働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

著者 :
  • 朝日出版社
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本棚登録 : 584
レビュー : 65
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255010038

作品紹介・あらすじ

なぜAIは、囲碁に勝てるのに、簡単な文がわからないの?

そもそも、言葉がわかるって、どういうこと?
中高生から大人まで「言葉を扱う機械」のしくみと、私たちの「わかり方」を考える。

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「つまり、僕らはロボットにしてほしいことを言うだけで、あとはロボットが勝手にやってくれる。それが一番いいってことだね」
「いいね。そうすれば、誰も働かなくてよくなるね」
イタチたちはみなこの計画にうっとりして、なんてすてきなのだろうと思いました。
(序章「ことの始まり」より)
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なんでも言うことを聞いてくれるロボットを作ることにしたイタチ村のイタチたち。彼らは、「言葉がわかる機械ができたらしい」といううわさを聞いては、フクロウ村やアリ村や、その他のあちこちの村へ、それがどのようなものかを見に行きます。ところが、どのロボットも「言葉の意味」を理解していないようなのです――

この本では、「言葉がわかる機械」をめぐるイタチたちの物語と、
実際の「言葉を扱う人工知能」のやさしい解説を通して、
そうした機械が「意味がわかっていると言えるのか」を考えていきます。

はたして、イタチたちは何でもできるロボットを完成させ、ひだりうちわで暮らせるようになるのでしょうか?

ロボットだけでなく、時に私たち人間も、言葉の理解に失敗することがありますが、なぜ、「言葉を理解すること」は、簡単なように見えて、難しいのでしょうか?

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――いま、さまざまな人がさまざまな機会に、「言葉を理解する機械がとうとう完成した」とか「今はできていないけれど、もうすぐできるだろう」とか「機械には本当の意味で言葉を理解することはできない」ということを言っています。いったいどれが正しいのでしょうか?
――私たちは普段から、「あの人が何を言っているかが理解できた」とか「あの言葉の意味が分からない」ということをよく口にします。しかし、自分がそう言うとき、どんな意味で言っているか、きちんと意識しているでしょうか? 実際のところ、私たちはさまざまなことを、「言葉が分かる」という便利な表現の中に放り込んでしまっています。それらを一つひとつ取り出してみないことには、「言葉が分かっているかどうか」という問題に答えを出すことはできません。
――この本では、「言葉が分かる」という言葉の意味を考えていくことで、機械のこと、そして人間である私たち自身のことを探っていきたいと思います。
――(問題の一部を知るだけでも)みなさんが、「人と機械の知性」について考えたり、またご自身の「言葉の使い方」や「理解の仕方」を振り返ったりする手がかりになると信じています。
(序章「ことの始まり」より)
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感想・レビュー・書評

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  • 知り合いの人工知能研究をやっている方が、「人工知能のできること・できないことが具体的にイメージできる、とても良い本」と言われていたので、早速読んでみた。「イタチ」に仮託した物語は面白く読めるし、言いたいことが事例とともに書かれているので説得力がある。確かにお奨め。

    本の内容は、擬人化したイタチが、言葉がわかるロボットを作ろうと、他の動物たちが持つ技術を頼りにして機能強化していくというもの。その中で読者は、自然言語認識の課題と解決策について理解が深まっていくという形になっている。手に取る前は、擬人化しているので、自然言語研究のコアな部分をすっ飛ばして単純化した話になっているのかもしれないと思っていたが、そんな心配は無用であった。著者がしっかりとした技術知識と全体を把握する能力とそれを上手く表現にまとめる力があるので、この本が成り立っている。

    著者はイタチの物語を通して、自然言語の理解には次の技術要素が必要だと説明する。「言葉が分かる」ということには少なくとも以下の要素が含まれており、少なくともそれらをうまくやり遂げられなくてはならない。

    1. 言葉が聞き取れること
    2. おしゃべりができること
    3. 質問に正しく答えること
    4. 言葉と外の世界を関係づけられること
    5. 文と文との論理的な関係が分かること
    6. 単語の意味についての知識をもつこと
    7. 話し手の意図を理解すること

    ディープラーニング技術が必要なもの、充分な質の高い学習データが必要なもの、豊富な知識ベースが必要なもの、いわゆる「常識」が必要なもの、レベルに応じて必要な要素は変わってくる。また、それぞれ要素は互いに独立ではなく、互いに複雑に影響し合っている。意味と意図の違い、多義語の曖昧性の解消という問題もある。

    著者は、言葉がわかる機械を作るために全体に共通する課題を次の三点にまとめている。

    A. 機械のための「例題」や「知識源」となる、大量の信頼できるデータをどう集めるか?
    B. 機会にとっての「正解」が正しく、かつ網羅的であることをどう保証するのか?
    C. 見える形で表しにくい情報をどうやって機械に与えるか?

    その大変さは本書でイタチたちが苦労する様に象徴的に描かれている。一気に解決するようなものではなく、一歩一歩進めていくような課題である。

    それでは、なぜ人間は「言葉がわかる」のか。それは現在の機械が言葉を理解する能力を持とうとして用いられるやり方とは明らかに異なるやり方で獲得された能力だからだ。著者は次のようにまとめる。

    ① 人間は言葉を習得するとき、生まれた後で接する言葉だけを手がかりにしているわけではない
    ② 言葉についてのメタな認識を持っている
    ③ 他人の知識や思考や感情の状態を推測する能力を持っている

    これが人間の「言葉がわかる」ために必要であるとするならば、これらを機械に実装することは可能なのだろうか。進化の過程で言葉を獲得したことで人間は他の動物と異なる形で地球上で繁栄することとなったとされているが、一口に「言葉を獲得する」と言っても果たしてどのようにそれは成されていったのか、とても不思議で複雑な問題であるが、興味をそそるものでもある。


    あとがきにおいて「言語能力の研究は、あまり報われない」と著者は嘆く。言葉の研究をしている、というと「何語の研究?」と聞かれる。日本語の研究と言うと、日本人なら誰でもできている日本語の何を研究しているの、と言われるらしい。機械による言語理解の研究と言うと、今は将棋や碁のプロに機械が勝つくらいなので、もうすぐできそうですよね、と言われるらしい。著者はロボットに東大の入学試験を解かせる「東ロボプロジェクト」に参加していたが、その中で言語理解について多くの課題が整理されて浮かびあがってきたことと、またそのことが適切に世の中に認知されてきたことが大きな成果だったと評価する。そして、この本もまた正しい理解に役立つことができればという気持ちで書かれたという。そうであれば、その意図はとても成功していると思う。誰もが思い付かず、やろうとしなかったフォーマットでそれを実現した。あとはより多くの人にこの本を手に取ってもらうこと、だろう。そして、著者が言語の研究も報われたと思うようになってほしい。ということで、ぜひぜひ手に取ってほしい。

  •  著者は国立情報学研究所の研究者(2017年3月まで).自己紹介によると専門は,理論言語学・自然言語処理.具体的には,言語(を理解する)とは何か・コンピュータに人間が使っている言語を処理(理解)させるにはどうしたらいいか,についての研究であると思われる.

     「働きたくない」と考えた「イタチ」たちは,「ロボットにしてほしいことを言うだけで,あとはロボットが勝手にやってくれる」ようなロボットを開発することにした.そのようなロボットは人間の言葉がわからなければならないということに気づいたイタチたちは,機械が「言葉を理解する」とはどういう状況をいうのかを,いろんな動物たちに教えてもらうことにした.というところから,このお話は始まる.

     ――このお話では「言葉がわかる」ということの意味を,「言葉が分かった」といえるには少なくとも何ができなくてはならないか.また,「言葉が分かる」ということは少なくとも「何と違う」のか.という観点から考察していく.――

     このような記述を見ると,著者は文学部の出身にもかかわらず,バリバリの理系頭の持ち主だという気がする.少なくともこの書き出しは理系の論文の書き出しであろう.

     で,この本の概要も,9章 その後のイタチたち の解説編でていねいにまとめられている.いわく,「言葉を理解するために必要な条件」として,
    (1)音声や文字の列を単語の列に置き換えられること
    (2)文の内容の真偽が問えること
    (3)言葉と外の世界を結びつけられること
    (4)文と文との意味の違いが分かること
    (5)言葉を使った推論ができること
    (6)単語の意味についての知識を持っていること
    (7)相手の意図が推測できること
    ということがあげられている.

     本文の章立てとは微妙に違っているのだが,その違いを分析するだけの能力は持ち合わせていない.イタチたちの企てと,友人たちの達成した成果を楽しみながら読んでいく.

     「あとはロボットが勝手にやってくれる」という状況には,まだまだ遠いことがよく分かる.そもそもそんな状況にいきつけるのかどうか.「あとは誰かが勝手にやってくれる」ことを望むこと自体が傲慢なのではないかという気がしてくる.


    2017.08

  • 人工知能の仕組みを「言葉が分かるとはどういうことか」という観点から、物語を通じて教えてくれる本。理論言語学と自然言語処理は似て非なるものであり、我々が想像している以上に、ロボットが言葉を分かるようにするためには沢山の条件が必要である。まさに、人間とロボットの違いであると言える。

  • サボることしか考えていないイタチ(≒人間)を主人公に物語形式で「AIによる音声認識のしくみ」を1つ1つ丁寧に解説した本。「言葉を理解する」とはどういうことなのかよーくわかるのです。AIによる音声認識の入門書としてもおすすめです。
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  • イタチ達はアリやカメレオンやフクロウなどとの交流の中でロボットを作っていく.ロボットの仕組みが物語の中でわかりやすく説明されていくのには感心した.

  • 機械学習についての基礎を学べるりょうちょ

  • 今流行りのAI(人工知能)をベースにした内容です。

    言葉の意味を理解するとはどういうことなのか、
    なぜ機械は全ての文章を理解するのが難しいのか。

    イタチ以外にもたくさんの動物が登場して、(物語の部分は)とても読みやすい一冊です。

    解説部分は決して難しいわけではないのに、若干読みづらく感じました。

  • ★AIの現在地を自分は知らない★理論言語学と自然言語処理の専門家が、AIに言葉を教え込むことの難しさを例え話で教える。信頼できるデータを大量に教え込むことが可能になりディープラーニングでAIが急速に進化したのだと浅く理解しているが、そのデータの信頼性の確保は素人が思うほど簡単ではないようだ。そもそも入力データである音声と音素は違い(「ん」の表記でも音は少なくとも3つはある)、単語の意味の決め方や話し手の意図の推測はかなり難しいようだ。AIが理解できるのはまだ定型の表現なのだろう。言語によってAIの理解のしやすさは違うのだろうか。

  • 言語処理について書かれている.
    言葉の意味について考えさせられる.
    イタチが言葉が分かるロボットを作る話と技術的な解説が交互に述べられいて非常に読みやすく,そして興味深い本だった.

  • 図書館の書架で見つけて読んでみます。

    考えるほどにわからなくなる人工知能について、面白い視点で書かれています。

    2018/5/29 借りて読み始める。 途中で返却。2018/7/21 再度借りる。 再び途中で返却。

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著者プロフィール

言語学者

「2019年 『平成遺産』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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