屍者の帝国

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 3052
レビュー : 426
  • Amazon.co.jp ・本 (459ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309021263

感想・レビュー・書評

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  • 伊藤計劃の遺したプロローグに、円城塔がその後を続けた作品。
    それを意識してしまうと、企画ものとして読むのか、一つの作品として読むのか、どうしても雑念が湧いてしまう。
    章が進むにつれ明らかに円城塔化してゆく文体、「ハーモニー」(第一章)、「虐殺器官」(第二章)、「メタルギアソリッド」(第三章)との意識的と思える類似性。フィクションからの人物の借用は果たしてどちらの意図なのか? などなど、考え始めるときりがない。
    ところが、第三章、事件の真相が明らかになり始めると、そんなことは全く気にならなくなる。なんという到達地点、なんという虚無。これは完全に伊藤計劃のものだ。「虐殺器官」「ハーモニー」のその先を見せてくれたと思う。
    不完全さは数々あるけれど、これを出版にこぎつけたこの企画と、円城塔氏にはホントにお礼を言いたい。

  • 「今回の本はEnjoeTohという小説製造機械にProject Itohというプログラムをインストールしたら生成されましたって言われても普通に信じるなぁ」と想いながら読み始めた。読了してもその感想は変わらなかった。
    本当にそんな内容だった。文句なし。
    両氏の作品がそれぞれに好きなだけに、期待と不安が入り混じっていたけれど、高いレベルでそれぞれの良さが融合していた作品だった。冒頭だけを手掛かりに、この作品を書き上げた円城氏の技量に唸るばかり。
    多彩な登場人物に喜び(そして自分の知識不足に「あれもこれも読んでおけばよかった」と思い)、人間という存在について、意識について、言葉について考える。
    読めて良かった。

  • 2012 9/8読了。頼んで買ってきてもらった。
    伊藤計劃の遺稿(プロローグ)といくつか残したというアイディアをもとに円城塔が書き上げた、待望の小説。
    開く前の期待感、そして何度読んでもワクワク感が異常に高まるプロローグ。微かな不安を覚えながら第1部を読み始めた時の安心感。
    結末に至るまで、期待通りの本だった。

    まずは既に公開されていた伊藤計劃のプロローグが、本当、何度読んでもワクワクする。
    動物磁気説が正しかったとされていて、フランケンシュタインの怪物で実現された死者復活が、意思のない死体を労働力として駆動させる技術として一般化された19世紀の世界。
    ロンドン大学医学部に通う若き日のワトソンは、同大を訪れたヴァン・ヘルシング教授と彼に連れられて行った先で出会った"M"に依頼され、アフガニスタン方面でスパイとして活動することになる・・・。

    この時点で、

     ・現実の史実では否定された学説(動物磁気説や骨相学)がこの世界では採用されている(場合がある)
     ・他のフィクション作品(フランケンシュタインの怪物、シャーロック・ホームズ、ドラキュラ、007)内での史実がこの世界でも取り入れられている場合がある

    ということがわかり、ていうかフランケンシュタイン化技術が普及している世界でワトソンが大英帝国のスパイマスターとしてアフガン潜入とかなにそれ超面白そう、っていう雰囲気がとんでもない。


    この面白さの雰囲気を、円城塔は畳んでいく方向じゃなく、まずはどんどん広げていく。
    『カラマーゾフの兄弟』や『風と共に去りぬ』からもキャラクターを取り入れる。
    チャールズ・バベッジの解析機関が普及し、大規模計算が行われ、それらのネットワーク化も既に行われていることにする。
    過去にすべての言語を包摂する大語族があったはずだとか、聖書に従えばいずれ死者はよみがえる⇒死者を実際によみがえらせることこそその証になるとか、原初の1人であるアダムを屍者化するとか。ぱっと聞けばトンデモとしか思えない説にしたがって行動する人々が現れる。
    さらにもともと、伊藤計劃が世界中をわたる話にしたかった、それも日本にも赴く話にしたいと言っていた、ということを受けて、インド、アフガン、日本、アメリカ、そして再びイギリスへと至るグローバルな話にも仕立てる。
    シャーロック・ホームズ、ヴァン・ヘルシング、カラマーゾフの兄弟、明治維新、米南北戦争と風と共に去りぬ、が、同時期の出来事であることは、世界史上でなんとなく知識としてわかっていても、物語の中でそれをこんなふうにつなげて提示される経験はあまりなく、やはり期待がどんどん高まることに。
    明治天皇とグラント元大統領の会談中に屍者の軍団が攻めてきてさらにレット・バトラーが狙撃を!・・・って。・・・って!!
    (きっとまだ元ネタわかっていないキャラや設定もありそうなのでそれはこれから探したい)

    こういう言い方はなんだが、「熱い」要素を伊藤計劃はプロローグにもともといっぱい詰め込んでいて、その詰め込み方の方針にしたがって円城塔もめいっぱい詰め込み続けた感がある。
    そりゃワクワクするに決まっているだろっていう。

    もともと「言葉」に執着する2人だけあって伊藤計劃と円城塔の相性もいいのか、もちろん完全な円城文体なんだけどそれほどの違和感なく読み進めることもできた。
    バーナビー大尉が適度にギャグ要員にもなってくれて、肩肘はってばかりにならず読めるのも嬉しい(というかバーナビーに対するワトソンの態度がギャグになっているんだが)。

    これだけ色々突っ込んだ話で、なんでこの人物の名前が出てこない・・・と気になっていた人物についてもあっと驚く形で名前が出てきて納得できたし、屍者化とは結局なんなのか、その解釈の提示も幾度か変わり、最後に出された説は円城塔ならそういうよねっていう感じにもなっている。

    ラストバトル、エピローグに至るまで、伊藤計劃×円城塔にかける期待を裏切らない満足度だった。
    欲を言えば期待を超える何かがあるんじゃないかと思ってた、っていうところだけれど(それは期待と何が違うのか)・・・それについては自分が後半、急いで読みすぎた可能性もあるので、あるいは気づいていない要素がありそうな気もするので、引き続き考えたい。

  • いや、凄まじい。円城塔だからここまで連れてこれたんだ、もう前に進む事のない伊藤計劃と、もうその先を見る事のできない読者を。
    この作品が二人の到達点ではないのは確かだけど、それでも二人が目指していた場所が遠くに見えるところまで連れてきてくれた。
    しかしこの本に関して何を言おうとしても、全てあらかじめ物語に内包されている仕組みには舌を巻くとしか言いようがないな。

  • 円城塔の中にいる伊藤計劃。伊藤計劃をインストールした円城塔。

    表現の仕方はさておき、円城塔のSF作家としての底しれぬ力量を感じさせる傑作で、年代設定的にも、「虐殺器官」と「ハーモニー」を巻き戻したような、意識のない屍者に纏わる物語です。「その先」を書こうとして、結果的にいい意味で原点に戻っているように思えました。

    伊藤計劃が残したプロローグからの移行部分である第一部は風呂敷を広げていくところでちと展開スピードに不満も感じましたが、第二部以降はまさに一級のエンターテインメントであり、あんな人やこんな人が最後までいろいろ出てきて、さらに世代的にエヴァンゲリオンを彷彿とされるギミックが散りばめられた、ザ・サイエンスフィクションと言える作品です。

    エピローグを読みながら、この話が終わってしまうことが残念でならなかったですが、そのエピローグで、伊藤計劃の残した「呪い」を開放したことに、円城塔の想いを読み取りました。そして、物語はプロローグ前の引用に繋がります。小学校に読んだ記憶って意外と保持されているものですね。

    複数の言葉に支配された、物質化した情報のひとつとして、そう思います。

    The second phase, or a curse, of the Project Itoh comes to settle happily.
    But, the Project will continue, and never end.

  •  伊藤計劃の絶筆、『屍者の帝国』は長編のプロローグのみであるが、頗る魅力的な設定が示されている。19世紀後半のロンドン、優秀な医学生の「わたし」ジョン・ワトソンは、指導教官セワード教授と、特別講義にやってきたヴァン・ヘルシング教授に軍の仕事に就くことを誘われる。そこで会った特務機関のMは諮問探偵を弟に持つという。まずはシャーロック・ホームズとストーカー『ドラキュラ』の登場人物が出てくるわけである。
     そしてこの時代、フランケンシュタイン博士の開拓した方法により、死者を蘇らせ、ロボットのように使役するテクノロジーが一般化している。それが「屍者」だ。すなわちある種のスチーム・パンク、もっと言うならネクロ・パンクが、この小説なのだ。
     ワトソンの任務は中央アジアにおけるイギリスとロシアの覇権争い「グレート・ゲーム」に諜報員として参加することだ。彼の向かう先はアフガニスタン。

     この未完の長編を盟友・円城塔が補筆というか、書き継ぐことになったのだが、伊藤の構想を聞いていたのか、あるいは伊藤の残したマテリアルから新たに構想したのかといった解題はついていない。
     屍者は霊素を注入することで蘇るのだが、円城の書き継いだところでは、屍者技術とはITのアナロジーとなっている。霊素は屍者を駆動するソフトウェアであり、ネクロウエアと呼ばれる。ワトソンはさまざまな知識を頭にかき込まれた屍者フライデイを伴って出かけるが、フライデイはいわばポータブル・コンピュータであり、この本自体はフライデイが記録したものなのである。さらには多数の屍者をモールス信号のキーパンチャーとして使った大規模コンピュータに大陸間をつなぐネットワークまで登場するのである。
     アフガニスタンでは新型のネクロウェアをかき込まれた屍者たちを連れ立って屍者の王国を作っている男のもとを目指す。その男の名はアレクセイ・カラマーゾフ。同道するのはクラソートキン。何ともまあ大変なメタフィクションになっている。

     『カラマーゾフの兄弟』後日譚は第1部で終わり、舞台はさらに日本へ、そしてアメリカへと移っていく。
     そこで問題となってくるのは、自分の意志を持たない屍者と、最初の屍者なのに自分の意志を持っていたフランケンシュタインの怪物との対比であり、話は意識とは何かといった哲学的問題を巻き込んで進んでいく。

     伊藤計劃は死者である。しかし屍者となって、円城塔を名乗り、この小説を書いている。などと言ってみたいが、クールな伊藤計劃の文章と円城塔の饒舌はいささか異なっているという印象も確かである。これが伊藤計劃の計画した物語だったのかというと疑問も感ずるのだが、伊藤の蒔いた種を見事な1冊に育ててくれた円城塔に拍手を送りたい。

  • 夭逝された伊藤計劃さん+円城さんということで興味津々。
    重たそうな、訳わかんなそうな印象でしたけれど、
    読み始めたら喰いつけた、ぐいぐいと。

    さすが、円城さんとうならせるような文章表現のハイレベルで
    上品で、密度の高さ。
    レトロ感も味わえて、しかも描かれている内容を
    頭の中で勝手にビジュアル化した時のハリウッド的なアクションも
    胸ときめかされ、登場人物のたたずまいが目に見えるようです。

    本屋大賞にノミネートされていますが、
    私的には内緒にしておきたい一冊でした。
    内緒、という訳にはいきませんね。やっぱり。

  • 出版までの経緯を省くにせよ、何と言っても、「円城さん、ありがとうございました」に尽きると。

    以前に伊藤計劃の遺稿であるあの硬質なプロローグを読んでからのち、円城さんがインタビューでおっしゃる「悪ふざけ」展開は予想できていなかった。
    そういう極々エンタテインメントな作品として両手に載ってきて、ゆかいなタイムトラベルをもたらしてくれた。繰り返しの読み返しを、様々な読みを許容する懐があり、しかしこれはなにより、真摯な、魂の悪ふざけなのであって、エピローグには熱く胸打たれた。
    作家はうつせみを生き、死ぬことを繰り返すのだなと、それはとりもなおさず過去から未来へ繰り返されていくあらゆる人生の似姿であるかもしれない、と時折感じることが陳腐とは思わない。
    おふたりともほんとうによくお書きになられたと感謝したい。

  • 久々に小説の世界に浸った。
    やっぱSFは良いね!大好きだ!

    ゼロ年代最高の作家の一人と言われている伊藤計劃の遺稿を円城搭が引き継いで完成されたこの作品。
    正直、どちらの作風が色濃くでるか、読み始めるまでは期待もしつつ疑問も抱いていたけど、読み終えたらどちらも裏切られた気分。
    こんなにロマンチックな作品になるなんて。。。
    終わり方も良かったなー。
    あのシリーズと繋がりを連想させてくれて。

    個人的に一気に読むのをお勧め。
    特に後半。
    途切れ途切れで読むと全体像が分かりにくなりそう(そこらへんは円城搭っぽい)。

    しかし、改めて伊藤計劃という作家が若くして世を去ったことが惜しまれてならないな。。。

  • デストピア型物語作成ウェア「Project Itoh」をインストールされた小説作成機関「Enjoe Toh」が書き出した、拡張された世界の創世記であり黙示録。
    屍者とはだれか、死者とは、生者とは、そして「わたし」とはだれなのか、変数に代入する値によって幾つにも読み出される言葉の配列。

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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