- 本 ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784275004451
感想・レビュー・書評
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聖戦論はむき出しの軍事的リアリズムに対する歯止めの役割を果たす一方で生鮮への転落を招く契機ともなる危険性をもっている。
リベラルな世界秩序にはジェノサイドのひそかな共犯性という問題が潜んでいる。
急速なグローバリゼーションにより、南北格差はさらに拡大し、経済的な理由で南から北への人の移動はますます不可避になっている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あまり詳しくはないのだが、土佐弘之という人は国際政治学の世界においては所謂、批判理論というものを扱っている人のようだ。
批判理論とは、国際政治学においてなされてきた、現状の分析を目的として、国家を主体としてそのパワーバランスを論じて、というのとは異なって、現状の世界政治に対して変化を求める。
それを考えると『アナーキカル・ガヴァナンス』という題がついたのは、従来にあるような、アナーキカル・ソサイエティという言葉や、グローバル・ガヴァナンスという言葉においては表現されてこなかった部分に焦点を当てる試みに呼応してのことであることが解る。
それでは、その表現されてこなかった部分とは何か。
本書はいくつかの論文によって構成されているために、それを一まとめにここで説明することは適わないが、あえて言うなら、グローバリゼーションによって<帝国>化する世界において無視されがちだった暴力の存在を顕わにする意思が通奏低音の如くに貫かれているように思う。
かつてはそれが「国際社会」の外にある植民地で起こっていた。しかしそれは「かつて」の話ではなく、今でもそれは、テロリストなどの非国家主体などに対して行われる。国際社会が拡大すると、今度は「法の外」という考え方による様々な正当化が行われているのである。
例えばテロリストとは「法の外」の存在であり、だからこそよく分からないものとして、「悪」とされて絶対的な敵対関係(antagonism)とされている。また暗黒大陸と化したアフリカにおいては、国際刑事裁判所での非対称的権力関係による断罪が行われる一方で、その民族紛争の中を利用して儲けようとする略奪型資本主義という弊害も起こり、紛争の長期化で生じた「闇の奥」へと消えた人々に対しては何の助けもされないという事態が発生することになる。
他にもいくつかの例と共に、以上のような問題提起をする。
批判理論は我々が無視してきたり、思いこんできたりした部分を暴露する。たまにはこういうところに目を向けることで、文明化した現代の我々が抱える問題について考えるのも良いと思う。
分析枠組みとしては、フーコーなどの構造主義近辺の人々やネグリのような現代思想家といった西洋の思想家が考えてきたことで、そのオリジナリティには疑問符がつく。また思想的アプローチなので、その説明には信憑性があるかも怪しい。特にグローバリゼーションという用語法は、常に雑に使われがちであると思う。
ただ現代における問題を抉り出しているという意味では面白い。
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