編小説「●●巴里日記」(●●はあえて伏字に)がミステリマガジンに連載されていると書かれているのですが、この作品は本としては出版されていないような…
    「金融探偵」を読んで、「誰のノート?」の持ち主である●●にまで興味がでてきた私。
    「●●巴里日記」も読んでみたい!

  • 金融探偵も面白いが、直前に読んだ「銀行総務特命」の方が面白かったかな。

  • オレが大学を卒業した頃の就職活動・・昭和60年。

    この頃に、もしも企業の偏差値というものがあったら、銀行という就職先は高値の華。

    成績証明書でも、ほとんどの成績が「優」でないと完全に書類審査で落とされて、一次にもたどり着けない。

    それほど、銀行というのは将来の約束をされた就職先であり、優秀な奴ばかりが進む場所だったのだ。



    主人公の大原は、再就職を求めてあちこちの企業をまわるがどこにも受け入れてはもらえない。

    そして彼は金融関連で銀行がからんでいる問題を抱えている人たちの悩み事を聞いているうちに・・・

    これまでの銀行時代の経験と知恵を活かし、様々な問題を解決していくのだ。



    銀行マンというものには、もちろんなったことはない。

    しかしこの仕事というのは、客の口座一つを切り口に、様々な想像力を駆使して大きなビジネスにつなげるものであると思う。



    大原にとっては、この「金融探偵」という仕事は、就職先が決定するまでの「かりそめの仕事」のつもりだった。

    しかしいつの間にか、天職といってもいいほどマッチしてくるのだ。



    池井戸潤氏は、ほぼオレと同学年。慶応大学から旧三菱銀行に入行したエリートだった。

    メガバンクの中のドロドロした勢力争いなどを描く小説も嫌いではない。

    しかしこの小説「金融探偵」は、細かい部分に彼の銀行マン時代のノウハウが凝縮されているように思えるもの。

    金融の面白さを十分に垣間見れるこの作品は、池井戸氏がぜひ描きたい内容であったのではないだろうか。

  • 池井戸潤の金融モノなので、半沢みたいにスカッとしたのを期待したけど、主人公がいまいちさえずに終わってしまった。

  • 大手銀行をリストラされ、なかなか再就職できず、なんの縁か、大家の娘にすすめられはじめた探偵業が、探偵過ぎずに面白い(^^)本当に素人が探偵始めましたって感じで、ちょっとしたことで躓きながら、成長?していく姿がなかなかです?
    話の進行と並行に、再就職のために、ハローワークや面談を受けているのですが、結局、本書では再就職実らず…世の中、厳しいねぇ(笑)

  • 銀行を解雇され、ハロワに通う青年がダラダラと過ごす日常の中、偶然に巻き込まれてしまった事件に首を突っ込んでいくうち、自称探偵として活動するという連作短編小説。

    ベラベラと捜査情報をしゃべりまくるお巡りさん、盲目なのにレジや接客まで一人だけでやってしまうマッサージ店経営者、死者の見た映像が見える角膜移植者など、ツッコミどころ満載の登場人物。それゆえに現実離れした感覚で気楽に読める爽快な小説だ。

    さらに、仕方なく探偵をやっているという主人公のやる気のなさが、ハロワに通うイマドキの若者像にマッチしている。

    若者よ、シューカツより探偵だ。

  • 職探しをする元銀行員がいつの間にか探偵に。
    おもしろいのは、半沢直樹のような理詰めの話以外に、へぇ、そんなことにも興味持ったのか、この作家は!と驚くような要素が入っていること。
    怒りに燃えて道を切り開いていく現在の諸作にくらべ、大きな流れに右往左往流される主人公がどこか人間味に溢れていて、つい応援したくなる。

全173件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。98年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、11年『下町ロケット』で第145回直木賞を、’20年に第2回野間出版文化賞を受賞。主な作品に、「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』『アルルカンと道化師』)、「下町ロケット」シリーズ(『下町ロケット』『ガウディ計画』『ゴースト』『ヤタガラス』)、『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』『陸王』『アキラとあきら』『民王』『民王 シベリアの陰謀』『不祥事』『花咲舞が黙ってない』『ルーズヴェルト・ゲーム』『シャイロックの子供たち』『ノーサイド・ゲーム』『ハヤブサ消防団』などがある。

「2023年 『新装版 BT’63(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池井戸潤の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
池井戸 潤
池井戸 潤
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×