リヒャルト・シュトラウス (作曲家・人と作品シリーズ)

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  • 音楽之友社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784276221956

作品紹介・あらすじ

高校生から研究者までを対象とした伝記シリーズの決定版。リヒャルト・シュトラウス生誕150周年にあたる2014年、待望の刊行。著者は、デビュー作『バラの騎士の夢』(1997春秋社)の後、数々のセンセーショナルな著書を生み出している気鋭の音楽学者、岡田暁生。
<br/>「19世紀ヨーロッパ市民の時代」の黄金期に生まれ、その最後の幕を引いた超人シュトラウス。世紀転換期の作曲家の中でも抜きんでた音楽技法を持ち、最晩年になってなお、比類のない作品を生み出した。このことは、シュトラウスの生きた「時代」においてどのような意味を持ったのか。当時の社会や音楽界の様相を絡めて描いた生涯篇では、《最後の四つの歌》の内面性など、著者独自の視点も読みどころのひとつ。作品篇では、シュトラウスの作曲技法が浮き彫りとなる緻密な楽曲分析を堪能できる。
<br/>

感想・レビュー・書評

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  •  人生は長し、芸術は短し。著者の岡田暁生が言いたいのは、つまりはそういうことか。
     たとえその中にシェーンベルクが「進歩主義者」を見出したとはいえ、20世紀を見ることのなかったブラームスは幸せである。ところが「近代」から「現代」への境目を生きた、ドビュッシー、マーラー、リヒャルト・シュトラウスら1860年ころ生まれの作曲家たちは現代音楽の基点となりながらも次の時代から葬り去られる。それでもドビュッシーやマーラーは「自分の時代」が尽きるとともにその命が尽きるという幸運にあった。1949年まで生きたシュトラウスはバルトークやヴェーベルンやベルクの死を脇目に、ブーレーズが第二ピアノ・ソナタを構想し、チャーリー・パーカーがジャズをアヴァンギャルド芸術に変貌される時代まで生きながらえてしまった。
     本書はそんな風に書き出される。これを含め、シュトラウスを音楽史の中に位置づける著者の意見は示唆に富んでいる。他の巻同様、前半三分の二が評伝、残りが作品論である。

     クラシック音楽を聴きだしたころまず評者はマーラーにはまった。とするとコントラストはシュトラウス。現世を超えて彼岸へと向かう理想主義者のマーラー、俗物で現実主義のシュトラウス、神経症的で儚げなマーラー、まるで健康そうで長生きのシュトラウス。若者にとって魅力的なのは明らかに前者である。マーラーを称揚し、シュトラウスを一段低く見ていたものである。クラシック初心者がまず聴くシュトラウスは、交響詩群であって、あの外面的で効果を狙った曲作りをみればその印象は強化されこそすれ減弱することはない。
     そんなシュトラウスのイメージを変えたのは何だったか。クラリネットとファゴットのためのデュエット・コンチェルティーノだったか、いずれにせよ晩年の作品を聴いてからである。著者はシュトラウス晩年の作品を次のように評する。「十九世紀をも通り越して、十八世紀の精神から作られたとしか思えない音楽。にもかかわらず、近代音楽が切り開いたあらゆる表現領域を完璧に身に付けている者だけが書ける、正真正銘の二十世紀の音楽。しかし同時代の精神とは完全に縁を切ってしまっている音楽。それがこれらの不思議な作品群である」。もうひとこと評者が付け加えるなら「だから不滅!」。

     評伝の中で描き出されるシュトラウスの人となりも興味深い。俗物とみられるのを厭わなかったし、確かに現実主義者だった。が、彼の性格はもっと複雑だった。「シュトラウスの中には『気弱な普通の人』と並はずれてデモーニッシュな『超人』とが同居していた。そして時として前者が後者を揶揄してみせる。そこに諦念が生まれる」。超人的な才能を示しながら彼はいつも冷めていたのだ。「私は二流だが、二流の中の一流だ」。指揮者としても決して音楽にのめり込むことはなく、冷静に熱狂的な音楽を構築した。ま、すべてに自己没入するマーラーのほうがわかりやすいのだけれど。

     作品論のほうも実に勉強になる。本書の評伝部分ではあまり言及されないが、シュトラウスのキャリアの初期にはヴァーグナーの後継者として嘱望され、「リヒャルト3世」(リヒャルト・ヴァーグナーはあまりに偉大なので、2世がなくて3世になるのだ)と呼ばれたのだが、両者の音楽はだいぶ違うと思っていた。その点の解説がなるほどよくわかった。ひとつはシュトラウスは和音を近い音域に密集させず、音域を離して配置することで、重い響きを避けていることである。また、ヴァーグナーとそのエピゴーネンたちが転調の際に調の間を無限に微分して周到に変化させるのにシュトラウスはいきなり転調させてしまう。例えばハ長調からロ長調に何の媒介もなく半音スライドしてしまう。
     そうした技法がいわゆるシュトラウス・サウンドを生んでおり、その背景には北ドイツの重厚さを嫌うバイエルン人の気質があるということが本書では繰り返し述べられている。
     しかし、著者は盲目的にシュトラウスを称揚しているわけではなく、彼の弱点をも暴く。一見、非常に多彩なモティーフがびっしり対位法的に重ねられていながら、どれも同じ分散和音でできているので単調になってしまうという悪癖(これは早くからブラームスが指摘していた)についても繰り返し言及がある。著者が傑作とするオペラは《サロメ》《エレクトラ》《ばらの騎士》《ナクソス島のアリアドネ》《アラベラ》《無口な女》《カプリッチョ》など世評通りであり、いや《ダフネ》は大傑作だ、などという話は出てこない辺りは、まあ、つまらないといえばつまらない。
     このほか、決め所の攻勢、「速度」と「ショック」などシュトラウスの音楽を隈取るキーワードがいくつも出てくるのだが、それは実際に読んで頂くということで。

  • 2023年に見たライブ・コンサートの中で非常に感動したものの1つが東京交響楽団によるR・シュトラウスのオペラ”エレクトラ”の演奏会形式(オペラハウスではなく通常野コンサートホールで、ステージ前面だけを使って簡易的に演じられる)の公演であった。

    そのあとで、新国立劇場でオペラとしての”サロメ”を見て、R・シュトラウスの傑作オペラ2本に触れたこともあり、音楽家としての彼をもっとよく理解したく選んだ概説書。

    もとよりR・シュトラウスは最晩年の作品であり、23の独奏弦楽器によりモノクロームな色彩で描かれる”メタモルフォーゼン”を私は敬愛している(自分の葬儀でかかる曲を選ぶというのは音楽愛好家が一度ならずとも考える楽しみの1つであるが、私は現時点はこの曲が最有力候補である)のだが、初期から最晩年に至るまで創作の手をとめず、そして最晩年になってもこのような傑作を生み出すシュトラウスの人となりや生涯を知れたのは、作品を読解する上での基礎知識としてやはり大きい。

    著者の岡田暁生はクラシックの音楽学者として著名であるが、R・シュトラウスが博士論文のテーマで、初の単著もオペラ”ばらの騎士”を扱っていたことからも、シュトラウスを語る上でこの上ない人選。

  • 名前ぐらいしか知らない作曲家の一人だったリヒャルト・シトラウス。来年が没後70年を迎えるということで、関係する事業の為に読み始めた。300ページ程で、大作と云うわけではないが、「受け売り」ネタの本としては手に余すほどに内容は充実。生涯編と作品編の二部構成で、彼の年表、そして作品リストと至れり尽くせり。
    必要があって手に取った本という事を差し引いても、天才音楽家の生涯は興味深いものである。様々なエピソードの紹介だけでなく、音楽史とやらを俯瞰しながらの解説は、なんとなく分かった気になってしまう。残念ながら作品編は、音楽の専門用語が頻繁に登場して、自分勝手な想像で読み進めるしか無かったが、ふとこの本を読み込める読者というのは、どんな人間なんだろうと不思議に思うほど中味ギッシリの読み物だ。

  • ななめ読みになったけど仕方ないかな.伝記ではないし,作品解説でもなくて一種辞典的な本

  • 生涯編、作品編、資料編にわかれている。
    どれも非常にわかりやすく、R.シュトラウス独特の音楽話法を説明している。
    資料も見やすく、非常に好ましい。

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著者プロフィール

1960年京都生まれ。京都大学人文科学研究所教授。専門は近代西洋音楽史。著書に『リヒャルト・シュトラウス 人と作品』(音楽之友社、2014)、『音楽の危機』(中公新書、2020、小林秀雄賞受賞)、『音楽の聴き方』(中公新書、2009、吉田秀和賞受賞)、『西洋音楽史』(中公新書、2005)、『オペラの運命』(中公新書、2001、サントリー学芸賞受賞)、共著に『すごいジャズには理由がある』(アルテスパブリッシング、2014)など。

「2023年 『配信芸術論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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