透明な人参 莫言珠玉集

  • 朝日出版社 (2013年2月16日発売)
3.70
  • (2)
  • (4)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 44
感想 : 6
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784255006994

作品紹介・あらすじ

中国の魔術的リアリズムの作家、莫言による幻想的な中・短篇小説六作品を厳選。

中国で高校国語の教科書に選定された表題作「透明な人参」ほか、2012年ノーベル文学賞受賞講演を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 生きていると読みたい本というものは星の数ほど湧いてくる。それらをいちいち精読していたらキリがないので、私は洋書を読むのと同じように、わからないところは飛ばしてサクサクと読んでしまうことが多い。特に大衆小説や新書に関してはこの傾向が強く、いつか再読すればいいか、と考えて細かい部分を検討せず次のページに移ってしまうこともちらほら。しかもそれ以降読まなかったり。ただそれ自体が悪いことだとは正直自分では思っていない。本当にその細かな表現や情報が優れていたり有益なものであれば、先のことなど気にせず立ち止まってしまうものだと常々考えているからである。
    莫言の『白檀の刑』を初めて読んだ時は、そんな大事な表現に突き当たって立ち往生してしまうことが多かった。全身全霊でもってこの作家の生み出した言葉の端々を受け止めなければならないという使命感に駆られたのだ。彼の小説には読み手にそうさせるだけの超常的な誘引力がある。こんな時ふと我に返って、ゆっくりと時間をかけて本を読むのも悪くないな、と思ったりもする。

    本著作の表題作『透明な人参』はまさに上述したような「ゆっくりと読む」ことが推奨される作品だ。莫言の実質的な文壇デビュー作となった本作は、蠱惑的な土の香りに彩られた土着的かつ幻想的な世界観、中国古典に登場する英雄達が持ち合わせているような原始的な力強さ、悪徳や陰惨さを多分に含んだ人間の生態、そして後期作品ではほとんど失われてしまった繊細かつ理知的な文体がないまぜとなりつつも、崩壊することなく神技のようなバランス感覚で成り立っている奇跡のような小説である。女の醸し出す野生的ながら淫靡な香りや、黄麻の放つ香りがあたかも目の前に本当に漂っているかのように思わせてしまう文章力には恐ろしさすら感じる。莫言という作家は嗅覚に強く訴えかけるような表現が多いが、心地よい匂いだけを描き出しているわけではない。血の臭いや吐瀉物のような生臭さ、ニンニクのような強い臭気すら、素材をしっかり生かしながらも魅力的なものにしてしまうのだ。

    もちろん『透明な人参』意外の作品も素晴らしい。『花束を抱く女』における七色に輝く色彩表現やマジックリアリズム的描写は見事なものだし、『鉄の子』や『お下げ髪』のような説話的な作品は『山海経』や『聊斎志異』を思い起こさせるもので非常に興味深いものであった。唯一『金髪の赤ちゃん』だけは、まるで借り物の表現を小さな弁当箱に鮨詰めにしたかのように堅苦しく空虚だったが、まあどんな作家にもこういう作品はつきものなのだろう。ゆっくりと時間をかけて楽しむことができて非常に満足である。

  • 「透明の人参」は中国の教科書に採用されていると聞いたが自分にはちょっと難解であった。「お下げの髪」は分かりやすく面白かった。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:923.7||M
    資料ID:95140787

  • おすすめ資料 第205回 (2013.9.27)
     
    ノーベル賞作家、莫言氏の中短篇小説集です。

    主に"文革"や"大躍進"など、現代中国の激動の時代を舞台とした作品集で、現代中国の歴史やメンタリティーを実感できる、正に「珠玉」の作品ばかりです。
    また、冒頭には2012年スウェーデンでのノーベル賞授賞講演も掲載されています。

    「私は一人の物語る人です。」(本書p20)と語る莫言氏の作品と言葉に、どうぞ触れてみてください。

  • 2012年ノーベル文学賞受賞!若い石工と眼が黒菊のように美しい娘は、誰からも見捨てられた少年をかばううちに恋に落ちる…中国で高校国語の教科書に選定された「透明な人参」ほか5作の中短篇及びノーベル文学賞受賞講演を収録。

  • 氏の代表作でもある表題を含んだ短篇集。以前読んだ白檀の刑のような派手でけばいような話は少なく、只々美しい情景と、その中で淡々と繰り広げられる物悲しい人間模様が中心。この表題作は中国では国語の教科書に採用されたらしいが、うーん…?
    個人的にはこの本のどの短編よりも、白檀の刑の方がずっと面白かった。漠然とした予想だけど、小説の内容だけではなく作者の訳し方の差にもかなりの要因があるんじゃないかと個人的には思う。まぁ、感想はどうあれ、中国現代文の一端は感じることができたんじゃないか、と自己完結しておくことにする。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

中国・山東省高密県出身。小学校中退後、1976年に人民解放軍に入隊し、執筆活動を開始。『赤い高粱(コーリャン)』(1987年)が映画化され世界的な注目を集める。「魔術的リアリズム」の手法で中国農村を描く作品が多く、代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『白檀の刑』など。2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。

「2013年 『変』 で使われていた紹介文から引用しています。」

莫言の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×