すみなれたからだで

著者 :
  • 河出書房新社
3.34
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本棚登録 : 572
感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309025070

感想・レビュー・書評

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  • 胸が抉られるようにズキズキした。生と性を描いた8つの短編。人の気持ちや考えを文章に表現すると、こんなにも鋭く刺さるものかと思わされた。
    父親に翻弄される人生を送ってきた、「私」と「兄弟」、2つの章。その対峙の仕方。「私」の心情がびしばし響き、著者の気迫を感じた。生涯忘れられない様々な恋、(おそらく)誰もが、ほのかに心に持ち続けるそれはあり、そういう面で心が揺れ動かされたのかなと思う。
    印象的だった表題作。短い、ストーリーというより、その断面を切り取るかという。倦怠期の夫婦に訪れる変化と心の機微。日常生活で切り離せない、一つの夫婦の在り方として寄り添う性が自然に描かれていた。
    ラストの「猫と春」とても好きです。
    自分に正直に生きるためには、持っていた何かを手放すこともあり、それによって新たな何かを掴み取ることもできる。重い内容からも光が見えてきそうな。
    一つ一つが際立ち、キレがよい独立した短編。激しく力強く、心とからだに真正面から向き合っている人たちの物語。

  • 感想を抱きにくい短編集だった(^_^;)

    会社の方から頂いた本だが、苦手な短編集の上、なかなかの分かりにくさを感じてしまった。

    しかし、どの短編にも、こういう場面を感じたことがあったかもしれない?と思うような描写がある。

    前半の作品より、後半の方が力を感じた。

    特別な事件ではなく、どこかにありそう、どこかにあったのかもしれないような日常が詰まった一冊だった。

  • バラバラなのに、バラバラじゃない8本の短編集。

    1冊223ページという、標準的な単行本のページ数のなかに、8本もの短編が入っているなんて信じられますか?
    しかもその短編たちは、主人公も本当に老若男女だし、初出の媒体も見事にバラバラです。

    そんなバラバラな短編たちなのに、なぜかはじめから終わりまでバラバラな感じは受けません。
    なんなんでしょう、この窪美澄マジックは…!

    お話に性描写が入ることの多い窪美澄さんの小説ですが、この本の中で性描写が強めなのは「すみなれたからだで」「バイタルサイン」「朧月夜のスーヴェニア」の4本です。
    はじめの2本の短編「父を山に棄てに行く」「インフルエンザの左岸から」は、似たようなテーマですが、両者を読み比べてみると、その微細な境遇のちがいからくる現在の主人公の生き方のちがいに、妙に納得してしまいます。

    なかには10ページ足らずの短編もあるのに、どの短編も中途半端さがまったくありません。
    主人公の人生の断片でありながら、お話としてしっかり“END(終わり)”というマークが(書いてはないけれど)頭の中におりてくるので、まるで8本の短編映画を見終わったような感じでした。

    ちなみに、わたしがいちばん好きなお話は、「朧月夜のスーヴェニア」です。
    戦時中の許されぬ恋に身を焦がした主人公のお話ですが、最初の始まり方には面食らいました。
    読んでいてなんだか、「そうよね、誰にでも若いときはあるんだもんね…」という気持ちと、郷愁が入り混じったような気持ちになりました。

  • 窪さんはグレイトーンで寂しさ漂う雰囲気をまとった男女を描くことが巧い。
    ちょっと湿り気のある男女の静かなやり取りに心がざわざわしてくる。

    『バイタルサイン』は切なさに胸が締め付けられた。
    「川上さんと離れてから私はずっとうわの空で」
    高校生時代、母の再婚相手と関係を持ってしまった文(ふみ)。
    母の目を盗みこっそり、けれど徐々に大胆になっていく二人。
    二人を放っておいた母も悪いんだよね。。
    母にばれて川上さんとは逢えなくなって。
    けれど忘れたことは一度もなくて。
    「無様に。だけど、私はまだ生きているのだ」
    無様でもいいから日々を生きていく文。
    あー、ほんと切ない。
    切ないけれど、一筋の光が射し込んでくる物語。

    『朧月夜のスーヴェニア』は戦時中の悲恋。
    これもかなり切ない。
    「あの日々のことだけは、自分が年老いても、ぜったいに死ぬまで忘れるものかと、生きてきた」
    亡き旦那のことは忘れても、あの人のことだけは目をつぶれば直ぐに面影が浮かぶ。
    年老いてもあの人のことを思い出すだけで体の奥深くに、ぽっ、と灯りが灯る気がする、と心の中でそっと一人呟く真智子おばあちゃん。
    女として孫娘に軽く勝ってるよ。
    何時までも忘れられない記憶のある真智子おばあちゃんが羨ましい。

  • 8つの短編集
    どの話も切なくて人間味があって
    どこか少し残酷で面白かったです
    特に『バイタルサイン』と『朧月夜のスーヴェニア』がよかった

  • 短編集。
    初めの2章はよく分からなかったけど、
    それ以降の話は官能的で
    なんだか夢うつつともしてて、
    面白かった。

  • 窪美澄の本は、必ずしもハッピーエンドではないけれど、そして読んだあとで元気になるとか、満たされる話ではないけれど、言いようのない雰囲気が好き。人ってこういうところあるよね、しょうがないよね。という感じ。
    性愛の描写が多いのが特徴ではあるものの、そこは少々お腹いっぱい。

    好きなのは『バイタルサイン』
    母の再婚相手と関係をもってしまう女子高生 文。母の知るところとなり、義父は家を出る。
    41歳の文に、義父の命がもう長くないと知らせる電話がかかる。病院のベッドの脇で話しかける。

    p114
    川上さんと離れてから私はずっとうわの空で
    あれから私は
    まるで幽霊みたいに
    何を食べてもおいしくないし
    喜びみたいなものはもう何もないんです
    あの日々で……
    あの出来事が
    あなたが私の……
    ……私の願いは

    愛されていることに気づかぬふりをして、私はそこを通り過ぎてしまった。
    だけど、まだ間に合う。
    そう思って文は明日も川上さんに会いに病院へ行く。

  • 身体性、という言葉を何度か思った。

    思春期の娘の成長を眩しく見つめる中年の母親が夫と性交する昼下がりを描いた表題作をはじめ、老若男女、誰が主人公の物語であっても「からだ」がとても大きなテーマになっている短編ばかりが収められている。

    昭和の終わりから平成のはじまりを舞台に道ならぬ恋愛を描いている『バイタルサイン』、認知症のはじまりにいる老女が戦時中の性と愛を回想する『朧月夜のスーヴェニア』など、著者らしい官能的な描写に、どうしようもなく「からだ」に心が引きずられていくままならなさ、「からだ」を持つからこその感情の動きを感じた。

  • 特に好きだった二作の感想。
    ・朧月夜のスーヴェニア
    『きみのために棘を生やすの』で読んだため再読。
    婚約者がいながらも、宏との逢瀬を重ねてしまう主人公。無情にも消息不明となってしまうあっけなさ、決して喜びを感じることのない夫婦生活。
    再読ながら胸がしゅんとしました。
    ・猫と春
    ねこかわいい。
    最後にはめぐり合わせのようにもとに戻ってくるような、それも現実か夢か分からないような曖昧なラストだけれど、それもそれでよかった。

  • デビュー後から現在まで、窪美澄さんの魅力全開の短篇集!めっちゃよかった!!読み終わって、またすぐ読み返したくなる!

    いろいろな時代、いろいろな年代の「生」と「性」、そして「死」。出逢いと別れ。穏やかだったり、激しかったり。

    そう。誰だって、手探りで生きてるんだよね。

    そんな人々に寄り添った、8つのいろんな味わいの物語。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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