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本 ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784299063380
作品紹介・あらすじ
裁判にかけられた少女を救うため
魔女の不在を証明せよ!
(あらすじ)
16世紀の神聖ローマ帝国。法学の元大学教授のローゼンは旅の道中、ある村で魔女裁判に遭遇する。
水車小屋の管理人を魔術で殺したとして告発されていたのは少女・アン。法学者としてアンを審問し、その無罪を信じたローゼンは、村の領主に申し出て事件の捜査を始めるが――。
魔女の存在が信じられていた社会を舞台に、法学者の青年が論理的に魔女裁判に挑むリーガルミステリー!
感想・レビュー・書評
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魔女裁判に論理で立ち向かう話。科学捜査は見込めないし、村人の証言は有罪ありきのものしかない。そんな中でも証拠を積み重ね、一つ一つ論証していく。なかなか面白い試みだと思いますし、実際面白かった。あと、文章のテンポがいいです。
本作を踏まえてのローゼンとリリの次の物語を読んでみたいですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
舞台は16世紀の神聖ローマ帝国。旅先の村で魔女裁判に居合わせた法学の元大学教授であるローゼンが魔女として告発されたアンの弁護をすることに。魔女裁判という過酷な状況をどうやって覆すのか…アンが無罪である材料を提示しても、痛い所をついてくる博識な領主もいて、魔女裁判の理不尽さがありつつ、論理的な応酬もあって楽しめた。
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「このミス」大賞隠し玉として刊行された本書は、十六世紀神聖ローマ帝国を舞台としたミステリ。魔女の疑いをかけられた少女アンを救うために、法学者ローゼンが弁護人として奔走する。
そう、奔走するのだ。本格ミステリお馴染みの頭脳の探偵ではなく、足で情報を集め、村の人間から魔女の疑いをかけられた少女の無実という、自身の信じる真実を見付け出していく。その過程はRPGのように行きつ戻りつだが、その都度に事件の様相は変化し、読者に朧ながらその形を提示していく。この行きつ戻りつの移動距離が大きいほど、事件の形が変容する構成はとても王道的だ。
足の探偵だと先に記したが、物語後半、ローゼンが村人を集めて推理を開陳する場面も、王道的な本格ミステリ的で好もしい。ただ、その推理は幾分と杜撰な個所があり、ミステリ好きは作者の力量を疑ってしまうかもしれない。だが、すべての違和感は最終局面への布石であり、最後の回収は好悪別れるだろうが、手際は鮮やかだ。
登場人物の名前がカタカナであったり、中世の海外が舞台のため、食指が伸びない人も多いだろう。ミステリはもちろん、平野啓一郎の「日蝕」なども好きな私は、この手の世界観に拒否反応はあまりない。ただ、現代でないと読まない人間がいるのも知っている。でも、舞台設定上、現代的ではないと思われがちだが、実に現代性を持った作品だ。ネットでは魔女裁判が日夜至るところで開廷され、炎上という火刑が魔女を晒しものにする。また、フィルターバブルに包まれた人間は、自身の見たいものしか見ることが出来ない。読後の読者ならば、そのことは良く分かるだろう。
そして、被害者が加害者となる展開も、抑圧された弱者が差別主義の加害者となる、悲しき負の連鎖の構図と捉えることが出来る。『神罰とレトリック』を読んだ時も感じたが、作中世界とは関係なく、君野新汰はポストトゥルース世代の作家である。