メイキング・ベター・プレイス: 場所の質を問う

  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (366ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306073180

作品紹介・あらすじ

世界各地でこころみられてきた都市計画・まちづくりの軌跡。よい良い場所をより善くつくるための場所の質を問うガバナンスとは……。

感想・レビュー・書評

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  • 都市を計画するという行為にとって大切なものとは何かを、考え方と実践の両方に触れながら体系化している。

    各章で世界中の事例を紹介し、具体的な実践の中からヒントや考え方を得ている一方、それらの特殊性だけに流されることなく、都市を計画するということの本質をとても幅広い視点で捉え直すことができる本である。

    まず、本書の副題にもなっている通り、計画するという営みの根底には、「場所の質を問う」という行為があるという点を筆者はくり返し述べている。

    そして、「より良い場所」の定義は、そのコミュニティの中の様々なアクターによってそれぞれ異なっている。さらには、都市はそのローカルなコミュニティの中だけで完結しているのではなく、ひろくグローバルな環境との相互作用の中にある。

    計画とは、それらの多様なアクターが持つ「よい都市」の価値観を総合的に把握しながら、それらの間の利害関係を調整し、多くの人たちに納得される方向性を見出すことである。それゆえに、場所の質を問うことは計画という行為の本質である。

    本書では、様々なスタイルの計画行為を取り上げている。そのため、政府の立場、市民の立場、民間の立場と、それぞれの立場で計画行為に携わるにあたり参考になる事例や考え方を見つけることができる。また、コミュニティ開発のようなミクロの計画行為から大規模な再開発事業における計画行為まで、扱う都市空間の種類も幅広い。

    筆者がこのように広い視野で様々な計画行為に言及しているのは、どのようなスタイルの計画行為であっても、それ自体の世界で完結するのではなく、異なるスケール、アクターによる計画行為との関係性を意識し、それらを組み込んでいくことが求められるからであると思う。

    例えば、地域コミュニティで日常的に行われる変化をマネジメントする取り組みにおいても、そのコミュニティが外の世界とどのように繋がっているのかに関する理解は重要である。また、大規模開発の計画においても、その大規模開発が周囲の地域コミュニティの場所の質に対して何を与えることができるかを問うことが欠かせない。

    したがって、計画に携わる専門家は、様々な計画行為の類型とその特性を知っておくことが大切である。

    計画をするということには、その場に対して行われる様々な変化の流れを方向付けるマネジメントという側面と、直接的に場の改変を実施する開発行為という2つの側面がある。それらのいずれも、計画が適確な形で行われていなければ、真にその場を良くしていくことにはつながらない。

    本書の中盤では、これら2つの計画行為の類型それぞれについて、具体的な事例を挙げながら、よりよい計画を作るために大切な事柄を述べている。

    まず、変化のマネジメントをする計画行為であるが、このような計画が有効性を発揮するためには、地域に変化を起こす力を持った様々なアクターの間のダイナミクスを把握することが重要である。

    さらに、それらのアクターの相互作用が起こる場(アリーナ)を適切に構築することも重要である。討議が行われる場や仕組み、それを取りまとめ、実効性を持たせる役割を果たす主体をデザインすることが必要である。これは広い意味でのガバナンスづくりである。

    このガバナンスのあり方に一般解はない。それぞれの地区のアクターの特性、それまでの計画づくりの歴史的経緯なども反映した、独自のやり方が発展することが多い。

    計画行為のもう一つの類型である巨大開発による場所の改変は、多くの公共空間を生んだり、寂れた地区に新たな意味を与える変化を起こしたりする可能性を持っている。一方で、過去の歴史や周囲の環境との断絶が課題を引き起こすこともある。

    ここでも重要なことは、その地区の場の質をきめ細かく把握し、それを巨大開発の計画に緊密に関連づけていくことである。そしてそのために、地域の様々なアクターの関心を集め、巨大開発を計画するプロセスの中にそれらのアクターとのコミュニケーションを組み込んでいくことである。

    筆者は、これら2つの類型のどちらかが重要であるとも、どちらか片方だけでよい場所をつくることができるとも言っていない。むしろ、様々な計画行為が相互作用し、長い時間のなかで作り上げられていくのが、良い場所であると考えているように感じた。

    そして、それらをマネジメントするためには、計画を行う者は、常に開かれた計画プロセスと討議の場を用意し、固定観念に捉われずに場所の質についての意見を求めていく姿勢が重要になると思う。

    本書の最後の章で、筆者は、計画を作るという役割に求められる能力や姿勢について述べている。

    計画を行うということは、安定的な調和へと物事を導くことではなく、様々なアクターの相互作用を通じて場所の質をより良い方向へと導いていくプロセスそのものであり、そのためのアリーナやガバナンスのあり方をデザインしていくことである。

    そして、この分野の専門家には、幅広い具体的な知識を集め、それを特定の課題に合わせて統合する力が求められる。また、異なる意見の間で単に予定調和的にバランスを取るのではなく、それらを統合し調和のとれた判断を導き出す力も必要となる。

    そのような理解力と判断力の水準が、計画を立てる役割を担う人の力量を判断する根拠となる。

    本書を読んで、都市を計画するということが非常にダイナミックな営みであり、一つの方法論だけで解決できるものではないということ、一方で、その営みは、良い場所を作るために場所の質を問う議論を絶えず積み重ねていくという行為に貫かれているということを、理解することができた。

  • 発行年:
    原著2010年、翻訳2015年

    著者:
    1940年生まれ。大学では地理学・教育学を修める。高等学校での地理学講師を経て、区役所都市計画局でのプランナーの職に就く。傍ら、パートタイムの学生として大学で都市計画学を修め博士学位を取得し、研究者となる。

    所感:

  • 著者は、文化人類学者のティム・インゴルドの姉だそうだ。

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著者プロフィール

パッツィ・ヒーリー(Patsy Healey) : 英国ニューカッスル大学建築・都市計画・ランドスケープ学部名誉教授。プランナー、教育者、研究者として都市計画分野への多大なる貢献を認められ、大英帝国勲章、王立都市計画協会の最高栄誉賞ゴールドメダルを受賞。設立にも携わったAssociation of European Schools of Planningの名誉会員、英国学士院特別会員にも選ばれている。主著のCollaborative Planning: Shaping Places in Fragmented Societies (1997/2006) Macmillan, Urban Complexity and Spatial Strategies: Towards a relational planning for our times (2007) Routledgeの他、学術論文・著書多数。現在は、住まいのある北東イングランドで地域のまちづくり組織The Glendate Gateway Trustの代表を務めるなど市民活動にも力を入れながら、研究・執筆活動を続けている。

「2015年 『メイキング・ベター・プレイス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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