ほぼ半世紀前のクラシック入門書。著者の諸井誠はマコトニオ・モンロイの筆名も持つ作曲家。「ぼくのB・B・B」「ロベルトの日曜日」は面白く読んだ。表紙の「音楽史のスーパースターだって、女、金、憂世の悩みは尽きない。赤裸なエピソードを読み進むうち、キミはクラシックの虜になる」とあるとおり、通俗的と言うか週刊誌的というか。「楽聖悪妻物語」のいちじるしく女性側に公平を欠いた書き方や、ウの目タカの目コラムの下世話さはいまとなっては目につくが、エピソード、エピソードを楽しむ心持ちで。ミサをあげられない赤毛の司祭ヴィヴァルディを協奏曲の祖父と。モーツァルトのスカトロ趣味満載の手紙の一節。プッチーニがシェーンベルク支持者になり、遠くまで急進的な「ピエロ・リュネール」を聴きにいったこと。訪米の折、ラヴェルがワイシャツ50着、パジャマ20着を携行。アメリカでのストラヴィンスキー、若き音楽家ロバート・クラフトの影響で十二音音楽に関心をもち「七重奏曲」「アゴン」を作曲。といったあたりのエピソードをたのしみ。著者自身の「現代音楽はわかりにくい」という印象が「わかりにくいものは現代音楽だ」という概念にすり代わってきているわけだ。いや、参った、参った…」(p.201)といった感慨にも触れつつ。