A

著者 :
  • 河出書房新社
2.68
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本棚登録 : 628
感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309023021

作品紹介・あらすじ

「一度の過ちもせずに、君は人生を終えられると思う?」

風俗嬢の後をつける男、罪の快楽、苦しみを交換する人々、妖怪の村に迷い込んだ男、決断を迫られる軍人、彼女の死を忘れ(忘れに傍点)小説を書き上げた作家……
ベストセラー『掏摸(ルビ:スリ)』など世界中で翻訳。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル年間ベスト10小説に続き、米文学賞、デイビッド・グティス賞も受賞
いま世界が注目する作家が放つ13の「生」の物語!!

感想・レビュー・書評

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  • 著名人の評論か、エッセイで、
    作家というのは、大きく分けると二種類あって、想像を重きに書くタイプ、経験を元にして書くタイプだという。
    もし、その才能や書き方の要素に比率があったとして、才能が殆ど均等していると過程して、ある作家が物語を書いたとして、両立する作家と言えば、個人的には芥川龍之介、松本清張、現代では吉田修一なんかを思い浮かべる。

    個人的にはその二種類に加えて、長編と短編にも向き不向きと言えばいいのか、合う合わないがあるのだと思う。そういう考えから、本書の内容に対して、とても、こうだ! という感想が持てなかった。短編集なのに、当たり外れが大きかったためである。大当たりか、大外れみたいな実感が原因で、文庫本が発売されたため、改めて、一年しか経っていないがそちらも全て読んでみた(最初は期間限定のフリーペーパーがあるとの情報を聞き、貰うだけでは申し訳ないと思い作業的に文庫本を買い、レビューを書いていないのをそういえばと思い出したのが起点)。文庫本も読み終えて抱いた感想は、自分の価値観が変わってないと実感したと共に、本書はシュールリアリズムな作風と、私小説的内容、作者が普段描く長編の簡略化された物語の、大きく分ければ三種類の寄せ集めだと思ったからであり、もしかしたらその作品の根本は生きる事の苦しさという一つから派生したものかもしれないし、生きる上で発生するストレスの愚痴なのかもと思い、それは結局根本と変わらないのかもしれないなどと思った。読者として面白いかそうでは無いのかと言えば、自分は長編の方が好きだと言いたいが、短編にも光る、掛かるものもあったため、どうこうとは難しい。
    ただ、確かな事は、自分は中村文則という作者の信者で、新作を、当分は追いかける読者の一人かな、という事くらいだろうか(ただ、最近、彼のHPは喜怒哀楽、公私混同な印象を受けてしまう)。

  • 「A」というのは表題作ではあるが、タイトルをAにしたのはこの短編が「この本を代表しているからではない」と、書き手自身があとがきの中で言っている。
    そうかもしれないが、書き手が殊更には特別な作品ではないと装っているこの「A」と、それに続く「B」こそが、この短編集を代表してはいないかもしれないが、今世界の中の、そして歴史の中を生きる作家としての書き手が、渾身の思いを込めて世に問うた問題作たるべき書、だと私は思う。

    善良で臆病であったはずだったにわか下士官が、捕虜虐殺を強いられ、生還の見込みの無い絶望の果ての戦場の地獄の中で自ずから悪鬼と化していく「A」。
    やはり善良なだけであったはずの従軍医師は、朝鮮人の少女が事実上騙されて慰安所に連れて来られる現実を医師として目撃する「B」。しかし、その自分もその虐げられた少女を汚すことでのみひとときの、ほんとうにひと時だけの安息を得る。なぜなら、彼自身もまた人間が味わらされてはならない絶望の地獄の底にあるのだ。

    この短編の書き手は、もちろん虚構として、ということは匿名としてあの時代中国大陸や朝鮮半島に居た数十万の日本人兵士の真実を抉り記している。
    今、私たち日本人は、匿名ではない日本国民として歴史認識を問われている。認識ではなく「あった事実」としては、「A」であり「B」でありは否定のし難い事実に他なるまい。AもBも全てが全ての日本兵であり、それはすべてが日本人でもある。少なくとも私はそう思いたい。そうして、外に向かって声を大にして言うことはできないが、日本人だけじゃ無い、すべての戦争が、全ての人間がAでありBなのではないのか。

    だからこそこの二つの物語りは虚構であり匿名なのだ。今世界の一部から日本が問われている歴史認識問題が、匿名ではない日本国と、地獄のような戦場で死んだか、あるいは生還して過去をなかったことにしてしか生きることができなかった私たちの父たちを、死者を鞭打つがごとくに名指しで断罪するものなのならば、やはり私たちは受け入れることができない。
    加害者であり敗戦国であるものの開き直りであると彼らは言うだろう。
    だが、私たちは多くの被害者とともに加害者たることから逃れられなかった父たちの魂をも、悼まないではいられないのだ。

    書き手の照れ隠しだろうか。
    「A」という何気ないタイトルに、世界に向けた確固たる発言者であろうとする書き手の、隠された意気込みを感じるのは私だけだろうか。

  • 「晩餐は続く」は読みやすかった。あとの短編は作者の伝えたいこととか意図とかがうまく汲み取れない(自分の読み方とか捉え方がまだ甘いのかもだけど)から、難しかった。エロ的要素も高尚なものなのかユーモアなのか。
    もちろん嫌いではないのだけど、自分の理解を試されるような感じになるね笑

  • 著者のエッセイ集、『自由思考』を先に読んでいたので、政治的思想の背景などが詰め込まれた部分が感じられた。官能小説風や、ミステリー風など毛色の違うものもあり楽しめるものもあった。一部短編同士の世界観が共通しているものもあり、読んでるときに混乱した。

  • 図書館にて。いろいろ考えさせられました。不思議な話の中に、中村さんが伝えたかったことをほんの少しでも受け取ることが出来た(気がする)短編集でした。

  • 短編をひとつ読み終わるごとに体に染みがポツポツできていくような気がします。

    何度も本を閉じようとしたし、中村文則さんが好きと公言するのをやめようとも思いました。
    でも「晩餐は続く」「A」「B」を読んで、やめられないと感じました。

  • 不思議な世界に連れて行ってくれる短編集。短編集ながら,どこか物語がつながっているような気がして,さくっと読める一冊。

  • 気持ち悪い、狂ってる、でも、わかる。
    わかるところばかりでも、わからないところばかりでもなく、狂ってるところばかりでもなく、正常なところばかりでもない。

    全部狂ってるかと思いきや、その中にひとつだけ正常な部分がある。
    正常な中に 異様に怪しく光る異常な部分がある。

    わたしも、あなたも、あの人も、誰でも。

  • 人間がもつ多面性をえぐりだす現代アートのような短編集。

    最初の短編「糸杉」はマジで傑作だと思う。抜け出せない魔力に身を任せてるのか抗ってるのか、現実と空想とどっちなのか。曖昧な別世界に行き来できるゲートとして糸杉はそこにある。

    表題作の「A」の軍人が狂っていく心の描写は、ジェノサイドの史実を渦中から正面切って捉えている。なんというリアリティー。

    他にも官能的なやつや、かなり下衆いものまで。人間の暗部をテンポよく書き切る才能に、またしても呆然とさせられるのであった。

  • 作品の中で残ったことばが偶然、帯に書いてあったことばと同じだったという。そして本のタイトルの「A」に対する疑問も、あとがきにまるでわかっていたかのように書かれていて。本作は実にいろいろな中村氏の短編集。しかし、この人の作品にひかれる何かを、わたしはつかまれているんだな。

    「一度の過ちもせずに、君は人生を終えられると思う?」

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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