大人の発達障害ってそういうことだったのか その後

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260036160

作品紹介・あらすじ

好評書『大人の発達障害ってそういうことだったのか』の続編企画。今回も一般精神科医と児童精神科医が、大人の発達障害(自閉スペクトラム症・ADHD・)をテーマに忌憚のない意見をぶつけ合った。過剰診断や過少診断、安易な薬物投与、支援を巡る混乱など、疾患概念が浸透してきたからこそ浮き彫りになってきた新たな問題点についても深く斬り込んだ。

感想・レビュー・書評

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  •  入院中に家族から暇つぶしに読んだら…とわたされた。
    本著は2013年に発行された前著の続編だ。「発達障害」が世の中に認知されるとともに、「発達障害者支援法」も改正されるなど学校や会社、医療現場などで避けて通れない状況になっている。しかし、精神科医による診断の不一致など専門医による取扱い基準は一定せず治療もバラバラ、復職支援や就労支援もサービスの質が担保されないまま金儲けで参入してくる事業者も少なからず、またスクールカウンセラーや公認心理士による支援も海外ほど充実していない。それらの問題点を赤裸々に話すことにより現場への警鐘を鳴らしている。本著をわざわざ世に出すということはよっぽど現場が酷いことになっているのだろう。さらに第3巻も期待したくなる一冊だ。

  • 前作よりもわかりやすく、また詳しくなった本作。前作でお話されていた内容を振り返りつつ、新たな内容についても触れられていて、面白かった。2022年現在でいろいろな関連図書が出ているが、前作だけだと物足りない気がするので、これから読むなら2冊とも読むのがおすすめ。

    p.14 発達障害診断は0から10までの連続的な重症度を、どこで病気と言うラインを引くかみたいな作業だから、「このぐらいだったら発達障害やASDと言わずに、環境調整をすれば良い。無理に診断をつけなくても良い」と言うことで、私が診断の閾値(いきち)を上げている、診断を狭くとっている可能性はありますけどね。

    p.47 最近、うつ病は怪しくなってきているわけです。例えばうつ病は不安神経症よりもヒエラルキーで上にあるから、うつ病と診断される人が不安を訴えても「不安神経症の併存」とは言わなかったわけですよね。ところが最近は不安と抗うつがあったら「パニック障害とうつ病の合併」になってしまう。コモビディティと考えるわけです。コモビディティとは併存疾患、共存症。

    p.53 病気が軽い/重いではなくて、「もともと生まれつきあるものだから」と言う事なんですね。僕に言わせれば、全体的に遅れているのが知的障害で、凹凸が目立つのが発達障害で、どちらも生まれつきです。知的障害の子に統合失調症の診断がつくこともあり得るのだから。

    p.57 ただ、発達障害に限らず、医者をどう選ぶかと言うことを気にしている人は結構いて、例えば統合失調症に関係することだと、最近ある人が、「クロザピンやってる施設に行ったほうがいい」と言ってるんです。クロザピンをやるには血液内科との連携が必要なので、やっている施設なら周辺との連携が取れて、周囲からもそれぞれに認められている証拠であると。

    p.60 0か1か、イエスかノーかと言う議論ではない。発達障害の特性は、正常な人も皆、多少は持っているわけです。0が1ではないので、それが抗うつの背景に50とか70とかあるんだったらそれも考えて「抗うつ+発達障害」と言うフレームの中で支援方法、あるいは予後の検討するといった方が実際的な効用は多いのではないか。それが私の考えですね。

    p.117 多動性はだんだんと弱まってきますけど、不注意は少なくとも連続しているはずです。小学生の時は、例えば親がケアして目立たないということはあると思いますけれど、多少軽くなってはきても、大人になっても基本的には連続している。それがメインです。大人になって急に不注意がひどくなったとか、あるいは逆に急に良くなったとかいうことはありえないと思います。

    p.128 ASDでも、不注意が全くない人とは不注意が目立つ目立ちADHDの合併がある人では随分違いますね。例えば整理整頓がちゃんとできるASD、できないSDでは支援のあり方がずいぶん違ってくると思うし、おそらく予後も違うと思います。几帳面で合併していない方が、会社での適用はいいかもしれないですね。また、長期予後ということも考えてもADHDを合併している人は自己評価が低い傾向が強くて、抗うつ的になりやすいかもしれません。

    p.135 薬を止める時期のアドバイスは全然されてないと思います。私は、「すべての薬は辞める時期を考えないで出すことはありえない」と言っています。どの薬も使い始めは色々と決めていますが、辞める時期の臨床試験はしていないのですからね。

    そうですね。私は患者さんが薬を飲み忘れたときに、それによって別にどうということもなかったら「やめてもいいんじゃないですか」と言いますけどね。そんなに変わらなければ「試しやめ」と言うのはもっとあって良いかもしれないですね。土日休薬と言うのは、結構多いです。最近は大人でもそうしています。こんにちは会社もありませんからね。「休み位は不注意でもいいよ」と言われればそうだろう と思うので、同意します。薬の効き方は不安定になるかもしれないですけれど。ADHDの専門誌にも休薬は効果があると言う総説があります。

    p.138 こちらの理解が悪いとかではなくて、理解の仕方に違いがあるような感じですね。離れた方が多分お互いハッピーだよねと。相手の不注意がどうしても許せない、どうしても気になってしまうと言う人はよく見えますからね。どうしても相手の欠点が気になって許せないと言う場合には、「離婚も視野に入れて」と言うこともあります。親がどうしても子供の不注意が許さないと言う場合は、子供に早めの一人暮らしを進めることもありますね。もちろん、相手から相談された場合ですが。

    p.146 早期サインとしての重要なのは社会的発達です。定型発達では1歳半ごろまでに基本的な対人交流能力が発達していきます。母親への関心はもちろん、他児への関心、要求の指差しだけでなく注意共有の指差し、自分の興味のあるものを大人に見てもらいたくて持っている物見せ行動、大人が何かを見ると、その視線を追おうとする視線追従などの行動です。そういった対人交流能力の芽生えが遅れるのがASDの特徴です。私が注目しているのは感覚過敏ですかね。成人期まで持続します。

    p.153 病識を持たせるのは難しいですよね。人によっては無理なんじゃないかなと思う時があります。あまり強く意識するように言うと、今度は話せなくなってしまう人もいますし、バランスが難しいです。

    p.174 「何があっても味方でいると言う姿勢」「スキルアップよりもその人の特性に合った調整を」

    薬以外の具体的な治療や対応
    ・理解:「相談相手になるよ」「ずっと相談に乗っていくよ」
    ・継続性:「何があっても相談に乗るし、基本的には一切責めないよ」
    ・別の医師から責められたり叱責された経験に対してアプローチ:「君が一生懸命やっていることは絶対に責めないし、基本的には何があっても味方でいる」
    ・家族との関係がぐちゃぐちゃの人:「家族とももちろん大事に付き合うけれど、対立した時はあなたの言うことをきちんと聞くし、家族に対しても守秘義務は守るよ」「家族にはあなたの言ったことを伝えないからね」

    ★「味方である」と言う姿勢が大事なのではないか

    ・「家にはAEDはいないかもしれないけど、ASDぽい人はいる」という産業医に対して→「ご本人のスキル、ソーシャルスキルを高めようとするよりも、むしろご本人からよく話を聞いて、多少なりともできる仕事を職場内で探したほうがいい、異動を考えた方が良い」とアドバイスする

    p.185 ASDは、視覚的な記憶が非常に強く残りやすい。しかも文脈盲で「こういう状況だから」と言うことがあまり理解できない→ただ虐待された記憶だけが残る。それが幼児期にあると学校に行ってからも適応しにくくなる。承認欲求がずっと満たされないんですよね。それで学校でまたいじめられたりすると、幼児期の親からの虐待がフラッシュバックする。それがずっと続いているうちに問題が複雑化してくると言うパターンです。知的に高い人の場合は、学校には比較的うまく対応するできることもある。でも、例えば結婚したり子供ができたりしたときに、そうした密な人間関係がうまくいかないと虐待のことを思い出す人が多いのではないかと僕は思います。

    p.197 医療化の半分くらいは社会化だと思うのです。医療化を是とする根拠は社会化あるいは延命化ですが、精神科の場合は社会化が大きいですよね。仕事をさせるとか、リワークに通うとか。

    p.203 今は3ヶ月に1度、「先生に元気な顔を見せに来た」と言う感じで外来に来ています。先生が「周囲に可愛がられる子は病気の予後が良い」と言われましたが、まさにこの子は可愛がられるキャラクターでした。

    p.218 「管理職になることで抗うつや不安が強まる場合も」「特性を理解し働きやすい職場を探す」
    降格させるためには、本人の同意書が必要だとか手続きがすごくややこしいらしいんです。同じ位の職位で以前の職務に近いところからうまくあればいいんだけれど、元の部署にぱっと戻すと言うことができない会社の方が多いので、職域では結構このようなケースに出くわします。

    p.222 リアル(REAL)byマーチン(女性の教育者)
    彼女は息子2人ともアスペルガーなんです。それでこういう世界に入ったのですが、ケンブリッジ大学を含め20の大学で290人にインタビューしたのです。そしてこのリアルを出した。
    ・Reliable(信頼):急な休講や抜き打ちテストはしない(急な変更に弱いから)
    ・Empathic(共感):障害特性を理解し、彼らの悩みに共感する
    ・Anticipate(予想できること):予想外のことはしない
    ・Logical(論理的に):感情的な態度や場当たり的な対応をしない; レポート出さないと怒る先生がいる。レポートを出さないの本人の責任だから点数を下げるのはいいけれど、感情的に起こると言うのは論理的ではなくて、これが非常に辛いと訴えているわけです。

    p.227 クリニックの先生は、確かに落ち込むから抗鬱剤を処方したのわけですが、その人が普段からそんなに明るいタイプではないと言うこともあって、抗うつ剤はやめたのです。抗鬱剤はそれほど悪さもしなかったと思うのですが、私が気になるのは、こういうタイプの人に対して、注意力や集中力の障害のためにうまく環境に適応できず、二次的に不安感や夕つ感を呈して抗うつ剤や抗不安剤が出ている場合です。抗うつ剤や抗不安剤は興奮させるという副作用もありますから、どこまで使っていいかと言うのは多少多少指標みたいなものがあったのかなと思いますが。私は明らかにADHDだというケースにはDHDだと言うケースには抗鬱剤は使わないで言葉による環境指導だけでいいと思ってるんですけどね。

    p.279 学校側の対応が改善しない場合やいじめが継続する場合は、僕は子供や家族に不登校を進めます。そうすると心配する親御さんや怒る先生がいますが、義務教育といっても病気の時まで登校する義務はないし、実際にインフルエンザや腹痛、怪我なので学校休む場合もあります。それなのになぜいじめられて死にたいくらい辛い目に会うのがわかっている学校に行かなければならないのか。それは子供の権利侵害です。だから自宅で勉強などをする体制を整えて、学校休めばいい。僕はそういった説明をしています。

  • 対談形式なので読みやすい。なかなか講演とかでは聞けない本音まで触れられている。

  • ADHDとASDはDSM5で同一疾患として分類されているが、臨床としては分けて考えた方が現実的な対応策を練りやすいこと、診断が社会的要請によって変化することなど、発達障害を"社会のなかで捉えていく”という視点で他に類をみない良書と思う。

  • 医局で先輩方の話を聞き耳立てて聞いているような感覚に浸れる書籍。対談形式なので読みやすい。

  • N700

  • 前書から引き続いての対談。
    より詳しく、より具体的でした。

    「リアル REAL」が使いやすそう!と思いました。
    reliable 信頼
    empathic 障害特性を理解し、悩みを共感する
    anticipatory 予想外のことはしない
    logical 論理的に。感情的な対応や場当たり的な対応はしない

  • 前著の発行から5年。前著も興味深く読ませていただいたが、5年の経過で発達障害を取り巻く環境も変わったことを印象付けられた。帯にもあるが、診断が過剰となっているのか、過少となっているのか、著者は「不適切診断」が増えていると喝破する。当たり前のことであるが、診断が社会に与える影響も考慮した上で行わなければ、精神科への信頼が揺らぐ。英米国では臨床心理士が診断も行い、治療にも関与しているが、日本では心理士が診断は行わないという問題もある。法律も変わり、色々な分野から、発達障害に関わる人たちが増えているが、それをコーディネートする人がおらず、かえって混乱している部分もあるとのこと。その上でも精神科医の役割が更に大きくなることが実感された。

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著者プロフィール

北里大学医学部精神科学教授

「2020年 『こころの科学215』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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