断片的なものの社会学

著者 :
  • 朝日出版社
4.10
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本棚登録 : 1679
レビュー : 159
  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255008516

作品紹介・あらすじ

路上のギター弾き、夜の仕事、元ヤクザ……
人の語りを聞くということは、ある人生のなかに入っていくということ。
社会学者が実際に出会った「解釈できない出来事」をめぐるエッセイ。

◆「この本は何も教えてはくれない。
  ただ深く豊かに惑うだけだ。
  そしてずっと、黙ってそばにいてくれる。
  小石や犬のように。
  私はこの本を必要としている。」

一生に一度はこういう本を書いてみたいと感じるような書でした。
ランダムに何度でも読み返す本となりそうです。
――星野智幸さん

どんな人でもいろいろな「語り」をその内側に持っていて、
その平凡さや普通さ、その「何事もなさ」に触れるだけで、
胸をかきむしられるような気持ちになる。梅田の繁華街で
すれちがう厖大な数の人びとが、それぞれに「何事もない、普通の」
物語を生きている。
 * * *
小石も、ブログも、犬の死も、すぐに私の解釈や理解をすり抜けてしまう。
それらはただそこにある。[…]社会学者としては失格かもしれないが、
いつかそうした「分析できないもの」ばかりを集めた本を書きたいと思っていた。(本文より)

感想・レビュー・書評

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  • 若干ねちっこい。けどメランコリックな感じが好き。
    社会学者が聞き取り調査をし、結果とか過程とか関係なく意味もなく、ただそこにあった存在していた断片的な物語の数々をまとめたエッセイ。怖さはないし全然違うんだけど「遠野物語」のような空気を感じた。記憶のような、写真のような…。

    「あとがき」が一番心に響いた。「誰にも隠されていないが、誰の目にも触れない」、「土偶と植木鉢」、「笑いと自由」、「普通であることへの意志」が特によかった。本の雰囲気がふわっとあたたかいような気がした。


    堅苦しいようなエッセイで、これはエッセイではなくて一種の語りのような気がしたし、著者の自意識の欠片みたいなものを感じて読みにくいなぁ…とか思いつつも読了。心にしみる内容もあり読み終えて時間が経ってから、自分は内容がある物語よりもあまり意味がなさそうで「だから何?」と思える欠片のような話が好きなんだと改めて気がついた。

    読むか読まないかは別として、この人の(岸さんの)小説(『ビニール傘』)ってどうなんだろう…と、とても気になった。。。他…作品中でも紹介されていたし巻末にも掲載されていた末井昭さんのエッセイ『自殺』も気になる。

  • かなり面白い。
    時間的な余裕で湯船にお湯をはれる日しか読書は出来ないけど、ないよりはマシだ。まとめて時間を取れないので、こういう断片的なものはとても良いなー。
    色んな人が居る、だけどその全ての話を聞いたり、声に耳を傾けたり、考えたり悩んだりは出来ないけど、こうやって知る事が出来る。色んな人の断片的な会話、地下鉄でヘッドホンをはずしてただ流れてくる会話に意識があるような、そういう本。
    そうなのだ、障害者の対義語として健常者があるのではない。そこには健康を当たり前とし障害について考えた事のない人々、というのがあるだけなのだ。
    1ヶ月くらいかかってよーやく読了。
    凄く楽しく面白い本だった。
    世界の本。社会?それは人の話。面白かったー。
    何度も読み返したくなる。突き刺さるような現実が、こんなにも優しいなんて。素敵な事を知った。

  • 自分にとって正しいこと、普通なこと、当たり前なこと。。それは相手にとってどうなんだろうね。と押し付けがましくもなくいろんな人の視点を想像して問いかけてくれているような感じがした。正義の反対は悪ではなく、また違う正義であるということを意識して話せる人はきっと寛容な人だろうなーという考えが頭の中に浮かんだ。自分が辛い時、相手を否定することで自分を肯定するのではなく、肯定も否定もせず一旦ただの情報として受け入れて自分なりの解釈のもと表明していきたい

  • たとえば日曜の昼下がり、新宿や渋谷の街を行きかう途方もない数の人混みを前にして、こんなにたくさんの人たちが世の中にはいて、自分がいまこうして息を吸って吐いているのと同じように、この人たちのそれぞれにも、普通の、平凡な、にもかかわらずひと言では要約できない人生があるという、それこそ平凡であたりまえの事実に、なぜだか胸が苦しくなってしまった。

    なんて経験のある人は、この本を読んでもきっと同じように、なぜだか泣きそうになってしまうかもしれない。いまこのこぢんまりとした本棚にある中で、ともすると、いちばん多くの人にひっそり手にとってほしい本。

  • 社会学かエッセイかカテゴリ迷いましたが、エッセイに。

    素敵な文章も書ける社会学者って、最高だと思います。岸k

  • 幸せの只中にいる花嫁花婿に向かって、婚姻制度が、家父長制度が、戸籍制度が、強制異性愛主義が、ロマンチックラブイデオロギーが!などと議論を吹っかけるのは野暮である。
    マジョリティの幸せを祝福すること、祝福することを強制することは、そうでない者への暴力となる。その一方で、おめでとうの気持ちも本心で、もう、一体どうしたらええか分からん、と正直に言うてるところが素敵。
    淡々と、時に熱っぽく描かれている、とりとめのない情景や心情にぐいぐいと引き込まれた。

    この本は、ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』が併売されてあった書店であえて購入。お、分かってるなここの書店、と思える自分にいやらしさも感じつつ。でも、そういう良い書店を応援していきたいのは正直な気持ち。

  • 社会学者である著者が様々な人から話を聞き取った話や、自分の中で考えたことのかけら、それをまとめたエッセイ。
    たとえて言うなら著者が拾い集めた道ばたの石を、様々な角度から見せられている。宝石のようにきらきらと目を楽しませるものでも、派手な模様に目をひかれるものでもない、本当にただの石だ。

    しかも著者はそれを尊んでいるわけではない。「素朴」「あるがまま」という言葉がまとってしまった一種の胡散臭さからは遠い態度だ。目の前にある石を何かに結びつけることはなく、ただそこにあることの不思議を受け取っている。

    著者の様々な視点から生み出される文章を読むと、文中で登場するあらゆる考え方や人が纏う属性のどちらかに寄り立場を明確にしようとしてしまう自分に気付かされる。クリアではない入り組んだものの連続の中で、そういうものをそのまま描く。

    語り口は淡々としているが無味乾燥でも透明でもない。表紙の何ということもないシャッターの降ろされた店の外壁と同じように、外気にまみれた白練の壁と同じトーン。どこにも身を置ける場所はなくても、どこかあたたかくありふれた安堵を感じられる。この本には自分に引き寄せる共感とは違った共存の形があるような気がする

  • 沖縄・生活史を専門とする社会学者のエッセイ的な本。社会学における生活史とは、個人の生活の様相について調査し、ありのままに記述する分野。この本には、著者が行なった過去の取材内容も一部載っている。他は、ほぼ、とりとめもない記憶に残った一場面について、著者が考えているところを悩みながら文章にしている。

    人生は取り立ててなんでもないような日常からできている。待ちゆく人たちには私に知られないだけでそれぞれの人生があり、ふとしたときに(それは主に他者の語りを聞くときに)垣間見ることができ、その語りからうかがい知れる人生は輝かしいものでもなく主張もなく無意味なままで、ただそこにあることを知る。無意味なただの日常、それも単なる何でもない体験談の断片について、著者は自分の思うところを付け足し、ぼんやりと何かを描こうとしている、といった感じ。

    _______________
    前半のノスタルジックの分析についての話が最高に良い。ありふれた風景はなぜ愛おしいのかという理由を提示している。頷ける。

    差別や多様性について、一つのテーマとして書かれているが、はっきりした物言いを避け、曖昧に、戸惑いを述べるといった体で終始文章は進む。後半から急速に、曖昧なところにさらに重ねて精細を欠く感じ。「祈り」がなんたらとか言い出すし、お茶を濁しまくって終わる感。

  • よかった。こういう理解や諦念を携えながら、どうしようもない自分と折り合いながら、粛々と日々を生きていきて何者でもないままただ死ぬ。意味があるとかないとかそんな問答からも降りて、ただの断片を集めては忘れて。
    なんかわたしの目指したいのはこういうとこなんじゃないかなと思った。こういうのがわたしの人生でしょそんなもんでしょって、もっと深くわかりたいんじゃないのかな。
    装丁がいいと思ったら鈴木成一デザイン室で納得でした。

    -----------
    “むしろ、私たちの人生は、何度も書いているように、何にもなれずにただ時間だけが過ぎていくような、そういう人生である。私たちのほとんどは、裏切られた人生を生きている。私たちの自己というものは、その大半が、「こんなはずじゃなかった」自己である。”(p.198)

  • 誰も見向きもしないけれど、確実に存在するもの。小石だったり、人だったり、地球だったり。
    認識する事によってしか存在しないもの、物語だったり、歌だったり、想像だったり。
    人間の営みはそういう認識論の中で成立していて、誰か他者が認識していないものは存在しないも同然です。
    誰もいない原生林で音を立てて倒れた巨木も、誰も知らない場所で倒れているので存在しないも同然。
    でもそれは人間の意識だけの都合の話であって、確実に生まれ滅びゆく美しい者たちが存在する。そんな営みを愛おしく見つめる筆者の視線を追う本です。
    素敵で静かな世界観です。

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著者プロフィール

岸政彦(きしまさひこ)
1967年生まれの社会学者。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。研究テーマは沖縄、生活史、社会調査方法論。
『断片的なものの社会学』で紀伊國屋じんぶん大賞2016を受賞。初の小説「ビニール傘」(『新潮』2016年9月号)で第156回芥川龍之介賞候補及び第30回三島由紀夫賞候補。
その他の著作に、博士論文を元にした単著一冊目の『同化と他者化』、『街の人生』、『はじめての沖縄』、雨宮まみとの共著『愛と欲望の雑談』、『質的社会調査の方法—他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美との共著)などがある。

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