麻倉玲一は信頼できない語り手 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198946395

作品紹介・あらすじ

死刑が廃止されてから28年後。日本に生存する最後の死刑囚・麻倉は、無人島だった離島に設けられた民間経営の刑務所内の特別拘置所で、刑を執行されることなく過ごしていた。

フリーライターの熊沢は、彼に関する本を執筆するため、麻倉本人からの指名を得て取材に向かう。

インタビューするうちに、麻倉が犯した数々の殺人事件に対して「彼らには死すべき理由があった。僕は審判なんだよ。人の命をジャッジする」とうそぶく本人の態度に、熊沢は激しい嫌悪感を抱く。

さらに驚いたことには、離島には麻倉に殺害された被害者の関係者が存在していた。また、離島にまつわる不気味な言い伝えを聞かされた熊沢は、この仕事の先にライターとしての成功を夢見ていた最初の気持ちが大きくぐらつくのを感じ始める。

そしてついに恐ろしい事件が起きた……。
読者の予想を覆す奇想ミステリーの問題作!

感想・レビュー・書評

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  • 日本で死刑が廃止されてから二十八年。日本に生存する最後の死刑囚・麻倉玲一は、離島の特別拘置所に収容されていた。
    フリーライターの熊沢は、麻倉の取材のために拘置所があるその島・木菟啼島へ向かう。
    「自分は人の命をジャッジする」と嘯く麻倉に嫌悪感を抱きながらも、熊沢は彼の犯した殺人の詳細を聞くこととなるが……。


    タイトル通り、「信頼できない語り手」ものかつ、孤島で起こる事件を描いたクローズドサークルミステリー。
    日本最後の死刑囚の告白という魅力的なテーマで、作中で語られる麻倉の犯した殺人事件も理解が出来ない人間の話を聞いているようでなかなか楽しいです。私は最初の事件が不条理で好きでした。
    ラストは予想外に大掛かりな企みが隠されていて、きちんと騙されはしたのですが、ちょっと唐突なので納得度が高いかというと微妙かもしれません。

    個人的には、ちょっとだけですが孤島が舞台の衝撃のラスト! な某映画を連想しました。

  • 28年前に死刑が廃止された日本での最後の死刑囚·麻倉玲一。長らく海外にいたため彼の経歴に対する知識を持たないという理由でライターの熊沢克也は彼の告白本の執筆者に指名され、取材のため収監されている離島の拘置所に。紳士然とした麻倉が過去の殺人を淡々と語る姿に熊沢は嫌悪感を増大させていく…。各殺人の語りに仕掛けがあるのでそれが後から効いてくるのかと思っていたら中盤から性急な展開に。呆気にとられていたら凄い力技で畳んできた。きちんと設計されているので破綻は少ないんだけどなんじゃこれ感がどうしても残る。タイトルから構えてしまったせいか。レクター博士な魅力を持つ麻倉に対しての熊沢が魅力に欠けまくるからか。

  • 麻倉が語った殺人の経緯は読んでて面白かった。
    けれど、ラストへの展開はいささか急展開つーか、目的に対して行動が壮大過ぎるし、偶然に頼りすぎっていうか...
    バカミス系はイケるクチなので、嫌いじゃないけどね。
    けどそれならもっとはっちゃけて欲しかったかなー。

  •  何が起こっているのか、どういうシチュエーションなのか、冒頭に説明がなく、少しずつ明らかにしていくタイプの作品。視点人物である熊沢克也の目から、事実が少しずつ明かされる。
     熊沢は、木菟鳴島という島で、終身刑務所を訪れる。死刑が廃止された後、完全なる終身刑の受刑者を受け入れるために作られた民間経営の刑務所。その刑務所にいる、最後の死刑囚、朝倉玲一に、海外でずっと生活をしていて、朝倉のことを知ららいライターである熊沢が取材をする…という設定
     熊沢は、裕福で、自分を蔑む父を見返すために、この仕事を受けた。
     朝倉が過去の殺人の告白をするという展開。最初は、鶴田瑞枝という教師。これは、父が殺人者であると、登場人物である鶴田と読者に誤解させる物語。サスペンスと見せかけて、被害者である生徒の兄が犯人だったという意外な犯人で終わるという、それなりによくできた、どこかで見たことがあるような短編小説となっている。
     次は、朝倉が、木菟鳴島の地主である長富庄一郎の両親を殺害した話。これは、中学校の教師をしていた企業の次男長富昌孝が、長男の急死により、家業を継ぐことになる。妻となる人物だけは、昌孝の母の指示に従わず、中学校時代の同僚教師を選ぶ。しかし、その妻、長富優美は不倫をしていた。優美の不倫相手の妻が雇った探偵は、優美が昌孝を毒殺しようとしていることを知り、金に変えるために昌孝に報告。最後は、昌孝が優美にその事実を伝え、双方が双方を殺害しようとするところ、通り魔的な人物に撲殺されるというオチ。トリックらしいトリックはなく、筋書きの意外性がある「世にも奇妙な物語」系の短編
     第三章では、長谷部奈緒に焦点が当たり、長谷部の兄が麻倉に殺害されたという話がされる。長谷部の兄、長谷部岳志は、麻倉に「あなたの名字に「麻」の字が入っているから麻の服が好きなのか。」というくだらない質問をしたから、麻倉に殺害された…として、囚人であるB354の死をめぐるやり取りが語られる。
     B354は、幼稚園で園児5人を惨殺。麻倉は、心臓に病があったB354に、矛盾を突き付けて、「ことば」でB354を殺害。さらには、長谷部岳志も、妹、奈緒へのコンプレックスを突いて、自身を襲わせて、麻倉を閉じ込めるために仕掛けられているレーザービームを受けて死んだという話
     この話の後、長谷部奈緒は、民間刑務所の看守から異動することになる。奈緒は異動前に、麻倉の殺害を決意。麻倉、奈緒、熊沢をめぐるトラブル。麻倉を殺害しようとした奈緒は麻倉につかまり、熊沢は麻倉を刺す。このシーンは映像として残っており、後で利用される。
     その後、最後の死刑囚である麻倉の死刑が執行される話。死刑を執行されたはずの麻倉はよみがえり、関係さを殺害していくという姿が描かれ‥その日の3日後、熊沢は自分の部屋で目が覚める。
     熊沢の父であり、企業の社長である熊沢仁史がコカインの横流しの罪で逮捕される。熊沢は、麻倉のこと、最後の死刑囚のことを調べるが、ネットにはそれらの記載はない。最後の死刑囚は10年前に子宮癌で死亡した女性だった。
     麻倉から聞いた話、3つの短編の被害者は、それぞれ、コカインの常習者の手に掛かり、死亡していた。熊沢克也の人生は好転。ドイツにしたときの経験談のエッセイが出版されることになり、イラストレーサーである女性と交際が始まる。そして、熊沢仁史の裁判が始まったときに「麻倉玲一」を名乗る男から連絡があり、種明かしがされる。
     エターナル警備保障や民間刑務所の話は全て嘘。行われていたのは、熊沢克也の誘拐。麻倉玲一と名乗った男は、かつて、熊沢仁史のもとで、コカインの密輸を行っていた。ほかの関係者は、全員、コカイン中毒者のせいで、身内や大切な人物を失った被害者。全ては、熊沢仁史への復讐のために行われていた。熊沢克也が殺人を犯したように見える映像を手に入れ、それをもとに、熊沢仁史を恐喝。金を奪い、証拠を警察に提供して、熊沢仁史の逮捕、勾留、裁判につなげた。
     最後の場面は、イラストレーターの彼女に電話をする。その女は、「いいけど、戻って来られるの?」と発言。島に行ったことを知っている?麻倉は、「せっかく
    掴んだささやかな幸せを逃がさないためにも、手にしたものは大切にするべきだよ。」と発言。彼女のことを知っている?
     麻倉の最後の一言で、全てを疑う。何が真実で、何が作られた事実か。 
     「なるほど。最後まで僕は信頼できない語り手ということか。いいだろう。君にすべて委ねよう。僕の今の話が本当か、嘘か。君が決めればいい。」
     熊沢克也は、彼女に「麻倉のことを知っているのか」と聞きたいが、聞けない。動けない。そんな場面で終わる。
     別のある作品を読んで、この作品のことを思い出した。読んだのは1年程前だが、感想は書いていなかった。民間の刑務所が存在する島で、最後の死刑囚の話を聴き、本にする。その全てが嘘で、実は、資産家であり、コカインの密輸をしていた熊沢仁史という男に対する復讐のため、その子どもである視点人物=熊沢克也を誘拐していた。この「実は誘拐でした。」という点が大きなトリックになっている作品
     この実は誘拐だったというオチにひねりを加え、金を出させるために、克也が殺人をしたように見える映像を入手する。その映像の入手のために、大がかりな仕掛けを用意したという設定
     最後の死刑囚、「麻倉玲一」という存在。その存在を成立させるため、ずっと外国にいたという熊沢克也を利用。むしろ、熊沢克也がずっと外国にいたからこそ、その状況を利用して、麻倉玲一の話を構築し、誰かを殺害するエピソードを作るために、大がかりな仕掛けをしたという設定になっている。
     全体を通じてみると、一貫性がない。3つの短編と、全体を通じた仕掛けがあるが、取って付けた感じがする。これは、メフィストという雑誌で連載されていたことが原因かもしれない。1つの作品とまでは仕上げられなかった独立した3つの短編を、この作品のために使ったという印象でもある。
     3つの短編のデキは、そこまで悪くはない。ただ、最後の「実は誘拐でした」というオチにつながる、納得性の高い伏線がない。「実は誘拐でした。」というオチが唐突なものに感じられる。
     最後の死刑囚、麻倉玲一の存在、「信頼できない語り手」の存在も、ラストの部分を含め、投げっぱなしになっている。最後に描かれる、イラストレーターの彼女の存在や、熊沢克也の部屋で目が覚めたという点等、もっと裏がありそうな含みがあるが、これらの点が宙ぶらりんのまま。物語全体の完成度を落としている。
     この作品で初めて「実は誘拐でした」というオチに触れたのであれば、もっと違った感想があったかもしれないが、この系統ではもっと納得度の高い作品がある。いくつかの独立した短編を描き、それに一貫性を持たせるため、たいした伏線もないのに、「実は誘拐でした。」というオチを付けたという印象
     個々の短編のデキや読みやすさという点で、駄作という印象まではないが、納得度がそれほどなく、そこまでの満足感はなかった。 

  • クローズドサークル、凶悪な殺人犯の告白手記、と興味を煽る設定。いささか作り物めいていると思い、違和感を感じつつ読み進む。視点人物があまり魅力的ではないのが残念だが、著者のことだからあえてそうしたのだろう。おかげで、ラストもあまり同情しないですむ。

  • そこまでするか。後で教えてくれるなんて親切だこと。

  • 死刑制度が廃止されたため最後の死刑囚となった麻倉と彼の自伝を書くため雇われたライターの話。もう正しくタイトル通り、何ならあれもこれも信頼できなくなる。麻倉の掌の上で踊らされてた。

  • 読みやすかったので即日一気読み。
    とんでも系ではあるけど、主人公視点で考えるとめちゃくちゃ後味が怖い話。人間不審になっちゃうよ…

  • カバーと同サイズの帯のインパクトで購入
    「このラストは革命的」「騙された」「徳間文庫大賞2022受賞」といういかにもな煽り文句、嫌いじゃないよ

    読んだ結果、どこか既視感が……
    ・登場人物がみんなグルで主人公をだましていました
    最初からそんな感じがしたし、何ならそんな作品読んだ事あるなー(作品名は挙げないけどね)
    ・主人公が気付かないだけで実は誘拐されてました
    これも読んだ事あるなー(と思ったけど、具体名は思い浮かばない、でも読んだ事ある気はする……)
    ・主人公が誰かを刺すシーンを撮影して脅迫に使いたかったからこんな事を仕組みました
    いや確かにこれは読んだことないけどもさ……

    最初に書いた本書帯の裏側には作者の言葉もあって、そこには「あきれながら昂奮して、そして楽しんでいただければ」なんて記載されてるんだけども、うーん、うーん

    ラストのラスト、主人公の彼女すら麻倉の関係者なのか……?みたいに終わるんだけど、これも唐突な感じがしてしまう
    が、これに関しては深く読み込めばちゃんと伏線が仕込まれているような気がしなくもない
    どうなんだろう……

    麻倉玲一が語る作中作部分が一番楽しかったかなー
    第二話の長富夫妻のお話が一番好き

  •  一応きちんと騙された。それは間違いない。最初に、信頼できない語り手だと明かされたことに。
     最後に明かされる「ナゾ」が、これで満足かと言われると、満足はしにくいか。
     頭で作ったような作品に感じる。頭で作ったことを忘れさせてくれるほどは、熱いものは感じないのは仕方ない。
     

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著者プロフィール

1959年名古屋市生まれ。名古屋工業大学電気工学科卒業。81年「星新一ショート・ショートコンテスト」で「帰郷」が優秀作に選ばれる。その後、会社勤めをしながら「ショートショートランド」「IN★POCKET」にショートショートを掲載。1990年、長編ミステリー『僕の殺人』を上梓してデビュー。2022年『麻倉玲一は信頼できない語り手』が徳間文庫大賞2022に選ばれる。

「2022年 『喪を明ける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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