七色いんこ (1) (秋田文庫 1-57)

著者 :
  • 秋田書店
3.76
  • (98)
  • (63)
  • (161)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 682
感想 : 79
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784253173377

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • どうしてこの作品がアニメ化されないのか意味不明。
    手塚治虫作品の中でワースト3入りするくらいお気に入りです。
    良い話が沢山あります。
    役者と泥棒と推理のキーワードが好きならきっと大好きになる

  • 防災を考えて家のもろもろを
    片付けることになったんですが、
    しまいこんでいた七色いんこが出てきて、
    やたら面白いのです。

    今時無電源でこれだけ楽しめる
    コンテンツはないですよ…
    最近震災の時の避難所が移転とか
    高速道路とかに変更になってますが
    避難所に漫画とか本とか
    置いておいてくれたらすごいいいな…

    私はブラックジャクびいきだったんですが、
    改めて読むと面白いです。
    これはどうかなあって回もありますが
    そういうのは大抵試験的な試みがあって、
    何か新しい面白さを追求する
    その気持ちが伝わってくるので素晴らしいのです…

    チェーホフの桜の園を題材にした回で
    女優の素質のある女の子の
    話が出てくるのですが、
    場面の描き方とかコマ割りで
    これは名演技、と思わせる演出が私は好きです。

  • 1981年に連載のスタートした、手塚治虫のかなり後期の作品。既存の演劇の脚本に題材をとって、役者の皮をかぶった泥棒が盗んだり人生訓を与えたりする活劇。元ネタがすでにありますので、大体が皮肉の利いた話に仕上がっており、後味がスッキリ、とは必ずしも言いがたいものの、基本的には自分の意志で生きること、不正はしないこと、お茶目ないたずらは許されてよいこと、それから、芸術に対しては狂気に踏み込んでもかまわないほどに入れ込むべきこと、こういうことが一貫して語られている1巻です。その人に対する態度や悪巧みに対するとらえ方などから、そこはかとなく昭和の香りが漂ってくるのですが、ただやはり、夢と柔軟性あふれる、本気で生きるモラリストの作品であると思いながら読むと、腑に落ちる作品でしょう。太くためらいのないタッチで描かれたコミカルな絵柄もかわいい。

    ●1話「ハムレット」
    麻薬の密輸でFBIに捕まり、日本へ帰国できなくなったスター俳優の代役として、代役専門の独学の役者・七色いんこがハムレットを演ずるエピソード。
    七色いんこが何者であるか、そしてこれからさき登場するメインキャラクターである千里刑事のお披露目の物語でもあります。
    1話にしていんこが財界の大物を父に持つ人物であり、その父がいかにして下々のものを食い物にして私腹を肥やしてきたか、それに憤って家を飛び出し、同じような私腹を肥やす冷酷非道な人間たちから金を巻き上げるために、趣味の演劇で代役をこなし、舞台の観客として現れたそれらの人物から知らぬ間にこっそり宝飾品などをいただいてしまう、いんこがそういう義賊的な人物であることがすっかり描写されてしまいます。正体を引っ張る近ごろの作風に慣れてしまっているばっかりに、あっこんなに早い段階で全部バラしちゃっていいんだ……とびっくりしてしまったのですが、まあしかしそれ以後に続くエピソードでも、いんこは徹底して弱者の味方、夢を追う人々の見方であり続けますので、汚れたイメージは払拭しておいたほうがよかったのかもしれません。
    ハムレットの題材をなぞる形で、いんこの人生の一端が描かれますが、これ以後は、誰かの人生にいんこが介入するエピソードが続きますから、この1話でいんこが主人公の話は終わり、あとはいんこがむしろ作品全体を俯瞰するとストーリーテラーの役割、作中の役割で見るとトリックスターの役割を果たしていきます。
    ところで、いんこは本質的には優しい夢追い人の、しかし表向きはクールな泥棒ですが、対立する直情型の千里刑事が非常にかわいい! 手塚治虫と言えば、ちっちゃいヒロイン(ピノコ)とか戦う中性的なヒロイン(サファイア)の印象がありましたが、本作の千里刑事も例にもれず、ちっちゃくて中性的で戦っています(笑)ちっちゃくなる必然性はとくに感じられず、完全にロリコン趣味的な何かだろう……と思うのですが、千里刑事は親子二代の筋金入りの刑事という設定もあってか、ややハードでセクシー路線。ただし中身は純情だけれど無鉄砲。実際にいたら面倒くさそうな刑事ですが(捜査をかく乱しそうで)、あのあっけらかんとしてがさつでイノシシを絵に描いたようなところは、傍で見ていると非常に癒されそうです。

    ●2話「どん底」
    ゴーリキー原作「どん底」を演じるためには、本物のどん底を知らなければならない。そう思って自らどん底生活に身を投じた若手実力派俳優・楠本功は、すっかりどん底の生活に浸りきり、ならず者の元締め・八百長のもとで当たり屋をして身を立てる、本物のならず者に半ばなりかけていた。一目置く役者が見ないうちに、ちんけな当たり屋へと落ちぶれていた現実とその理由を目の当たりにしたいんこは、功を再び舞台に復帰させるため、自らが功の代役となって、功の代表作「どん底」の代役を務めることにする。
    この話は非常にリアリティがありました。どん底を知らなければならないと、自ら願ってどん底に落ちぶれたものの、環境によって人は左右されてしまうから、水から這い上がる力を失ってしまうところなど、本当に身に覚えがある。功の場合、すすんで劇団を退団したけれど、誰からも望まれる役者だったから、復帰自体は簡単にできたはずなのに、それなのにすっかり環境に慣らされ、どん底に染まりきった功の精神は、復帰の道も何もかもすべて忘れたかのように、「俺はクズだ」と呟きながら、這いあがれるチャンスをみすみす逃すばかりなのですね。
    作中にゴーリキーの原作の引用もありますが、あの切りたくても切れない鎖は、自分の力でいつだって好きに切れるものなのだよ、というのが手塚治虫のメッセージ。
    でもね、やっぱり切れないんですよ、なかなか。虐待された親子関係にも言えることですが。

    ●3話「人形の家」
    この話はちょっと、あまりいただけない。
    イプセン原作「人形の家」は、夫の人形として愛玩され、最後には無残に扱われたヒロイン・ノーラが、そんな夫と決別し、自立していく物語。これをなぞる形で、ノーラ役のノーラが、自らの夫で、舞台の上でも相手役を務めるジミーをまさに人形のように愛玩し、無残にうち捨て、これに耐えかねたジミーが、いんこに自らの代役を頼み、ノーラに一泡吹かせてくれ、という、ここまではいいのです。ここまではいいのですし、よくある夫婦の姿だよなあ、それでも離婚に至れない夫婦のほうが現実には多いけれど、こういうときサクッと離婚したほうがいいのかどうなのか、といろいろ思うくらいなのですが、その後のノーラは、自らの肉体にも愛想を尽かされ、最後には肉体を失ってしまう、というトンデモエピソード付きなのですね。ここがいただけない。
    手塚治虫自体が非情にロマンチストで人への愛にあふれた人物というのはわかるのですが、しかし名誉に囚われる人間だって、足りないものを埋めたくてそうなっているわけです。すでに満たされている人は健全な愛を他人に向けることもできるかもしれない、でもノーラはそうじゃなかったかもしれない。ノーラがどういう人物なのか、どういう経緯でああなったのかがわからないだけに何とも言い難い部分もありますが、あれはちょっと、やりすぎな感があるなあ。ジミーは優しい男なのだから、時間さえかければどうにかなったカップルであるようにも見えるだけに、残念です。
    しかしこれミュージカルで見たい。ジミーの動きはお茶目ですし、ノーラも派手。舞台映えするように思う。

    ●4話「修禅寺物語」
    前半は「修善寺物語」をなぞるシナリオですが、後半は「絵仏師良秀」のようですね。しかし、人間に対する非常に道徳的な愛を重んじる一方、芸術に対しては狂気に一歩踏み込んだような探究心を見せることを善しとする、凄まじく両極端な感性によって描かれています。この芸術に対する本気の狂気じみた探究心の前に簡単に吹き飛んでしまうのが人道主義的な愛というのだから凄まじい。「どん底」では好ましく感じられたこの本気具合を、「人形の家」で残酷に蹴散らしたかと思えば、「修善寺物語」で再びおぞましく持ち上げて見せる。創作をするものとはどういうものか、それをこの一連の作品群で見せているわけですが、親の死に目に会えないのが当たり前のサラリーマンなどよりよほど、生死に肉薄してさえ芸術を優先せざるを得ない、芸術家の理想の姿というのがここでは描かれていまして、すごいとは思うけれどもあまり関心もできないというのが正直なところ。そもそもこの場合、七色いんこがやったことは結果として画家を救いはしたけれど、本質的にはただの盗みに出かけて行ったわけですから、そんな娘の生死を芸術のために差し出していいレベルとは思いづらい。むしろ、現代ではこういうシナリオはどう受け止められるだろうかと実験しているようにさえ感じられた。

    ●5話「ガラスの動物園」
    時事ネタ。1981年に発表された作品なので、お受験戦争や教育ママといった言葉もタイムリーだったでしょう。テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」が主題。過保護で子供をがんじがらめにしてしまう母と、親へ反抗する気力を奪われた少年が主人公。我が子が勉強したがらないので、ついに裏口入学に手を出す母親のありったけの入学資金をいんこがかっさらう話でしたが、これもどうなんだろう。母親と話し合って一緒に劇を見て、ハッピーエンドならよいのですが、物わかりの悪い母親だと、息子は不良の道に走ってしまうかもしれない。当然、積んだはずの裏金はいんこがだまし取っているので、息子は路頭に迷うことになる。息子が道に迷っても、それは自己責任と息子本人は割り切れるかもしれませんが、母親としてはどうだろうなあ。だまし取ったお金を返金していればとくに文句のないシナリオですが、うん……

    ●6話「検察官」
    フィリピンを拠点とするマフィアの依頼で、ファミリーのボスの遺した汚れた遺産を盗みに行く依頼を受けたいんこが、悪を悪で制する話。全作品中もっともスカッとしますし、景観がきれい。ちょっとした映画にできそうですが、映画にするとありきたりかな。

    ●7話「電話」
    抑圧された子供像がよく出てくるのですが、手塚先生の危機意識として、子どもが子供らしくしたいこともさせてもらえない、大人の道具にされてしまっている、そういう時代に対する危機感のようなものがあったのだろうか。しかしいうほど簡単なことでもないように思うのですよね。目が見えなくなったことを受け入れられずもがくあたりは描かれていませんけれども、現実にはそこがいちばんの山場であって、そこをさらっと描いてしまうあたりが1話完結ものの少年漫画なのかな。

    ●8話「アルト=ハイデルベルク」
    悲劇の結末にだって大人の知恵を仕込んでしまえば、最悪の悲劇は回避できる。そういう結末になっていますが、その最悪ではない悲劇の向こうに100%ではないけれど、20%くらいのハッピーの待ち受けている妥協案を見出して、その20%を40%に、40%を60%に、人生を変えていけると強く信じて生きていけるだけのたくましさがないのが若者なのですよね。最悪の悲劇に沈もうとしてしまう(笑)
    劇中で題材にされた「アルト=ハイデルベルク」はそういう物語ではないのですけど、この題材を演じたシャリフ王国王女に寄せて。といっても、この場合、王女には知恵がないまま流されていたら処刑しかなかったので、あてはまらないか。

    ●9話「誤解」
    ホラー映画のようなロケーションとシチュエーション。題材はカミュの「誤解」

  • 普段着のいんこさんが好き。目立つよー。

  • ネタは全く違うのだが、転がし方がブラックジャックと被るところでやや低評価。内容は普通におもしろい。基本、一話完結型で読みよく、ケースに合わせ、色々を演じ分ける主人公に惚れる。手塚作品ではこの他に、スケールの壮大さに触れていただきたい。

  • 試しに全巻買いして読了。
    他の手塚治虫作品と比べると、このシリーズは全体的にどことなく地道な感じてしまった。
    ※ 星の数も含めてあくまで個人的な評価です。

  • 七色いんこ。
    変装術と形態模写で、どんな役者にもなりおおせる代役専門の役者。その本当の姿は、大泥棒七色いんこ。
    いろんな場所で、さまざまな人の代役をしながら、盗みを繰り返してゆく稀代の怪盗。仕事として高価な物品は頂戴するのですが、それよりも彼が関わったことで変化してゆく人間関係が楽しい。
    といって、義賊というわけでもないんだよなぁ。

    1巻で好きな話は「誤解」。
    騙し合い、化かし合いのコンゲーム。いい。

  • 「修善寺物語」「電話」が面白かった。

  • 「#こんなブラック・ジャックはイヤだ」にたまに出てくる怪盗キッドみたいなコイツは誰だ、というところから入って手に取ってみた原作。
    ブラック・ジャックの演劇版+ラブコメ分。ブラック・ジャックにおける手塚テイスト好きな人ならまあ安定して読めるよね、な作品。

    「私は素人」と言いながらプロの興行芝居で史上最高の喝采を浴びる七色いんこ、みたいな手塚漫画あるあるはフィクションだからこその設定だし突っ込もうと思えば色々突っ込めるけど世界観が確立されてるから気づくとエンタメとして見入ってるという(笑

  • (2014-12-06L)

全79件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1928年、大阪府豊中市生まれ。「治虫」というペンネームはオサムシという昆虫の名前からとったもの。本名・治。大阪大学附属医学専門部を卒業後、医学博士号を取得。46年、『マアチャンの日記帳』でデビュー。幅広い分野にわたる人気漫画を量産し、『ブラックジャック』『鉄腕アトム』『リボンの騎士』『火の鳥』『ジャングル大帝』など、国民的人気漫画を生み出してきた。

「2020年 『手塚治虫のマンガの教科書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

手塚治虫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×