本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
4.20
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本棚登録 : 12388
レビュー : 1470
  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198937065

作品紹介・あらすじ

OL二ノ宮こと葉は、想いをよせていた幼なじみ厚志の結婚式に最悪の気分で出席していた。ところがその結婚式で涙が溢れるほど感動する衝撃的なスピーチに出会う。それは伝説のスピーチライター久遠久美の祝辞だった。空気を一変させる言葉に魅せられてしまったこと葉はすぐに弟子入り。久美の教えを受け、「政権交代」を叫ぶ野党のスピーチライターに抜擢された!目頭が熱くなるお仕事小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『えー、ただいまご紹介にあずかりました、さてさて でございます。厚志君、恵里さん。このたびは、ご結婚おめでとうございます』。思い出したくない過去というのは誰にでもあると思います。思い返せば数年前、上役のピンチヒッターとして有無言う間もなく急遽振られた披露宴の挨拶の代役。新郎主賓の素晴らしい挨拶、会場を包みこむ拍手の嵐。その後、名前を呼ばれマイクの前へと進んだ私。直前に『人』と手の平に書いて飲み込もうが、何十という目が自分だけを向いているのを目にした瞬間、頭は真っ白。その後の記憶なく、封印すべき過去として自分の中に残った人生の汚点です。そして今手にしたこの作品冒頭の『スピーチの極意 十箇条』を読んで蘇る苦い記憶。『一、スピーチの目指すところを明確にすること』(例文をつぎはぎしました…汗)。『ニ、エピソード、具体例を盛りこんだ原稿を作り、全文暗記すること』(メモを見ながら棒読みしました…汗)。『三、力を抜き、心静かに平常心で臨むこと』(全身硬直、頭の中は真っ白…涙)。…と、この作品をもっと前に知っていればという悔悟の念しかありません。
    まあ、気を取り直して。

    『製菓会社の総務部勤務のごくフツウのOL』という二ノ宮こと葉。その名前は『中学生の国語の教科書に作品が載ってしまうような著名な俳人』の祖母が付けたもの。作品は、そんな こと葉が披露宴に出席している場面から始まります。『新郎の厚志君は、私の幼なじみだ。生まれてずっと、親戚同様に家族ぐるみでお付き合いを続けている』という二人。『その立派な男の大切なクライアントのスピーチの真っ最中に、寝ぼけてスープ皿に顔突っこんだ私』という大失態をした こと葉。反省する こと葉の前で次は厚志の友人という女性がスピーチに立ちます。眠気など無縁のそのスピーチ。『披露宴の締めに行ったスピーチの、鮮やかなことといったら。電光石火、理路整然、軽妙洒脱、拍手喝采、私は号泣』という鮮烈な忘れ難いインパクトをこと葉に与えます。『こうして、私は出会ったのだ。「言葉のプロフェッショナル」、スピーチライター、久遠久美に』。この運命的な出会いをきっかけに こと葉は言葉の持つ力に、そしてそれを自在に操るスピーチライターという仕事に魅力を覚え、久美の事務所に通うことで、スピーチライターの仕事に深く関わっていくことになります。

    作品は大きく前半、後半に分かれます。前半は、こと葉がスピーチライターという仕事を知り、その世界に魅かれていく段、そして作品の後半では、こと葉が久美とともに『政権交代』を叫ぶ野党・民衆党のスピーチライターとして選挙運動に関わっていく姿が描かれます。もちろん、前半にもそれを匂わす伏線が幾つも見られますが、印象としては連作短編を読んでいるのに近い印象も受けました。思えば今まで、街頭の選挙演説を目にする機会があってもただ行き過ぎるのみで、ニュースでそれを目にしてもあまりピンと来ることがなかったように思います。それが、この作品中の こと葉が携わったスピーチには心動かされるものがありました。もちろん、小説の世界のことなので、だからどうということはもちろんありませんし、特に現実の政党名は思い浮かべない方が作品世界に入っていけると思います。

    そして何よりもこの作品は、スピーチライターという職業に光を当てた作品らしく、全編に渡って言葉へのこだわりがとても強く感じられました。ただ、そこで紡がれる言葉は本来、スピーチとなって耳に届くものです。スピーチであれば、その話し方で抑揚をつけたり、身振り手振りを加えることで元の言葉が持つ意味を聴覚と視覚の総合力で相手に伝えていくことができます。でも、この作品が『本』という形で私たちの目に触れる限りはそれを文字で伝えるしかありません。原田さんは、それを漢字とひらがなの絶妙な使い分けをすることで、その抑揚が読者に伝わるよう工夫されていると感じました。例えば次の二つのスピーチです。まず一つ目、『ふたつの人生をひとつに重ねて、いまからふたりで歩んでいってください。たったひとつの、よきもののために』。二つ目、『日本は、あなたがたおひとりおひとりのものです。あなたがたおひとりおひとりが、この国の主権者であり』、とひらがながとても目立ちます。もちろん、固有名詞など漢字が相応しいものは漢字が使われていますが、ここに挙げた箇所など、文字で読んでも、ゆっくり、やさしく、ていねいに語りかけるような話し方が自然と頭に浮かびます。こういう読み手への配慮、そして各場面の細かい人物と情景の描写もあって、文字を読みながらも実際のスピーチの場面が見事に浮かび上がってきました。

    また、言葉に重きを置いた作品らしく、全編に渡って心に強く響く印象的な言葉が数多く登場します。中でも印象に残った、というより今まで目にしてきた言葉に比しても個人的に心を大きく揺さぶられたのが次の言葉でした。
    『困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙が止まっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。だって人間は、そういうふうにできているんだ』、なんの心構えもしていなかったところにこの言葉がいきなり現れたこともあって、熱い思いが一気にこみあげるのを感じました。今、こうしてタイプしていても目頭が熱くなるこの言葉。この言葉に出会えたそのことだけでもこの作品を読んだ意味があったと感じています。

    本のレビューを書くようになって、私自身、言葉というものにとても敏感になっているという認識があります。この作品に出会って、言葉の持つ力、その力強さを改めて感じました。人が人である限り、そのコミュニケーションは言葉が主役です。人が言葉を生み出し、言葉が人を動かしていく。『あのひとが魅力的だから言葉が輝いているのか、それとも、言葉が魅力的だからあのひとが輝いて見えるのか、わからない』そんな風に思われるように、これからも言葉を磨いて生きていきたい。

    「本日は、お日柄もよく」、いろんなヒントをいただきました。ありがとうございました。

  • 原田マハ『本日は、お日柄もよく』徳間文庫。

    これまでは原田マハと言うとアートをテーマにした作品しか読んだことがなかったので、読み始めてから余りの作風の違いに戸惑った。しかし、ユーモラスな雰囲気で始まった物語は、いきなりの感動へと誘われた。作中に登場するスピーチを読む度に感涙。一体何度泣かされたのか……原田マハに言葉の力を思い知らされた。

    製菓会社に働く普通のOL、二ノ宮こと葉は、幼馴染みの結婚式で有り得ない程の感動的なスピーチを披露した伝説のスピーチライター久遠久美と出会う。久美のスピーチを会場の空気を一変させるほどの力を持っていた。久美の誘いで弟子入りしたこと葉は普通のOLからスピーチライターの道を目指す……

    最後のスピーチに感涙。この余韻にしばらく浸りたい。

  • このお話は、タイトルと出だしからいって、結婚式のスピーチに終始するOLのお話かと思ったら、全く見事にいい意味で裏切られました。
    作者の原田マハさんは、ユーモアのセンスも程よくて、なんて引き出しの多い作家さんなんだろうと思いました。

    主人公のこと葉は、何もないところから、一人前のスピーチライターになっていくところが凄い!と思いました。
    こと葉の師匠であり上司になる久美との関係。
    厚志、ワダカマ、こと葉の戦いぶりと友情もよかったです。
    スピーチで世界を変えるという久美も、全くもってカッコいい。

    そしてまた、最後のしめには、またしてもマハさんに「やられた!」と思いました。
    脇役のおばあちゃんや厚志の父や恵里ちゃん、千華なども、皆とてもいい味を出していて、読んだ後で、気持ちがあたたかくなる大変素敵なお話でした。
    今まで読んだマハさんの小説の中で面白さでは私はぴかいちだと思いました。

    • まことさん
      ご紹介ありがとうございました(^^♪
      でも、マハさんの本がだんだんなくなっていくのが、ちょっと淋しいです。
      ご紹介ありがとうございました(^^♪
      でも、マハさんの本がだんだんなくなっていくのが、ちょっと淋しいです。
      2019/06/09
    • kanegon69 さん
      まことさん、大丈夫です!マハさんは凄く精力的に新作も書き続けていますから!気にせず、読んで下さい^_^
      まことさん、大丈夫です!マハさんは凄く精力的に新作も書き続けていますから!気にせず、読んで下さい^_^
      2019/06/09
    • まことさん
      そうですねっ!私もゆっくり、どんどん読んでいきたいと思います(^^♪
      ありがとうございます!
      そうですねっ!私もゆっくり、どんどん読んでいきたいと思います(^^♪
      ありがとうございます!
      2019/06/09
  • 覚えておきたい言葉。
    「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している。」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      素敵な言葉ですね!
      りまのさん
      素敵な言葉ですね!
      2020/10/28
    • りまのさん
      はい、素敵な言葉だと、思いました。昨日、下を向いて、歩いていたら、知り合いの人と、ばったりあって、自分が、下を向いていたことに気付き、顔を上...
      はい、素敵な言葉だと、思いました。昨日、下を向いて、歩いていたら、知り合いの人と、ばったりあって、自分が、下を向いていたことに気付き、顔を上げて歩こう、と、思いました。
      2020/10/28
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      「顔を上げて歩こう、と」
      うんうん
      りまのさん
      「顔を上げて歩こう、と」
      うんうん
      2020/10/29
  • ちょっとこれ、これは凄かったです!

    原田マハさんの本は、割とたくさん読んでいると思います。『楽園のカンバス』に始まり『まくだらやのマリア』『生きるぼくら』『ジベルニー…』『ロマンシエ』『デトロイト美術館…』『…ゲルニカ』など。
    さんざん読んで、でも結局は『楽園の…』を超えるものってないのかな?なんてことを思っていた私が愚かでした。
    大傑作『楽園のカンバス』とは全く別のジャンルで、こんなに面白くて感動的な一冊があったとは。

    作中のスピーチ、結婚式のものから国会の代表質問、葬儀のスピーチに選挙戦でのスピーチなど、どれも素晴らしすぎて、読みながら何度も感動して涙腺が決壊しそうになりました。

    それにしても、この本を読むと、政治家の中には今川君や小山田さんのように本気で「この国をもっといい方へ変えていきたい」という意欲を持って立候補した人も大勢いるはずなのになあ…と、首をひねりたくなります。

  • 「言葉が世界を変える」というフレーズを見て、なんとなく手に取ってみましたが、読み進めていくうちに、思わず姿勢が前のめりになっていました。

    大袈裟な表現だがどうも増えてきているように思えますが、それほどに、「言葉」というものには引力があって、「言霊」とはよく言ったものだな、と感心することがよくあります。

    さて、この本は、そんな「言葉」を取り扱う、「スピーチライター」の物語です。
    主人公の二ノ宮こと葉が、親友の結婚式に出た際に聞いた、スピーチに強く心を動かされて、やがて、スピーチライターを目指していくというのが主なあらすじです。

    こと葉は、親友の結婚式で偶然出会うこととなった、久遠久美の、心動かすスピーチに惹かれて、自分も上手くなりたいと思うのですが、そこが、こと葉の才能のように思えてなりません。

    良さに気付けるという点、そして、何が良いかを分析できて、自分もそうなりたいと行動に移すことができることは、ものすごく難しいことだと思います。
    だから、すぐに動き出したこと葉が、素敵に見えました。

    読んでいて、原稿を作るときの頭を悩ませる様子や、スピーチをする時の緊張感が、ひしひしと伝わってきました。
    どの作品にも、ものすごくリアリティを感じさせる文章を綴る、原田マハさん。

    今回もまた、最後で泣かせてもらいました。

  • ストーリーの面白さはもちろんのこと、随所にある胸を震わせるスピーチの素晴らしさに感動した

    機会があれば、その一節でも使ってみたいなと思った
    まあ、そんな機会も、今となっては、もうないだろうけれど・・

    その中でも圧巻のスピーチは決起集会での今川厚志のスピーチだ
    読んでいて、鼻の奥がツーンと痛くなり目頭が熱くなった
    心を震わし、心を動かすスピーチというのは、ああいうのをいうのかと思った

    私が一番、好きなフレーズは、今川篤郎が、両親を亡くした久美を抱きしめて、言った言葉だ

    「 困難に向かい合ったとき、もうだめだと思ったとき、想像して
    みるといい
    3時間後の君、涙がとまっている。24時間後の君.涙は乾いて
    いる。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出して
    いる。
    どうだい? そんなに難しいことじゃないだろ? だって人間は
    そういうふうにできているんだ。
    とまらない涙はない。乾かない涙もない。顔は下ばかりも向い
    てはいられない。歩き出すために足があるんだよ。」

    前を向いて、歩いていこうという勇気をもらえる言葉だ

  • 久遠久美さんがとにかくかっこいい!ボッティガベネタの(おそらくカヴァ)を仕事で使って、見た目も、そして才能も!
    スピーチって、単に短い時間で簡潔に話すことではなく、心に打う語りがスピーチではないかと思わずにはいられない。そして、要所要所に散りばめられた名言!「生まれ変わってもまたあなたのお母さんになりたい 今度はいっぱいお話をしましょうね」には、心が震えるのがわかりました。こと葉に、久美が贈った名言「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩き出している」
    また、いつか出会いたいと思える作品です。

  • 泣けた!
    直接かかわりのない聴衆(読者)を共感させ、心を揺り動かす。
    どのスピーチもグッとくるものばかり。
    言葉には力がある。
    でも本当にその力を発揮するには、〈心〉をともなわなければならない。
    スピーチにかかわるそれぞれのドラマがあり、ひきこまれる。
    テンポもよく、読後感もさわやか。
    スピーチライターにまつわるお仕事小説。

  • 9月に部署が変わった。
    新しい部署新しい出会い。

    8月にこの本を読んだ。
    このタイミングで読んだことに
    意味があるんだと思った。

    自己紹介も、一つのスピーチ。
    「●●から異動してきました、キョーです」
    今までの自分なら間違いなくそんな入りの
    自己紹介をしていたと思う。

    10カ条を意識して、
    出だしで人を聞く気にさせる自己紹介が
    少しはできた気がする。

    もっと人前で話す経験を積みたい。
    この本を読んで本当にそう思った。

    人におススメしたい本No.1です!

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著者プロフィール

原田マハ(はらだ まは)
1962年東京都生まれ。小6から高校卒業まで岡山で育つ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館での勤務を経て、2002年よりフリーのキュレーターとなる。2005年小説化デビュー作の『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、『キネマの神様』で第8回酒飲み書店員大賞をそれぞれ受賞。2013年には『ジヴェルニーの食卓』で第149回直木賞候補、2016年『暗幕のゲルニカ』で第155回直木賞候補となる。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞受賞。2019年『美しき愚かものたちのタブロー』で第161回直木賞候補に。

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