- Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309020631
作品紹介・あらすじ
恋がもたらした痛恨の一撃!?人気写真家ニキのアシスタントになったオレ。一歳下の傲慢な彼女に、心ひかれたオレは公私ともに振り回されて…『人のセックスを笑うな』以来の待望の恋愛小説。第145回芥川賞候補作。
感想・レビュー・書評
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図書館より。
山崎ナオコーラさんは前々から気になってたけど読むのは初。
若手写真家のニキと、そのアシスタント加賀美くんのお話。
シーンからシーンへの移り方が、映画みたいだなと思った。1行だけの余白のあとにさらっと違うシーンに変わる感じ。
山崎さんの「人のセックスを笑うな」は映画は観たけど小説は読んでなくて、想像だけど、たぶん小説の通りにあの映画はできてるんじゃないかとこの小説を読んで思った。
主人公・ニキの、オンナだからって甘く見られたくないという思いが強すぎて逆にオンナであることを過剰に意識してしまう感じがとても痛々しい。
でも今現在の社会は良くも悪くも「女であること」が特別視される場面がまだまだあるわけで、プライドだけではどうにもならない。
そんな普段は強がりなニキでも、加賀美くんの前でだけは少し違う。
誰かを好きになって、それが初めての恋愛なら尚更だけど、自分の感情にばかり焦点を当ててしまって相手がどれだけ自分を想ってくれているか、とかそんなことまで考える余裕がなかったりする。
その関係が崩れたあとに思い返してみるとわかったりもするんだけど、そうなってから元に戻ろうにも、最初にあった空気は絶対に取り戻せない。
そういうよくある事象を捉えているのだけど、途中は可愛らしくてふふっと笑ってしまうような会話やシーンがけっこうあって、切なくもキュートな物語でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ニキの、屈辱というタイトルが沁みる。
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二人の人間の一つの恋の始まりから終わりまで。
ふつうの人たちじゃなかったけど、わかるわかる、みたいなところがいくつかあった。
少しせつない話だ。 -
珍しくすごくストレートな恋愛小説だった。
女性写真家とかかわいい写真家じゃなくただの写真家でいたいとか、常に加賀美にむかって「何かをしてあげてる」感を演出じゃなくて素でしちゃってるあたりとかが男性経験が少なくてプライドの高い女のありがちな雰囲気をかもし出していてよかった。
ラストはちょっと痛々しかったな。 -
言葉にするのがとっても難しい。
序盤からずっと加賀美が嫌いだった。
ニキの邪魔をしないでって思っちゃって、ニキが傷つくのが怖くて読み進むのにためらってしまうほど。
ニキは他人からは1人の人として扱われたくて、でも彼氏にだけは女として扱ってほしかった。
これって働く男性は特に意識しない感情だよね?
頑張って虚勢を張って強く見せようとするニキが痛々しくて苦しくなった。
実績もお金も手に入れた後の加賀美がニキのことを"ニキ"と呼び捨てにしていて、ぞっとした。やっぱり嫌いと思った。 -
芸術家の恋愛、特に格差恋愛の話。
自己愛と偏愛とプライドがお互いの心の中で渦巻いてこんがらがって破滅する。
写真家という評価が不確かな職業についているからこそ増大する不安が、恋愛相手へのプライドとしてかたちになっていく様が心理表現として秀逸。 -
プロの写真家としては、「仕事ができるオンナノコ」扱いして欲しくない。
だけど、大好きな人にはデロッデロに甘やかして愛の言葉を囁いて欲しいし、「かわいいオンナノコ」扱いして欲しい。
自分の人生には写真しかない、と思っていたコミュ障なきらいのあるニキが、いつしか社交性に富んだアシスタント・加賀美に惹かれ、やがて依存していく姿に、終盤になるに連れ痛々しさを感じました。
語り手の加賀美より、彼の目を通して語られるニキの心情の変化が生々しく感じられたのが面白かったなー。
それにしても、男の目を通して語られると、女ってつくづくイタくなるな←
化粧っ気なし・Tシャツにジーンズスタイルという、フォーマルな場所でも自分のスタイルを飄々と貫き、確固たる信念を持ってファインダー越しの被写体に対峙してきたニキ。
そんな彼女が恋に落ちていき、いつしか自分を見失っていく姿を、哀れにも魅力的に描いた作品です。
たまには自分でまとめ(OvO)φ
人気写真家・村岡ニキのアシスタントになった美大卒の青年・加賀美。一歳下の彼女の写真に惹かれていただけの筈が、いつしか彼女を「オンナノコ」として見るようになってしまう。
「オンナノコ」として扱われることを極端に嫌う「写真家・村岡ニキ」と、「オンナノコ」として扱ってほしいと彼に要求する「ニキちゃん」の狭間で揺れる加賀美の選んだ道とは。 -
「ちゃんと好かれてたんだ。私、人間だったんだ」からのやりとりで、ニキの不器用さが痛いくらいに伝わる。
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“対等に出会って、対等に終わる関係だったら、この恋は生まれなかっただろう。フラットな間柄に対する憧れが強いからこそ、関係が上下に揺れるところに、どきどきを強く感じてしまうのだ。”
“「手を繋ぐことを発明した人ってすごいよね」
「すごい。最初に手を繋がれた人は、意味がわかんなかっただろうね。まだ猿だったときかな?」
「そうだね」
「二足歩行を始めて良かったね」
「手を繋げるようになって良かった」”
世界中に溢れている恋人たちの戯言を盗み聴きしているような気持ちで読み進めた。
差別や格差、人と人との関係性の揺れ動いて変化する様。世界の捉え方。ラストがいいなあー。
冒頭のパーティー会場を周遊する様子を鮪に例えた描写や色彩表現がとても印象に残った。
「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を作りたい」
ナオコーラさんの目標であるところのこの言葉、まさしくそうなのだ。
この人の作品の中でも、男性目線のものがとりわけすきな気がする。文庫『人のセックスを笑うな』の高橋源一郎さんの解説を思い出す。
冬が来たら、きらきらの小径を歩きたい