津波の墓標 (徳間文庫カレッジ い 1-1)

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  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784199070273

作品紹介・あらすじ

釜石市の遺体安置所を舞台にした『遺体』。各所で絶賛されたこの作品では描けなかった、小さな物語を集めたノンフィクションです。被災した人々は、肉親の死をどう受け入れているのか。各地の避難所で起こった「幽霊騒動」とは? DNA鑑定が遅遅として進まないのはなぜか? マスコミが報道してこなかった震災の真実を、つぶさに取材してき石井光太氏がすくいとります。震災の果てに希望を見出した著者の、限りなく優しいまなざしが胸に迫ります。

感想・レビュー・書評

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  • 決して忘れられぬ人々
    大雪の中、野ざらしの遺体を一人見守る自衛官
    娘の生死を巡って激しく口論する夫婦
    幽霊が出ると噂のある川原に駆けつける遺族
    娘の遺体に遺品の携帯電話を供えて祈る夫婦
    土葬した遺体を掘り起こして火葬し、供養する僧侶

  • 石井光太のルポルタージュは、常に陰陽の陽の部分よりも、陰の部分にスポットを当て、対象の本質を読者に伝えている。この作品も同様で、東日本大震災直後の被災地の陰の部分を隠すことなく正直に描いている。文章という極めて少ない情報量でテレビの報道などよりも、確実に真実を伝えているように感じる。

    津波により破壊尽くされた街の描写、行方不明の親族、知人を捜す人びと、あまりにも突然の悲劇に取り乱す人びと、被災地での犯罪、被災者の苦悩と戸惑い…

    自分も沿岸部に移住して数年の両親の安否を確かめるために震災の1週間後、可能な限りの食糧や水、生活用品を車に積んで被災地に行った。読んでいて、あの時に見た信じられない被災地の光景が蘇って来た。また、本書に描かれている陰の部分も実際に見聞きした事と重なり、さらに石井光太という作家への信頼が強くなった。

    東日本大震災から四年が過ぎたが、被災地の復興は、まだまだ途上である。さらに復興とその先の未来に向かって進むためにも、本書に描かれる震災の陰の部分は決して忘れてはいけない。

    同名の単行本に加筆・修正、文庫化。

  • テレビなどでは知り得ない当時の生々しい状況や人々の混乱を知ることができた。二度とこんなこと起こってほしくない。

  • 著者の別作品の「遺体」では東日本大震災を、遺体の処理を軸に書かれていたが、この作品では、震災をどう乗り越えたかという話のほかに、復興への失敗談なども読めて貴重だった。
    避難所でのいじめ、暴力、
    被災地での窃盗、
    被災者とボランティアの方々との軋轢、無神経にはしゃぐボランティアの方など。
    今後またどこかで自然災害が起きた時のためには、美談よりも失敗談を集めた方が今後の役にたつと思うので、
    被災者、ボランティア、野次馬等のもっとトラブル事例に特化した本が出版されるといいのに感じた。

  • 出来事として誰もが記憶してはいる。
    しかし、テレビや雑誌で見る情報は数字で彩られた表面的なものかもしれない。

    これは個人が全体の概要を知るためのものではなく、個人個人が体験したことをそっと絞り出すように、でも胸を穿つように伝えられる話だ。

  • 今までに読んだ震災関係の本はおよそ“良い話”でしたが、本作は影の部分にもスポットが当てられている、という印象。火事場泥棒や、被災者によるボランティアスタッフへのセクハラなど、読んでいて嫌な気分になるところも多々。また、凄惨な現場の描写も読むのがとても辛い。

    けれど、どれも目を背けてはいけない現実なんでしょうね。

    そうした点で必読感はあるものの、本作の非常に残念な点は、報道する側の人間は時として被災者の意向に反して傷ついた現場の状況を写真に納めたりレポートしなくてはならないことを、「もっと酷いことをしてる(一般の)人がいる」と言い訳していたこと。

    そこは罪悪感を持ちつつも、言い訳すること無く使命感を優先させて断行して欲しいところ。言い訳するくらいなら、そんな仕事止めちまえと思っちゃうわけで。

  • 東日本大震災被災地のルポ『遺体』の著者が、書ききれなかった部分を本書に記したものです。

    報道されていない「負」の部分が分かります。
    きれいごとでは片づけられない人間の感情がひしひしと伝わります。
    痛いです。

  • free journalist・石井氏がtsunami・hit area (not nuclear disaster)を取材してまわった手記である.
    ”とても悲しいこと”や,”とても美しいこと”, とても”これでいいのか!”etc.のみを伝えるNHKの大越さん的なレポートの対極みたいなもの.
    ”こういう状況になったら,たぶん自分もこうなるよね”というものが多い.→for example, 被災地では食糧に困ったordinary peopleが,コンビニとかに入って必要なものを(まあ)盗ったと.あと,肉親を失った人たちが妙に躁になったり.ふだんから不仲だった嫁しゅうとめで,今回のどたん場でどうも嫁さんが義母を見殺しにしたんじゃあないか?という話. そうかとおもうとボランティアが壊れた家のまえで笑顔で記念写真とって被災者の怒りにふれるとか,ぎゃくに被災者のおっさんがボランティアのお姉さんにセクハラしましたとか.
    かっこいい自衛隊員に,めんたまハートマークになってしまった若い女性→”何なんだよ,いい気になんな,すぐに引き揚げるくせに!”と怒る男性住民,等々. ――まあそれぞれ,ふつうの人間・ジャパニーズピープルのリアクションでしょう.
    ところで被災者のすがたをあらゆる場面で容赦なく撮り続けるマスコミ諸君! 君たちにもやはり良心や葛藤はあったのだな.意外だったぞ! (見直したぞ,というとこまでは行きませんでしたが)

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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