森茉莉 私の中のアリスの世界 (人生のエッセイ)

著者 :
  • 日本図書センター
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784284700368

作品紹介・あらすじ

"永遠のアリス"森茉莉の星屑の様な生の欠片を集めた、エッセイのジュエリー・ボックス。全集未収録作品も多数収録!読めばあなたも不思議の国へ。

感想・レビュー・書評

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  • 非常に良い。

    p97-
    人間の心の「よさ」を持った人間、それは実際に少い。他人の幸福を喜び、他人の不幸を悲しむ、というような簡単な事さえ出来る人間は、中々見付からない。世間の人は非常な熱心さで他人の事を気にする。併しそれは、自分の事を整理して、余裕があって他人の事を気遣って呉れるのではなくて、自分の知らない間に他人が幸福になっていまいはしないだろうか、ひょっとしたら他人が不幸になって呉れは居はしないだろうか、という心遣いなのだ。この心遣いの為に急しく、自分の幸福を感じる事さえ忘れている人がある。自分の不幸を幸福に導く事を忘れている人がある。これは自分を無くして他を考える美徳として賞賛する事も出来ない。人間はそういう時非常に熱心になるが、それが人間の生存力を強くする事の助けになるものとして喜ぶ事も出来ない。人はそういう時非常に細心になる鋭くなるが、それではそれが新聞記者や刑事等の場合、その職業能力を助けるものになるかと考えて見ても、あまり感情的で的を外す傾きのあるこの種の心遣いは、やっぱり役には立たない。ほんとうに他人の幸福を希む為にこの種の心遣いをする人もある。併し気にしても他人は幸福になれない。むしろ自分自身を守り幸福にした方が他人も幸福になる。人間同士が無干渉になり、各々自分を守る事に心を集めているような世の中になったら、どんなに人間は幸福になるだろう。

    必要な事は覚えていたが、どうでもいい事は難度聞いても忘れてしまった。簡単な事だが人間の「よさ」を持った人間でないと出来難い事だ。

    自分自身に誇を持つという事が、人間の「よさ」をこしらえる根本だ。誰でも自分に誇りを持っているが、本物はあまりない。間違った誇が多い。例えば小さい例が、他人を馬鹿にする事を自分が賢い証明のように思うような事がその一つだ。

    幸福、というが、「幸福」即ち「楽々とした快さを伴うもの」とばかりは言えない。幸福が苦しいという場合もある。自分が本当の幸福を持っていれば何も苦しい事がない、というまでに悟るのには、人間は余り弱すぎるから。「幸福」は、深いものだ。

  • 透き通ってキラキラしている!!大切な本になった
    貧乏はいいけど貧乏くさいのは嫌いだ!
    「人間の良さを持った父」、名文すぎます

  • “永遠のアリス”森茉莉の星屑の様な生の欠片を集めた、エッセイのジュエリー・ボックス。全集未収録作品も多数収録!読めばあなたも不思議の国へ。
    森茉莉のエッセイが大好き。何度読んでも、本当に言葉の使い方というか表現が素敵だし古くささが全くない。贅沢貧乏の考え方は本当にしびれますね。こんな風に生きる女性でありたい。今の世の中を見たら、茉莉さん嘆くだろうけれど、面白いものや綺麗なものに対しては大喜びしながら試したりするのかなあと思ってみたり。言葉のひとつひとつが、生き方にゆとりがあって、本物の贅沢を知っている人だからこそ書ける文章です。

  • 優雅にあたたかいなかで自由に育った彼女ならではのエッセイ。時代背景を考えると面白い時代ではあった。

    「不幸が入って来たのを見て驚く事はない。不幸は来る事になっているお客のようなものなのだ。(略)不幸が来たなら、驚かないで、その手の中から『ほんとうの幸福』という、光る宝石を受取らなくてはならない」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「不幸は来る事になっているお客のようなもの」
      多分、お客だから追い返したりしないのでしょうね。若い頃は、チョッと敬遠していましたが「贅沢貧乏...
      「不幸は来る事になっているお客のようなもの」
      多分、お客だから追い返したりしないのでしょうね。若い頃は、チョッと敬遠していましたが「贅沢貧乏」から、尊敬の眼差しで見ています。。。
      2013/04/19
    • うさこさん
      nyancomaruさま。パソコンから見ていなかったので、気が付くのが遅くて失礼しました。
      そうですね!「お客だから追い返したりしない」の...
      nyancomaruさま。パソコンから見ていなかったので、気が付くのが遅くて失礼しました。
      そうですね!「お客だから追い返したりしない」のでしょうね。ふむふむ。
      2014/03/16
  • いいなあ、‘お茉莉’の‘贅沢’。

  • 古いエッセイを集めた本。エッセイが発表された時も物議を醸していた気がするが、今や炎上案件と思いました。
    昔の人は強かったのか他の人の声を聞かなかったのか、そもそも批判は情報として入ってこなかったのか、どれもかな?

  • ・人間の「よさ」を持った父

  • 何だか愛しいと思える人。
    紅茶を片手に喫茶でお話してるのを向かいで聞いているような親しみを感じる。

  • 森茉莉さんの世界、やっぱり好き。
    何回読んでも、エロティシズムと魔と薔薇、三つの嗜好品は好きでたまらない。
    シャーロック・ホームズが好きと知って、読みたくなりました。

  • 森茉莉の文章は秀逸だ。かなりの奇人変人のようで
    あるのに、文章はみごと。ただ、云いたいことが
    心にあふれているらしく、話の脱線は夥しい。
    そのまま戻ってこれずに原稿がいっぱいになること
    しばしばで、途中で戻ってきたら感心するほど。
    物凄く独自観のつよい、くせのある方なので、けっして
    万人には受け入れられないとは思うが。
    この簡潔な文体はぜひめざしたい。

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著者プロフィール

1903~87年、東京生まれ。森鴎外の長女。1957年、父への憧憬を繊細な文体で描いた『父の帽子』で日本エッセイストクラブ賞受賞。著書に『恋人たちの森』(田村俊子賞)、『甘い蜜の部屋』(泉鏡花賞)等。

「2018年 『ほろ酔い天国 ごきげん文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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