- Amazon.co.jp ・本 (137ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309014302
感想・レビュー・書評
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とても静かな物語。
老夫婦が住む屋敷の離れを借りて暮らす夫婦。
隣の家で猫が飼われ、その猫が頻繁に出入りして、
夫婦はその猫を可愛がる。
しかし、パタッと猫が来なくなり死んでしまったと知る。
その後の屋敷での事、隣の家との関係、引っ越す事になり、新居のマンションの敷地に仔猫が暮らしている風景。
広くはない地域での夫婦と猫。
時代を表す土地の変化。
短い内容だけど、静かな日常が綴られている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「〆切本2」で文章が飛び抜けて良かったので読んだ。
古い邸宅の隅に間借りしていた夫婦と、猫のこと。
猫はもちろんなのだけど、家の様や庭やトンボ、何を描いてもはっとさせられる見事な言葉選び。
大きな出来事はさしてない、見過ごしてしまうようなことばかり、丹念に描かれる。
そこには生と死があるのだけど、重苦しくはなく、何か柔らかな手触りで胸に残った。
詩も読んでみたい。 -
向田邦子は愛猫家だったが、そのはじまりは、知人宅にてコラット種という銀青の毛並みをもつ猫に「感電」したことだったという。
「猫に感電する」という言い回しはたいそうすてきだ。猫のばねのような筋肉と、しなやかな身のこなしと、自らをのみ主とする誇りとが、うまく表れているようで。
平出隆が「稲妻小路」にてチビ猫に出会ったのも偶然のこととは思われない。
あちらからこちらへ、境を越境する猫。「うちの」猫、というときの「うち」って一体どこなんだろうか。
土地を分筆するという言葉を覚えました。 -
「存在すること」と「所有すること」の間に横たわる、かぐわしい魂と景色。せつなくて温かい無常感。
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九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/472160 -
平出隆(ひらいで たかし)さん、初読みです。「猫の客」、2001.9発行。しっかりした観察眼と心理描写に裏打ちされた「猫」への思いが伝わってくる作品です。日記でしょうか、小説でしょうか。子供のいない夫婦の家に、隣りの家で飼っている子猫が毎日やってきて、まるで「うちの猫」のように。その猫の交通事故死による喪失感、飼い主との齟齬など夫婦にとって辛い出来事も。子猫(チビ)を介しての、飼い主の冷たさと夫婦の暖かさの対比がこの作品のテーマのような気がします。
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ちょっと不思議な空間が広がってる路地裏、って感じだ・・・
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つくづく、猫は危ない生き物だと思った。
ある日いきなり生活の中に現れあっという間に居場所を広げ
そしてある日いきなり姿を消す。
その生き方を巡って思わぬ人と意見の相違でギクシャクし、
光の量によって変わる瞳に心を根こそぎもって行かれる。
外に出て行けば何事も無く帰るように祈るのみ。
外に出たがる猫に無理強いをすることができない。
私の猫は完全室内飼いで、交通事故に遭う確率は
ほぼゼロと思われるが、
閉ざされた部屋の中で関係性はより濃密になっている分、
必ずいつか訪れる別れに今から胸を締めつけられる。
作者の選ぶ言葉はとてもきれいだと思った。 -
稲妻小路の光の中に登場し、わが家を訪れるようになった隣家の猫。いとおしい訪問客とのこまやかな交情。しかし別れは唐突に訪れる。崩壊しつつある世界の片隅での生の軌跡を描き、木山捷平賞を受賞