〈悪の凡庸さ〉を問い直す

  • 大月書店 (2023年9月25日発売)
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本 ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784272431090

作品紹介・あらすじ

アイヒマンを形容した〈悪の凡庸さ〉。アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。この概念の妥当性や意義をめぐり、アーレント研究者とドイツ史研究者が真摯に論じ合う。

[目次]

序 いま〈悪の凡庸さ〉の何が問題なのか

第?部 〈悪の凡庸さ〉をどう見るか
1 〈悪の凡庸さ〉は無効になったのか――エルサレム<以前>のアイヒマンを検証する
2 〈机上の犯罪者〉という神話――ホロコースト研究におけるアイヒマンの位置づけをめぐって
3 怪物と幽霊の落差――あるいはバクテリアが引き起こす悪について
4 〈悪の凡庸さ〉をめぐる誤解を解く

第?部 〈悪の凡庸さ〉という難問に向き合う――思想研究者と歴史研究者の対話
1 〈悪の凡庸さ〉/アーレントの理解をめぐって
2 アイヒマンの主体性をどう見るか
3 社会に蔓延する〈悪の凡庸さ〉の誤用とどう向き合うか

感想・レビュー・書評

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  • 122号を読んで〜ハンナ・アーレントと「悪の凡庸さ」 - 一人ひとりが声をあげて平和を創る メールマガジン「オルタ広場」(2014.3.20)
    https://onl.sc/KnxQ8Ku

    ハンナ・アーレント「悪の凡庸さ」に通じる安倍政権の面々|日刊ゲンダイDIGITAL(2018/11/17)
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/241833

    【浪速風】悪の凡庸さ - 産経ニュース(2022/4/13)
    https://www.sankei.com/article/20220413-XSAWQFXEK5PRZKNUJAYYU3S2FI/

    悪の凡庸さ ~大衆の思考停止こそ社会的罪 映画『ハンナ・アーレント』 | Novella | 映画・音楽・書籍のレビュー & 恋と生き方のエッセイ(2023年4月25日)
    https://novel.onl/hannah-arendt/

    〈悪の凡庸さ〉を問い直す - 株式会社 大月書店 憲法と同い年
    http://www.otsukishoten.co.jp/book/b630603.html
    ーーーーーーーーーーーーー
    「アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。」

  • 「悪の凡庸さ」というと一般に、平凡な人物が盲目的に上からの指示にしたがい、結果として恐ろしい悪に加担することを指す。官僚などが職務に忠実に物事にあたったがゆえに、戦争犯罪といった、醜怪な悪事の一端を担うことになるわけだ。
    元はといえば、ナチス親衛隊員でユダヤ人大量移送に関与したアドルフ・アイヒマンを評して、哲学者ハンナ・アーレントが述べた言葉から来ている(『イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告』)。終戦後、南米に逃亡していたアイヒマンは、イスラエル当局に捉えられ、1963年、エルサレムで裁判を受ける。ユダヤ系ドイツ人であるアーレントが裁判の傍聴記として書いたのが前出書である。その中で、アーレントは「悪の凡庸さ(陳腐さ)(Banality of Evil)」という言葉を使っている。
    この言葉はかなりのインパクトを持って世間に受け入れられ、スタンレー・ミルグラムの服従試験(いわゆるアイヒマンテスト)やスタンフォード監獄実験といった、「普通の人」が権力を握ったがゆえに悪に傾いていくことを示唆する心理実験なども展開されていく。
    だが、実際、アイヒマンとはどういう人物だったのか。そしてアーレントが「悪の凡庸さ」という言葉で表そうとした概念はどういうものだったのか。
    それらと、世間一般に抱かれているこの言葉のイメージに、かなりの乖離があるのではないかというのが本書の主眼である。

    そもそもアイヒマンは上の命令に唯々諾々としたがうだけの「小役人」であったのか。そのあたりにスポットライトを当てたのが、ベッティーナ・シュタングネトの『エルサレム〈以前〉のアイヒマン』である。南米での逃亡・潜伏時代のアイヒマンは、饒舌で、ナチス時代を後悔するわけでもなく、むしろ自分の現在の境遇に不満すら抱いていた。「命令で」「仕方なく」やったというには主体的でありすぎたアイヒマンの姿が浮かぶ。

    実際、専門家の間では、人口に膾炙した「“凡庸”なアイヒマン像」は、実態に即していないというのは既に認められたことであったという。にもかかわらず、世間一般の認識との大きな差はどうして正されぬままなのか。
    「悪の凡庸さ」に関する論点を、歴史学者とアーレント研究者(思想研究者)がさまざまな視点から解き、対談も行ったのが本書である。

    アーレント研究者の主張からすると、アーレントがいった「凡庸さ」というのは、「よくある(common)こと」を指しているのではなく、またアイヒマンが結果をまったく想像せずに業務を行っていたとアーレントが考えていたわけでもない。彼は相当理知的で、結果についても十分理解をしていた。けれども自分の枠組みの外側から、それを考え直すことをしなかった。ある種、紋切り型の言葉、紋切り型の行動にしたがい、惨事の中でかなり大きな役割を果たしたことを「凡庸」と呼んでいる。
    彼女はある意味、この言葉がもたらすインパクトも予想していた。キャッチ-なフレーズが衆目を集めるだろうと考えてはいただろう。
    とはいえ、初出となった『エルサレムのアイヒマン』は雑誌連載が元となっており、その言葉の概念についての説明が十分だったとは言えない。むしろ、やや不用意であったと言ってもよいだろう。
    そこから誤解が生じ、十分に訂正されることもなく、現在に至っていると言えそうだ。

    さほど長い本ではないが、経緯に対する歴史学者の苛立ちや、歴史学者と思想学者のスタンスの違い、あるいは専門家の常識と世間一般に流布する誤った説との乖離など、読みどころはいろいろある。すべてにクリアな結論が出るわけではないが、考える種や気づきも多い。

    個人的にはホロコースト関連の話にはずっと関心があり、断続的ではあるが、関連本や映像作品にも触れてきた。その延長線で数年前、アーレントを扱った映画(『ハンナ・アーレント』)、アイヒマンを扱った映画(『スペシャリスト』)やその他の映画・ドキュメンタリーなども見てきた。そうした中で、記録に残るアイヒマンを「知らずに悪事に加担した平凡な小役人」と捉えるのは、徐々に違和感が大きくなった。
    この点に整理がついたのは収穫だった(ここまでが長かった・・・)。
    この後もホロコーストを追うかどうかは昨今の中東情勢を見ると少々考えるところはある。いずれにしろ、少し別の面から考えていくことになりそうな気もする。

  • 元ネタ無視で乱用されがちな「悪の凡庸さ」という言葉(概念)をめぐる考察本です。
    ・アーレントは何故この言葉を選んだのか?
    ・そもそもアーレントはアイヒマンの人物像を適切に捉えられていたのか?
     ・歴史上の特殊な大罪を普遍化できるのか?
    …などの論点があって、いずれも研究者でも容易に答えが出せていません。
    やはり『エルサレムのアイヒマン』を読んで、自分なりの答えを見つけるしかないのでしょうね。
    読みやすいのに決して内容は薄くなく、めちゃくちゃ面白かったです。
    思想研究と歴史研究でもそれぞれアプローチと考察が違っていて、噛み合わないところも含めて、それも意義のある邂逅だと感じられました。

  • 思想研究と歴史研究で見解が異なるのは興味深い。アーレント擁護とナチス批判の対立が原因だろうが。尚、大月書店だからか安倍批判に絡めているのが余計かな。

  • 「悪の凡庸さ」
    人口膾炙された意味合いはアーレントが意図したことを正確に理解しているものなのか、そしてアイヒマンに該当する言葉なのかを問い直すという内容

    おもしろかったです

    アイヒマンは平凡な小役人ではなく、ナチス組織内で昇進欲の強い、能動的に働くタイプの人だったらしい
    それゆえ積極的にホロコーストに加担していたという

    歴史研究家と思想研究家が、同じ文献や事実関係を対象にしているのに、注視ポイントやこだわるポイントが違うために解釈が違ってくることに驚いたしおもしろかった

    内容は難しいけれど読みやすくて良い本でした
    私は「悪の凡庸さ」は思考停止ではいけないという自分への戒めの言葉として大好きです

  • 東2法経図・6F開架:234.074A/Ta89a//K

  • 面白いし読みやすい。
    エルサレムのアイヒマンが難しすぎた自分にとっては良い解説本になった。
    後半の対話もバチバチな感じで緊張感があった。主体性と忖度についての議論は特に良い。
    何冊か深掘りしたい人へのおすすめが紹介されてたから、読んでみよう。

  • 面白かった!
    難しそうかな?という予想に反して、夢中になって読了。アイヒマンの行為主体性の話は、組織で働く1人の人間として考えさせられます…。
    論文から対談という構成も、難しいところをフォローしてもらえる感じで良かったです。

  • ちょっと間違った読み方かもですが、問いに対して違う専門知がコンテキスト擦り合わせつつ議論深めていく様に興奮しました。面白かった。

    凡庸さに対する認識や見解は概ね一致を見つつ、どう評価するかは捉える抽象度や会話の文脈で異なるのかなあと思いつつ、そうなる可能性への視点は常に持ちたいと思いました。

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著者プロフィール

【訳者】田野大輔(たの・だいすけ)
1970 年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。京都大学博士(文学)。現在、甲南大学文学部教授。専門は歴史社会学、ドイツ現代史。著書に『魅惑する帝国――政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会、2007 年)、『ファシズムの教室――なぜ集団は暴走するのか』(大月書店、2020 年)、『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(共著、岩波ブックレット、2023 年)、『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』(共編著、大月書店、2023 年)、『愛と欲望のナチズム』(講談社学術文庫、2024 年)などがある。

「2025年 『普通の組織 ホロコーストの社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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