「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309020921

作品紹介・あらすじ

「非常時」における「正しい」思考とは何なのか?果たして「答え」は存在するのか?高橋源一郎と一緒に考え、そして体験する、「あの日」からの297日。

感想・レビュー・書評

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  • 2011.3.11以後のある東京在住の作家のつぶやき
    もちろん、著者の高橋源一郎は「あの日」以前からツイッタ―を始めていました。でも、ラジオでのつぶやき(『午前0時の小説ラジオ』)は現代日本の作家では群を抜いて今日性にビビッドに関わっている彼ならではの試みで、小説や評論、エッセイの「ことば」とは別な何か、即興的な、その場その時の生もののようなものとして扱いたいゆえ、一冊の本としてまとめるつもりはなかったようです。
    しかし、「あの日」にはツイッタ―というツールの利便性が突出しました。ただ繋がらんがための「ことば」ではなく、緊急の情報交換の手段としての言葉が必要とされたわけです。筆者は以前と同じように「ことば」を話すことも、書くこともできなくなったそうです。けれども、いつにも増して、たくさんの「ことば」を書いた、「あの日」の後で・・・その中心にツイッタ―での「つぶやき」があったわけです。
    たしかに筆者の言うように、「どんな場所でも、人は、ことばを発することによってしか、理解し合うことはできない」と思いますが、ツイッタ―はあくまでも、アドホックに、機動性を持って情報交換する場であって、理解を深めるのは別の場所でというのが僕の考えです。信頼醸成のきっかけにはなると思うけど、相互理解を構築するのは無理だと思うからです。ツイッター自体がコミュニケーションの目的で、追いかけ合って、互いに確認、慰撫、トモダチの輪自慢であっても全然かまわないんですけど、公開「なう」の横行で、ホントは一人一人にリアルな生のカタチがあるはずなのに、「リア充」という規格化が進み、グラデーション無き棲み分けによって、その場その場のコミュニケーションが枯渇してしまうんじゃないかな。
    それはともかく、本書には小説や評論やエッセイも収められています。それらはツイッターに「放流」した「ことば」によく似ていると筆者自身が書いています。僕は筆者の小説をこよなく愛読(フォロー?)してきましたが、そのスタイルからしてその作品と作者を切り離せないんですよね。だから震災以降の筆者のドタバタ、家庭生活、執筆状態、交友等、ツイッターで知ることができたことを改めて活字で追いながら、たとえそれが正確なドキュメントであろうとなかろうと同じ「ことば」で表現されている以上、フィクションであり、『恋する原発』と地続きなんだなと思いました。

  • ツイッターの言葉は日記風で内容が乏しいように感じたけれども、後半の色々なところへ寄稿した文章集は味わい深いものが多かった。
    高橋源一郎は随筆が良い。

  • 高橋源一郎はやっぱりほんとうに信頼できる。真摯な、やわらかい言葉はすっと入ってきて違和感がない。高橋源一郎のことばを読むと、なんとなく良さそうに見えていた実はそれほど良くないことば、というのがはっきりとわかるようになる。心が折れそうになっている個人の側に立つ、真の文学者によるこの本を読むことで、わたしはすこしずつ、あっだいじょうぶかもっておもえるようになる。ありがたいなあ。


    --「正しい」という理由で、なにかをするべきではありません。「正しさ」への同調圧力によって、「正しい」ことをするべきではありません。あなたたちが、心の底からやろうと思うことが、結果として、「正しさ」と合致する。それでいいのです。もし、あなたが、どうしても、積極的に、「正しい」ことを、する気になれないとしたら、それでもかまわないのです。……あなたたちには、いま、なにかをしなければならない理由はありません。その「時期」が来たら、なにかをしてください。その時は、できるなら、納得ができず、同調圧力で心が折れそうになっている、もっと若い人たちの分も、してあげてください。

  • 「祝辞」ある人にとっては、どんな事件も心にさざ波を起こすだけであり、ある人にとっては、そんなものは見たくもない現実であるかもしれません。しかし、その人たちは、いま、それをうまく発言することができません。なぜなら、彼らには、「正しさ」がないからです。

    「正しさ」の中身は変わります。けれど、「正しさ」のあり方に、変わりはありません。気をつけてください。「不正」への抵抗は、じつは簡単です。けれど、「正しさ」に抵抗することは、ひどく難しいです。

    「祝島」23「帰っておいでよ」曾祖母たちは、よくそんなことをいっていた。でも、ぼくは戻らなかった。いろんなものをよく贈ってくれた。みんな、ダサかった。だから、両親に「こんなものいらないよ」といって怒られた。その人たちが死んだ時も戻らなかった。ぼくは、田舎を捨てたのである。

    いまこの場にいない人間は、当然のことながら、発言することはできない。たとえば、来年、十年後、あるいは五十年後に生まれてくる人間は、まだ存在すらしていないが故に、「現在」について発言することはできない。だからこそ、いま生きているぼくたちは、彼らへの「責任」を負っているのではないだろうか。

    100年後、1000年後、わたしたちが棄てた放射性廃棄物を受けとる未来の人びとは、どんな風に思うだろうか。すでに、彼らには、原発はなく、もちろんその恩恵など受けず、ただ過去からの忌まわしい贈り物に悩まされるだけなのである。

    原子力発電所を喜んで受け入れる場所はない。だから、他にめぼしい産業のない貧しい場所が、「持参金」と引換えに、その場所を提供する。それは、中央に住むぼくたちの知らないところだ。そのようにして得られた電気で、僕たちは「近代的」な生活をおくる。そして、それを支えるために、何が行われているのかを知らないのである。

  • 高橋源一郎、初めて読んだ。スパッと感想が書けないところが、高橋源一郎なのかもしれない。

  • 社会
    文学
    東日本大震災
    災害

  • 311以降の1年を振り返った、ツイートやエッセイ、論評や小説の冒頭などで構成された本。メディアも、SNSやブログ、新聞・雑誌と多様だ。内容の重複もあり、これら全てが綺麗にまとまるはずもなく、その混沌があの日からの日々そのものだったと、著者は語る。
    震災と津波そのものの災害よりも、長引く原発事故から巻き起こる非難の応酬や同調圧力、エネルギー問題などを巡る人々の混乱が、それぞれの相容れない「正しさ」を創り上げていく。そんな中で、著者は日常通りの生活を過ごすことで、変化を受け入れようとする。

    5年目を迎えた2016年3月11日は、あの日と同じ金曜日だった。著者がパーソナリティーを務めるNHKラジオの番組「すっぴん!」では、著者自身によってこの本からの抜粋が朗読された。あの日は、ご長男の保育園の卒園式という記念すべきハレの日。日常の一部であり、それでいて特別な家族の平和なシーンの朗読をバックに、保育園で人気だという歌『LET'S GO! いいことあるさ』が流れた。
    メロディーはどこかで聞いたことがあると思えば、オリジナルは"Go West" The Village Peopleで、カバーはPet Shop Boys。東日本で起きた災害で、自国民でありながらどこかしら疎外感が離れなかった西日本にいる自分は、これからどこへ行こうか?何を開拓しようか?いいことあるだろうか?そう思わずにはいられなかった。
    ただ過ぎ去っただけでなく永遠に失われた未来を背景に、子供たちの無邪気で元気な声で希望と未来が連呼される。慌ただしい朝の番組なのに、聞いていて思わず泣けてきた。
    http://www.nhk.or.jp/suppin/podcast.html

    また、著者が教壇に立っていた大学では卒業式が中止されたが、卒業生に宛てた祝辞は複数のツイートとして贈られた。これも、自身によって改めて朗読された。最後の卒業から時間が経った大人にも、今も深く響くメッセージだ。
    作家・高橋源一郎(@takagengen)さんの「震災で卒業式をできなかった学生への祝辞」
    http://togetter.com/li/114133

    元々、書籍の内容が多面的・多層的だった上に、さらに時間軸という深さも加わった。今も残るソースを一緒に辿ることで、改めて立体的に「あの日」を感じられる本であった。

  • 2015.6.28 読了。

    つぶやきのまとめはtwitterで読むほうがいいなあ。

  • Twitterのつぶやきと文章が大体半々。
    震災以後1年弱の間に著者が綴った言葉を収録した一冊。

    もう少し早く読めばよかったなあ。
    でも読めてよかった。とっておきたい一冊になりました。

  • <閲覧スタッフより>
    「正しさ」は揺らぐ。けれど「正しさ」のあり方に変わりはない。「正しさ」への同調に注意せよ。3.11から2011年末までにツイッターや様々なメディアで高橋源一郎が投げかけた「正しさ」とは。

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    所在記号:新書||914.6||タカ
    資料番号:10216831
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著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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