藤原定家 (コレクション日本歌人選 11)

著者 :
  • 笠間書院
3.40
  • (1)
  • (2)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 50
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (118ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305706119

作品紹介・あらすじ

うたの森に、ようこそ。
柿本人麻呂から寺山修司、塚本邦雄まで、日本の代表的歌人の秀歌そのものを、堪能できるように編んだ、初めてのアンソロジー、全六〇冊。「コレクション日本歌人選」の第1回配本、藤原定家です。

定家において、歌は感情の自然の流露という趣(おもむき)を失った。心情の直接吐露が歌ではない。歌は現実生活との断絶の上に始めて成立する。それが乱世乱代における定家の生き方であった。----唐木順三

藤原定家(ふじわらていか)
あの『百人一首』の編者。若くして才能を発揮し、「達磨歌」(だるまうた)と揶揄(やゆ)される前衛歌を詠んだ。古典の世界の上に立ち、失われた王朝美の再現を目指す唯美(ゆいび)的歌風が後鳥羽院の推輓(すいばん)を受け、『新古今和歌集』の撰者の一人となる。以後、歌壇の第一人者として君臨した。承久の乱後『新勅撰和歌集』を撰し、また王朝の古典テキストの継承に多大の功績を果たし、子孫から神のように崇められてその権威を中世に長く誇ったことで知られる。国宝の漢文日記『明月記』(めいげつき)数十巻を今に残す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 藤原定家の和歌で人口に膾炙していると言えば、
     見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮
     春の夜の夢の浮き橋とだえして峰にわかるる横雲の空
     駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野の渡りの雪の夕暮
     かきやりしその黒髪のすぢごとにうちふすほどは面影ぞたつ
     来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
    の五首にとどめを刺すだろう。その超絶技巧的で、耽美的な歌にはため息しか出ない。
    この解説書で他の四十五首を読んでみて、そのあまりの技巧臭さ、細密な模型のように組み立てたあざとさに鼻白む。五首はきっと奇跡的なバランスの上で出来上がったものなのだ。
    平安末期には世は武家社会と変わっていき、貴族社会が輝きを持ち続けるのは伝統化された和歌しかないと考えたのは、藤原俊成や定家であった。中世の和歌は文学的財産の古典の上に成り立たせるべきだと考え、さらにその上に新しいものを盛り込もうとした。その一つの方法が本歌取りである。もはやここでは自然な感情の流露という趣を失い、現実から離れた、心・観念によって作り上げられ、技巧を凝らして磨き上げられた独立の詩の世界になっていく。唐木順三氏は言う。「一転すればなんだまあ、という他愛なさにもなりかねない危ないものへ、生涯を賭するとは、またどうしたことであろう、という疑問を起こさせるほどの、もろい完璧さのなかに定家はいた。」
    解説、寄稿エッセイとも優れたものである。

  • 藤原定家の生涯を彼の50首の和歌で綴る。
    ざっくりとした定家の生涯を読んでみたい方におすすめです。
    なんだかんだ定家の詠んだ歌って百人一首の「来ぬ人を~」くらいしか知らなかったので、いろいろな歌を読むことがてきて良かったです。

    やはり芸術肌だったのだなぁと。難解で個性的な歌も多かったようだし。我も強くて屈折していて。自尊心も強くて。
    すでに数多くの歌が詠われ尽くしてきていて、その中でどのようにして新しい世界を作り出していくか、定家はそんな時代に生まれるべくして生まれた天才歌人だったのかなと思いました。

  • 3.44/44
    『定家において、歌は感情の自然の流露という趣(おもむき)を失った。心情の直接吐露が歌ではない。歌は現実生活との断絶の上に始めて成立する。それが乱世乱代における定家の生き方であった。----唐木順三

    藤原定家(ふじわらていか)
    あの『百人一首』の編者。若くして才能を発揮し、「達磨歌」(だるまうた)と揶揄(やゆ)される前衛歌を詠んだ。古典の世界の上に立ち、失われた王朝美の再現を目指す唯美(ゆいび)的歌風が後鳥羽院の推輓(すいばん)を受け、『新古今和歌集』の撰者の一人となる。以後、歌壇の第一人者として君臨した。承久の乱後『新勅撰和歌集』を撰し、また王朝の古典テキストの継承に多大の功績を果たし、子孫から神のように崇められてその権威を中世に長く誇ったことで知られる。国宝の漢文日記『明月記』(めいげつき)数十巻を今に残す。

    目次
    01 桜花またたちならぶ物ぞなき誰まがへけん峰の白雲
    02 天の原思へばかはる色もなし秋こそ月のひかりなりけれ
    03 いづくにて風をも世をも恨みまし吉野の奥も花は散るなり
    04 見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮
    05 あぢきなくつらきあらしの声もうしなど夕暮に待ちならひけん
    06 わすれぬやさはわすれける我が心夢になせとぞいひてわかれし
    07 須磨の海人の袖に吹きこす潮風のなるとはすれど手にもたまらず
    08 帰るさの物とや人のながむらん待つ夜ながらの有明の月
    09 里びたる犬の声にぞ知られける竹より奥の人の家居は
    10 問はばやなそれかとにほふ梅が香にふたたび見えぬ夢のただ路を
    11 望月のころはたがはぬ空なれど消えけん雲のゆくへかなしな
    12 さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫
    13 あけばまた秋のなかばもすぎぬべしかたぶく月の惜しきのみかは
    14 おもだかや下葉にまじるかきつばた花踏み分けてあさる白鷺
    15 たまゆらの露も涙もとどまらずなき人こふる宿の秋風
    16 なびかじな海人の藻塩火たきそめて煙は空にくゆりわぶとも
    17 年も経ぬ祈る契りははつせ山をのへの鐘のよその夕暮
    18 忘れずはなれし袖もやこほるらん寝ぬ夜の床の霜のさむしろ
    19 契りありて今日宮河のゆふかづら長き世までもかけて頼まん
    20 旅人の袖ふきかへす秋風に夕日さびしき山のかけはし
    21 ゆきなやむ牛のあゆみにたつ塵の風さへあつき夏の小車
    22 大空は梅のにほひに霞みつつくもりもはてぬ春の夜の月
    23 霜まよふ空にしをれしかりがねの帰るつばさに春雨ぞ降る
    24 春の夜の夢の浮き橋とだえして峰にわかるる横雲の空
    25 夕暮はいづれの雲のなごりとて花橘に風のふくらん
    26 わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭のあとはたえにき
    27 梅の花にほひをうつす袖の上に軒もる月の影ぞあらそふ
    28 駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野の渡りの雪の夕暮
    29 君が代に霞をわけしあしたづのさらに沢辺の音をやなくべき
    30 さくら色の庭の春風あともなし訪はばぞ人の雪とだにみん
    31 ひさかたの中なる川の鵜飼ひ舟いかにちぎりて闇を待つらん
    32 ひとりぬる山鳥の尾のしだり尾に霜おきまよふ床の月影
    33 わが道をまもらば君をまもるらんよはひはゆづれ住吉の松
    34 消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしの森の下露
    35 袖に吹けさぞな旅寝の夢も見じ思ふ方よりかよふ浦風
    36 白妙の袖の別れに露落ちて身にしむ色の秋風ぞ吹く
    37 かきやりしその黒髪のすぢごとにうちふすほどは面影ぞたつ
    38 春を経てみゆきになるる花の陰ふりゆく身をもあはれとや思ふ
    39 都にもいまや衣をうつの山夕霜はらふつたのした道
    40 秋とだに吹きあへぬ風に色かはる生田の森の露の下草
    41 大淀の浦にかり干すみるめだに霞にたえて帰るかりがね
    42 名もしるし峰のあらしも雪とふる山さくら戸のあけぼのの空
    43 鐘の音を松にふきしくおひ風に爪木や重きかへる山人
    44 初瀬女のならす夕の山風も秋にはたへぬしづのをだまき
    45 昨日今日雲のはたてにながむとて見もせぬ人の思ひやはしる
    46 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ
    47 道のべの野原の柳したもえぬあはれ歎きの煙くらべに
    48 しぐれつつ袖だにほさぬ秋の日にさこそ御室の山はそむらめ
    49 ももしきのとのへを出づるよひよひは待たぬにむかふ山の端の月
    50 たらちねのおよばず遠きあと過ぎて道をきはむる和歌の浦人
    歌人略伝
    略年譜
    解説「藤原定家の文学」(村尾誠一)
    読書案内
    【付録エッセイ】古京はすでにあれて新都はいまだならず(唐木順三)』
    (「笠間WEB SHOP」サイトより)


    冒頭
    『 01 桜花またたちならぶ物ぞなき誰まがへけん峰の白雲
    桜の花の美しさに、立ち並ぶことができる物などあるはずはない。いったい誰が、白雲などに見誤るなどと言い出したのだろうか。

     現在知ることができる定家最初の歌である。治承二年(一一七八)三月、上賀茂神社に奉納する歌合での三首のうち「花」の題で詠まれた作品である。定家は十七歳、当時としても若い。』


    『藤原定家(ふじわら ていか)』 (コレクション日本歌人選 11)
    著者:村尾 誠一
    出版社 ‏: ‎笠間書院
    単行本 ‏: ‎118ページ

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、2階開架 請求記号:911.108//Ko79//11

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

村尾誠一
東京都生まれ、学習院大学文学部卒。東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。東京外国語大学で長年教鞭をとり、現在名誉教授。主な著書に『中世和歌史論 新古今和歌集以後』(青簡舎/2009年)、『藤原定家(コレクション日本歌人選)』(笠間書院/2019年)など。

「2022年 『教養としての日本古典文学史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村尾誠一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ミヒャエル・エン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×