こうちゃん

著者 :
  • 河出書房新社
3.78
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本棚登録 : 460
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (79ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309016214

作品紹介・あらすじ

こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音立てて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばをもうわたしたちはわすれてしまったのでしょうか-ただ一つのこされたちいさな物語。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、1960年12月、『どんぐりのたわごと』第7号で初出された、須賀敦子さんの文に、酒井駒子さんが画を付けた作品で、四季折々の様々な場所に現れる、「こうちゃん」という、ほんの小さな子どもでも、何か惹き付けられる存在感と、おそらく、こうちゃんを待ち続けている、どこか不安そうな、「わたし」や「わたしたち」の存在感とを、照らし合わせて、描いているように感じられました。

    こうちゃんの居るところは様々で、それらの描写はまるで、これまでわたしたちが知らなかった、素敵な場所を教えてくれるようでもあり、哀しくやり切れない場所に、佇んでいるようでもあり、わたしたちの心を、ポッと明るく灯してくれるようでもあり、彼(彼女)が何かを求めたがっているようでもあって、読んでいく内に、わたしたちが日常を生きていく中で、見えるか見えないか分からないけれど、その存在感を意識することによって、世界の見え方が、ちょっと変わることを教えてくれてるのかなと、感じました。

    しかし、終盤に訪れる、あるモノローグによって、また違う思いも浮かんできて、これを読むと、最初に書かれていた、こうちゃんが太い鉄のくさりをひきずって歩いて行く、描写が、別の意味にも感じられてきて、もしかしたら、教えてあげてるのかな、なんて。

    ただ、色々書きましたが、私の中では、未だ霧の中を彷徨っている感覚もありまして、何か、不思議なんですよね。単に、楽しいとか、哀しいとか、綺麗だとか、愛おしいとかではない、もっと複雑で繊細で大切なものが、潜んでいるような気もしてきて。

    そんな感覚にさせるのも、須賀さんの、見えない部分に訴えかけてくるような、柔らかい文と、酒井駒子さんの、渋めで少し抑えた色合いに、どこか儚さや心細さを感じ、思わず胸が締め付けられるような、繊細で美しい画が、見事に合っているからだと思い(酒井さんの背景に重ねて書かれた、須賀さんの文章も印象深い)、私がこれまで見てきた、酒井さんの画の中では、いちばん好きな画風でしたし、須賀さんの他の作品も、読みたくなりました。

  • 遠すぎず近すぎず、気にかける人の存在を感じるという安心感、あるいは自分に寄り添う人の存在を感じるという安心感、そんな感覚だろうか、酒井駒子さんの優しいイラストもあって気がつけば心洗われる読後感…
    何度も読みたい本です。

  • こうちゃんって何だろう。でも、それと同じくらい「わたし」は誰だろう。たぶん、それを考え始めたらダメだろうと思って途中から考えないようにしました。疑問は全部捨てて、本の中のきらきらしている言葉を文章を情景だけを感じるように。全身を研ぎ澄まして心で感じとるように。そしたら、どこか懐かしい世界が広がっていました。無垢で透明で限りなく澄んだ世界が。読み終わりたくない。ずっと浸っていたい世界でした。

  • 胸の奥深く、こんな本を1冊持っているのは、大事なことだ。
    誰にも知られない、しみじみと素直な、柔らかな場所に。

  • 「こうちゃん」というのは誰なのでしょう。
    男の子か、女の子か、何歳なのか。
    その解説は一切ありません。
    本の中にあるのは、酒井さんが解釈した「こうちゃん」の絵と、季節ごとの美しいささやかな風景。
    須賀さんの紡ぐ言葉は、句読点の部分をひとマス開けたゆったりとしたやわらかな日本語。

    79ページのこの本は「あなたは こうちゃんに あったことが ありますか」で始まり、
    「あなたには みえなくても きこえなくても、きっと こうちゃんはどこかできいているのです。ちいさく あかるく わらいながら」で終わります。
    そして時折、作者自身の記憶の扉を開けたような、イタリアの風景がはさまれています。

    これというストーリーもないのに、何故こんなに「こうちゃん」の存在が鮮やかなのでしょう。
    須賀さんの文章が、こつこつと心をノックするかのように響くのです。
    どの場面にも登場する「こうちゃん」は、まるで季節の精なのか、それとも幻の中の誰かなのか。
    それは、読んでみて味わっていただくしかありません。
    ただ、不思議なのは、すぐ傍に「こうちゃん」の息づかいさえ聞こえてきそうな気がしてくるのです。
    ごめんね、こんなに近くにいたのに、これまで気が付かなかったんだね。
    思わずそうつぶやきたくなります。
    いつの頃からか忘れ去った「こうちゃん」の存在。

    小学校の低学年の頃、わたしには「ミーナ」という友だちがいました。
    空想の中でだけ登場する友だちでした。
    学校で嫌なことがあると、帰り道わざと遠回りして、空を見あげ、草や花を見てはミーナとお喋りしていました。
    夜は「ミーナ」と書いた日記帳に、話しかけるように書いていました。
    思えば、おかしな妄想のたまものです。それでも大事な大事な秘密の友だちでした。

    その後、成長につれてミーナとは疎遠になっていきました。
    こうちゃん、またわたしの前に現れてくれて、ありがとう。
    大人向けの、繰り返し読んで抱きしめたくなるような本。
    美しい装丁のこの一冊は、贈り物にも適しているように思います。

  • 酒井駒子さんの表紙に惹かれて。
    【再読】酒井駒子さん装画本全読破をめざして。最近注目している須賀敦子さん。絵本として残されているのはこれただ一つ。初めてこのお話を読んだときはよくわかりませんでした。今でも理解しているとは言いがたいのですが、愛しさと切なさが同時に襲ってくる感覚。一文一文を丁寧に目で追っていると、感覚が研ぎ澄まされてくる感じ。駒子さんの画は言わずもがな。『金曜日の砂糖ちゃん』に並んで、いつまでも宝物にしていたい絵本です。
    【再々読】気になってもう一度読み返しました。子どもにしか見えない友達…ではないけれど、素直な気持ちを失わない限り、こうちゃんは存在し続けるのでしょうか。オーバーが一人で着れないこうちゃん。「ゆき、すき?」と聞かれて驚くこうちゃん。読めないくせに隣から手紙をのぞきこむこうちゃん。椿を拾って大いばりで歩くこうちゃん。乗車するだけで、雨のバス中の大人のイライラを鎮めてくれるこうちゃん。愛しさに溢れているのに、決して幸せだけの象徴ではなくて。洪水ですべてが流されたり家が燃えてしまったり…少し、泣きました。
    【2014.3.28再再読】
    人それぞれに人生の1冊とでも言うべき本があると思いますが、この本が私にとってのソウル本。
    読むたびに別の文章にはっとさせられ、常に初読のような新鮮な気持ちにさせてくれる本です。
    とてもとてもとても慈愛に満ち溢れ、それと同時に大きな孤独感にも包まれる絵本。
    最初は駒子さんの絵に惹かれましたが、やはり須賀さんの文章力あってこその名作だと思います。

  • もの悲しさが底に漂っている話。
    こうちゃんをぎゅうっと抱きしめてあげたい。「いたいよ・・・」と言われても、抱きしめていたい。離したくないお話です。

  • 突然現れては、忘れていたこと、本質的なこと、ささやかなことにふれて、またいなくなる不思議な存在「こうちゃん」。無邪気さも淋しさもすべての子供の心の代表でもあるようで、人を超越した自然がヒトのかたちになったようでもあります。酒井駒子さんの味わいのある絵、とくに見開きの雪空や青空にははっとさせられました。

  • 須賀敦子さんと酒井駒子さんという,私にとって夢のような組み合わせ。思ったとおり,端正な文章と,愛らしい中にも静けさのある絵がぴったりで,世界に引き込まれてしまった。
    こうちゃんは,誰なんだろう。何なんだろう,と考えて,自分の中に残る子供の頃の心なのか,なれなかった私なのか,影(ユング心理学でいうところの)なのか,などと思ってみたけど,もはやそういう追及をするのは野暮だな,と。
    22の哲学者の話がとても好きで,言葉や理論で納得するのではないところで感じる,ちくっとする感じ,それを大事にしたいと思いました。
    「こうちゃん」を読む直前,須賀敦子さんが,生涯の最後に書こうとして書けなかった小説がある,ということを知り,とても残念に思っていた。でも,「こうちゃん」というエッセイではない物語が,ごく初期に書かれていたことで,なんだか救われたような気がした。

  • 大好きな画家の酒井駒子さんの挿絵で、最近読み始めた須賀敦子さんの文章という、私にとっては夢のような本。
    挿絵と文がぴったりと合っていて、一つの世界を作り出しているようです。
    文章の意味や背景を解釈しようとせずに、この世界に入り込んでいくと、切なくて危うくて胸がきゅっとなります。
    私はきっと何度もこの本を読み返すと思う。

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著者プロフィール

1929年兵庫県生まれ。著書に『ミラノ 霧の風景』『コルシア書店の仲間たち』『ヴェネツィアの宿』『トリエステの坂道』『ユルスナールの靴』『須賀敦子全集(全8巻・別巻1)』など。1998年没。

「2010年 『須賀敦子全集【文庫版 全8巻】セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

須賀敦子の作品

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