不確かな医学 (TEDブックス)

制作 : 野中大輔 
  • 朝日出版社
4.14
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本棚登録 : 56
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784255010366

作品紹介・あらすじ

バイアスという名の病と、うまく付き合っていくために。

医学はそもそも科学だろうか?——かつて若き研修医だった著者はその後の医師人生を変える1冊に出会い、普遍的な「医学の法則」を探し始める。事前の推論がなければ検査結果を評価できない。特異な事例からこそ治療が前進する。どんな医療にも必ず人間のバイアスは忍び込む。共通するのは、いかに「不確かなもの」を確かにコントロールしつつ判断するかという問題。がん研究の歴史を描いてピュリツァー賞も受賞した医師が、「もっとも未熟な科学」の具体的症例をもとに、どんな学問にも必要な情報との向き合い方を発見する。

Small books, big ideas. 未来のビジョンを語る。
人気のTEDトークをもとにした「TEDブックス」シリーズ日本版、第10弾。

本書の著者、シッダールタ・ムカジーのTEDトークは以下のTEDウェブサイトで見ることができます。
ww.TED.com(日本語字幕あり)

「私は、医学がこんなにも法則のない、不確かな世界だとは思ってもみませんでした。小帯、耳炎、糖分解などと、まるで取りつかれたように身体部位や病気や化学反応に名前を付けていったのは、自分たちの知識の大部分は本当は知りえないものなのだという事実から身を守るために、医者が生み出した仕組みなのではないかと勘ぐるほどです。こうしたおびただしい数の情報によって、より本質的な問題が隠れてしまっています。それは、情報知と臨床知との融合です。この2つの領域にある知を融合するための道具立てを見つけられないか——そうした模索が本書のきっかけです。この本の中で『医学の法則』と呼んでいるものは、実際には不確かさ、不正確さ、不十分さにまつわる法則です。このような『不』の力が働く知の分野なら、何にでも当てはまります。それは不完全性の法則なのです」(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 著者はがんの専門医であり、研究者である。意欲的に著述も行っており、近年では『病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘』(早川書房)(文庫版は『がん‐4000年の歴史』(ハヤカワ文庫NF))(原題:The Emperor of All Maladies A Biography of Cancer)は話題を呼び、ピュリツァー賞を受賞した。

    本書は、各界の著名人がプレゼンテーションを行うことで知られるTEDでのトークが出発点になっている。但し、このTED Booksというシリーズは、トーク自体を元にしているというよりも、そこから派生してさらに膨らませた内容となっているようである。

    本書の原題は"The Laws of Medicine"。
    ムカジーは医師として診察に当たる際、非典型的な事例、一般的な傾向に当てはまらない事象に多く遭遇してきた。医学は膨大な知識を積み重ねて発展してきた。教科書的な知識が重要なのはもちろんだ。だが、「通例」から外れた患者がやってくることは珍しくない。すべてのデータが揃うわけでもなければ、患者自身が何らかの理由で隠している情報もある。情報が不完全、不十分、不確かな中で、できる限り完璧に近い結論を出すにはどこに気を付ければよいのか。本書はそうした思索のまとめである。
    これは医学に限らず、人がさまざまな場面で、非典型例に接した場合にも応用しうるものだと著者は言う。これらは、不確かな世界を生きる上で、心に留めておくと役立つであろう「法則」である。

    本書に挙げられている「法則」は3つ:
    ・鋭い直観は信頼性の低い検査にまさる
    ・正常値からは規則がわかり、異常値からは法則がわかる
    ・どんなに完全な医療検査にも人間のバイアスはついてまわる


    いずれも具体例を挙げて説明されているので、興味のある向きには参考になるだろう。
    130ページ程度の薄い本で手軽に読めるのも美点である。

  • 移動中に読ませていただきました。

  • p.36 
    ▶︎法則というのは、観測可能な現象のあいだに見られる関係のうち、状況や条件を変えても成立する部分を抽出したもの。自然が依って立つ規則。
    ▶︎化学の法則は物理学より少なく、生物学は基本3科学の中で最も法則が少ない分野。普遍的な規則はいっそう少ない。もちろん生物は物理学や化学の基本的な法則には従わなければならないが、生物はそのような法則のギリギリの部分に存在し、法則を壊す寸前のところまで捻じ曲げる。象が熱力学の法則を破ることはできないが、しかし象の鼻は、エネルギーを使って物を動かす方法としても最も変わったものの部類にはいる。

    p.57 1702年イギリス生まれの聖職者・哲学者・牧師トーマス・ベイズ。確率論の論文が現在は有名だが、これは死後数十年経ってから再発見されたもの。彼と同時代の数学者は純粋統計の問題に関心を抱いていたが、ベイズは、実際に起きたことをもとに知識を得るという問題に取り組んだ。実際に起きた、観察可能な知識をもとにする。

    p.63 新聞に何か医学の論争を見つけたら、それはベイズ流の分析に関係するものか、ベイズ理論の理解が完全に欠けているものかのどちらか。44際の女性はマンモグラフィーを受けるべきか? その女性が乳がんを患っているかについて事前確率を調整できなければ、検査で得られるのは実際のがんの症例ではなく、ゴミのようなデータになってしまう。

    p.90 医者は、これまでずっと「正常値の問題」を理解したり分析したりしてきた。「正常値」とは一般的な範囲に収まる値のこと。血圧、身長、体重、代謝率などや、平均的な糖尿病患者、典型的な心不全症例、化学療法の効き目が標準的ながん患者など。
    しかし、ある人が正常値から外れるのはなぜか、それについてはほとんど何もわかっていない。「正常値」からは規則性がわかる。しかし、「異常値」からはより深い法則をつかむためのきっかけが得られる。

    p.91 哲学者カール・ポパーは、科学と科学でないものを分けるうえで決定的に重要な基準を提案。科学体系の基礎は、その体系を構成する命題が証明できることにあるのではなく、そうした命題が「反証可能」なことにある、と主張。つまり、予測や観察によって誤りだと証明されることが担保されている理論や命題のみが「科学的」。
    医学を本物の科学にしようとするなら、私たちはことあるごとに医学のモデルの反証に取り組み、古いモデルを新しいものに変えていかなければならない。

  • 文字数少ない。30分くらいで読めそう。

  • これはすごい。ベイズってなんでしたっけ?という状態で読みはじめて、日常はもちろん、医療において特に、そういう見方が大事になることを改めて理解した。たぶん。。


    類似の多数の事例を調べて見つけたひとつの傾向(法則)があるとして(ex. 疾患Aの患者でのみマーカーaが一定値以上になる)、それが個々の事例(ex. 今目の前にいるこの人の状態)を正しく当てるケースは、推定項目によっては全ケースの多くを占めるが、推定項目によっては逆に、当てないケースが多数どころか大半を占めることもある。
    現実に目の前にある対象について推定と判断を行うには、類似の多数に関する調査結果に基づく1軸の類推だけでなく、目の前の対象自体(世界にも歴史上にも1人/1家族しかいない)の情報を幅広く集めることも重要になる。その対象が"典型的な"ケースではなく外れ値である場合、そのことは、幅広い情報を得る過程でのみ見えてくる。外れ値は既に、検査に付随する一定の不確実性としてよく知られているものでもあり、正常値からの逸脱自体は、検査対象に、典型的な健康上の異常があるのか、例外的な数値のみの異常(偽陽性)しかないかを見分ける根拠を与えない。
    エビデンスが役立つ場面も多いが、総合判断や勘はEBMじゃないからダメと言っても、EBMは外れ値の個人に対しては意味がない(または結果として害悪にもなりえる)。不完全なエビデンスだけが手元にあるとき、それを使える場面と使えない場面を見分ける仕事は当面重要であり、AIが貢献する余地もありそう。
    ともかく、医学の相手はブラックボックスばかりなのだから、よく見えた部分だけでなく、よく見えないが参考にできる情報を集めることは、全くバカにできない重要性を持つという話。

    鋭い直感は信頼性の低い検査に勝る
    正常値は規則を、異常値は法則を教える

    これに加え、本の最後の警句が重かった。
    きちんと覚えてないけど以下のような感じ。

    医療とは、どういう仕組みで生じているか(キモの部分さえ)よくわかっていない種々の症状に対し、効き方の一例は示されていたとしても全体としてはいつどう効いていつどう効かないのかよくわからない薬や処置を、正常に命を維持する仕組みが最もわからない人間(個体)という対象に与え、対象の回復を狙う営みである。

    例えたら、
    触ったこともない機械が壊れて、"箱の中身は何でしょねー?"のハコの中に入ってる。手を入れていろいろ触ると、壊れてそうな箇所が推定される。そこを、使い慣れてない不十分な工具でいじって、修理してみる。
    みたいな感じ。
    フタが取れただけならはめれるけど、マザーボードが傷んでたら、、現時点ではムリ。

  • データと直感どちらを信じる?異常値をどう見る?組織がバイアスにまみれたら?いまのやり方がバイアスであったとしたら、それをどう検証する?そもそも、いまを疑える?
    データ社会が加速していく中で、はっとさせられる。自分自身も、永遠の課題。
    #不確かな医学 #バイアス #tedbooks

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プロフィール

シッダールタ・ムカジー(Siddhartha Mukherjee)
がん専門の内科医、研究者。著書は本書のほかに『病の皇帝「がん」に挑む——人類4000年の苦闘』(田中文訳、早川書房)がある。同書は2011年にピュリツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞。
コロンビア大学助教授(医学)で、同メディカルセンターにがん専門内科医として勤務している。
ローズ奨学金を得て、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ハーバード・メディカルスクールを卒業・修了。
『ネイチャー』『Cell』『The New England Journal of Medicine』『ニューヨーク・タイムズ』などに論文や記事を発表している。
2015年にはケン・バーンズと協力して、がんのこれまでの歴史と将来の見通しをテーマに、アメリカPBSで全3回6時間にわたるドキュメンタリーを制作した。
ムカジーの研究はがんと幹細胞に関するもので、彼の研究室は幹細胞研究の新局面を開く発見(骨や軟骨を形成する幹細胞の分離など)で知られている。
ニューヨークで妻と2人の娘とともに暮らしている。

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