神去なあなあ夜話 (徳間文庫)

著者 :
制作 : 三浦しをん 
  • 徳間書店
3.85
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本棚登録 : 1801
レビュー : 169
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198941178

作品紹介・あらすじ

三重県の山奥、神去村に放りこまれて一年が経った。最初はいやでたまらなかった田舎暮らしにも慣れ、いつのまにか林業にも夢中になっちゃった平野勇気、二十歳。村の起源にまつわる言い伝えや、村人たちの生活、かつて起こった事件、そしてそして、気になる直紀さんとの恋の行方などを、勇気がぐいぐい書き綴る。人気作『神去なあなあ日常』の後日譚。みんなたち、待たせたな!

感想・レビュー・書評

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  • 『文字が巨木を倒し、文字が森を鳴らし、文字が山を駆け降りる圧巻のオオヤマヅミさんの大祭(さてさて氏「神去なあなあ日常」のブクログ感想より引用)』の感動冷めやらぬ中、主人公・勇気の林業研修生としての任期は満了し『俺はたぶん、このまま神去村にいると思う』という不確定な言葉を残して、「神去なあなあ日常」は結末を迎えました。この作品で取り上げられていた林業研修生とは林野庁が2003年度から開始した『緑の雇用事業』によって林業分野の雇用改善を目指した制度です。関係される皆様の努力もあって、研修生の定着率は70%を超える実績(全産業平均(64%))を出しているようで、この結果、林業に従事している人の約三分の一がこの制度の出身者だそうです。そんな研修生の一人だった勇気。この作品はそんな勇気のそれからを描いていきます。

    『俺はつい最近、二十歳になった。今年の春からめでたく、中村林業株式会社の正社員になった』という作品の始まり。『神去村には、なにもない。最初は神去村での生活がいやでいやでたまらなかったのに、俺はいつのまにか、林業に夢中になっちゃったんだ』と勇気が林業に生きていくことを決意したことで、それからの物語が始まりました。そして、この作品は『それで思いついた。村の言い伝えとか、住人たちのこととか、見聞きした話を記録してみるのはどうかなって』というように勇気がパソコンに入力した『日記というか、覚え書き』を元にして、7章の連作短編集のようなイメージで展開していきます。

    雨で仕事が早じまいになったある日、ヨキの家の茶の間で羊羮を食べていた時でした。『むかーしむかし、神去村は水の底やったそうな』と突然語り出した繁ばあちゃん。『あの世からの電波でも受信しちゃったのかと心配になった』という勇気に、繁ばあちゃんは『神去村に言い伝えられとる、昔話をしたろと思うてな』と、かつて神去村が大きな池の底だった昔から、今の神去村ができるまでの物語を語ってくれます。この物語がとてもよくできた昔話でとても興味をそそられました。『どうしてこの村は「神去村」っていうの?』と尋ねる勇気に対して、『それは、さっきの話のつづきを聞けばわかるんや』と繁ばあちゃんは思わせぶりなそぶりを見せます。そして『あだると な話やけど、勇気ももう大人やからな。話したってもええ』と、語りはじめるところからこの作品が弾け出します。話を聞いた勇気が『なんなの、この性欲旺盛なひとたち』という『あだると』な昔話はここでは書きません、もとい書けませんが、この後も『でも抑えようがないのだ、この胸の高ぶりを!ついでに股間も暴れん坊将軍になりそうだが』などなど、散らばる下ネタ、お下品一歩手前な表現が頻出して、三浦さんのエッセイの世界観が顔を出します。

    でも、流石に小説とエッセイはきちんと意識されている三浦さん。勇気が愛する神去村の自然を『湿った木の葉のにおい。風にざわめく黒い山々。鋭く透明な空気のなかで、風鈴みたいに、すりこぎみたいに、さまざまな声で鳴くムシたち』というような表現で魅せてくれます。また、そこに暮らす人々を『挨拶すると、それだけで人間関係がうまくいくことが多いし、なんとなく気持ちが晴れやかになることだってある。その挨拶の範囲が、神去村では広いんやと思う』という挨拶に焦点を当てた表現で神去村の人々の人間関係を巧みに描写していきます。

    『村で生まれ、村で死んだひとは、みんな神去山の彼方へと魂が還っていくのだそうだ』という神去村。『この村のひとたちは、百年後を見据えて山に木を植えつづけ、先祖が植えた木を切りつづけて、生きてきた』というようにこの村に生まれ育った人々は昔から林業を生業として生きてきました。他の職業、例えば米作りであれば春に田植えをし、秋に刈り取ることで自分自身が半年かけて精魂かけて育てたものの成果を手にすることができます。でも林業はそうはいきません。苗を植え、伐採するまでに40年から50年。作品中でも出てくるような大木だと100年以上の月日に渡って親・子・孫にわたる手厚い面倒見が必要です。『自分が死んでも、あとを生きるひとが幸せでありますようにと祈って、神去村のひとたちは山の手入れをしつづける。その信頼こそが、愛ってやつじゃないのかなあ』と日記に綴る勇気。神去村での暮らしの中で、人々との関わりの中で、そこで生きていくために最も大切な心の有り様を体得していきます。

    文字が山を語り、文字が村を描き、文字が人を繋いでゆく、神去村の物語。『山のうつくしさや恐ろしさに、どんどん気持ちが惹かれていっちゃったんだよなあ』と語る勇気を魅了した山に囲まれた村の自然、そして人々の優しさに私もすっかり虜になりました。『緑の雇用事業』の効果もあって、50年来続いてきた林業労働者数の減少にようやく歯止めがかかったというこの国の林業。この作品との出会いを通して、その実態を垣間見ることもできました。「神去なあなあ日常」とともに、一人でも多くの方に是非読んでいただきたい作品。生気に溢れ、読んでいて心躍る一冊、人の生命力を感じるとても素晴らしい作品だと思いました。

  • おもしろかった。『神去なあなあ日常』の後日譚。神去村の細かい信心とか、ヨキや清一の家に両親がいないことの理由など、神去の山で淡々と語られる。繁ばあちゃんのキャラが素晴らしい。山太のクリスマスは大爆笑した、赤松の和風の飾りのついたツリー、そして木彫りのロボはものすごく羨ましい。”木工と個別課題の部屋”という個人的愛読ブログがあるが、そちらの作品を思い出し、大量生産の超合金ロボ(それもまた嫌いではないが)にはない、山の恵みを感じる。すばらしく優しい気分になれる一冊。

  • 2020(R2)6.25-6.28

    『神去なあなあ日常』のスピンオフ的位置付けの続編。これを読むと、主人公の勇気が暮らす神去村の世界観が深まると同時に、勇気の、軽い感じを残しつつも、地に足をつけて生きていく逞しさを感じられる。

    相変わらず、勇気の描写は単調で、横浜育ちの都会っ子が、どうしてこんなに易々とド田舎の生活に順応していくのか、葛藤はないのか、そのあたりはカットされている。そこが主題でないのだね、きっと。
    前作と今作を通した主題は、今作の終わりに出てくる。それは、神去でも横浜でもどこでも同じことなんだろうけど、勇気は、神去で暮らしたからこそ、それを実感することができた。神去で変わった生き方が恋にもつながったのだろう。

    勇気の、ヨキの、山太の、清一の、直樹の、そしてお茶目な繁ばあちゃんのその後が知りたい!
    と思わせるところが、三浦しをんワールドな気がする。

  • 「神去なあなあ日常」の続編。
    神去にきて1年がたった勇気が、神去の神話や過去を知り、より神去に溶け込んでいく。
    林業の描写よりも”神去の森と生きるとは”というところで、前作よりも全体的に話が幅広いかも。
    森で足を痛め一晩を過ごすことになること、ヨキや清一さんが経験した身近な人の不条理な死、森の中での死生観、あと直紀さんとの恋愛模様も少し発展していく。
    最後はまさかのクリスマスパーティー。勇気は苦手だった山根のおじさんたちとも仲良くなり、前向きに神去の世界に入っていく。

    これはこれでスラスラ読めるけど、前作で特筆すべきだった、「森で木に向き合う男のかっこよさ」はちょっと薄れて、「森で生きる人たちの、静かでストイックな覚悟」という目線になっているかも。
    実際に林業に対しても、そっちの方がより正しい認識なのかもしれないけど。
    相変わらず若者が全然いなく、衰えていく集落への救いもあまりない。数十年後は勇気が山太を支え、中村林業は発展するんだろうか。
    神去は、日本の林業はどうなるんだろうか?がんばれ勇気・・・という思いに。
    しかしこの作品と映画がもとに, 林業へ従事する若者が増えているという記事もあり、それはすごい。。
    今や都会で生きると身近ではなくなってしまった林業の世界、少し覗き見るには良い作品です。

  • 前作「神去なあなあ日常」に続作になるため、続けて読んでみたのだが、「やあ、みんな。ひさしぶり!」の調子で始まったのには、正直に言うと拍子抜けした。
    確かに前作においても、全体の軽さは否めなかったし、締めくくりで勇気の記録とはっきり書かれていた。
    当然、この作品も勇気の記録ということで続けられることは予想していたが、前作と少し雰囲気が変わっていると感じたのは、気のせいだろうか。誰にも見せないと書いておきながら、明らかに読者を意識している文体となっているのが、可笑しい。
     
    今回は、タイトルに「夜話」がついている。それは勇気が記録を夜中にこっそりと記しているからであると、理解している。だから第一章ではなく第一夜、第二夜と進んでいく。やはり作者が女性であるため細やかな演出だなぁと感心してしまう。
     
    第一夜にて神去村の起源を繁ばあちゃんが語る。「大昔、このあたりは大きな池で、神去山の半分くらいまで、水に沈んでいた。冷夏の後、飢饉で人がたくさん死んだ年があって、春まで生き残った人びとは『池の神さん』である蛇神に訴えた。蛇神は、族長の美しい娘を妻にできるのなら、お前たちの願いを聞いてやると答えた。」と話が続いていく。まさに日本昔話で聞いたような説明だなぁと思っていたところ、巻末解説で「古事記」に『三輪の神』と呼ばれている挿話があると記載されており、前作「なあなあ日常」から持っていた感覚は誰しも感じることであったかと、そして、作者がそれを狙っていたことも確信が持てた。
     
    また、第四夜においては、勇気は苦手な山根のおっちゃんに神去村の大惨事について尋ねる。「二十年前も、大峰講のメンバーが村から奈良へ向かった。マイクロバスを借りてな。そして・・・帰りしに事故に遭ったんや。奥深い山道で、飛び出てきた鹿でも避けようとしたんかいのう。バスは谷底に転落し、乗っていたもんはみんな亡うなった。村のもんが十六人。それから、運転手。清一の両親もヨキの両親も・・・・」
    この時、ヨキは小学生、清一は高校生だった。「お袋のことは、指を見ただけでわかった。親父は腹のあたりで確信を持てた。ほんまに親しいひとのことは、そんな些細なところも、よう覚えとるもや。」と言った時の当時のヨキ少年の空の心情を考えると、この虚しさと悲しみが、今の豪快なヨキを作ったのだろうと思えてならない。幼き少年にとって、強くなることが生き抜いていくことだと思ったのではないだろうか。記憶はだんだん薄れていくものであるが、「いまもたまに夢を見る」と呟くヨキが、本当のヨキのような気がした。

    また、村の同年齢で生き残ったのは、ヨキの妻であるみきの両親、腹痛を起こしていけなかった巌さん、そして山根のおっちゃん。
    この人たちの心情はいかようなものであったのだろうか。閉鎖された村の中で生きていくのに、ヨキや清一たちとは違う辛い思いで、時を過ごしたのだろう。
     
    私の神去村の「なあなあ精神」の解釈は、「神の自然の力には、あらがえない。であれば、自然、神と共存していこうという精神。それは、今までに自然が絡む沢山の苦しみを経験した結果、この精神にたどり着いた」である。

    山太のクリスマスパーティーや勇気と直紀の恋の行方など、人とのつながりについての描写もかなり面白く、声を上げて応援したり、ほっとしたりと、やっぱり前作同様ほのぼのした気持ちで読み終えることができた。

  • 「~日常」の補足といった内容なので、スッと入れてサラッと読める。
    「~日常」だけで「~夜話」は読まなくても良いし、「~夜話」をふまえて「~日常」を読み直すのも良いかも。

  • 映画『WOOD JOB』の原作である三浦しおんさんの『神去なあなあ日常』の続編。
     
    親と先生に仕組まれ、林業の世界に放り込まれた主人公『平野勇気』。
    勇気が下宿先のヨキの家の一室で、こそこそと一人パソコンに向かって綴った日記風に書かれた文章が前作にも増しておもしろいことになってます。
     
    神去村に伝わる不思議な昔話、ヨキや清一さんたちの親世代の人たちがなぜいないのか、そして勇気と直紀さんの恋の行方は・・・?
     
    『神去なあなあ日常』を読んだ人には絶対に読んでほしい一冊。
    ますます三浦しおんファンになっちゃいました。

  • 『神去なあなあ日常』のファン向けブックという感じで、林業中心の『日常』より、『夜話』のほうが、登場人物の日常を中心に描いていた(ややこしい)。

    『日常』が好きだったので、「こういう意味だったのか」「こんなことがあったのか」など、解説されていなかった部分が丁寧に解説されていて、物語を深く楽しめる。

    わたしはやっぱりヨキとみきの夫婦が好き。特にみきの嫉妬深さにわたしを重ねてしまう。作中で、みきの性格を情熱的で明るい人と解説した一文があって、なんだか救われた気がした。いや、嫉妬深いのはいいことではないけれど、それがピタリとハマるカップルもいるのだなと思った。

  • 20歳になった主人公の勇気。神去村の伝説、昔の出来事、村人たちとの日常、恋の行方など、前作の後日談的なお話。
    登場人物がみんな魅力的でいい。悪い人がいないので安心して読める。笑えるところあり、ちょっとしんみりするところあり、最後は「勇気、大人になったな……!」と感慨深い。

  • 女子大生にも林業のことがわかる文章。山村の民俗文化、暮らしを、今様の語りにするとこうなるんだなと納得しました。

    私は岐阜県で四半世紀にわたり開催されている「木匠塾」の創成期の学生でしたので、非常に親近感を持って読みました。

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著者プロフィール

1976年、東京生まれ。2000年、書き下ろし長編小説『格闘する者に○』でデビュー。2006年、『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を受賞。2012年、『舟を編む』で本屋大賞を受賞。2015年、『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。ほかの小説に『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』など、エッセイに『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『ふむふむ おしえて、お仕事! 』『本屋さんで待ちあわせ』など、多数の著書がある。

「2020年 『文庫 ぐるぐる♡博物館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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