孤鷹の天(こようのてん)(下)

  • 徳間書店 (2013年9月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784198937423

みんなの感想まとめ

物語は、恵美押勝の敗残兵が淡路島の官衙に幽閉された大炊王を支え、安倍女帝に叛旗を翻す中で展開します。斐麻呂は山於皇女を救おうと奮闘しますが、逆に捕らえられてしまいます。大炊王の戦死や、斐麻呂と山於皇女...

感想・レビュー・書評

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  • 澤田瞳子のデビュー作にして中山義秀文学賞受賞作。上巻に引き続き、恵美押勝の敗残兵が淡路島の官衙に幽閉される大炊王を担ぎ、安倍女帝に叛旗をあげる。斐麻呂は大炊王の伊勢にある斎宮山於皇女を救わんとするも、かえって生捕りにされてしまう。大炊王は戦に敗れて亡くなったが、斐麻呂と山於皇女は磯部王のでっちあげた仏舎利の出現によって恩赦を賜り、生き残ることができた。
    そして大学寮の再生にむけて動き出す。

  • 人は何のために学ぶのか。

    淡路から大炊王を奉り、女帝の世に奏上しようとする敗れた者たち。斐麻呂は伊勢の皇女を救う役目を任される。赤土と出会った広子は益女が遺した子を引き取った。自分の為すべきことは何か、それぞれが問い続けていく。

    ハッタリを効かせて一発逆転の手を打つ礒部王に心で拍手。清野の協力に驚きつつ、彼らしい小心者の姿を微笑ましく思う。腹を決めた広子のカッコよさ。戦いの中で声を張り上げる上信の姿が目に浮かぶ。

    邪なことが跋扈するこの世界で、自分の信じるものを貫くのは難しい。けれど、学ぶ意味はそこにある。変わらないものと変わるものを知り、過去を知り、未来を思い浮かべ、自分の芯を作るために、学問は必要だと思う。「正しい」ことしか学べないのでは、学ぶ理由がすべて任官ではない。だから公の大学も私塾も必要で、そこで学んだ者の道はそれぞれ違うだろう。でも共通するのは学ぶチャンスの大切さだ。

    著者は母校の先輩である。母校には、ここで学んだ者は社会のどこにいても自分の得たものを用いて社会を明るくする、というモットーがある。この小説からそのモットーを思い出した。私塾で教える斐麻呂、私塾に書を遺した比良麻呂、官吏として働く清野や光庭、皆大学寮での学びをそれぞれの場所で輝かせている。確かに失ったものは多かったけど、清々しい終わりだった。

  • 女帝を誑かしたと書かれる弓削道鏡もステレオタイプの書かれ方じゃなく、
    これまたイメージがちょっと違う。
     
    途中から、もうどうなるの?と気になって読むのを中断するのが大変。
    阿倍上皇と大炊王(天皇)が対立したけど、どちらかだけが正義ではなくて…
    でもみんな、より良い国にしたいってのが根底にあったんじゃないかな。

  • 恵美押勝の乱後、大学寮の学生たちは散り散りになりつつも、理想と信念の為に、それぞれの人生を賭けていく。
    血生臭い戦争描写もあるので苦手な人は注意。

    面白かったですが、人物描写がちょっと浅いかなという気はします。なぜ、そう信じたのか、どうして気持ちが変わったのかとかが、さらっと書かれている時があるので、その辺がもう少し深く描かれていれば、もっと感情移入できたかなぁと思いました。

  • 戦争の始まりは正義
    女帝の(同じ女として痛恨の極みだけど)まさに女らしい、女のダメなところだけが際立った人間味と、権力を上り詰めたがために自分の礎から逸れてしまった事に気が付けず、立場を固守するために帝を盾に立ち上がった押勝。
    お互いが正義と思ってることが、端から見ると完全に自分たちのことだけで全く義がない。
    そこに巻き込まれる義を持つ人々。
    例え負けて死しても、死ねなくて生き残ってしまっても、道を違えて反対側に立ってしまっても。
    芯に義が植え付けられていれば、それでも何か行動を起こし、未来を拓くという。
    責難は成事にあらず。
    未来を拓く為の行動と、自分が納得できる行動を取れる為の知識や信念が大切だと思った。

  • 奈良時代の官僚制度が理解しにくい。
    広子と赤土が自分の意志で人生を進んでいるのがいい!

  • (Yodobashi電子書籍版)
    なるほど、下巻はかなりフィクション色が強くなるのか。歴史とはかけ離れてきている部分がちょっと引っかかるけど、面白さは増す。これが奈良時代と思われるとちょっと困るけど。その時代らしさをまとったパラレルワールド小説としては一気に読める面白さ。まあでもこの著者の奈良時代物は、読んでいてどうしても細かいところでそれはどうかなという部分が出てくるのでもういいかな。(へたに学生時代に続日本紀などをかじったもので…)

  • 2019年ベストの小説。

    国を思い、義を貫く若者たちの生き様を描いた奈良の時代小説。

    ■各人物の義を通す姿が熱い
    斐麻呂、雄依、上信を中心に仁義、仲間を最後まで優先させる姿に心惹かれる。それ故に政変に巻き込まれ、生まれる悲劇がより悲しく、涙を誘ってしまうのだと思う。
    また、義を貫く彼らへの単純な憧れの気持ちが強い。最も好きなキャラクターは光庭で、同じ気持ちやプライドはあるのに、現実を見ると冒険はできず、保身に守ってしまう。そんな自分が情けなくてならない。この苦しむ姿は多くの現代人が共感するところだと思う。そこを作者は否定せず、そういう人も必要だと上信に言わせるのも憎い演出。同じことは清野にも言える。途中までは憎たらしい清野も冷静に考えれば決して批判できない。

    ■格言の引用が何よりも良い
    p193与に学ぶべきも、いまだ与に道を適くべからず。与に道を適くべきも、いまだ与に立つべからず。与に立つべきも、いまだ与に権るべからず。
    →まさにその通り。同じ信念でも下す決断は違うし、それは誰かに否定されて良いものではない。

    p341滄浪の水、清まば、以って汝が纓を濯うべし。滄浪の水、濁らば、以って汝が足を濯うべし
    →清濁に身を委ね、柔軟に生き延び、次の機会を待て。


    まだまだ、赤土と斐麻呂の関係やそこにある奴隷制度、差別問題、磯部王や、山部王(桓武天皇)など、語ろうとすれば語り尽くせない、盛りだくさんの小説。

  • 涙なしには読めなかった。。。それぞれがそれぞれの義を貫く姿に何度胸が熱くなったことか。1人1人の生き様が鮮明に心に焼きついた。

  • http://wp.me/p7ihpL-pa


    賀陽豊年は実在の人物。
    作中でも早くから漢詩の才能があると言われている彼だが、後年文章博士にまでなったというから、学生の立場から教える方になったわけだ。
    漢詩に限らず、学者としての才能があったのだろう。
    この本の中で、自分に一番影響があったのがこの牡鹿嶋足。
    蝦夷生まれの生粋の武官であり、物事の考え方もいたってシンプル。腹芸のできない人物として描かれる。東北の歴史に少し興味が出てきているので道嶋嶋足としての嶋足も読みたい。

  • 澤田瞳子の歴史小説オモロいよ、という評判を聞いたので読んでみた。
    評判にたがわず読み応えのある良い作品、しかも、これデビュー作らしいが、そうとは思えない手慣れた筆さばきで、飽きさせない。これ以降の作品も大いに期待できそうである。

    日本史選択の人なら知ってるだろう「藤原仲麻呂の乱」というマイナーな事件を背景にしているところが通好み。ちなみに俺は世界史選択で、この事件はどっか(多分高校で日本史授業の時居眠りしながら)聞いたことある程度だったのだが、特に違和感なくグイグイ読めた。だから設定は通好みでも大丈夫です、念のため。

    融通が利かず、権力におもねり、過大な税金を搾取し、それを無駄遣いする、時には悪徳商人からワイロをもらい、一般人の貧困な生活を振り返らずに絢爛豪華かつ権謀術数の毎日を送る悪人ども…。世の中の官僚に対するイメージってのはこんな感じ、俺もそんな風に思っている。

    しかし、この小説に出てくる官僚は、こういう典型的なんではない。新羅(この小説の少し前に日本は壬申の乱で敗れている)や大唐に負けない強いて良い国体を作るために、彼らなりの考え方で学び仕事し努力研鑽する人々がほとんどである。それでも世の中は乱れて行くし、政治は混乱するし、内乱が発生する。

    官僚も、政治家も、君主も、自分が正しいと思う方向で国を導こうとする。しかし、そこに妙なベクトルがかかって歪んでいく。権力の誘惑というのは相当に強く甘いものなのだろう。権力を行使するには権力を制御できるだけの忍耐力と自制心が必要なんだけど、学問や心身の鍛練を相当に積みこんでも、それが身につかず煩悶し葛藤する人々の姿が、この小説では浮き彫りになる。

    目指すところは一緒でもその道筋が違う。自分の道筋を主張するあまり、他の考えと対立する。そこに権力の甘い魔力が加わり、争いを起こす。理想からかけ離れて行く常道だと分かっていても、有史以来人間はひたすらこれを繰り返してきた。

    理想の国家を目指す心意気はよし、ある程度であれば国民の義務が増えるのも我慢しよう。しかし、自らの理想国家に固執して、国を…もっとベタに言えば俺たちの平穏な生活をおびやかすようであれば、その政治はダメである。その政治家や官僚は道を誤っている。今の日本は道を踏み誤ろうとしていないだろうか…。

  • 澤田瞳子のデビュー作。
    藤原仲麻呂権勢、阿部上皇(孝謙天皇)の時代。遣唐使をめざして大学寮に学ぶ少年、奴隷の青年との友情と離反など。

    身分格差の問題は『満つる月の如し』にもあったが、時代劇学園物だった上巻の後半、きなくさい政争に巻き込まれて、大学寮の自治が危ぶまれる。

    全共闘世代の大学紛争や、昨今の高学歴での就職難などがオーバーラップする。著者が院卒だからこそ書ける話。

    登場人物の凡ては決して善人ではなく、それぞれが過ちを犯しつつ、最後に義のために戦う。ある者は武力で、ある者は知恵で。

    斐麻呂の初志が潰えたかに思えたところで、あのラスト。友の志を継いだ赤土の姿に涙する。

    此の作家はまるで,その時代にまぎれこんだかのような描写がたくみ。そして群像劇がうまい。一気読みした。

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著者プロフィール

澤田 瞳子(さわだ・とうこ):一九七七年京都府生まれ。二〇一〇年に『孤鷹の天』でデビュー、同作で中山義秀文学賞、一三年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、一六年『若冲』で親鸞賞、二〇年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、二一年『星落ちて、なお』で直木三十五賞を受賞。『火定』『名残の花』『輝山』『月ぞ流るる』など著書多数。


「2025年 『東海道綺譚 時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

澤田瞳子の作品

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