驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

著者 : 六車由実
  • 医学書院 (2012年2月27日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260015493

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)の感想・レビュー・書評

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  • 民俗学の若き研究者として活躍していた著者だが、ある時点で大学を辞し、特別養護老人ホームで介護職員として働くことになる(このあたりの事情は本書の主題ではなく、したがって詳しいことはわからない。ただ民俗学のバックグラウンドを持つ人が介護職に就くことになった、ということになる)。

    利用者には認知症の症状を抱えている人も多い。慣れない仕事に奮闘しながら、しかし、著者は利用者たちの思い出話が非常に興味深いものを孕むことに気付いていく。丁寧に話を聞いていくと、問題行動とされていたことも、昔の記憶と深く結びついており、実は理由があることがわかった例もあった。例えば、排泄時に使用した紙を汚物入れに入れていた人。実は、人肥に紙が混ざると後で畑で使用したときに風で舞い上がってしまうことから、便とは分ける習慣があった。話を聞いていくうちに、居住区域がどの辺りで、そのような習慣があったのはいつ頃で、と話が具体的に広がっていく。
    場合によっては、他の利用者の記憶と話がつながっていくこともある。
    こうした広がりは、テーマを決めて聞き取っていたのでは生まれてこない。
    お年寄りの話を、興味を持って「驚き」ながら聞くことで、当時の暮らしの中では当たり前だったのに、今やまったく知られていない埋もれた話が聞き出されていく。

    それはまた一方で、語り手が語る意欲も刺激する。それが利用者の生き甲斐や支えにつながる例もあったようだ。
    ただ、認知症の人に限らず、話を「おもしろく」作ってしまうことは誰しもありうることで、どこまでが事実の部分なのか、見極めはなかなか難しそうだ。

    実際問題として、介護の仕事と、民俗学的な聞き書きを平行して行うのには、さまざまな困難があることだろう。他の介護者・被介護者との関わり、さまざまな決まりや制約、先例がないことによる障壁。聞き取る側の個人の資質や、語り手と聞き手の間の相性、どうしても推量が入ってしまう部分があることなども問題になりそうだ。
    しかし、著者にはそれでも、この仕事を続けてほしいなぁと思う。そしていつか、一般読者向けのこうした本をまた書いてほしい。
    澄んだ「驚き」と怜悧さを備えた目で見つめた、「その頃」の暮らしを。読者の眼前に生き生きと立ち上がるその姿を。
    可能ならば、また読ませてほしいと思う。

    とにかく、頗るおもしろかった。


    *『一〇〇年前の女の子』をちょっと思い出した。
    私事だが、先日帰省した際に、うちの両親が昔の話を滔々とし始めて少々驚いた。2人とも教員だったのだが、実家のあたりは若いうちに何年かは僻地に赴任する決まりになっている。そのころの山の村の話などなのだが、これが非常におもしろくて重ねて驚いた。思い出話には語り手の記憶の表側に浮かび上がる「時」があるのかもしれない、なんてことも本書を読んでいて思ったのだった。

  • 祖父母に育てられた自分にとって、また、デイケア施設に勤務した経験がある者として、この本が世にもたらされたことを(しかも、民俗学者であり、女性である著者というその個性と感性に)感謝したい。
    人の老いや死から生を見つめることに関心があり、これまで幾つかの本を手にしてきたが、著者の指摘する通り、「回想法」には実は私も違和感を感じていた(そんなこと・・・)と思っていた。生理的な感覚として。
    そのことをうまく表現できずにそのままにしていたが、この本の中で、著者六車さんによって指摘されたことで、自分としては随分とすっきりとしたと感じている。
    上野千鶴子さんやまた著者ご自身についてのリアルな人生への向き合い姿勢が紹介されている点も、女性として非常に強く共感を覚える。
    多くの方に読んで欲しくて、☆を五つつけました。

  • ★5つプラスα。
    民俗学を専門として研究職に就いていた著者が、介護職に移り(この背景自体に興味がそそられるが)、全く関係ないと思われていた、介護の現場こそが、現代の民俗学における、聞き書きの物語の宝庫であると気付く。

    それだけでなく、介護する側/される側の関係、老いて弱っていく高齢者に対する態度とはどうあるべきか、敬意とは、人間の尊厳とは、生きる喜びとは…
    深く深く考えさせられる。

    最後の方に記されていた、「介護予防」ならぬ、「介護準備」の考え方にも共感する。自分が介護される側に回った時、どうあるべきか、どうしたいのか。早いうちにシミュレーションし、準備しておくということ。
    老人介護ならずとも、病気にかかって弱ったとき、治療がうまく進まないとき、現実とどう向き合うか?というのはその人自身が長年培ってきた生き方とか態度というのが色濃く影響するわけで、
    まだまだ続く「現役時代の生き方」と合わせて考え実践していきたいと思った。

  • 今まで違った方向性で考えていた要素(民俗学、語り、
    聞き書き、介護など)が、それぞれ通じあって、また、
    ある異なった様相を帯びてきたようにも感じられ、
    大変興味深かった。

    心に残ったのは、
    介護されなければならない(生きていけない)側と
    介護する技術を身につけた側との関係性についてで、
    どんなに介護者の倫理をもってしても、助ける助けられる
    という非対称の関係で成り立たざるをえないなか、
    介護される側はそれをどのように受け入れているの
    だろうか、という当然といえば当然である疑問について。

    それを著者は、民俗学の聞き書きにおける、調査者と
    調査対象者の関係にまで話を繋げて、
    アカデミックな知識はあるが経験を有してない調査者が、
    民俗学的な知識が豊富な調査対象者に「教えを受ける」
    という関係性こそが「聞き書き」である、と捉え直す。

    そこまで読んで、すべてのエピソードが更に新たな光彩を
    放って輝きだし、著者が、またしても「教えを乞う」ために
    聞き書きに伺おうとする気持ちが、素晴らしさがよく理解できる。

    「聞き書き」をしばらく行った者としては、まさに同感。

  • 研究者として賞を受けるほどのひとでありながら、いや、だからこそ、なのかもしれないが、介護の現場にその身を投じ(というより介護職員そのもの、になってしまう)、著者の考えることに対する姿勢は見習わなければいけない、と考える。

    介護施設といわれる場所でたくさんのひとに囲まれて暮らしている老いつつあるひとびとの孤独を解きほぐしていくのは「赤の他人」なのか、と、祖母とともに暮らしているわたしや母としては複雑な気持ちになるところであるが、そういう「赤の他人」を緩衝剤にして、ようやくわかりあえるきっかけをつかむかつかめないか、というくらいに、家族というものは、入り組んでいてぐっちゃぐちゃでずぶずぶのべったべた過ぎてよくわからないものなんだろうな、と再確認できたような気がする。

    たとえば祖母が、その人生を終えるまでに、わたしたちとの関係性をすっきりさっぱり清算してから気持ちよく逝ってもらおうかねえ、と腐心苦心するのは最早こちらの勝手な思い込みなのだろうか、それとも、やはり、祖母は、誰かに生きてきた証を見せ語り託して逝きたい、と思っているのだろうか。そうやってわたしの考える日々は続いていく。

  • 真摯ですごい。文化人類学の力。

  • みすず

  • 民俗学の研究手法であるフィールドワークを介護の場で行った結果と、その過程について。支離滅裂だと思われていた認知症患者の話す内容が整合していたことや、患者同士の話から失われた生活様式があらわになったこと、不自然と考えられていた認知症患者の行動が過去の生活様式では自然な行動であったことが明らかになったことが具体例として挙げられている。これらの具体例は、認知症患者の介護に悩む家族が、患者の行動を理解する糸口になると思った。
    間違っていたのは介護者の方であった、という著者の気づきが多くあり、おそらくこれが「驚き」の一部である。後半には施設で介護をする立場にある人が余裕を作り難いことと、その状況下で「驚き」や好奇心をもって患者と関わることの難しさが体験として書かれている。介護について不案内な人も、最終章で介護者の苦心を窺うことができるのではないか、と思った。

  • 読みたいと思っていた本の一つで、ようやく読めた。それほど期待していなかったけれど、想像以上に面白かった。民俗学の研究者であり、現在は特養の介護職である筆者だからかける、論理的であり、さまざまなエピソードがちりばめられていて読みやすい本だと思う。
    介護民俗学という名称は大層な感じがしてしまうが、回想法との違いについてはすごく納得した。介護職が聞き書きをすることの難しさは、現場にいる筆者は百も承知だろう。それでも100年近くを生きる高齢者の人生は驚きに溢れていて、学びとしても、楽しみとしても魅力あるものであり、重度の要介護であったとしても、敬うべき存在であるという筆者の訴えは、介護職に限らずすべての人が持つべき姿勢だと思う。
    90歳の要介護1の祖母の自分史を作ったことがあるが、その作業はとても面白く、本人もその子どもである父や叔母も喜んでくれたことを思い出した。
    意味性認知症の母の自分史も作りたかったが、聞き書きは言葉が喋れないと難しく、母の人生を聴けずじまいなのは悔しい。

  • 面白かったけれども、タイトルほど学問的な内容ではない。続編ができれば、これからも読みたい。

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