- Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309022659
感想・レビュー・書評
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全米図書賞の最終候補作品になったということで、知ることが出来て読んだのですが、この機会に感謝しております。
人生において、どんなに辛いと思っても、運命という言葉は信じたくないと、私は思っているのですが、この物語のあまりのやるせなさには、そう思ってしまいました。運が無かったと言いたくもなるよと。
現実にホームレスの方が存在するのは確かだし、その裏側に潜む過去を想像したことなど、正直、私はありませんでした。でも、こういう人生もあるのだということを、終始、終わることのないような雨の描写も相まって、息が詰まるような思いで、一気読みしました。
やっぱり、戦争も大災害も忘れちゃいけないよ。これだけは、今を生きている私が本当に書きたかったこと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公は、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の男。高度経済成長時代に出稼ぎで一生のほとんどを家族から離れて暮らし、年老いて上野のホームレスになった人生を回想する。
男は生きているのか。
それとも死後さ迷っているのか。
上野の文化を享受する人々の生活感ある会話が断片的に挟まれ、それを耳にする男の存在感のなさ。男の体はそこにあるのだろうか。
生と死が寄り添っている。浮遊している感覚と重苦しさとを行き来する。
居場所を失う、帰る場所がない。考えるだけで心がしんとする。
柳美里さんは「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」に想いを向けて書いたという。
昭和の東京オリンピックの時代も令和の東京オリンピックへ向かう今も、帰る場所をなくした人たちは大勢いる。そして東日本大震災は、多くの人たちの帰る場所を奪った。
震災の三年後に出版された本作は、再びオリンピックに向かう騒ぎの中、そのことを静かに問う。
(コロナ蔓延によりオリンピック騒ぎの意味が違ってきてはいるが…)
冷たい雨が頭を冷やし、男の寂しさが心に沁みてくる。 -
全米図書賞の受賞ニュースを見て読んでみたくなった作品ですけど、私が知る昔のアンニュイで世に背中を向けるようだった柳美里ユ ミリさんの作風とは随分違っていて興味深かった。
心ならずも愛する息子や妻や孫たちを喪い、とうとう最後まで人生や苦しみや哀しみや喜びに慣れることの出来ないままの73歳のとある南相馬出身のホームレスに焦点をあてた佳作小品です♪
2014年の出版作ですが受賞ニュース後いきなり脚光を浴びるのもなんだかなあと思って居られるかも(笑)
わたしも その口ですが(恥)。
この作品が受賞したのはよほど翻訳者が巧みだったのでしょうかね☺️
ともあれ、主人公のホームレス氏に思わず他人事ながら涙がこぼれそうになりながら読み終えました。 -
「JR上野駅公園口」柳美里氏
1.後書き
著者柳さんの後書きが2014年。2011年の東日本大震災からしばらくしての著作であることがみてとれます。
また、著者がなぜこの物語を執筆したくなったのか?その動機も記載されています。
2.読み終えて
主人公は、高度経済成長時代に、東北から東京に出稼ぎにきた男性です。
二児の父親で単身赴任を続け、定年になり故郷へ帰るという人生でした。
多くの建物、道路が作られた高度経済成長時代。
おそらく、このような環境の方たちのあゆみによって、今の日本、そして東京の基盤が作られたのでしょう。
日本、東京の表に見える繁栄と、その裏には見えない影、世界がある構造。
それを知るという意味で、この書籍は現代を知る歴史書の類いなのかもしれません。
3.人生という儚さ
儚いとは、人が夢を描くと書きます。
人は、自分だけの夢を描くのか?または、家族の夢を描くのか?
年を重ねて、人は描けなかった夢に想いを馳せるのか?
冬空のもと、そんなことを考えてしまう作品でした。
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柳美里さんの本は初めて。
詩のような文体で、わりとスラスラ読み進めました。
ホームレスであっても、一人一人に人生がある。
上野公園は時々行く場所。次に訪れる時、私は何を感じながら歩くのだろう。 -
世の中からこぼれ落ちてしまった人達の声。
ただ同情的だったり、世間に刃を向ける感じだったりするのではなく、そこに生きる人々の姿を誠実に描いていると感じた。
きっと好き嫌いが分かれる作家さんだと思うが、どんな人にもいつかどこかで手に取って欲しい本だ。 -
柳美里さんの初読み。
書店でわりと目立って平積みされていて、かなり好意的なポップが添えられていた。
加えて、主人公の男の出身地は、我が故郷と同じ県。
それだけの理由で購入。
読み進めると・・・
「なんだもない話」だった。
※「なんだもない」・・・自分と妻との間だけで通じる、夫婦だけの造語なのだが、
どうしようもない、せつない、やるせない、あきらめなくてはならない、でもあきらめきれない、哀しいような、寂しいような、
↑それらのうちの2~3個以上の感情がごちゃ混ぜになったような思いを「なんだもない」と表現している。
東北の寒村から出稼ぎに出た男は、身を粉にして育て上げた息子に死なれ
妻にも先立たれ
孫に世話を焼かせる羽目にさせたくないと故郷を捨てて
いつしかホームレスに・・・
という、「なんだもない」話。
★3つ、6ポイント半。
2021.05.24.新。 -
全米図書賞受賞と言うことで、ミーハーな私は読んでみました。まさしく行き場をなくした人の哀しさ、辛さをヒシヒシと感じさせる本でした。主人公が昭和8年生まれ、息子が昭和35年生まれ。ほぼ父と私と同年代、若干父と重なる部分もあるように思いました。これでもかこれでもかとやって来る不幸、打ちひしがれる主人公。いつしか行き場をなくしてしまう。今の世の中、誰もが主人公のようになる可能性があるように思えて、怖く悲しくなりました。この作品を英訳した方の感性に感服します。
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主人公の目と耳に入ってくるのは、今を生きる人たちの日常の会話や仕草。そして普通の人生を生きていた頃の回想シーン。
わたしには、この主人公が生きているのか、本当に今存在しているのか、終盤になるまでわかりませんでした。
今までわたしは、そんな目でホームレスの人達をみていたのかも知れません。
どこかで誰かがおなじ時間を生きていて、これしかないと思う道を歩く。時は、過ぎるようで過ぎない、終わってはいない。一人では抱えきれないものを抱えながら生きる。
主人公の生きてきた記憶が、今のホームレス生活の中に散りばめられ、読んでいて胸が苦しくなりました。
上野の森美術館でのバラ図譜展のあたり。繊細で美しく静かなバラと俗な生活の会話が交互に出てきます。
作品全体に、他にも対比がたくさんあります。あらわしているのは、人生なのか世の中なのか。
とても胸にささる作品でした。 -
詩を読んでいる感じだった。
それがだんだんとある男の人生を1つ1つ表していって。
息子も妻も先に逝ってしまい、昔出稼ぎに出てた東京に向かう。
そしてホームレス。
切ないな。人生キチンと生きていたのに。
知らない事が人生では沢山ある。