遺伝子という神話

  • 大月書店 (1998年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784272440269

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  • さらに、遺伝子によって私たちが特定の状況のもとで特定のやり方で行動するようになっているという主張には、発生生物学の法則についての生物学上のなみはずれた無邪気さと無知がふくまれています。DNAは生物の発生と成長に影響を及ぼすうえで、いくつかの仕方で作用します。
    まず第一に、タンパク質の正確なアミノ酸配列が遺伝子に暗号化されていますが、特定のタンパク質のアミノ酸配列それ自身が、私たちを自由主義や保守主義にすることができると言い出す者はひとりもいないでしょう。
    第二に、遺伝子は、発生と成長の過程のどの時期に、体のどの場所で、どのような特定のタンパク質を作り出すべきかに影響をおよぼしていて、つぎに、このことが細胞の分裂と成長に影響をおよぼします。したがって、つぎのようには主張できるかもしれません。
    発生と成長の過程で、遺伝子のスイッチがオンやオフになることで決められる、中枢神経系の神経細胞の結びつきの変更不可能なパターンがあり、これが私たちを戦争好きや平和主義にすると。しかし、このためにはつぎのような中枢神経系の発生と成長の理論を必要とします。
    中枢神経系の発生と成長の過程で偶然に生じる出来事の余地はまったくなく、また経験によって精神機構が創出されることもまったくないという理論です。アリの社会には、各個体の仕事の分担と個体間の関係が見られますが、このような社会構造は私たちの社会と比べると非常に単純です。
    しかし、このようなアリの萌芽的な社会でさえ、外的な世界の状況にたいして非常に柔軟性があります。
    アリのコロニーには、時期によって、またコロニーがどれくらいの期間、あるテリトリーを占めていたかによって、集団としての社会行動を変えます。
    人間の中枢神経系にはアリよりも数千倍も多い神経細胞の結びつきがあり、人間の中枢神経系が状況にたいして、遺伝による完全に型にはまった変更不可能な対応だけを行うとみなすには、莫大な数の仮定が必要になります。
    人間社会の状況の途方もない多様さにたいしては、私たちがまったくもっていないような大量のDNAが必要になってしまいます。
    約二十五万個の遺伝子を作り出すのに十分なDNAを人間はもっています。
    しかしこのDNA量は、人間の社会機構が特異的な神経細胞の結びつきによって詳細に暗号化されているとすれば、人間の社会機構の途方もない複雑さを定めるためには不十分です。
    社会行動の最も一般的な概略だけが遺伝子に暗号化されていると認めるとすれば、さまざまな状況に応じたかぎりない柔軟性も認めなければなりません。(『遺伝子という神話』p112)

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