影を買う店

著者 :
  • 河出書房新社
3.52
  • (19)
  • (25)
  • (39)
  • (5)
  • (5)
本棚登録 : 356
レビュー : 49
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309022314

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 1990年代後半から2013年までの20年間に、様々な雑誌に掲載された単行本未収録の幻想小説だけを集めた21編の短編集。


    編者の日下三蔵氏の解説にもあるように
    時代が皆川博子に追いついたのか、
    ここに来て旧作の刊行が相次いでいるけど、
    そもそも本当に書きたかったものは幻想小説だという皆川さんだけに、
    (当時は幻想小説だけでは世間から認められない風潮があったようです)
    売れなくとも細々と書き続けた幻想小説の数々は
    まさに真骨頂と言える
    高純度の幻視世界を見せてくれる。

    中でも、
    自殺した弟の通夜の席で、ある男に教えられた喫茶店。
    影を剥がされる快感に性的興奮を覚えた女性の末路は…。
    中井英夫の「影を売る店」を踏まえたトリビュート短編
    『影を買う店』、

    屋根裏部屋の手作りの断頭台。
    無邪気なまま、残酷な遊びにハマっていく子供たちが怖い!
    『猫座流星群』、

    家族を空襲で亡くし感情を失った少年が、
    疎開先の蔵の中で見る甘やかな幻想。戦争がもたらした悲恋に胸が締め付けられた
    『沈鐘』、

    窓越しに隠れて聴く官能的なピアノの音色。
    戦時中の女学校を舞台にした少女の悲しき恋。
    傑作「倒立する塔の殺人」の三年前に書かれた原型となる短編。
    『柘榴(ざくろ)』、

    碧、玄、春の3人の少年少女が織り成す、叙情的で切ない一編。
    ミステリー仕立ての巧みな構成にも唸った
    『更紗眼鏡』、

    深い森に住む父と娘と三人の兄。
    ある日、黄金の馬車に乗った青髭の男が現れ、娘は連れ去られてゆく。山城に囚われた娘が開かずの扉で見たものとは…
    グリム童話をリライトした
    『青髭』

    が深く心に残った。


    ページをめくるたびに思考を蜜の壺と化す、
    艶やかで甘美な世界。
    溢れでるロマンチシズムとエロティシズム。
    生と死の狭間を匂いたつほど残酷に淫靡に描きながらも
    決して美しさを損なわない流麗な文章。

    純度100パーセントの耽美と退廃と官能の濃縮エキスがたっぷり詰まった物語の数々に
    読む者の心は陶酔に浸り、異世界をさまよう。


    それにしても、いつから本を読むという行為が
    後ろめたさを無くしてしまったのだろう。

    僕の学生時代はいかに今に抗い抵抗するかを
    それぞれが無意識に競いながら、
    自分が思う『好き』の領域を自ら探し見つけては
    一人こっそりと増やしていった。
    (たとえば映画、たとえば音楽)

    読書は知識を得るために読むものではなく、
    そこに込められた意志への憧れであり、
    不良性がある危険なものだからこそ惹かれた。

    そして小説は本来、一人でコソコソと読むもので
    タバコや酒などのように常習性があって体に悪いものなんだと思う。
    だからこそ人を絶望から救えるのではなかったか。

    だから僕は今でも読書という行為は基本、「背徳」だと思っている。
    背徳だからこその抗えない魅力。
    学生時代から僕らは
    「毒」を摂取したくて本を読んでいたのだ。

    純度100パーセントのいけないもの。
    皆川博子にしか書けない
    淫らで美しいもの。

    できうることならばこれからもまたジャンキーな僕たちに
    新しい「毒」が供給されますように。

    隠れてこっそりと読む読書こそが
    甘い蜜の味なのだから。

    • o-gataさん
      初めまして。

      以前はコメントありがとうございました。感想恐縮でした。
      こちらこそよろしくお願いします。

      皆川博子さん、興味があ...
      初めまして。

      以前はコメントありがとうございました。感想恐縮でした。
      こちらこそよろしくお願いします。

      皆川博子さん、興味があったのですが読んでみたくなりました。幻想小説大好きです。妖艶な雰囲気の本なのですね。
      楽しみです。
      2018/01/17
    • 円軌道の外さん
      o-gataさん、
      なんやかんや、また今週は面倒な仕事ばかりで、お礼が遅くなりました。
      (便利屋なので、雪かきの仕事や遺体発見部屋の掃除...
      o-gataさん、
      なんやかんや、また今週は面倒な仕事ばかりで、お礼が遅くなりました。
      (便利屋なので、雪かきの仕事や遺体発見部屋の掃除など)
      いいねポチとコメントありがとうございました!

      幻想小説に抵抗がないなら、皆川さんは、自信持ってオススメします。
      とにかく、文体に品があって、行間の隙間から官能が匂うような艶やかさがあります。
      強いて言えば、小川洋子さんや、川上弘美さん、服部まゆみさん、桜庭一樹さんなどに近い文体と世界観です。

      是非とも感想お聞かせください!(笑)
      またよろしくお願いします!
      2018/01/28
  • 1990年台~2013年までに書かれた短編幻想小説21編。
    「幻想」や「奇想」、著者が偏愛するテーマのものばかり。

    恐ろしくて面白い。
    湿った井戸の底に引きずりこまれるように躊躇いながら読む。
    読んでいるうちに恐ろしいものを近くに感じるのだけど、それでも読み終わるのがもったいなくて少しずつ読む。
    好きだ。

    2017.11再読

  • 幻想短編集。
    皆川さんのこういう世界観好きだ。

  • 『結ぶ』という短編集を読んで衝撃を受け、大好きになった作家。
    勝手に30~40代くらいの女性を想像していたら、なんと80代!
    わたしの好きな幻想小説のどストライクで、新たな作品を読むたび好きになる。

    主人公はみんな境界にいて、此方に背を向けてあちらを見ている。
    〈向こう側〉から呼ばれているような。
    この作家は、常人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえているかのよう。
    そして、最も好きなのが、〈向こう側〉をちらりと見せたところでパツッと物語が終わるところ。
    そこから先は想像の世界。
    それが、突然現実に引き戻されたようでなんとも幻想的。
    まだ、意識は曖昧なところで戸惑っているのに、読むべき物語は終わっている。
    あちらに対して憧憬や恍惚の念を抱いてしまう。
    冒頭から生の世界の描写が詳細だけれど、死に囚われているがために、儚く刹那い。
    やはり、好きだな。

  • 好:「夕陽が沈む」「魔王」「沈鐘」「釘屋敷/水屋敷」「断章」

  • 思わずため息が漏れてしまうほど、美しく幻想的でおぞましいお話の数々。
    やはり皆川さんは素晴らしい。大好きです!!

    90年代後半から2013年までの、約20年間に発表された
    単行本未収録作品をまとめたものだそうです。

    耽美、幻想…読んでいるだけで少し後ろめたい気持ちになる作品集。
    日本を舞台にしたものもあれば、
    まるで海外翻訳小説を読んでいるかのような作品もあり。
    あまりにもジャンルが特殊なので、絶対に万人受けはしません。
    ただ好きな人は狂喜乱舞するだろうなぁ。私のように(笑)

    特に好みだったのは、
    無邪気な子供たちの、残酷な遊びを描いた「猫座流星群」。
    「倒立する塔の殺人」を彷彿とさせる戦時中の少女達の物語「柘榴」。
    「魔王」と「青髭」は童話を読んでいるかのようでこれまた素晴らしい!

    中には一読しただけでは理解できないものもあったのですが、
    その事を差し引いても、少しも魅力は半減する訳ではなく。
    とっても自分好みの短編集でした。

    皆川さん、いつまでもお元気で執筆続けて下さいね。

  • 幻想短編集。じっくりと浸りこんで読みたい一冊。どれもこれもが耽美で残酷で、読めば読むほど惹きこまれてしまいます。
    お気に入りは「柘榴」。どこまでも妖しい美しさを感じさせられる一作。
    「猫座流星群」も好き。残酷なおとぎ話といった感も。

  • とくに「柘榴」「釘屋敷/水屋敷」が印象に残った。「柘榴」は映像化してほしいくらい。

  • 1995年からの2013年に発表された、単行本未収録の21編の幻想小説をまとめた短編集。

    初出媒体も一編の長さも様々だが、どの作品も耽美、退廃、官能、死の色が濃厚でありながら品がある。
    皆川博子愛にあふれる編者の後書きによると、「幻想のための幻想」である「純粋幻想小説」だと言う。まさに、作者の作り出す特異な世界に幻惑されるのを楽しむための作品集。

  • 前半は姉と弟、厳格な父親(そして弟が夭折する)という人間関係が多い。そういうテーマで編んだのかと思ったが、たまたまなよう。

    「影を買う店」
    弟の通夜の席で聞いた、彼が生前よく行っていたという喫茶店。
    「使者」
    詩人志望の青年からの手紙を受け取った出版人。普段ならば無視するであろう手紙に返信したのはその署名が維持ドールであったからだ。彼にはかつて、同じ名のイジドール・デュカスの詩を誰よりも早く知りながらその価値を見いだせなかった失意があった。
    「猫座流星群」
    姉弟の遊び相手として、少し年上の使用人の息子である勝男がやってきた。彼は手作りプラネタリウムで流星群を見せ、いらないおもちゃで戦車を作り、小さな断頭台を作った。
    「陽はまた昇る」
    アンソロジー『黄昏ホテル』収録。少女と<風>の沈むホテルに関する会話。
    「迷路」
    方向音痴である私は銀座のとある画廊へとたどり着けずに迷っていた。
    「釘屋敷/水屋敷」
    釘のびっしりと刺さった柱のある釘屋敷、座敷に井戸のある水屋敷。
    「沈鐘」
    蔵の中のその井戸は、女が身を投げたとき、千切れた振袖が残ったために振袖井戸というのだ、と彼は言った。そうして、西洋の山の姫と鐘造りの伝説を語った。
    「柘榴」
    アンソロジー『エロチカ』収録。N先輩がきっと好きなやつ。
    「真珠」
    口づけする口の内から真珠が次々にあふれるという夢。
    「断章」
    水の話。
    「こま」
    今、昔、映画。
    「創世記(写真:谷敦志)」
    「蜜猫」
    部屋が増殖する家と猫と私。
    「月蝕領彷徨」
    視覚的な詩。
    「穴」
    視覚的な詩というか絵というか。ルイス・キャロルみたい。
    「夕日が沈む」
    『命を大切に』が浸透した結果、切断された指さえ死んではならぬと生き延びるようになり、それは熱帯魚のように愛好されるようになった。
    「墓標」
    視覚的な詩と小説。母の店にやってきた東京からの子連れの客。彼はブラック・アートというマジックを見せる。
    「更科眼鏡」
    視覚的な詩と小説。川に笹舟を流す子供。
    「魔王 遠い日の童話劇風に」
    「青髭」
    「連禱 清水邦夫&アントワーヌ・ヴォロディーヌへのトリビュート」

全49件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

皆川博子(みながわ ひろこ)
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁・旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)を、『恋紅』で第95回直木賞を、『開かせていただき光栄です‐DILATED TO MEET YOU‐』で第12回本格ミステリ大賞に輝き、15年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。著作に『倒立する塔の殺人』『クロコダイル路地』『U』など多数。2019年8月7日、『彗星図書館』を刊行。

影を買う店のその他の作品

影を買う店 Kindle版 影を買う店 皆川博子

皆川博子の作品

影を買う店を本棚に登録しているひと

ツイートする