- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784305705884
作品紹介・あらすじ
日本人の知らない「海外の日本図書館」。そこはどういうところで、今、何が必要とされているのか。
海外で日本について学ぶ学生、研究者、そのサポートをする海外の日本図書館について紹介し、その課題やニーズに日本側からどう応え、資料・情報を提供・発信していけばいいのかを考える本です。
感想・レビュー・書評
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問題提起……というより嘆願の書のように思います。
本著の目的は「海外の日本研究・日本図書館について多くの方に関心と意識を持っていただくこと。その結果として、さまざまな場面での日本資料・日本情報の効率的・効果的な提供・発信に、ご理解とご協力をいただくこと。より多くの方に援軍になって欲しい」であり、何かしらの怒りに似た丁寧語は、千代田図書館の本のようで、面白い。
日本映画に英語字幕がついたものの少なさからはじまり、美術館・博物館と直接取引しようとするときのクレジットカードの壁、向こうの図書館はアマゾンのレビュー頼りで図書を購入しているという事実。とにかく「日本」が手に入りにくい。なので、「日本から効率的・効果的な資料提供・情報発信ができるかどうか、ニーズに応えられるかどうか」が重要な鍵であると著者は述べます。
数量もルートも方法も不足し、ニーズも把握できておらず、手続きもめんどうで、言葉の壁もあり、更にそもそも海外からのリクエストが眠っていることに関心がない。また、「日本語の資料・情報を必要としている人は必ずしも、日本語が堪能な人たちばかりではない」という問題も考えないといけないし、それどころか根本的に日本の図書館とコンタクトがとりにくいということがある。
図書館に電話をかけるという経験をした人は少ないのでは無いか。何か情報で困ったら図書館へ……という発想は日本にはなく、それをじゃんじゃん受け付ける気合いも日本にはなく、そこに海外からの、日本語が苦手だけど日本リテラシーを求めている人に答えられるのかといえば疑問だ。
クールジャパンの人らはもちろんこの本を読んだ上での議論をしているのだろう……と思いたいが……日本の分析論で終始してしまい、結局日本人が日本を見つめ直して満足して終わりとかにならないかしら、そうならないように願いたい。で、いまどうなっているのだろう。
「要は入手のハードルさえ下がればいいのです」
このたった一言に、エリートが外交するより遙かに深く大きい外交力が眠っているように思う。間接的だろうが、直接的だろうが、日本リテラシーの向上を国際的に促していくことに、悪いことなど何一つない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
3部構成。海外での日本研究のために行われている資料のやりとりについて,図書館を中心とした各機関の実践,Google BooksでのJapanの現れ方など多角的な視点から現在,海外から見た日本資料について,起こっている問題点を明らかにしています。
文献だけを使って書かれた文章だけではなくて,筆者が実際に取材して得たデータやインタビューもふんだんに盛り込まれています。本文が平易に書かれている事もあって,一気に読み終えてしまいました。読みにくいという印象は全くありません(むしろ写真とかがふんだんに盛り込まれているので,どんどん次が気になって読み進めてしまう感じです)。
各節は長すぎず,短すぎず,そして参考文献がきっちり示してあります。おそらく大学の授業やゼミで一部を使ってディスカッションするのにはとても良い本では無いかと思いました。
私も海外の図書館にしょっちゅうILLをかけて,そのたびに手続きの煩雑さにうんざりすることが多いのですが,外国の方が日本に行う場合はその何倍もの大変さがあるのだというのを,この本を通じて初めて知った次第です。
一線級の海外研究をするなら,現地に行って調べろというのは半ば鉄則らしいのですが,この本で描かれているように,日本語が決して得意でないレベルであっても,日本の資料が必要な場面というのは確かに存在するのは,大変よく分かります(日本の中では,「そういう需要があることすら知らない・わからない」というのはちょっと恐ろしい感じもします)。
ともかく,図書館だけでなく,海外と日本とのつながりに興味を持っている人すべてに強くお勧めできる一冊です。 -
実は私は江上さんの隠れファンです。ブログとは一味ちがった感じですが,図書館職員が,よくぞここまで調査を!と同じ図書館職員として驚愕します。日本が世界から研究されている,世界で日本の情報を集めるには?ということを今まで考えたことがなかったので,目からうろこでした。そして,日本のデジタル化の遅れが世界に与える影響は小さくない,ということも。日本国内の研究者が困るだけではないんだ,ということ,そのために,「日本」が学術情報の流れに乗れなくなりつつある,ということ,これは大変なことじゃないのか?世界から日本を見るという視点を持つことが緊急に必要なんじゃないか?先日,留学生と話していた時も,資料のデジタル化について,国家の方針はないのかと聞かれ,答えにつまりました。日本の学生は今の状況に不満がないようだけど,それは「知らない」からじゃないのか。このあたり,もう少し図書館が頑張った方がよさそうです。で,この本の中で,一番よかったのは後書き。情報は発信すればよい,というものではない。その届く先を考えること。そのあと何が起こるかについて思いを馳せること。何事によらず,手段が目的化してしまうことが多い中で,この指摘は大変大事だと思います。
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これは、日本で日本のことを研究する際にも問題になるよなぁと思った。図書館はまだまだ人的リソースをうまく活用できていないような
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2012 6/2読了。献本いただいた。
・海外で日本について学ぶ学生、研究する研究者
・そのサポートをする海外の日本図書館
について紹介し、
・その課題やニーズに日本側からどう応え、資料・情報を提供・発信していけばよいか
を考えていく、という本。
本書を読むまで(より正確にはそれ以前からの江上さんがしばしばなされていた情報提供に触れるまで)、海外にあって日本を研究する人びと、日本語の本やその外国語訳、あるいは日本に関する本を欲している人の存在はあまり意識して来なかった。
如何に英語等で発信して世界のメジャー・シーンに情報を出すか、ということ自体は研究者として当然、常に意識していた一方で、「日本で流通しているものを」海外へ、というのはコローンと失念していた、ということ、そしてそれが如何に問題かということを本書によって気付かされた。
例えばCiNiiや機関リポジトリ等による日本の雑誌の話も出てきて、そこでは自分が普段研究として扱っている日本語で書かれた人社系の論文へのニーズも語られる。
今まで電子的な英語文献に海外からのアクセスがあるのは当然と捉えていた一方、「日本語の文献を」あえて欲している海外の日本研究者のことをどれだけ考えていたかと言えば・・・(汗)
でも実際にはそういう人びと、容易に日本の大学図書館で冊子体をコピーしたりなんかできない人にこそ電子的な発信の需要が強く存在する。
加えて予算の制約が厳しくなる中では電子情報となっていないものへ予算を振ることは困難になりつつもあると言い、日本からの情報の入手がより難しくなっていく。
そうなればより情報が得やすいテーマの方に自ずと研究者人口がシフトしていくことにもなる。
いわゆるCJK,中国、日本、韓国の中では電子ジャーナル/データベースとも日本が最も遅れている(この場合、「日本国内の情報について」の電子化が最も遅れているということ。海外データベースとか電子ジャーナルとかの契約数の話ではない)ことが本書中ではたびたび示されている。
ただでさえ日本研究自体が海外において徐々に衰微していく中で(もちろんそれ自体は国際社会の中での日本自体の位置づけが第一因であって直接の原因が電子化の遅れにあるわけではないが)、興味を持った人でもなかなか研究しにくい国になってしまっているんじゃないか、という指摘は、はっとさせられるものがあった。
最近は入手できる文献も増えてきたけど紀要とか電子化しやすいところからやって主要誌が後回しじゃないのー、とかね、わかってはいたもののそれを海外から指摘されるとは・・・。
で、日本の情報が入手しにくいというのはこの電子化自体の遅れの問題のほかに、そもそも端から海外で求めている人がいるって事自体に意識行ってない、というより根源的な点も指摘される。
クレジットカードで買えないとか国内からじゃないとか買いにくいとか、端から自分たちの発する情報が海外から求められることを想定していないっていう。
日本語論文の海外需要に気付いてなかった自分の場合もまさにそうだろう。
これからはこの点は従来よりかなり意識して研究に取り組んでいってみたい、という意識を強くしただけではなく、他にもこう、なんかできることないか、っていう・・・焦燥感とも違うけどうずうずした気分になる本だった。
さらにそのうずうずを行動につなげていくためのヒントもいっぱい提示されていて・・・むう、考えられているなあ・・・
これは是非いろいろな本に読んでもらいたい本だと思う。
本業が電子よりなんでつい電子の話ばっか書いてしまったが、実際には現物の扱い等についてもかなり厚いし、文字コードのところとかいろいろ面白い。 -
☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB0919843X -
図書館や本に関わる人みんなに読んで欲しい。
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『本棚の中のニッポン 海外の日本図書館と日本研究』
江上敏哲
【メモ】
【版元】
ISBN:978-4-305-70588-4 C0000
A5判・並製・カバー装・296頁
定価:本体1900円(税別)
日本人の知らない「海外の日本図書館」。そこはどういうところで、今、何が必要とされているのか。
海外で日本について学ぶ学生、研究者、そのサポートをする海外の日本図書館について紹介し、その課題やニーズに日本側からどう応え、資料・情報を提供・発信していけばいいのかを考える本です。
本書では、海外の日本図書館やそのライブラリアンについて、資料・蔵書の様子、資料・情報の流通・提供・利用の様子、図書館・ライブラリアンによるサービス・サポートや連携・協力活動の様子、課題・問題点を紹介します。
そのうえで、海外の日本研究者・学生や図書館・ライブラリアンは、どのようなニーズを持っているか、日本側では、そのニーズをどのように把握し、どのように応えればよいか、日本資料・日本情報を、日本から海外へ効率的・効果的に提供・発信するには、どうすればよいかといったことを考えます。
海外の人びとが(資料・情報的に)日本に何を求めているのか、そのユーザのニーズや課題・問題点を、私たちがちゃんと把握して応えていく。日本の資料・情報を効率的・効果的に提供・発信していく。それができるかどうかは、ほかでもない日本の私たちにはねかえってくる問題である――。
「海外の日本研究・日本図書館について多くの方に関心と意識を持っていただくこと。その結果として、さまざまな場面での日本資料・日本情報の効率的・効果的な提供・発信に、ご理解とご協力をいただくこと。本書の最終的な目的はそこにあります。より多くの方に”援軍”となっていただくきっかけとなれば幸いです」……本書・序より
http://kasamashoin.jp/2012/04/post_2268.html
【目次】
目次 [-]
序 日本人の知らない日本図書館
Tanizaki Jun’ichiroの”The Thief”を探す/本書では/「海外の日本図書館」をとりまく世界
第1部 日本語の本は誰が読むか、どこにあるか
1 日本語の本は誰が読むか、どこにあるか――総論
UMass Amherstの日本資料・図書館・ユーザ/世界に学ばれるニッポン/パリ・日本図書館のさまざま/良き”日本理解者”のために/海外からのリクエストはあなたにも届く/”日本リテラシー”がない人も、日本資料を求めている
■インタビュー(1)「日本の図書館員は国際会議の場にもっと出るべき」
2 海外の日本図書館を巡る――事例紹介
1.University of California, Los Angeles (UCLA)
UCLAとその図書館/東アジア図書館と日本資料/古典籍・マイクロフィルム・移民資料――特殊コレクション/e-resource/日本はどう学ばれているか――研究者と学生たち/デジタル化とコラボレーション――日本への注文
2.University of Pittsburgh
University of Pittsburghとその図書館/東アジア図書館とその蔵書/何をどう集めるか――日本資料の収集/棚にどう並べるか――日本資料の配架/日本経済史が凝縮―― 三井コレクション/e-resource/日本を教える――情報サービスとインストラクション/グローバル化する日本研究
3.フランスの日本図書館
École Française d’Extrême-Orient (EFEO)/EFEOの図書館と日本資料/目録データベースとSUDOC/Bibliothèque Universitaire des Langues et Civilisations (BULAC)/Bibliothèque Interuniversitaire des Langues Orientales (BIULO)/ひろがるネットワークの輪
4.台湾の日本図書館
台湾の日本研究・日本資料/国立台湾大学図書館/中央研究院・人文社会科学連合図書館/国立中央図書館台湾分館
3 プロフェッショナルたちの流儀――ライブラリアンとコミュニティ
1.North American Coordinating Council on Japanese Library Resources (NCC)
NCCと北米のライブラリアンたち/resource sharingの仕組み―― MVS/ジャパン・イメージ―― IUP/研修/年次集会
2.Council on East Asian Libraries (CEAL)
東アジア図書館協議会―― CEAL/日本資料委員会―― CJM
3.European Association of Japanese Resource Specialists (EAJRS)
EAJRSの歴史と活動/年次集会/図書館は横のつながりなしに成り立たない
4 黄金の国からクール・ジャパンへ ――日本研究・資料の歴史
Google Booksに”Japan”はどれだけ登場するか/ジパングに行ってみた――近世/明治ニッポンの世界デビュー ――19世紀後半/日本を研究するアメリカ ――20世紀前半/さらに日本を研究するアメリカ――占領期・戦後/バブル経済からマンガ・アニメの国へ――80年代から2000年代
5 Nippon Invisible―日本研究・資料の現状
2008年=1930年説?/日本研究の”退潮傾向”/デジタル化されない日本/日本を学ぶのは誰か――学際化・グローバル化/「引退」ではなく「卒業」?
■インタビュー(2)「韓国の歴史を研究する人も、日本語の資料が必要」
第2部 日本語の本はどのように情報化され、アクセスされるのか
6 収集されるニッポン――収書・選書
どう買うのか―収書/どう選ぶのか――選書/どう支払うのか/日本出版貿易(JPT)/送られるものと欲しいものの間―寄贈/日本美術カタログ収集プロジェクト(JAC)
7 検索可能なニッポン――書誌・目録
書誌・目録がなければ始まらない/CJKをデータ化する/図書情報のライフライン・OCLC/OCLC、CJK対応への道/コピペされるニッポン――日本からの書誌提供/郷に入り郷に従う――日本語書誌の”北米化”/ヨーロッパとNACSIS-CAT/英国CATプロジェクト/欧州和書総合目録/自立した協力体制としての講習
8 お取り寄せされるニッポン―ILL
Interlibrary Loan ―― ILLとは/敷居が高かったニッポン/仕組み化されるILL ―― CULCONとGIF/早稲田大学図書館の海外ILL受付/国立国会図書館の遠隔複写サービス/”システム”、”システム外”、そしてe-resourceへ
9 アクセスされるニッポン―― e-resource
CD-ROMが動かない/オンラインが契約できない/ユーザが自由に使えない/Digital Resources Committee(DRC)/コンソーシアム/「JapanKnowledge」/世界にひろがる「JapanKnowledge」/e- resource整備は日本の問題
10 クールなニッポン――マンガ・アニメ
世界が愛するマンガ・アニメ/大学・研究図書館でのマンガ・アニメ/オハイオ州立大学のマンガ・コレクション―― Billy Ireland Cartoon Library and Museum/どう書きあらわすのか―マンガの書誌・目録/どう選ぶのか――マンガの選書/”クール・ジャパン”のその先にあるもの
■インタビュー(3)「日本の高校には貴重な資料が眠っている」
第3部 日本語の本をどのように世界に発信していくか
11 日本からのサポート ――専門機関 ほか
1.国際日本文化研究センター
日本研究のための”センター”/”外書”と図書館/データベースと海外の日本資料
2.国際交流基金
国際交流基金(Japan Foundation)の海外協力活動/海外拠点と図書館/パリ日本文化会館図書館
3.国際文化会館
国際文化会館と図書室/”窓口”と”つながり”の場
4.研修事業
「日本専門家ワークショップ」(日本研究司書研修・日本研究情報専門家研修)/天理古典籍ワークショップ――研修の効果
12 情報発信を考えるヒント
Maureen Donovanさんが実践する情報発信/wikiを活用して情報を編む/社史wiki/メインストリームに流す・つながる/情報発信で何を変えたいのか/考えるヒント集/笠間書院/ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」 /リブヨ/NIHONGO eな(いいな)/カーリル・レシピ/宮城資料ネットニュース/WINE(早稲田大学OPAC)/「評価を高めたテロ事件への対応」(『未来をつくる図書館:ニューヨークからの報告』 菅谷明子)/saveMLAK/(短信)海外日本研究と図書館
●付録 海外の日本研究・日本図書館についてのパスファインダー
あとがき [-]
索引 [-] -
日本の本が、海外でどの程度需要があるのか、どのように日本の本を入手しているか。海外での図書館員として勤務した経験を持つ筆者が、様々なエビデンスを提示しながら説明する。日本の本は電子化されていないがゆえに研究テーマが外れつつある、情報発信してもメインストリームにのらなければ見られない、などの指摘は耳にする話だが、現場の経験者が言うと説得力がある。