ドキュメント アメリカ先住民 あらたな歴史をきざむ民

  • 大月書店 (2011年11月1日発売)
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本 ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784272330676

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  • アメリカ先住民居留地の実情を描くルポ。
    著者はカリフォルニア大学バークレー校で先住民研究を行う傍ら、コミュニティでの個人的交際もしてきた人。制度や社会などの大枠と、当事者の日常やライフヒストリーなど個人的レベルの両方について触れられている。

    アメリカ先住民は、19世紀の虐殺や同化政策といった歴史を経て、現在は公式に認められた居留地で部族政府による自治を行う(全部ではない)。独自の法制度もある。自治と言えば聞こえはよいが、貧困やインフラ不備、部族政府の腐敗等の社会問題が国に放置された状態であることも指摘されている。
    本書に書かれたことではないが、2点連想した。1点目はちょうど現在の新型コロナウィルス騒動の中、ナバホ族の居留地で感染拡大とのニュース。水道の不備等で、頻繁に手洗いできない環境であることが一因という。
    2点目は、以前観た映画「ウィンド・リバー」。これも先住民居留地の問題を扱っていた。作中人物の死が殺人であれば重犯罪として連邦捜査局の管轄となるが、暴行の末でも不慮の死と判断されれば部族政府の警察の管轄となり、そして後者は捜査体制が貧弱すぎて実質的に罪が野放しになる。法制度の違いから生じた問題。
    本書の内容に戻ると、法制度の違いによってもたらされた影響のひとつがカジノ。1980年代以降、先住民居留地でのカジノ経営が盛んになった。国としては一部の特区(ラスベガス等)以外では禁止されているもの。カジノの利益は部族政府により先住民に分配され、福祉などに利用される一方、問題ももたらす。本書ではカジノ経営にあえて手を出さず、ホテル経営や再利用可能エネルギー、ハイテク産業によって経済的向上を目指す人々の取り組みも紹介されている。刊行が2011年だが、現在の状況はまた変わっているだろうか。
    先住民というアイデンティティには生物学的な面と文化的な面の両方がある。制度的に先住民として認められるにはどこかの部族に登録する必要があるが、登録の基準は血。カジノの利益分配目当てで登録する人もおり、混血が進む中での基準が揺らいでいる。登録制度そのものが本来の文化に十分配慮せずに作られている。
    第2-3章では黒人と先住民の関係にも触れられる。いずれもアメリカ社会全体としては差別を受けやすい側だが、先住民はかつて黒人奴隷を所持していた歴史もある。先住民と黒人両方の血を引く青年(第2章)の境遇から、先住民コミュニティには黒人への差別意識があるが、黒人コミュニティは見た目が黒ければ受け入れてくれるという実情が分かる。両者に受け入れられるアイコンとしてのマイケル・ジャクソン。差別・被差別の関係は複層的だ。

  • 仕事で読む必要を感じた本。読む気があるうちに手に入れて読まなければ積読になってしまう・・・

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著者プロフィール

鎌田遵 (かまた じゅん)

亜細亜大学教授。
1972年、東京都生まれ。高校卒業後に渡米。
以来、30年以上にわたって、先住民族やアメリカ社会においてマイノリティとされる人びとの社会運動、経済開発、環境問題などに関する研究に携わってきた。

カリフォルニア大学バークレー校 ネイティブ・アメリカン研究学科卒業。
同大学大学院ロサンゼルス校 アメリカン・インディアン研究学科修士課程修了。
同大学大学院ロサンゼルス校 都市計画学研究科博士課程修了(都市計画学 Ph.D.)
同大学バークレー校 社会変革研究所客員研究員(2009年〜2011年)

主な著書に『ぼくはアメリカを学んだ』(岩波ジュニア新書)『ネイティブ・アメリカン——先住民社会の現在』(岩波新書)、『ドキュメント アメリカ先住民』(大月書店)、『辺境の誇り——アメリカ先住民と日本人』(集英社新書ノンフィクション)など。

「2024年 『パリ その光と影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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