冠さんの時計工房(1) (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
- 秋田書店 (2019年10月8日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (157ページ)
- / ISBN・EAN: 9784253253147
感想・レビュー・書評
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大きな出来事はなく、ただ流れていく日常。
そんな日常のお仕事風景を丁寧に描いているところが、この漫画の良さだと思う。
作者の本業は時計屋さんなのかな?って思ってしまうくらい、時計の内部機構やメンテナンス道具の描写が細かい。
背景描写も丁寧で綺麗で、どのコマも情報量が多い!
確かに地味だけど、私は好き。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
雰囲気だけでストーリーがほぼ無い。
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腕時計は、いまやスタイルなのか?
じぶんは、スマホにしてから腕時計しなくなりました。ある程度、お金出さないと、満足感得られない気がする。 -
時に挑まない、これは時と向き合うお仕事です。
時を刻む、時を打つ、後者については『不思議の国のアリス』で●●●●帽子屋も文句をつけていましたね。
けれども時を知らせてくれる時計もまた、同じように時を積み重ねているのだなと知らせてくれるのがこの作品なのかもしれません。
時に。高級な機械式時計は古くは富裕層向け、いざという時に換金するために貴金属と共に並べられていたと聞き及んでいます。
時計が富裕さを示すステータスという価値観が薄れつつあるこの御時勢ではありますが、時計が魔法の道具に似た魅力を放つことは今も昔も変わりはないということで。
街角の時計屋さんは、実際に立ち寄る機会に恵まれずともどこか人の心の片隅に焼き付いた原風景なのかもしれません。
壊れてしまえば手放すしかなく、そうでなければ投げ打たれどこかに行ってしまう。
……そんな時計をなおしてくれるお医者さんと言い換えてしまえば、心なごむようです。
そんなわけでこの話は、少し抜けているけれど、親しみのわく美人のお姉さん「冠綾子」さんを主人公に据え、時計とそれを持ち込む人々、それから隣人たちと向き合う姿を描いていきます。
愛着ある時計、祖父の形見、想い人への贈り物、エトセトラ。
個々のエピソードは劇的というわけではないのですが、次のお客さんが前のお客さんの紹介で、といった具合に、自然と人の縁がつながり感謝の念が伝わっていきます。
その中で機械式時計の構造についてのレクチャーが都度都度入っていったりします。それと。
「時計」と「冠さん」。
ひとつとひとりを際立てるように空白を上手く使いつつ、屋内も屋外も描き込むところはさらりと描き込んで。
結果、どこか秘密のお住まいに似た時計店などの空間がしっかり伝わってくる絵運びが魅力的なのですよ。
ほんのり色気も加わるけれど健康的で、果てしなく健全で日常を邪魔しない雰囲気作りも素敵。
ちょっぴりゆるふわで、けれども仕事には真摯な冠さんは時計を持ち込むお客さんたちにしっかりとした言葉をくれます。
仕事に取り組むお姉さんといえば普遍的な良さを備えたキャラクターであり、冠さんは案内人として正道と言える主人公なのかもしれません。
あとは世話焼きな友人の雪枝さんをはじめ、彼女を取り巻く人々とのセリフ回しも日常に根差しており、自然で素朴な味があって好きです。
はっきり言ってしまえば気負いがなく、必要な説明もしっかりなされているのです。
冠さんの仕事風景は、時計の内部構造についての精緻な書き込みも相まって、祖父、親から受け継がれてきた時(計)に思いを馳せるための入り口には十分と言えるでしょう。
総じて表紙の妙齢のお姉さんで安心感と取っつきやすさと入りやすさを提示してから、何度でも読み返しを保証できるスグレモノなのです。
時計目当て、入り口として知ってみたいという方にもぜひとも一読をおススメしたい作品です。
絵情報と聞き役が用意できて、エピソードとして印象に残る漫画媒体の強さを再発見できた気がします。
元は同人からスタートし、WEB漫画誌「マンガクロス」にて連載されているこの作品。
繰り返すようですが、わずかな噛み合わせの違いから動きを止めてしまう精密機械「機械式時計」の魅力と繊細さ、それに向き合う冠さんの真摯さがとてもよく伝わってくるのです。
もっと言うなら、それら画作りも綿密な取材と資料集めに支えられていることがよくわかります。
本作は言葉にしにくい「空気感」が時に向き合う姿勢から、もっと言うなら「時計」を介して紡がれているので魅力を伝え切ることはなかなか難しいと存じます。
よって一読をおススメします。
同じ地平に立つ地続きの世界観でも、職人芸を目撃してしまえば、違った世界が広がる、それは普遍の事実なのでしょうから。 -
時計店を営む冠 綾子が時計修理を通じて人と人とを繋げてくれる優しい物語。
やわらかな雰囲気のストーリーと時計の精密な描写のバランスが素晴らしく、時間がゆったりと流れているかのような心地いい世界観にいつまでも浸っていたくなった。
冠さんの日常を見守りつつ、機械式時計の美しくも精緻な世界まで垣間見られる素敵な1冊。