近代とホロコースト

  • 大月書店 (2006年9月20日発売)
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本 ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784272430697

感想・レビュー・書評

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  • 目的:ホロコーストの教訓としての近代論、文明論、文明化
       ホロコーストは近代が無視し、矮小化し、解決を怠ってきた古い緊張関係同士の異常な邂逅と、近代的進歩が生んだ合理的・効率的行動という強力な道具同士の異常な邂逅によって起こった。
    1.序章
    ・アウシュッビツは、近代工場システムを平凡に応用した結果 ファインゴールド 12
     ・ホロコーストを想像可能にしたのは、近代文明の理想的世界。産業社会の技術的成果と官僚的社会。19
     ・親衛隊本部の「総務・経理部」       Weberの合理性
      「正確さ、スピード、明快さ、事務知識、連続性、裁量能力・・官僚主義的組織運営
       仕事の「客観的」遂行とは、主として「人間的配慮なしに」信頼しうるルールだけに従うことを意味する。20         広島原爆・・「合理的」に処理する
    ●Weberの合理性の条件とメカニズム
     ・「家庭と企業、個人収入と公的歳入の分離など、ビジネスの合理的行動に必要な条件は、目標が明確な合理的行動をほかの(つまり、非合理的な)基準によって支配されたプロセスから切り離し、非ビジネス部門の行動における相互扶助、連帯、双方向的尊重などという原理の束縛的影響力から解放する根拠としても機能する。こうした合理的傾向の成果は、予想どおり、近代官僚制度により体系化、制度化されることに至った。」
     「合理的傾向がその主要な関心たる道徳性を沈黙させるに至る様子も見えてくる。」
     「社会学は合理的行動原理を対象の基本的構成要素と想定し、同じ原理を自らの基準とする。社会学は倫理的課題を自らを拘束する規律として、共同体のイデオロギー問題として、したがって、社会学的(科学的・理性的)言説とは異質の問題として扱う。禁煙化された衛生的な官僚のオフィスでは、「人間の生命の尊厳」、あるいは、「道徳的義務」といった言葉は異様に響くが、同じように、社会学のゼミでも異様に響くのだ。」
                                         38-39

    2章.3章 近代、人種差別、殲滅
     ・人種差別の特殊性:眼前からの切除によって人工的社会秩序を構築するために、建築と造園技術に医学的技術を組み合わせた
     ・アウシュッビツ以前:精神障害者や身体障害者の抹殺による人種的に優生な男女の組織的交配(優生学) =社会合理的管理  92
     ・異物拒否症と人種差別、ホロコーストは違う。ホロコーストは近代的心理と近代的組織のある部分に深く根ざしている。     105

    4章.ホロコーストのユニークさと通常性
     犯罪者たちはみな狂っていたわけではない。むしろ、当時の教養ある人間であった。107
     ホロコーストの出現によって理解不能となったのはわれらが西洋文明であった。 108
    1)問題
    ・ホロコーストが単なる学問的課題として捉えきれない理由
     ①ホロコースト後もわれわれの集団的意識や自己理解の歴史には、ほとんど何の変化も起こらなかった。社会科学全体、社会学にも。100
     ②かつてホロコーストを生んだ条件が根本的に同じ形でいまも残存している。  111
      現在の「文明化された」社会の多くの特質には大虐殺的ホロコーストに向かわせる傾向が組み込まれている・・111
     ●ホロコーストは近代の社会規範や組織・制度と、不思議にも衝突しなかった。それどころか、ホロコーストの実現を可能にしたのがこれらの規範や組織・制度であった。近代文明とその実質的大成功がなければ、ホロコーストはありえなかった。
    2)例外的大量殺戮
     ・ホロコーストは、「近代的なやり方、つまり、合理的、計画的、科学的・専門的・協調
    的なやり方」でなされた。105
       必要なのは、「官僚制度」「権威への服従」「ルーチン形成」による「統制」116
     ・近代的大量殺戮は目的をもった大量殺戮。
      「目的とはこれまでとまったく違った、よりよき社会の建設」「近代的大量殺戮は社会工学の一部であり、完全なる社会の設計図に適合する社会秩序をもたらす」 118
     ・「造園文化」-雑草の除去  119
     ・ただし・・  近代=ホロコーストではない。・・・      121
    3)近代大量殺戮の特殊性
     ・合理的行動という近代的手段を独占できる絶対権力がモダニスト的な夢を抱き、それが効果的な社会制御の縛りから自由になると大量殺戮が発生する。121
     ・近代のホロコーストのユニークさ
      ①近代的である
      ②分散した平凡な要素を結合した。   122
    4)ヒエラルキー的・機能的分業
     ・暴力と道徳的評価の切り離し  「官僚制」「官僚的モデル」
      ①機能による厳正な分業  127
    距離の増大 「自らの命令のもたらす結果を完全に知ることなく命令をくだす」128
      ②道徳的責任と技術的責任の置き換え 技術と道徳的基準の無関係
       官僚的作業の技術的成否に、道徳的基準は無関係  131
    5)官僚制度による対象物の非人間化
     ・官僚制度は対象物を倫理的に中立的な、純粋に技術的な形で扱う。
     ・扱うものは、行為の経済効果    「総務・経理部」
    ・問題なのは、「プロセスの効率化」「コスト削減」  134
      =「合理化」
    6)ホロコーストにおける官僚制度の役割
     ・「対象の正確な定義、定義に合致する人間の登録、各人のファイルの作成、ファイルにのった人物と定義からはずれファイルにのらなかった人物の隔離」135
       →「ドイツ浄化の任務」
        「官僚的行為がぎっしり」136
     ・よりよき合理的な社会秩序の大胆な設計図と、そうした設計図を描きあげる能力
    7)近代的安全装置の破産
     ・近代:日常生活からの暴力の消滅→日常生活の無防備化
     ・科学はあらゆる道徳的思考、とりわけ、宗教と倫理学に疑問を投げかけ、その権威を衰退させることにより、大量殺戮への道をひらいた。  140
      科学―価値自由
     ・科学者の真実の探求→ナチスの人種政策の立案と実施における生物学と医学の貢献
       =理性は国家の組織犯罪の道具
     ・文明は、大量殺戮に対して安全な防波堤を作ることはできなかった。
    8)結論
    ①国家の絶対的優位性 社会統制の共同体メカニズムの消滅 145
    ②近代は人工秩序と巨大な社会設計の時代であり「造園家」の時代  146
    ③近代国家の官僚制度の頂点に君臨する、非政治的な力(経済的・社会的・文化的)から解放されたグランドデザインの提唱者こそが大量殺戮の原因。
    グランドデザインによる正当性の付与と国家官僚機構による媒介  147
    ④道具的理性の教科書的応用とそのためのネットワークの駆使 心理的距離 149
     殺される犠牲者から彼らが心理的にたいへん隔たっていた    149
     情報技術の急速な進歩による心理的距離のさらなる広がり
     具体的状況との接触の抽象化

    5章 犠牲者の協力を請うて
    ・自らの利益に反する行動でもあえて行為者にとらせる官僚組織の近代的合理的能力158                                      
    ・行為者の合理性と行為の合理性の齟齬←行為の環境(不均衡、非対称な関係)
     →「合理性の欠陥」                            194

    6章 服従の倫理―ミルグラムを読む 
    ・官僚制度→技術を道徳化、非技術的問題の道徳的重要性を否定 209
    ・社会的距離が作る非人間性 202、210     *対策―多元主義   216
    7章 道徳の社会学的理論に向けて「近代とホロコースト」    2009/01/16 ARAKI

    ・技術の道徳化 悪の社会的特性、非道徳的行為の社会的生産(6章)
     ↓
    ・社会と道徳的行動の関係を徹底的に調査しない限り分析は不十分     221
    しかし、社会学では道徳に言及しない。 222
    ・禁煙化された衛生的なオフィスでは、「人間の生命の荘厳」あるいは「道徳的義務」といった言葉は異様に響くが、同じように、社会学のゼミでも異様に響く   37
      社会学がどれほど科学文化に根ざしているか。

    1.道徳工場としての社会
     ・道徳的基準を社会との因果関係において説明する方法、道徳=社会的生産物
    ①社会的機能から説明(クラックホーン、マリノウスキー)
      ②道徳―社会の統一、社会の存続としての機能(デュルケーム)
         社会は道徳的教化の力を持つ実体  225
     
      →すべての道徳は社会に由来する。社会=道徳生産工場。非道徳は周縁化。抑圧
       非道徳的行為が起こるのは道徳的規範の供給不足、「道徳の社会的工場」の技術ミス
       非道徳的行動=「規範からの逸脱」、未解決の管理問題「アノミー」   227
       道徳的行動=社会的従順さ、大多数の規範への服従  228
    ・道徳的教化に貢献したのは、「社会それ自体」ではなく、近代西洋社会   226
    2.ホロコーストの挑戦
     ・ホロコースト→社会的に支持された原理・原則に従わない行為、社会的連帯とコンセンサスに正面から逆らった行為の方が逆に道徳的であるという事実に直面 230
     ・人間にとって自らの判断だけが指針→道徳は社会にもとづくという見方の否定 231
     ・社会的に強制された道徳は共同性に準拠したものだから、多元的、不均質、相対的
     ・道徳に対する視点の変更                        232   
    社会化、教育、文明化の人間化プロセス→規範維持、緊張管理の為の抑圧的プロセス 
     ・道徳能力の存在要因
       Societal(connected with society and the way it is organized)ではなく、
    Social (
    3.道徳の前=〈ソシエタール〉的起源
     ・「他者とともに存在すること」
      ①社会学―他者=行動のコンテクスト、状況、環境の包括的概念。主体性は無い      
    他者の重要性―目的達成の可能性への影響(技術―効率、効果)
            道徳的配慮は非合理的要因          235
      ②サルトルの〈自我〉と〈他我〉    235
       他者―主体性を備えた他我 他者=私の自由の限界点 厄介者、重荷、敵対的
      ③レヴナスの他者に対する「責任」  
       ・「他者が私のことを見ているだけで、その人に対して責任が発生する」237
       ・私の責任の無限性―他者の近くに私はいるから、彼の顔や表情が・・・238
         =実存的責任  契約的義務とはなんの縁もない。相互利益とも無関係
          それは私だけの問題、非道徳的要素(利害、合理的要素)の影響は受けない。 
    ・対人関係のもっとも純粋な基本構造は道徳  239
    道徳は社会の産物ではなく、社会が操作するもの。利用し、方向を変え、強制する
    4.社会的近接性と道徳的責任  240
      ・あらゆる道徳的行為の礎石ともいえる責任は、他者との近接性から発生する。
    近接性は責任を意味し、責任は近接性を意味する。
      ・近接性に代わる選択肢は社会的距離。社会的距離の道徳的属性は道徳的関係の欠如であり、異物恐怖症である。近接性が侵食されると責任は沈黙する。
      ・近代合理社会の技術と官僚制度→分離→社会的分離へ
        →近代的工場、大規模化による労使の距離の増大→過酷な労働 
    地域との社会的距離大、関係希薄→公害  博論
      ・近代の技術的・科学的訓練は純粋に技術的で官僚的な心性を生み出した。
       「肉体的苦悩を目前にしてあらゆる正常な人間が感じる生物的同情」を克服
         大衆―ユダヤ人に対する物理的抑圧に嫌悪感―切れば血の出る隣人   242
      ・反ユダヤ主義的法制度→ユダヤ人の再定義、ユダヤ人とドイツ人の分離   243
      ・抽象的カテゴリーとしての他者 /私が個人的に知る他者 245
    =道徳的領域外          =道徳的領域
    5.道徳的責任の社会的抑圧  245
    ・ホロコーストと異物恐怖症とは無関係。人間の性癖の発露、敵対関係でもない
      ・原初的道徳への衝動を中和する(起させない)、適用される領域から殺人装置を分離、道徳的衝動を周辺化、目的とは無関係であることを証明→ホロコーストの成功 246 
    中和・分離・周辺化―近代産業、運輸、科学、官僚制度、技術を利用して成功
      ・ユダヤ人の非個人化、抽象的存在→法制化による合法的分離 →ホロコースト
      ・始めの定義の段階から段階が進むにつれ、行動は純粋に合理的、技術的になり、道徳的抑制は無視できるようになった。251
    6.社会による距離の生産
     ・道徳は人間同士の近親性と固く結び付いている。視覚的遠近法の法則にも合致
     ・近代合理主義社会―非合理な基準を廃し、合理的基準に置き換えることに成功
    ①「リモート・コントロール」の発達=人間の行動が効果を及ぼす距離の増大
    →行動の結果は道徳的評価が届かない位置             252
    行動の真の目標を「遠く離し、見えるか見えないか」にすることによって」達成
      ②行動の仲介者の大規模な導入
      ・労働の細かな分割(分業)、行為の厖大な数→ほとんどの構成素は道徳とは関係ない
      ・行為者が従事するのは、与えられた部分目標に適した手段を発見する合理的作業
      ③組織への忠誠心が行為者の道徳的衝動となる
      ④仲介者の個人的責任は専門知識の提供→専門家の助言に従う→心理的距離を確保
        専門家の説く行動の必要性が納得されたとき、非道徳的行動におよぶ。  258
    7.最後の所見
     ・強力な道徳的衝動は前社会的起源をもち、その拘束力は近代社会組織の一部の側面のおかげで激減した。               =近代官僚制度と官僚的専門性
     ・道徳的責任の圧力を弱めた社会的達成物
     ①距離の社会的生産
     ②道徳的責任の技術的責任への置き換え
     ③隔離の分離の技術
      →国家権力によって強化

    • wankoronyanさん
      このレビューがあれば再読の必要なし。ありがたい。
      このレビューがあれば再読の必要なし。ありがたい。
      2014/03/27
  • 近代についても、ホロコーストについても、画期的な一冊である。

    「近代」の本質は、「効率」への追求だと言える。それによって、人間同士が接し合う経験が分業や様々な括りで間接になっていく。自らの動きの端末に、どのような人がその影響をどう受けているのかを想像できなくなる。そういう意味では、ホロコーストの発生は、偶然ではなく、近代そのものを反映している。

    今の私たちは、近代化を進めようとしているのか、それとも近代化を止めることができなくなっているのか。

  • ホロコーストは反ユダヤ主義だけでは起らなかった。近代的システムの合理化があったからこそ起きえた。
    近代化の影が表出したのがホロコースト。その闇を解説する。

     
     マックス・ヴェーバーの論じたプロ論を前提に知っておくのが大事。西欧近代化では、プロテスタンティズムの禁欲主義的思考の素養があったから、資本主義の合理的思考が根付いた。勤勉なプロテスタントは科学技術や官僚制の発展、呪術的な迷信の否定により、社会の合理化を進めた。
     しかし、合理化の進んだ社会には陰りも見られる。ヴェーバーはこれも予想していたが、ホロコーストはその側面が表出した結果である。

     合理化の負の側面。
    ●社会が歯車的に動くようになって、人々のつながりが間接的になった。社会構造が高度になれば人々のつながりはさらに遠くなる。それによって、人々の道徳観念が行き届かなくなる。(※工場の生産向上によって公害が起きる。しかし、労働者は勤勉に働き道徳的罪悪感はない。このギャップが生まれる。)
    ●科学技術の発達で、思考の根拠に道徳観念が用いられにくくなる。専門家の理論に整合性があれば非道徳的な行為にも正義を感じるようになる。また、責任の所在が科学的根拠になるので、個人の責任感が薄れる。一人一人の情操が鈍る。

     これらの負の側面をこの本では中和・分離・周辺化と表している。

     近代のドイツでは官僚化が進み、非常に合理的な行動を国民が取れるようになった。これもナチの教育の成果だろうが。
    ・ 社会の合理化によって人々の心の距離が遠くなった。その結果、自分の行為が他人にどのような影響を与えるか気づきにくくなった。これ道徳的衝動を中和(起こさせなく)するという。
    ・ 産業の合理化によって人々の労働が高度に分業化された。その結果、自分の行為の結果を知ることが難しくなった。(※自分の作っている殺虫剤が何に使われているかはわからない。どこのガス室で撒かれているかはわからない。)これを自分の行動とその結果を分離(思考・感情・距離を遠ざける)するという。
    ・ 科学技術の発展により、思考の根拠が科学的な方に偏る。その結果、自分の行動が自分以外のもの(科学)に決められるようになる。これを行為の意思決定を周辺化(責任を転嫁)するという。

     さらにユダヤ人を非個人化・抽象的存在化することで分離化した。これにより道徳的感情の周辺化が成され、ホロコーストが完成した。


     ホロコーストはこのように近代の合理主義的思考があったからこそ起きえた。また、合理主義的工場システムがあったからこれほどの人数の虐殺が行えたといえる。


     ヴェーバーは西欧近代化の合理的精神は否定していない。むしろ称賛している。しかし、警鐘も鳴らしていた。そして、そのようになった。

     現代社会もこの資本主義を継続している。つまり、合理主義の闇をいまだに抱えているのである。

    「我々も歴史を繰り返す可能性を十分に持っている。」


     日本の原発問題も完全にこれだ。科学過信の責任の周辺化。都市で消費するエネルギーを生み出すリスクは地方に押し付ける、リスクの分離化。マジョリティの生活向上実現という道徳感情の中和。

    __

     近代化はホロコーストの十分条件ではないが、必要条件になりうる。
     反ユダヤ主義はホロコーストの契機の一つにすぎない。ホロコーストは近代化の抱える矛盾が表出するべくして顕れたに過ぎないのだ。近代化の…恐怖!!

    __

     訳者あとがきで興味深い記述が多い。素晴らしい。
    ●ホロコーストの共同的記憶とその表象にかかわる現象(ホロコースト関連の研究や書き物の出始め)の特異性はその直後には起らず、20年たった1970年代にはじまったことと、ホロコーストの生還者が多いヨーロッパではなく、アメリカで起ったことである。これは裏を返せば、ホロコースト後から20年間アメリカでこの事実が沈黙されたということでもある。
    ●バウマンはジェノサイドを近代特有の産物としているが、20世紀に起きたジェノサイドには中国、カンボジア、東ティモール、ルワンダもある。これらの国家は西洋以外にあり、近代国家とは言えないものだった。彼はここでも近代化の理論を持ち込むのだろうか。

  • ホロコーストはまさにユダア人の悲劇であった。ホロコーストは近代合理社会の中で文明が高い段階に達した社会、文明、文化の問題である。自然治癒されることはない。
    反ユダヤ主義とホロコーストの関係以上に因果関係の明らかな関係は少ない。ヨーロッパのユダヤ人が殺されたのは殺害したドイツ人やその地区で殺害を幇助した人間がユダヤ人を憎んでいたからである。ホロコーストは数百年におよび宗教的、経済的、文化的、民族的憎悪の劇的クライマックスだった。
    ユダヤ人の奴隷化はナチスの目的ではなかった。ナチスの当初の究極目標は大量殺人ではなく、ユダヤ人の完全除去、すなわちドイツ民族の生活圏からユダヤ人を効果的に排除することだった。
    ナチス時代を専門とする歴史学者のあいだでは、ホロコーストの実行に不可欠だったのは、ユダヤ人に対するドイツ人の一般的敵意の動員ではなく、中和だったという共通認識が出来上がっている。
    中和、分離、周辺化はナチス体制が近代産業、運輸、科学、官僚制度、技術を利用しながら成功させた。
    ナチスが最も成功したのはユダヤ人の非個人化であった。

  • ちゃんと読む前に返却期限が来たので記憶のため記しときます。手元に欲しいなあ、この本。

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