逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズ ケアをひらく)

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  • 医学書院
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260010030

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ ケアをひらく『逝かない身体 ALS的日常を生きる』 (看護管理 20巻11号) | 医書.jp
    https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1686101880

    川口有美子『逝かない身体――ALS的日常を生きる』 | arsvi.com:立命館大学生存学研究所
    http://www.arsvi.com/b2000/0912ky.htm

    逝かない身体 | 書籍詳細 | 書籍 | 医学書院
    https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/81229

  • 大変な介護の末にたどり着いた境地なのだろうと思う。何の反応もできなくなった病人が生きているだけで幸せと感じていると理解するところまでたどり着ける人はそうそういないだろう。別の形で闘病介護をしてきた私にはまぶしく感じる。そういうこともあるのだろう、という認識ではある。本の面白さにではなく、筆者の人生に四つ星。

  • 自分が同じような境遇になったとき、どのように振舞うでしょうか。今の自分なら安楽死を求めると思います。それは、まだ死に直面しておらず、死を実感できない思いから来るものかもしれません。また、人に過大な負担をかけるくらいなら居なくなった方がよい、という考えからも来ていると思います。

    想像だけ膨らましても、本当にそのような状況にならなければ、自分がどのような思いに至るのか、わからないと思います。しかし、常に終着点を頭の片隅にでも置いておくことで、今を一生懸命生きられると思います。

    今のところ健全に生きていられる自分にとっては「今日より明日が悪い、だから今日の方が明日より幸福だ。」とはなりきれませんが、今を一生懸命に生きる姿勢は変わらないと思います。

    「生きる」ことについて考えさせられた一冊でした。

  • 絶望ではなく希望として語られる,繰り返される変わらない毎日。当事者だからこそ感じ取ることができるにしても,むしろ当事者がここまで客観視しているのはすごいことだと思う。

  • 海外赴任駐在妻だった著者が、実母の母親のALS(全身の神経が麻痺し、内面は全く正常に働いているにもかかわらず、場合によっては、全く発信ができなくなるロックトインという状態にまでなる病気)発症をきっかけに夫をロンドンに残し、父親、妹、を中心に、地域の介護士や医師とともに介護し、看取るまでの10数年を描いている。

    あまりに重たい10数年の経験に対して、文章量があっさり1冊なので、もっと詳しくどのように、その道を進んでいったのかを知りたくなる。

    須賀敦子が淡々とコルシア書店のことを語るような、しっとりしてるんだけど、さらっとしてて育ちの良さや教養を感じる文章だった。

    介護する人たちの話だけれども、私は自然と発病後あっという間にロックトイン状態になった母親になった気持ちで読んでいた。
    母親の気持ちは当然わからないのだけど、著者がこうであったろう、と自分なりに回想し、分析しており、それがあくまで客観的に描かれているので、独りよがりに感じず、母親にシンパシーを感じながら読み進める、ということができたのだと思う。

    頭が全然ボケてないのに、全く自ら意思表示ができない、(瞬きもできないので最終的に目を開けておくか閉じておくかを決めなくてはいけない、みたいな・・)って本当に壮絶だと思うのだけれど、母親に同化して読みすすめていた私は発症後、症状が恐ろしい速さで進んで安定したロックトイン状態になるまでは苦しみ続けたが、完全に閉じて受信のみになってからは、とても幸せを感じる人生だと思いながら死んでいけた。

    「温室の蘭を大切に育てるように介護した」って書いてあって、私が介護する側でもそのように有りたいし、介護される側でもそのようにあって欲しいと、壮絶な話なのに、とても清らかな気持ちになれた。

    ただ、この人の妹もこの体験を本に書いて欲しいと思った。
    (妹は介護の為に、非常にやりがいを感じていた出版社を辞めたり、うつ症状がでたりしていた様子が描かれていた)
    著者の内面的体験が素晴らしく、10数年の介護もこのような表現ができるまでに昇華できているが、別の人にとって同じ経験が内面的体験ではどう表現されるのか、同じように昇華できるのか、気になるところではある。

    もし自分が介護問題に直面したら、必ず努力して、家族だけではなく、オープンな状態で解決にあたらねばならないということを忘れないように。

  • ALS(神経難病)にかかった母親の発症から死までの12年間がとても丁寧に書かれていました。難病にも介護にもいまだ直面したことのない私にとって、この本に書かれた様々なことは文字を追うだけでは想像すらできないことも多く、なかなかスイスイと読み進めることはできませんでした。それでもなんとか最後まで読み終えて、最後のあとがきで「そのころの母は意思疎通もできなくなってからすでに何年間も経っていましたが、私たちは温室で蘭の花を育てるように大切にしていました」という一文を目にした時、ああこの本を最後まで読めて本当に良かったと思いました。著者の川口さんが、このまるでおとぎ話の一節のような美しい一文に込めた思いの重みは、この本を実際に読んだ人にしか伝わらないと思うので、ぜひたくさんの方に読んでほしいなあと思います。

  • 動けなくなったら安楽死を、そんな意見もちらほら耳にする昨今だが、動けなくなっても生きたいのだ、ケアする側が生きていてほしいと願うのだ、生きる意味は他者によって見出されるものなのだ、という生への肯定。
    人生をALS患者の母のケアに努めてきた筆者だからこそであろう熱さと勢いのある筆致。
    生きていていいのだ。
    生きたいと思っていいのだ。
    死だけが不可逆なのだから。

  • 当事者を取り巻く状況を勉強したくて読んでみた。まず作者の文章力が抜群に上手いなと思った。表現が上手い。リアル。リアル。リアル。こんな現実を我が事として受け止めるとしたら、如何にキツイか想像するまでもない。何度も胸を打たれ、何度も大きなため息が出た。そして、読むきっかけとなったALS闘病中の母親を持った、友人の助っ人になるには私は何をするべきだろうか。

  • いわゆる「延命治療」、障害者の「自立」、寝たきりの人とのコミュニケーション について考えた。


    〇いわゆる「延命治療」について
    この本を通じて、改めて経管栄養や人工呼吸器について改めて考えた。
    これらの医療機器で延命やQOL向上などの効果が見込まれるシチュエーションを想定する。
    自分自身であれば、親しい人に対して負担をかけることに対して罪悪感を抱き、希望しないかもしれない。
    自分の親しい人であれば、どんな形であれ生きていてほしいと願うだろう。その一方で、自分のエゴで無理に生かすことに対して罪悪感を覚えることもあるかもしれない。「その人なら何を希望するか」を考えることも重要だ。

    しかし、本人の希望だからと言って鵜呑みにしてはだめで、それが背景文脈の中でどのような意味を持つのかを考えなければいけない。

    また、医療者として、どちらかというとこれらの医療介入を差し控える方向に志向性があることを私は自覚しなければいけない。その背景に医療資源の配分の問題などを意識的・無意識的に考えているのかもしれない。


    〇障害者の「自立」
    トイレに行けなくなった障害者がおむつを受け入れる時、本書によるとそれは障害の「受容」ではなく「自立」である。
    介護者が頑張ればトイレに連れていけないことはないが、それは介護者にとっては負担であり、そしておむつにすることを介護者側から言い出すことは時に難しい。本人の尊厳が絡むからだ。
    介護者との共存のために、自らの身体を健康で安全に維持するために、主体的に介護者を使いこなす、そうした障害者の意識変革こそが自立なんだと、本書では語られる。

    トイレからおむつに代わるというのはネガティブな響きを持ちがちだが、このような発想で考えるとポジティブにも捉えうるんだなと思った。


    〇寝たきりの人とのコミュニケーション
    本書の著者の母はtotally locked syndromeで、自己表現が一切できないとされてきたが、実はそれは受け手側が受け取れるかどうかの問題である、と本書で語られる。言語的な自己表現はできなくとも、非言語的に多くを語っているのだ。汗、体温、顔色、脈拍など・・・。

    インドのマザーハウスでボランティアをした時、寝たきりの(おそらく小児麻痺の)孤児が何人もいた。彼らは言葉をしゃべらず、私には彼らが何を考え何を思っているのかがわからなかった。でも、もしかしたら彼らは彼らなりの自己表現をしていたが、私がそれを読み取れなかった(読み取ろうとしなかった)だけなのかもしれない。

  • ALSになった母の介護をした著者のルポルタージュ

    発病から亡くなるまでの記録、著者の死生観の移り変わり、ALSの症状、介護に必要な環境などが書かれている。

    ALSについては、ただただ絶望的な病気という認識しかなかった。

    正直、自分が同じ立場だったら呼吸器は付けないだろうなと思っていたが、本書を読んで、安易にそんな選択をしてはいけないということがわかった。

    生きるということの尊さ、介護の大変さがほんの少しでもわかったような気がする。

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著者プロフィール

NPO法人ALS/MND サポートセンターさくら会副理事長。
著書に『逝かない身体』(医学書院、第41 回大宅壮一ノンフィクション賞)、
『末期を超えて』(青土社)など。

「2021年 『見捨てられる<いのち>を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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