建築の多様性と対立性(SD選書 174)

  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306051744

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  • 本書は、ヴィンセント・スカーリー氏によって、ル・コルビュジエの『建築をめざして』以降で最も重要な書物と紹介されている。なぜなら、ル・コルビュジエが純粋なものを賞賛しているのに対して、正反対のことを述べているが、相互に補いあっているからだ。しばしば、ル・コルビュジエ、ミース、グロピウスに代表される近代建築に対しての、アンチテーゼとして語られることが多い本書だが、実際には、ル・コルビュジエに関しては特に多様性と対立性が見て取れるとして、擁護している。つまり、この本は、「排除されることで得られる安易な統一」に対して否定しているのであって、近代建築全体を批判しているのではない。

    純粋主義や機能主義と言われることがある、ル・コルビュジエだけれども、よく見ると、こんなにも多様性と対立性を内包しているんだよ、と教えてくれる。例えば、サヴォア邸の外観は把握している人が多いが、一階の柱がスロープのためにずらされ、「調整された対立性」が見られることや、実は正方形平面にみえて、そうではないという「曖昧さ」ところがあるところなど。近代建築で最もポピュラーと言っても過言ではない、サヴォア邸でさえ知っているとは言えないと思い知らされる。

    また、コーリン・ロウの『マニエリスムと近代建築』で、ル・コルビュジエが歴史とつながりを持っていることを示したが、ヴェンチューリも、彼の作品に、過去の建築に見られるような多様性と対立性が見られる事を様々な例を挙げている点で、共通している。

    このように、本書ではル・コルビュジエに対する見方に彩りを添えているのであって、決して否定はしていない点を理解しなければならないと思う。

  • 本書の内容は決して「建築の無節操と二元論」ではない。ある一定の秩序なり枠組みが存在するにもかかわらず、よく観察すると「おやっ?」と感じるイレギュラーな要素を含む建築。完璧にはなれないからこそ、多面的な欠点も持ち矛盾する対立も含む。それらを個性と呼ぶなら実に人間のふとした愛らしさと似ているようでもある。

    建築において多様性と対立性というものは何を指すのか。近代化以降の建築、本書内でヴェンチューリが「現代建築」と称するものはその両者を欠いたものとして扱われる。近代建築はその理念から、各部分には全体を構築するための決められた役割があり、あるものを表現するのに他の一切を排してしまうことがひとつのデザインコードでもあった。ガラス張りの四角い建築はその外観も内部空間の機能も、一つの明確な正解に集約され、他の解釈が立ち入る隙を与えない。
    とはいえよく見ると建築には無駄とも思えるデザインや、「崩し」を入れたような組み合わせ、さまざまな解釈が可能なものも数多く存在するのだ。ヴェンチューリはその事例を以外にも中世ルネッサンスやロココの建築に見出す。左右対称のファサードと非対称の平面が共存する建築や、明らかにとってつけた(つじつまを合わせた)ようなデザインなどもある。

    筆者は豊富な写真や図面に加え自らの作品を解説することで、建築の多様性と対立性を極めて魅力的に語る。ヴェンチューリ自身がルイス・カーンに師事していたこともあってか、彼とル・コルビュジェは本書でも例外的に現代建築家の好例として取り上げられる。近代建築家の総本山コルビュジェについては意外に思われるかもしれないが、この3者については「秩序を重んじる」という共通点があった。冒頭にも挙げたようにヴェンチューリは決して好き勝手や無秩序を良しとしない。カーンはフレキシブルな秩序を目指したといえるし、コルビュジェは厳格な秩序の中に意図的に「遊び心」を加えているようにも思える。ヴェンチューリは決してコルビュジェを自らの敵としていたわけではなく、コルビュジェの純粋主義が俗悪化のもとに使用される状況に対して多様性と対立性という概念をもって立ち向かったとも解釈できる。

  • 「屈曲」という概念が面白い。建物それ自体としては非対称で歪になるかもしれないが、より大きな全体の中の位置要素として見れば、その全体構造の中心性や象徴性を際立たせるような要素の非対称性を積極的な価値として認めていこうと。
    理論的にH.サイモンとの関係も興味深い。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784306051744

  • 建築の近代的な考え方を知りたい。

  • 本当に難しい。ゆっくり読みたい。

  • 予想していた「触覚性」につながる様な意味での、多様性(複雑性)とは結果的に少し違った。
    しかし、「曖昧さ」という表現とその周辺の考え方は近しいものがあったように思うし、基本的にはモダニズム的なるものとは少し距離を置いた考え方を持っている点では共感できる部分が多かった。

  • 世界中の建築の引用、幅広い知識、それらを解説する言葉の多さに感心した。建築を言葉で語りたい人にはおすすめ。流行りのミニマム建築に対抗できるか?
    以下めも
    ■排除することで得られるイージーなユニティよりは、受け入れることで得られる、ディフィカルトなユニテぃを実現しようとする。
    ■ワイリー邸(ジョンソン・フィリップ)は生活の内容を単純化しすぎてしまった図式、すなわち二者択一の抽象的理論に成り下がっている。単純生がうまく取り入れられないと、単調さが残るばかりである。はしゃぎすぎた単純化は味気ない建築を意味するのだ。レスイズボア。
    ■多様性。建物全体のプログラムと構造を勘案したもの。
    ■対立生。にもかかわらずという接続詞によって示されるたぐい。
    ■二重に機能する要素を使う。
    ■システムの無い芸術などあり得ない/コルビジェ。サヴォア邸の中で支配的な秩序を設定しながらも、その範囲内での例外的、状況的不整合を認めている。ヴォルフスブルクの文化センター/アアルトに見られるように、不整合をもととして秩序を形成して行くように思える。
    ■コンテクスト/文脈。文脈が部分に意味を与え、文脈の変化が意味状の変化の因をなす。ディテールの集積→コンテクスト。ライトは妥協として工業製品を使用。グロピウスは工業的ヴォキャブラリーに基づいた要素と形態とを採用。コルビジェは工業製品を反語的な感覚を持って配置した。不調和による釣り合い。
    ■流れるような空間は、水平な面と垂直な面を組み合わせた建築を意味する
    ■建築とは内部と外部の空間や用途状の要求が衝突するところに生じる。壁は、内部と外部の葛藤と和解を空間に示したもの。

  • 建築の「complexity」と「contradiction」
    レス・イズ・「モア」と、レス・イズ・「ボア」。

    著者はべつに、複雑で矛盾に満ちた状態を良しとしているわけではない。引き算のデザインで、整理した結果として研ぎ澄まされた状態、機能主義の「すっきり感」を喜ぶのではなく、その状態が担保してくれるその先の未来、「未完成」を成立させるための秩序の追求こそが「建築の多様性と対立性」の真髄と見ていると感じた。

    この本を読んで、今も生活が営まれている歴史的市街地などは、一種の「動的平衡」を作り出す空間の美しさがあるととらえ、未来に向けた建築を考えるひとつの視点としてみた。

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