鯖 (徳間文庫)

  • 徳間書店 (2020年7月9日発売)
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  • 本 ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198945718

作品紹介・あらすじ

発表時62歳、住所不定、無職。
文学界を席巻する小説家の原点が待望の文庫化!

五臓六腑を抉る、超弩級のハードノワール誕生! 平成最後に突如現れた、荒ぶる才能に瞠目せよ。(宣伝担当)

紀州雑賀崎を発祥の地とする一本釣り漁師船団。かつては「海の雑賀衆」との勇名を轟かせた彼らも、時代の波に呑まれ、終の棲家と定めたのは日本海に浮かぶ孤島だった。日銭を稼ぎ、場末の居酒屋で管を巻く、そんな彼らに舞い込んだ起死回生の儲け話。しかしそれは崩壊への序曲にすぎなかった――。破竹の勢いで文芸界を席巻する赤松利市の長篇デビュー作であり、第32回山本周五郎賞候補作が文庫化。(解説・吉村萬壱)

第一章 覚醒
第二章 始動
第三章 脱皮
第四章 白光

感想・レビュー・書評

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  • 赤松利市『鯖』徳間文庫。

    赤松利市の作品は『藻屑蟹』に続き、2作目。何とも恐ろしいノワール小説。やはり、面白い。

    冒頭の得体の知れない薄汚れた漁業団『雑賀衆』の描写に一体どんな展開になるのか興味深く、読み始めた。この物語は成功を描いているのかと、一瞬微かな光が見えたのだが、物語はどんどん有らぬ方向に向かい、最後には世界の全てが焼き尽くされたかのような真っ暗闇のどん底の絶望が待ち構えていた。

    時代の波にあがらい、頑なに一本釣りを続ける『海の雑賀衆』。65歳の船頭・大鋸権座を筆頭に、66歳の加羅門寅吉、56歳の鴉森留蔵、55歳の狗巻南風次と高齢者に加え、35歳の水軒新一の5人が終の棲家に決めた日本海の孤島を中心に細々と漁を続けていた。ある時、魚の卸先の割烹の女将から美味い儲け話を持ち掛けられる……

    一癖二癖もある『海の雑賀衆』の5人のさらに上を行く腹黒い女狐、割烹恵の女将・枝垂恵子に、何やら裏が有りそうなカナダと中国の美人ハーフのアンジェラ・リンと役者に不足は無い。

    本体価格770円
    ★★★★★

  • 著者の第一長編だが、これまで何となく読み逃していたもの。赤松作品では『藻屑蟹』『らんちう』と同系列のクライムノベルだ。

    先の読めない展開が続き、とても面白かった。いま何かと話題の紀州雑賀崎の漁師たちの物語でもある。
    漁や魚をめぐる描写の、ディテールの濃密さがすごい。

    ストーリーにもキャラにも、音楽で言えば「変拍子」的なヒネリが加えられている。
    通俗エンタメ・娯楽アクションに、なりそうでならない――そこがこの著者らしい。

    ここにはヒーローもヒロインもおらず、善悪の単純な立て分けもない。

  • なぜか突然、この本の旬は1月なのではという気が強くして、読み始めた。『藻屑蟹』を読んでから3年と10ヶ月、ずっと読むタイミングを計っていたこの本、ようやく読めた。

    いやぁ、なんか……かなりヤバいものを読んでしまった。この本にはR指定(と今は言わないのかな)が必要では。でも読書の醍醐味である、貴重な擬似体験をさせてもらった。そういう意味では、ものすごくおもしろかった。

    始めは、世間への憤りを抱えた主人公にハッとさせられながらも、これはコメディなのかと思うほどコミカルな表現に何度も吹き出していたのだが、読み進めるうちにだんだん笑えなくなってきて、後戻りできなくなっていく状況に恐怖を感じるようになっていった。うっかり立入禁止区域に入り込んでしまったような、焦りと不安で逃げ出したくなる。人間の愚かさを見せつけられて、哀しくなった。この容赦のなさ、さすが赤松さん。

    ちなみに、この本の旬は1月、は正解だったと思っております。

    最後にひとつ訂正を。『藻屑蟹』の感想にデビュー作だと書きましたが、赤松利市さんのデビュー作は、正確には本作です。『藻屑蟹』で新人賞を受賞し、『鯖』で単行本デビューを果たしたとのこと。まぁいずれにしても驚きのデビュー作ではありますけどね。

  • 先に読んだボダ子があまりにも衝撃的だったので期待大でした。これまた一気に読みました。赤松さんの話の中には幸せな人はいないのか。

  • 第三章からの怒涛の展開に一気読みでした!

  • 誰しも心当たりがある、人間の心の裡に潜む汚さや黒さや醜さを抽出して娯楽性を兼ね備えた文学に昇華させている、という点において、作風は違えど西村賢太氏の著作にも通じるものを感じた。
    なんだかんだありながらも結局は乗り切って収まるんかなもしかしたら…と思いきや、中盤以降の新一の壊れっぷりがこちらの予測を遥かに上回るペースで加速及び驀進し、一気に奈落の底へ落ちて破滅に至るのかやっぱり。
    逆説的ながら、ある意味で大団円とも言える幕切れに違和感はないが、終盤の畳みかけるような展開は急ぎ過ぎの感が否めず、もっと紙幅を費やして丁寧に描いても良かったのでは…等と僭越ながら思ったり。
    これが長編デビュー作とのことだが、著者のバックボーンあってこその物語か…と得心する、本来小説を味わうのにその情報は不要のはずとは分かりつつ。

    筋半ばではあるが、5人の中国娘たちが歌い寅吉が滂沱と涙するシーンは、崇高さと清浄さにおいてピークを極めた1つのクライマックスだ。

  • 人間の脆さ、残酷さ、欲深さをさらけ出した話。
    能力の無いものは淘汰されるという現実をただ読者に突きつけている。

    しかしその酷さとは裏腹に文章は読み心地が良く、欲望に飲まれていく描写でさえ、そんな人間に対する情を感じる不思議な作品。

    赤松利市作品は初めてだったが、他も読んでみたくなった。

  • 「鯖」を読んだ。
    サバ読んだわけではない。

    「ボダ子」を読んでから、「藻屑蟹」とこちらのどちらか迷って、こちらにした。
    個人的好みでは、「ボダ子」よりこちらの方が好きだ。
    なかなが事件らしい事件は起こらないが、終わりの方で、バタバタと連続して殺人が行われ、ラストは悲惨な結末になる。
    勧善懲悪でもないし、ピカレスクとも違う。
    「ボダ子」には、私小説のようなテイストがあったが、「鯖」には無い。
    とりあえず、物語は水軒新一を語り手に進むのだが、そこにも落とし穴がある。
    著者の漁業に対する知識は、相当なものだと思った。

  • これぞ赤松利市。気持ち悪い感が気持ちイイ!

  • なかなかの胸糞な結末が待っているが、まあ因果応報感も否めないので、納得できる。終始陰鬱な感じだが、引き込まれて読み切った。魚の匂いやアンモニア臭まで感じられる本だった。

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著者プロフィール

赤松利市
一九五六年、香川県生まれ。二〇一八年、「藻屑蟹」で第一回大藪春彦新人賞を受賞しデビュー。二〇年、『犬』で第二十二回大藪春彦賞を受賞。他の著書に『鯖』『らんちう』『ボダ子』『饗宴』『エレジー』『東京棄民』など、エッセイに『下級国民A』がある。

「2023年 『アウターライズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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