カイト パレスチナの風に希望をのせて

  • あかね書房 (2011年6月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (96ページ) / ISBN・EAN: 9784251073020

感想・レビュー・書評

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  •  パレスチナにドキュメンタリー映画を撮りにきた記者マックス。そこで、一心に凧(カイト)を作っている羊飼いの少年サイードと出会い、友達になる。サイードは2年前に兄といた時に起こった事件以来しゃべることができなくなった。その事件とは…

     パレスチナにあるユダヤ国家のイスラエルと、パレスチナ人の自治地区であるガザ地区およびヨルダン川西岸地区の境には分離壁が建設されている。

     その壁の向こう側とこちら側では、お互いに家族を殺された、捕らえられたなど、憎しみを抱えた人がいがみ合っている。

     壁のこちら側、パレスチナ自治地区に住む8歳のサイードのお父さんはイスラエルの収容所に拘束されている。

    サイードの言葉
    「占領軍がひとりのこらず悪いってわけじゃなくて、おれたちのほうと同じだとしたら、両方の側のいい人間が集まって、問題を解決すればすむって話だろ?そしたら兵士はみんな国に帰れるし、とうさんは収容所から解放されて、俺たちのいる家に帰ってくる、そしてまた全てうまくいくようになるじゃないか」

    この言葉に、日々辛い思いをしていて、何とかしてささやかな平和を取り戻したい子供が一生懸命に考えた様子が表れていて心に突き刺さりました。子供だってこれくらいのことがわかるのに、どうして大人はそれができないんだろう?争いを起こし、しつこく続けようとしているのは、大抵その国の一部の悪い人たちなのに…

     サイードは毎日カイトを作り、そこにサラーム(平和)と書いて空高く飛ばして、わざと手を離し、壁の向こう側にカイトを落とす。その行為を続けた結果、ある奇跡が起こります。

     ちょっとやそっとの事では争いはおさまらないのが現実ではあるけれど、希望を真摯にまた続け、変化をもたらす、その道標となるものをサイード達が教えてくれました。

  • ヨルダン川西岸…パレスチナとイスラエルの紛争真っ只中の地区。争いが続いていることは知っていたが、その地域で何が起こり、対立するアラブ人やユダヤ人達が何を思っているか…よく知らなかった。
    映画を作るためパレスチナにやってきたイギリス人のマックスは、羊飼いの少年サイードと出会い交流を深める。
    マックス視点、サイード視点から交互に語られる現在と過去。客観的に、時に主観的に語られるパレスチナとイスラエル、そしてサイードの心の内。ぼやけていた輪郭を少しずつくっきりとさせていく手法が巧い。徐々に、サイードが二年前の事件で受けた深い心の傷が露わになり、その悲しさと酷い現実に言葉も出ない。それでも、健気にカイトを作り、「壁」の向こうへ飛ばすのだ。
    長い間続くパレスチナとイスラエルの抗争、簡単に解決することはできないことはわかっているが、それでもその紛争に巻き込まれて悲しく苦しい思いをしている子供がたくさんいるという事実にうなだれてしまう。いつもモーパーゴの作品は、シビアな事実を目の前に突き付けてくる。それでいて、希望を見せてくれることも忘れてはいない。クライマックスのシーンは胸がいっぱいになった。
    「サラーム」→「シャローム」。子どもたちが壁を越えて平和のメッセージを送り合う。世の中から争いは簡単には消えないかもしれないけれど…それでも、信じ合い、理解しようと少しずつ歩み寄っていくことができれば…と願ってやまない。

  • ヨルダン川西岸の敵と味方を隔てる高い壁。パレスチナとイスラエルの対立が続く紛争地域に、壁の両側からの映像取材のため訪れた英国人記者マックス。 壁を見下ろせる丘の上で、カイト(凧)を巧みに操る羊飼いの少年サイ-ド。 この二人の出会いに始まる家族や兄弟の悲しみをとおして、平和への夢を切々と訴えかける、児童文学作家<マイケル・モ-パ-ゴ>の心ゆさぶられる文学作品。

  • 「銃弾がどんなことをするのか、みんながわかれば、もう誰も撃たないようにすると思うんだ。」
    大好きな兄を兵士に撃たれて亡くした、パレスチナの少年サイードが、亡き兄に語りかける。撃った兵士も、相手が少年だったことに気付き涙していた。
    紛争も戦争も多くの人を苦しめるだけなのに、なくならず憎しみを再生産する。カイトを上げるサイードは、壁の向こうに平和を願う想いを送り続ける。
    簡単に読めるボリュームだけど、心に残った悲しさも希望も大きい。

  • 訪れたパレスチナの地で、記者のマックスはカイトを飛ばしている羊飼いの少年サイードと出会う。サイードは壁の向こうにいる少女にカイトを飛ばしていた。サイードは兄を殺されて話せなくなっていたが、兄が殺されたそもそものきっかけは、その少女であった。

    誰が被害者で誰が加害者か、ぐちゃぐちゃでわからなくなっている地域で、誰もが願うひとつの夢。それを語る子どもたちと、語れないおとなたち。

    深すぎる溝を、どうしたら埋めることができるのか。
    模索のヒントになりますように、と祈りがこめられている本でした。

  • パレスチナの小さな村でカイトを揚げている少年サイードに出会ったイギリス人の映像記者マックス。口をきけないサイードと友だちになり、二人でカイトを揚げた。サイードはそのカイトを、壁の向こうのイスラエル人の入植地に飛ばしてしまう。すると壁の向こうで車椅子の少女がそのカイトを拾う。

  • この本でガザ地区ではオリーブが栽培されていることやこの地でもカイトをあげることの楽しさを感じる人たちがいることを知った。ブックトークに使いたい

  • 美しいお話でした。パレスチナの少年サイードの平和を信じる純粋な優しい心に胸を打たれます。アニメ映画化して欲しい。パレスチナでは今もイスラエルからの無差別攻撃に苦しみ命を奪われた人々がたくさんいます。今すぐ虐殺をやめて!カイトを自由に飛ばせるようになってほしい。

  • 物語の舞台はパレスチナ。
    主人公サイードの兄は、兵士に撃たれ命を失った。
    それからサイードは言葉を失う。

    サイードは兄に教わった方法で凧を作り続ける。
    彼の凧には『サラーム』と書いてある。
    東風が吹いたときにサイードは凧を上げる。
    そして、つないでいる糸を解いて、凧を高い壁の向こうへ放つ。
    その凧はイスラエル側の子どもの手に渡る。

    彼は、平和を願い、パレスチナ側からイスラエル側へ、高い壁を超えて凧をとばしているのだ。

    やがて、高い壁の向こうからも凧が飛んでくるようになる。
    飛んできた凧には『シャローム』と書かれている。

    『サラーム』も『シャローム』も平和を意味する言葉。
    サイードの凧が、双方の平和の交流に発展につながっていく、という物語。

    僕は、国際協力に興味がある。
    パレスチナ、アフガニスタン、ソマリア、リビア、チベット、ハイチ...
    色々な国のことがわかってくると、それが つらさを引き受けること
    であることがわかってきた。
    「日本に生きる者としての責任」が、自分たちにあることも感じられるようになってきた。

    僕は「他者の立場を考えることは、その責任を果たす行為の一つ」だと考えている。

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著者プロフィール

1943年英国ハートフォードシャー生まれ。ウィットブレッド賞、スマーティーズ賞、チルドレンズ・ブック賞など、数々の賞を受賞。作品に『ゾウと旅した戦争の冬』『シャングリラをあとにして』『ミミとまいごの赤ちゃんドラゴン』『図書館にいたユニコーン』(以上、徳間書店)、『戦火の馬』『走れ、風のように』(ともに評論社)他多数。

「2023年 『西の果ての白馬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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