戦争の歌 日清・日露から太平洋戦争までの代表歌 (コレクション日本歌人選 78)
- 笠間書院 (2018年12月14日発売)


- 本 ・本
- / ISBN・EAN: 9784305709189
作品紹介・あらすじ
近代以降の日本の歴史は日清・日露から太平洋戦争に至る戦争の歴史であり、近代短歌においても戦争を詠んだ歌は大きな比重を占めている。『戦争の歌』を「国家や天皇制との関わり」「戦争詠の評価、戦争責任」「戦争をどのように詠むか」の三つの観点から、〈戦争の歌のこれから〉を過去のものではなく、私たちの未来を考えるために解析した。
感想・レビュー・書評
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かうもたやすく戦争といふ言葉が口にされるモツプの心理をおそれる
西村陽吉
平成の30年間、日本では戦争がなかったことは、近代短歌史をながめても特筆すべきことかもしれない。
明治の日清・日露戦争から昭和の太平洋戦争までの代表歌51首を解説した、松村正直「戦争の歌」を読み、その思いを強くした。時代と生活に密着した近代短歌は、戦線や銃後の感情も詠みこみ、戦争記録文学としての一面もあったのだ。
たとえば、日中戦争のころに注目された次の歌。
遺棄死体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし 土岐善麿
この「遺棄死体」は、中国軍の戦死者を念頭においたようだが、報道では人間の貴い命が簡単に数値化されてしまう。個々の「いのち」の重みは、戦争の時代であっても変わらないことを、率直に述べた秀歌である。
太平洋戦争下では、ベテランの歌人が、新聞や雑誌に求められて多くの戦意昂揚歌を発表していた。短歌はさまざまな意味で、「戦争」に敏感な詩型でもあるのだ。
掲出歌は、昭和初期の口語自由律短歌である。「モツプ」は英語のmob(大衆、群衆)で、現在ではモッブと表記されることが多い。命の重みと遠いところで口にされる戦争という言葉と、一方向に誘導されやすい大衆心理を危惧した歌である。
新しい元号になってから、戦争という言葉は短歌にどのように現れるのだろう。注意深く、目を凝らしていきたい。(2019年2月17日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「コレクション日本人歌人選」シリーズの第78巻。
日清・日露戦争の時代から太平洋戦争を詠んだ膨大な近代短歌の中から選ばれた51首の歌。
短歌が好きです。その限られた語数で無限を描き出す世界は、読み手の想像力を掻き立て、自らの大きさ(小ささ)を認識させてくれるから。それは、百の言葉よりも雄弁であり、空白に本質があったりする。
ここに載せられた戦争の歌は、反戦歌ばかりを集めたものではない。積極的に戦争を鼓舞する歌、意図せずして体制に利用された歌、戦地の赴く子供をただ思う母の歌、命を賭けて反戦を訴えた歌など様々な色を帯びている。詠まれた後の戦いの結末を知っているだけに、その一見平和な情景が胸に迫るという歌もある。
「反戦的だから良い歌」「軍国主義的だから悪い歌」という観点ではなく、作者の主義主張や価値観に囚われ過ぎることなく歌としての評価をするという目的で選ばれたさまざまな歌の数々。
それらの歌を冷静に読むことにより、逆にその後ろに立ち上ってくる時代に飲み込まれていく人の姿、愚かさ、弱さ、そしてそれにも負けない強さも見えてくる。
与謝野晶子の「君しにたまふことなかれ」は幾度読んでも心を揺さぶられるが、与謝野鉄幹の日清戦争に向けた歌が、発意高揚の歌であるのが対照的で男と女の戦争に対する思いの違いなのかな~と興味深かった。
著者プロフィール
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