戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

著者 :
  • 朝日出版社
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本棚登録 : 652
レビュー : 56
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255009407

作品紹介・あらすじ

この講義の目的は、みなさんの現在の日々の生活においても、将来的に大人になって社会人になった後においても、
交渉事にぶちあたったとき、なにか、よりよき選択ができるように、相手方の主張、それに対する自らの主張を、
掛け値なしにやりとりできるように、究極の問題例を挙げつつ、シミュレーションしようとしたことにあります。(「講義の終わり」により)

感想・レビュー・書評

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  • 東京大学の加藤陽子先生が、池袋ジュンク堂書店にて計5回にわたり行った中高生向け日本近現代史講義を一書にまとめたものである。
    「はじめに」によると、中高生向けの講義ではあるが中高年も読んでも構わないとのことであったので、意を強くして今回手に取ってみた。(笑)

    本書の「戦争まで」とは、「太平洋戦争が始めるまで」のことで、そのターニングポイントとなった3つの交渉事案をそれぞれの史料を丹念に読み込みその本来の意図を再現した上で、交渉の行方を辿り世界史的な観点に位置付けて、どうしてそのような選択がなされたのか、他にどのような選択肢があったのか等を問う内容となっている。
    その3つの交渉事案とは、①満州事変に対するリットン報告書と国際連盟脱退②日独伊三国軍事同盟の締結③日米開戦前の日米交渉、である。

    その前段として第1章では「国家が歴史を書くとき、歴史が生まれるとき」と題した講義を行って、「歴史」とはどのようなものか、国家や民衆は「歴史」に対しどのように関わってきたか、世界史の分岐点で人はどのような判断をなしてきたのか、という今後の講義への前振りがなされており、最初からなかなか面白くなっている。

    第2章では本講義の最初のターニングポイントである「満州事変に対するリットン報告書と国際連盟脱退」について取り上げられる。
    自分も高校時代等の知識から日本に不利な報告書が提出されたものかと思っていたら、実はリットンは日本の侵略を胸の内で確信しながらも報告書では外交上のバランスを優先させ、日本の行為に対し決定的な断定を避け、国際協調を前提とした自由貿易による利益確保を追求する「世界の道」を切に訴えていたということである。
    また面白かったのは国際連盟内での交渉で、後に強硬派となる松岡洋右が国連を脱退することにならないように粘り強く交渉していたということで、このあたりの後の変化については本書にも記述がないので気になったところであった。
    日本がどのような「道」を選択するのかは悩ましい問題であったが、一般的に選択肢を作成する際の実験で「偽の確実性効果」についての説明があり、現在もニュースとかで政治家の発言をみていると必ず「しっかりと」とか「確実に」という言葉を盛り込むのを聞いて胡散臭く感じていたので、今も昔もこういう言葉の操作を行うところは同じだなあと思ってしまった。いや、むしろ今の方が無責任で露骨かもしれない。(笑)
    また、国が進めていたナショナリズムの高揚が、以降歯止めが効かなくなり、国のトップがそれを怖れていく緒になっていることにも興味深い。

    第3章では「日独伊三国軍事同盟の締結」について取り上げられる。
    これも自分は高校時代等の知識から、日本はアメリカに対抗し、「バスに乗り遅れないため」の目的でドイツ・イタリア側に与したのかと思っていたら、その本心は、ドイツがイギリスに勝利することを前提に東南アジア等のフランス、オランダ、イギリス等の植民地(大東亜に含む)をドイツにとられないようにし我がものとするためであった、とのことである。
    面白いと思ったのは、条約文書で日本語と英語のニュアンスが微妙に違うこと、「大東亜」の範囲を日本も含め誰もが自分のいいように解釈していたこと、ドイツ・イタリアへの第3国(=アメリカ)の敵対攻撃で自動的に日本もドイツ・イタリア側に立って参戦すると解釈していたドイツであったが、日本は自由に選択できると考えていて齟齬があったこと、などであった。「大東亜」がどこの範囲を指すのかを誰も確信を持ていなかったことなどは、いまから考えるとジョークとしか言いようがない・・・。

    第4章では「日米開戦前の日米交渉」について取り上げられる。
    最終段階ではハル・ノート提示に行き着く交渉であるが、交渉途中で日本の南部仏印進駐によりアメリカは戦略物資の全面的禁輸に踏み切ることになってしまう。日本はというとその前の北部仏印進駐の際のアメリカの手心を加えた一部禁輸措置などの経験から楽観視していて、南部仏印進駐でアメリカがそういう挙に出ることを見誤ってしまっていた。一方のアメリカでも南部仏印進駐後に対日穏健路線であったローズベルト大統領とハル国務長官が休暇や葬儀参列等により政治決定から除外されていて、強硬派路線の委員会が対日全面禁輸を決めてしまったという話には驚いてしまった。重大局面でそんな偶然のボタンの掛け違えってあるものなんだな・・・。
    また伝説?となっている、在米大使館員の無能力のせいで日本の真珠湾攻撃前に国交断絶文書(=宣戦布告)をアメリカ側へ提出するのが遅れたという話(いわゆる騙し打ち論)も日本海軍や外務省がわざと暗号文書を発送するのを遅くしたということで、やっぱりそういうことだったんだなあ。

    最後の第5章ではこれまでの講義の総括的な話となっている。
    現代に起こっている事象に対する、歴史から学ぶということの視点をわれわれに教えてくれているとともに、中高生がここまで学んだ成果というものを実感させてくれる。

    これまで加藤教授はたびたび受講の中高生に当時の視点でどういう選択があったのか、当時はどう考えていたのかなど、時には現代の視点で、また時には関東軍参謀になったつもりで、あるいは参謀本部の計画立案者になったつもりで回答を求めているが、こうした視点は当時の立場からみる政治選択の理由を明らかにするとともに、複雑に利害がぶつかる政治選択の行方をも考えさせてくれる。
    自分もこれまで近現代史はともすれば責任論に収斂されがちであったのを歯がゆく思っていて、現実の政治の場でどのような選択がなされた結果だったのかを総括する必要があると考えていたので、今回はとてもよい勉強になった。
    あと加藤教授は中高生のどのような回答に対してでも、必ず「はい、そうですね。」のような返しをしていて、議論を肯定的に深化させていたのが興味深かった。
    学校での近現代史教育が疎かになっている昨今、加藤教授には引き続きこうした取り組みを継続してもらいたい。

    最後は「おわりに」から。
    「学問は歴史に極まれり」(荻生徂徠)
    全く同意見だ。

    • だいさん
      今の教育方法は私の時代とは大差がある(はず)
      中高生(中学生!) に対して
      オープンな場所でこのような歴史講義を行える 教育者は す...
      今の教育方法は私の時代とは大差がある(はず)
      中高生(中学生!) に対して
      オープンな場所でこのような歴史講義を行える 教育者は すごいと思えるし
      また参加する子供たちも なみじゃないと思える
      相手の意見をいきなり否定せず 真摯に立ち向かうことが
      教育に必要なんだろうな
      2016/10/27
    • mkt99さん
      だいさん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      そうですね。自分が中高生の頃といまとでは教育内容も異なる...
      だいさん、こんにちわ。
      コメントいただきありがとうございます!(^o^)/

      そうですね。自分が中高生の頃といまとでは教育内容も異なるだろう上に今日では様々なノイズがあるため、加藤先生のような方には是非ともこのような講義を続けてもらいたいですね。

      まあ、そもそも自分の時代はちょうど近現代史のあたりが受験シーズンと重なったり、年度末だったりして、そこまで行き着くかどうかの瀬戸際にあって、授業は超スピードで駆け抜けていったものですが・・・。(笑)

      今回の講義は申し込み制だったようで元々意識の高い中高生が受講していたようです。そんな中高生へ宿題を出して自分の力で下調べをさせたりするところも教育熱心なわけですが、イレギュラーと思えるような質問にも全てきっちり(かどうかはわかりませんが)その場で回答しておられたのはさすが東大教授と唸らされてしまいました。
      2016/10/29
  • 満州事変後に世界に公表されたリットン報告書は、一方的な日本非難ではなく、実は満州における日本の権益に配慮して書かれたものだった。日独伊三国軍事同盟は、アメリカへの牽制でなく、欧州を勝ち進んだ後にアジアに回帰するドイツへの牽制。同盟を進めた日本の軍人たちの本音と目的は、ドイツに敗けた国々がもつアジアの植民地と権益を日本が獲得すること。バスに乗り遅れるから同盟を急いだわけではなかった。
    真珠湾攻撃は米国の罠や陰謀でなく、日米交渉においてアメリカは最後まで日本と交渉しようと努力した。日本の失敗は自国の安全保障についてリスクをとる気もないまま、受け身の姿勢(被動者)で戦争に突入してしまったところにある。

    一次史料を駆使し、中高生たちを相手に近代日本が世界と切り結んだ3つの事例を講義した本書は、厚みと奥行きのある立体的な歴史に触れることができる。同時にその内容は目から鱗が落ちることばかりだった。歴史家の凄みと矜持を見せつけられた気分だ。

    なにより読み応えあるのが、交渉の難しさと選択肢を形作る厳しさをこの本は教えてくれること。ベストな選択ができるように掛け値なしに相手とやりとりする困難さ。相手の主張とそれに対する答えを、俗論やバイアスに歪められることなく、選択肢としてどのように目の前に形作るのか。その厳しさと可能性を本書は示してくれる。学生だけでなく社会人でも役立つことだろう。優れたビジネス書としても読めて素晴らしかった。何度も読み返そう。

  • タイトルにあるように、太平洋戦争に突入するまでの重要な交渉事にスポットを当てて、歴史を紐解いています。①リットン調査団の報告から始まる国際連盟脱退について②日独伊三国同盟について③ハル・野村交渉に始まる日米交渉と、三つの交渉を挙げています。「~これら三つに共通しているのは、これらの案件が日本の近代史上において歴史の転換点だっただけでなく、日本と世界が火花を散らすように議論を戦わせ、日本が世界と対峙した問題だった~」(94頁)

    東大教授である著者が、高校生相手に(一部中学生もいますが)6回連続の特別講義をしたものをベースに本書は書かれています。その為わかりやすく書かれてはいますが、中身は非常に濃いものになっています。

    ● リットン調査団の章-「満州事変は日本が100%悪くて、弁解の余地はない」という内容の報告書にはなっていないことに驚きました。寧ろ日本が報告書の内容を受け入れやすいよう配慮されている部分が多くみられました。
    ●日独伊三国同盟の章―軍事同盟なのでもっと協力的なものをイメージしていましたが、ヨーロッパで第二次世界大戦が始まり、ドイツが破竹の勢いで戦果を挙げている中、日本はドイツがそのまま勝利を収めると想定していました。日本が軍事同盟を結んだ一番の目的は、旧ドイツ領委任統治領の諸島を手に入れたかった点です。
    ● 日米交渉の章―日米が水面下で最後の最後まで戦争回避に向けた交渉をしていたことに驚きました。しかし、両国内での政治事情も絡まり最終的には真珠湾攻撃となりました。「『駐米日本大使館員の勤務怠慢による対米通告の遅れ』という神話」(410頁)は新鮮でした。また、付随して述べられている陸軍の横暴の一例には驚きです。また、真珠湾攻撃も事前に暗号解読が行われ、わざと攻撃させて開戦のきっかけを与えたという説も根強いですが、実際は嘘です。アメリカ国防総省が、何故真珠湾攻撃を防げなかったのか戦後も研究を続けています。

    膨大な歴史資料を丹念に調べられて、そこから浮かび上がってきた史実を提示してくれています。歴史の専門家の仕事とはこういうものだと教えられました。その史実は他の史実とも連携して、点が線になり、線が面となって、最後には立体的な物語となっているようです。しかもそれは史実をベースにした物語ですがノンフィクションです。小説を読んだときに味わう感動に近いものがありました。「事実は小説よりも奇なり」です。

    前作の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子著/朝日新聞社)も併せて読んでください。

  • 前作「それでも日本人は戦争を選んだ」に感銘を受けて読んだ。
    真珠湾の「ローズベルト陰謀論」の全面否定は、意外だったが、説得力のある内容だったので、自分の認識を改めた。
    教育の影響は勿論甚大なのだろうが、泥沼の日中戦や勝てる見込みの無い日米戦に民意諸共嵌り込んだ根本原因は、「10万人の英霊と20億円の戦費を投入した日露戦の成果を手放したく無い」という、既得権への執着に行き着くのだろうなと感じた。(行動経済学的視点から)
    そうであれば、こうしたベストでない選択をするリスクは、日本人固有のものというより、人間のDNAレベルのものだろうから、余程意識的でないと、再現するリスクがありそうだ。

  • 中高生を前に進められた講義をもとに著された著作。リットン調査団報告書、日独伊三国軍事同盟締結、日米交渉においてなぜそのような選択を日本がすることになったのかが描かれています。サブタイトルは「歴史を決めた交渉と日本の失敗」。表紙に書かれているのは「「かつて日本は、世界から「どちらを選ぶか」と三度、問われた。より良き道を選べなかったのはなぜか。日本近現代史の最前線。」とされています。

  • リットン調査団、日独伊三国同盟、日米交渉。世界から日本に突きつけられた3つの局面で、日本がそれぞれどんな状況下でどんな選択をし戦争に突き進んでいったのか。中高生向けの講義をまとめたもの。

    この内容を理解し、投げかけられた問いに対し各自がネットや文献を駆使し調べて答えを探っていくとはなんという意識高い中高生!!
    こんな若者達が素直に成長していけば日本の未来も捨てたもんではないと思わせてくれる。是非中高生に向けて学校の授業に取り入れて欲しいのと同時に大人も読むべき一冊。

    戦争という決断を下しめ、昭和天皇でさえ抗えなかった”時の勢力”とは何だったのか。

    フェイクニュース溢れるポスト・トゥルース時代。情報を読み解くリテラシーを養うにはやはり「教育」以外の何物でもないことを本作で改めて背筋が凍るほど痛感した。

  • リットン調査団、三国同盟、日米交渉の3つの局面から、太平洋戦争への経緯を解析する。外交の話がメイン。結果的には上記3つ全てでルートを誤っており、それだけ多くの教訓を含んでいる。中高生への講義形式なので平易な解説が試みられている点安心して読めるが、しっかり理解して読み進めないと(時折出される設問に)ついて行けない内容でもあった。米国が世界の警察を放棄するような動きを見せる昨今、日本外交における責任と重要性は以前より増しつつあり、過去の失敗を学ぶ意義もより見出だせそう。

  •  一級資料に当たるという事はとても大切なことだと思うのだが、それでも真実への道はまだまだほど遠い気がする。

     大学教授だから話の内容が正確だというわけではない。あくまでもその文献等に長く身を置いているという事だけが判断する一つの有効な事柄だという事も認識しておかなければならない。

     だからこそ、読み手が一人一人考えることが大切であり、たとえ、考えた道筋が間違えていたとしても、それが一つの経験になり、次への糧とつながれば良い。

     

  • 戦争における分岐点となった3つの出来事(リットン報告書、三国軍事同盟、日米交渉)を、中高生とのやり取りをしながらみんなで考えていくといったスタイルの一冊。
    ページ数は決して少なくないが、著者のわかりやすい語り口や所々にある写真や図表などで理解が助けられる。戦争関連本にしてはかなりわかりやすい部類に入ると思う。

    戦後も70年以上を経過しているが、当時の出来事が必ずしも正確な形で後世の記憶や「歴史」に残されているとは限らない。実は日米も歩み寄ろうとしていたし、日本の中にも冷静な人はいたし、陸海のパワーバランス(見栄みたいなものも?)もあった。なんとなく「こうだろう」と思っていることが、実はちょっと違ったりもする。今回採り上げた3つの出来事は、そういう側面を持っている。

    戦争は大きな一つのうねりではなく、様々な様子が少しずつ影響しあって、いわばピタゴラスイッチみたいに最後に戦争になったと分かる。ただ、それをどうやって今後の時代に防いでいくのか。戦争の内実がわかってくればくるほど、それを防ぐ難しさも分かる。でも、それは現代人が不可避的に立ち向かわなければいけないことだから、やはりこういった本はちゃんと読んでおくべきなんだろうな、と思った。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    この本を読んでいて感じたことだが、この本に書かれているような戦争に至るまでの経緯を学校の歴史の授業で教えないのは何故なのだろうか。
    自分が学生だった頃がは戦争中の被害の大きさを中心に教えられていた記憶があり、ただひたすらに同じことを繰り返してはいけないと教えられいたように思う。
    同じことを繰り返してはいけないということには同意するが戦争は地震や台風のような自然現象ではないのだから、戦争になってしまった経緯や原因を解明し、教えることのほうがよっぽど効果的だと思うのだけど、どうなのだろうか。
    私がこの本を読み感じたことは国際協調の重要性と決断することの重要性だろうか。国際協調は自らの利益が減るとしても国際的に認められることで確実な利益を得ることができるということ、交渉を進める上で結論が出ていれば、対米戦を回避できた可能性があるということは衝撃的な事実だったね。

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著者プロフィール

加藤 陽子(かとう ようこ) 
1960年埼玉県に生まれる. 1989年東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了(国史学). 現在:東京大学大学院人文社会系研究科教授. 主著:『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書, 2002年), 『戦争の論理』(勁草書房, 2005年), 『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書, 2007年), 『それでも, 日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫. 旧版は朝日出版社, 2009年), 『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社学術文庫. 旧版は講談社, 2011年), 『戦争まで』(朝日出版社, 2016年), 『天皇はいかに受け継がれたか』(責任編集, 績文堂, 2019年)ほか.

「2019年 『天皇と軍隊の近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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