神経心理学の挑戦 (神経心理学コレクション)

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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784260118477

感想・レビュー・書評

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  • ・記憶の問題は厄介ですね。アプローチできそうでできないところがあるんですよ。記憶でいちばん本質的なことは、生物の行動というのをみると、これは全部記憶なんです。
    …視覚性失認などでも連合型視覚性失認(はっきりと形は見えているのに、それが記憶と結びつかず、何を見ているか理解できないという障碍)という場合には、これはパーセプト(覚えていることを意味のある何かとして思い出す脳の働き)と記憶が結びつくというふうに考えられた。認知行動のすべての基本にはだから記憶があるわけです。そういうタイプの記憶と、最近飛躍的に研究が進歩しているような、普通われわれが物を覚えるという意味での「生活的な記憶」というのが、どんなふうに結びついているのかという話までもっていかないと、記憶を理解したことにならないわけです。

    ・日本語の単位は、国語学者の橋本進吉が言ってますが、文節だと。そうすると、失語の人でも文節単位は残ってますよ。それが崩れているというのはあんまりない。そこが崩れなければ、それ以上崩すものはないんですよ。だからあんまり失文法は出ないんだと思いますね。「チチハ」というところを「ハチチ」ということは絶対言いませんからね。これはもう手続き記憶レベルで貯蔵されていますからね(英語だと単語が基礎要素で、文法のみ失われる脳障碍が存在するが日本では文法の意味と単語がセットになっていて、文法だけ障碍されにくい)。

    ・視覚情報には二つある。一つは形態。もう一つはその形態と形態、つまりアイテムとアイテムとの相互の空間関係、位置の関係。これも間違いなく視覚情報です。
    これはすごく臨床にも合うわけですが、この二つの情報は違う経路で処理されている。たとえばわれわれが臨床で経験するバリント症候群。この症状があると、対象に到達できない。見えているけれど、対象に到達できない。あるいは複数の対象があったときに、両方を同時に見ることができない。さらに自分で意図的に、対象から対象へと視線を動かすことができない、というか注意を動かすことができない。

    ・視覚性認知障害の変わった例というのは、たくさんあって説明に苦しむことが多いです。最近、教えられる症例がありました。たとえていうと、櫛なら櫛が、櫛と分からない。そこで、使ってみてもらう。それでも櫛とは分からない。それはいいんですが、こちらから「それは鉛筆でしょう?」というふうな、ちょっとひっかけた問いかけをすると、「いや、それは違う」という反応が返ってくることがある。ある程度までは分かっているわけです。
    それから、逆に、自分でたとえば櫛を鉛筆だというふうに呼称してしまうと、「じゃそれ使って下さい」というと、鉛筆のごとく使ってしまうんです。櫛であるにもかかわらず鉛筆のごとく使う。そこで、模写してもらうと、呼称でこのように積極的に間違わない時、分からないとだけ言っている時は、ちゃんと櫛を模写するわけです。櫛の形を。ところがそれを鉛筆だと呼んだ後にコピーしてもらうと鉛筆を描くんです。
    …認知に階層があって、いわゆるボトムアップにやってくる認知の問題と、トップダウンに自分が決めちゃう認知の問題とが、そこで衝突していて、ボトムアップのほうがうまく機能しないときに、トップダウンからの解釈を割りつけちゃう。それで、割りつけてしまうと、櫛でも鉛筆に見えるというようなことがあるのかもしれない。
    そうなると、そういう場合の視覚性の認知障害というのは、単に受動的に後頭葉有線野から前方へ流れてゆく情報処理の問題としてだけでは理解できない。われわれが蓄積している意味というものを入力にどう割りつけるかという問題の障害とも考えられるわけです。
    これはもう一歩進むと、幻覚の問題にもなるわけですし、もう一歩進むと妄想の問題にもなる。

  • 院試対策に買った本。でも微塵も対策にならなかった本。読み物としては好きです。

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著者プロフィール

現在、神戸学院大学人文学部教授。
1939年兵庫県生まれ。神戸大学大学院医学研究科修了。医学博士。ボストン大学神経内科、神戸大学医学部神経科助教授、東北大学医学系教授を歴任。専門は神経心理学。失語症、記憶障害など高次機能障害を研究。
著書:『脳からみた心』(NHKブックス)『神経心理学入門』(医学書院)『ヒトはなぜことばを使えるか』(講談社現代新書)『「わかる」とはどういうことか』(ちくま新書)『記憶の神経心理学』(医学書院)

「2008年 『知・情・意の神経心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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