創薬科学入門 薬はどのようにつくられる?

  • オーム社 (2011年11月25日発売)
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本 ・本 / ISBN・EAN: 9784274503610

感想・レビュー・書評

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  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:499.3||S
    資料ID:95160460

    どのようにして薬が創られるのか?
    分かりやすく解説した本です。
    (生化学研究室 小林直木先生推薦)

  • タイトルの通り、入門書。専門用語が多いが、それを気にしなければ素人でも読みやすい。

    心療内科に通い、処方された睡眠導入剤や抗うつ薬を飲むようになったのがこの本を読んだきっかけ。薬を飲むことで現れる不快な副作用、効いているという感覚。それまでは薬と言えば風邪薬などばかりで、そのような感覚に目を向ける機会がなかった。薬はどういうものなのか、体にどんな影響を与えるのかを気にするようになった。

    この本は、そういった疑問や好奇心を満たしてくれる。
    ・薬とはどういったものなのか
    ・どのように体に作用するのか
    ・どのように開発されているのか
    ・開発するのはどれだけ困難なのか(これが一番感動)
    ・どんな種類の薬があるのか
    etc...

    この本を読むコツは、沢山出てくる専門用語を気にせず、止まらずに分かる部分を楽しむことだと思う。

  • 医薬とは何かという事から、各薬効別の医薬品の開発まで一通り網羅した本。著者は国内製薬企業で研究開発を担当していた佐藤氏、監修者はアールテック・ウエノ、スキャンポファーマの共同創業者である久能氏。

    アゴニストはターゲットにある受容体に結合してリガンドと同じ作用を示す物質
    アンタゴニストは受容体に結合して本来のリガンドが結できないようにブロックする拮抗剤やブロッカーなどを指す(例:H1受容体をブロックする抗アレルギー剤など)。

    IC50とは、Inhibitory Concentrationの略で、酵素の能力を50%阻害する阻害剤濃度のことである。
    サリンは神経伝達物質ではるアセチルコリンと似た構造を持ち、コリンエステラーゼに取り込まれると、不可逆的に酵素作用を阻害するため、人体に毒である。

    医薬分子が血流に乗って患部に到達するためには、最大の難関は肝臓である。肝臓では様々な代謝酵素があり、異物と判定された分子を代謝分解する。また脳の場合は、血液脳関門という血液中の異物を遮断するバリアを突破するため、分子量が小さい必要がある。

    リピンスキーのルールオブファイブとは1.水素結合供与体が5以下であり、2.分子量が500以下、3.LogP(水と1-オクタノールとの溶解度の分配係数)が5以下、4.水素結合受容体(N、O原子の数)が10以下である。あくまでも経験則だが、医薬品開発の目安となる。

    コンビケムで数多くの分子を合成する場合、ポリスチレンなどの表面に化合物を導入できる部位を多く持つ粉末状のビーズを用意し、3種の化学品を混ぜたビーズを混合し、第二の3種類のパーツを入れれば、3のN乗個の化合物を順々に合成できる。

    天然物からの合成では、青かびからHMG-CoA還元酵素の阻害剤で高脂血症治療薬であるプラバスタチンが代表的な例である。また臓器移植手術などの時に拒絶反応を抑制する免疫抑制剤としては、筑波山から発見された放射菌が生産するタクロリムスなどがある。

    抗体はリンパ球(B細胞)が作り出す、免疫グロブリンというタンパク質で、IgA・IgD・IgE・IgG・IgMの5種類が知られている。Y字型構造の二つの上端部分のアミノ酸配列は抗原によって様々に変化し(可変領域)、両手でつかむように外敵タンパクを捕捉する。
    モノクローナル抗体は、通常多種類となる抗体を必要なBリンパ球だけをスクリーニング技術によって、一種類だけ純粋に取り出したものである。さらに、遺伝子組み換えにより、定常部をマウス由来からヒト由来に置き換えることによってヒト化抗体が生み出された。

    抗体医薬により、TNF-αの働きを阻害する関節リウマチ薬のレミケードや、上皮成長因子受容体(HER2)に結合してその働きを抑える、抗がん剤のトラスツズマブなどがある。最近では、低分子薬のキャリヤーとして、より強力な薬効を持つ薬剤をがん細胞のみを攻撃するといった手法も開発されている。
    抗体は副作用の危険性が低く効き目がシャープである一方で、たんぱく質なので、経口投与ができず、遺伝子組み換えや完全無菌状態での細胞培養が求められ、コストも高く、課題も多い。

    ペスト・マラリア・梅毒・チフス・コレラ・結核などの克服に大きな貢献をしたのが高清物質と抗ウイルス剤である。抗生物質の多くはベータラクタム構造を持ち、これは細胞壁合成を阻害する。抗菌剤は病原微生物に対して殺菌・静菌作用を持つものであり、抗生物質はその中でも微生物が産出しているもの、一部を合成により構造改変したものである。
    古くはペニシリン、サルファ剤、トリメトプリム、ストレプトマイシンなどがあるが、いたちごっこのように耐性菌が生まれている。MRSAさらに最近ではバンコマイシン耐性菌のVRSAなどが出現しているが、現在はリネゾリドという合成抗菌剤で防ぐことができるがさらに強力な耐性菌が生まれる可能性もある。耐性菌の存在は現代医療の最大のリスクといえる。

    抗ウィルス薬としては、脱殻阻害剤のアマンタジンや、プレコナリルなどがある。抗ウィルス剤での悲劇的な事件としては、ソリブジン事件がある。抗がん剤である5-フルオロウラシル(5-FU)と似た構造を持つソリブジンは5-FUとの併用により、5-FU代謝酵素に取り込まれ、5-FUの血中濃度が高まってしまう。これにより16名の死者が出る大きな事件となり、日本ではソリブジンは承認取り下げになっている。

    高血圧剤としては、人体ホルモンのアドレナリンの受容体をブロックするところから開発が始まった。興奮作用に関与するα受容体と、抑制作用に関連するβ受容体がある。アドレナリンと構造が似た、プロプラノロールなどが代表的なβ受容体遮断薬である。

    高脂血症薬剤としては、コレステロール合成において関与するHMG-COA還元酵素、スクアレン合成酵素、エクアレンエポキシダーゼ、ラノステロール合成酵素などを阻害剤がターゲットとなる。その中でも、メバロン酸を生成するHMG-COA還元酵素は全体の合成の中でも律速反応(最も反応が遅い酵素)であるからである。HMG-COA還元酵素の阻害剤として成功したのがメバロチンである、
    糖尿病治療薬としては、1型糖尿病患者には、ペプチドホルモンであるインスリンの投与によって血糖値を下げる方法が用いられる。但し、経口投与では消化酵素によって分解されてしまうので、皮下注射による投与が必要であることや副作用としての体重増加などが問題である。経口剤によるインスリン分泌を促す剤としてはスルホニルウレア(SU剤)が用いられるが、低血糖の危険性や体重増加の副作用がある。
    αグリコシダーゼは食後の高血糖を抑えるだけの効能だが安全性は高い。グリタゾン系はインスリン抵抗性を悪化させる各種因子の転写調節をすることでその効果を発揮する。これにより登場したピオグリタゾンは他薬剤と違い低血糖を起こしにくい一方で、肝障害や心不全などの副作用から市場から撤退した。
    最近では、食事接種にともなって消化管から放出されるGLP-1 (グルカゴン様ペプチド)は膵臓β細胞からのインスリン分泌を促す作用を持つ。

    うつ状態ではシナプス間のトランスポーターであるモノアミンの量の減少が原因であるという仮説がある。これを改善するために三環系抗うつ剤が開発されたが、便秘・排尿困難、立ちくらみ、眠気、だるさなどの様々な副作用があり、四環系抗うつ剤は副作用が低いものの効果も低いのが課題である。一方でモノアミンの中でもセロトニンの再取り込みだけにターゲットを絞り込んだSSRIのフルオキセチンはアメリカでは奇跡の薬とまで呼ばれている。最近では、ノルアドレナリンの再取り込みをターゲットにしたSNRIやノルアドレナリンとドーパミンの再取り込みをターゲットにしたNDRIなどがある。

    認知症治療薬としては対処療法的には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のドネペジルや、プチリルコリンエステラーゼにも作用するガランタミンなどがある。根治あるいは予防を実現しうるものとしては、アミロイドの凝集による神経細胞の攻撃を防ぐため、その凝集を抑える抗体、ワクチンなどの開発が行われている。

    鎮痛剤としては、炎症の進行や痛みの発生に関わるプロスタグランジン合成の根幹である酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する薬が有効である。古くはアスピリン、またその構造を改変したイブプロフェンやロキソプロフェン、ジクロフェナクなど、非ステロイド系炎症薬(NSAID)などであり、これらは胃が荒れる(消化管出血)という副作用がある。これは胃壁保護作用をもつプロスタグランジンができなくなるためだと考えられる。
    COX-2のみをターゲットにするロフェコキシブやセレコキシブなどは副作用を軽減することができ期待されたが、心筋梗塞などの別の副作用の問題が発生している。

    基本的な疾患とそれに対応する代表的な薬を網羅的にカバーしている良書だと思います。専門家から一般の方まで、創薬に興味を持つ人には幅広く読まれる本ではないでしょうか。

  • 図書館HP→電子ブックを読む 
    Maruzen eBook Library から利用

    【リンク先】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000003901

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:499.3//Sa85

  • 自分は関連する仕事をしているので、「入門」として読めた。
    ある程度タンパク質とか有機化学の基礎知識がないと難しいだろう。

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著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院准教授。1976年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)

〈主要業績〉
『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』(吉田書店、2014年)
「大正期の東北振興運動――東北振興会と『東北日本』主幹浅野源吾」(『国家学会雑誌』第118巻第3・4号、2005年)

「2019年 『公正から問う近代日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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