天涯の海 酢屋三代の物語

  • 潮出版社 (2020年10月5日発売)
3.67
  • (3)
  • (6)
  • (5)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 62
感想 : 6
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784267022593

作品紹介・あらすじ

いまや世界中に広がった日本食「握り寿司」。
江戸時代に考案された酒粕から造る「粕酢」の登場が、現代まで続く寿司人気のきっかけとなった。
のちのミツカングループ創業三代、三人の又左衛門を描く歴史長編!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 現在のミツカングループの創業三代――江戸時代の3人の「又左衛門」の物語だ。

    読む前は「地味な題材だなァ」と思ったものの、読んでみたらとても面白かった。
    さすがに歴戦のプロ作家、事実に基づいて話を盛り上げる術を心得ている。

    江戸文化に造詣の深い作者だけに、酒粕由来の「粕酢」の誕生が江戸前寿司の隆盛につながっていくまでの描写が濃密だ。

    私は昔、江戸前寿司の黎明期について記事を書いたことがあり、本作にも出てくる華屋与兵衛(江戸前握り寿司の考案者)についても調べた。
    なので、いっそう楽しめた。

  • 半田市と聞いて浮かぶのは新美南吉とミツカン酢。他県から移り住んだ私はそのどちらも慣れ親しんだものなのに名古屋からほど近いその地が出自だと知らなかったのだ。

    「ゲイシャ・フジ・スシ」世界から見た日本をイメージするワードでもある「寿司」。食べた事がないという日本人はわずかだろう。物語はこの「寿司酢」を現在に近いレベルにまで引き上げた三代にも渡る人々に焦点を当てている。

    酒造りと酢の薄皮一枚な関係性。「酒が火落ち(腐造)」すると酢になり、もし酒が「焼けて」しまえば他の酒を守るため最悪廃棄してしまうのだという。
    当時の酢は酸味が強くあまり一般的には普及してしなかったようだ。が、江戸では寿司が大流行り、もしかしたらここに勝機があるのでは?と気付く。
    いつの時代にも発想の転換と努力を重ねる人々が現れ、それを支え、継承していく人々がいる。1人との思いがけない出会いが後の世に深みと拡がりを見せる。
    一族の利益は勿論、地元・半田村を守る為に尽力した経緯を知り、改めて彼の街並みを眺めてみたくなった。

    酢の物や最近では多種多様なアレンジもあり、より身近に感じるお酢。安心安全かつ安価で入手できるのも先人たちと今を大切に繋いでいる人のおかげなのだと感じた。

  • ミツカンの本社が半田にあったことに驚いた。確かにお寿司には酢が不可欠なのに、握り寿司ブームを考えるときに、酢を意識したことがなかったと改めて気づく。二百年のあいだにはさまざまな波瀾もあったわけで、小説としても面白かった。

  • 2025.8 いかにもミツカンの小説ですね。人情時代劇としても面白く読めました。

  • 江戸時代の酢製造業の商家の話。時代小説である。
    愛知県で酒蔵を営んでいた商人一家が、アクシデントで酒が腐り、酢になってしまった。酒は上方にかなわずどう頑張っても二級品ということで、分家して酢を製造することにした。
    跡継ぎが生まれずに養子をもらって学ばせたり、自然災害に見舞われたり、裏切られたり、商売や家族のいろいろな出来事を綴ってある。著者は本書の執筆にあたりかなりいろいろ調べたようだ。
    出てくる人物の名前が襲名で途中で変わったり、奥さんたちの名前が似ていたり、複雑で覚えるのを途中であきらめてしまった。最初に巨大な家系図が書いてあると、面倒臭くなってしまう。厳しいことを書くと、オチがなくストーリー展開もやや陳腐。
    江戸前寿司が米酢から粕酢を使うことで発展するところは興味深くて、美味しそうな握りずしの描写で食欲を刺激された。

  • 「蔦重の教え」の作者だけに、この作品も圧巻の読み応え。
    ミツカンの成り立ちの伝記になっている。

    副題が「酢屋三代の物語」

    不思議なことに、当主は他家からの養子が大きな名を残している。

    元々は名古屋地区の酒蔵。
    だが、いつまでも上方の酒には一歩どころか
    常に値段では半額以下。

    評判の悪い江戸の酒よりはマシといった評価。

    酒蔵で樽が酢になってしまったことに端を発し、
    もっと美味しい酢はどうしたら作れるか?
    研究を重ね、酒粕から上等な酢を作ることに成功。

    「粕酢」と言う名前の新しいお酢は、江戸に持っていき、人々に食べてもらうと、なんと、寿司屋から高評価。

    そこから、大きく商売が変わる。

    この物語は、新しい美味しい酢づくりという、大事業を成功させるまでの、歴代当主の苦労、その妻の援助を、感動的な物語に仕上げている。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

時代小説家/江戸料理文化研究所 代表。1964年大阪生まれ。江戸文化、特に浮世絵と江戸料理に造詣が深い。大阪芸術大学デザイン学科卒業。映画監督・新藤兼人氏に師事し、シナリオを学ぶ。現在は作家の柘いつか氏に師事。ベストセラーに『蔦重の教え』(飛鳥新社/双葉文庫)、『蔦屋重三郎と江戸文化を創った13人』(PHP文庫)他、『居酒屋蔦重』(オレンジページ)、『気散じ北斎』(実業之日本社)、『春画入門』(文春アート新書)など、著書は30冊を超える。江戸風レンタルキッチンスタジオ「うきよの台所」を運営。
http://kurumaukiyo.com

「2024年 『Art of 蔦重』 で使われていた紹介文から引用しています。」

車浮代の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×