平家物語 犬王の巻

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 94
レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309025445

感想・レビュー・書評

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  • シンプルかつ淡々としているようで、その実、色々な要素が詰められ、接ぎ合わされたた、とても雑多なお話。

    源平合戦の時代から数百年が経過し、鎌倉幕府も滅んだ、室町の時代。
    能楽の道の頂点を窮めることを望むあまり、魔性のものと取引した父親のせいでかかった呪いのために、この世のものとは思えない醜い姿で生まれた「犬王(いぬおう)」。

    その醜悪な容貌ゆえ、体中を覆い隠され、家族の誰にも無視されながら、それでも幼い彼は、本能で美に焦がれ、兄たちの見様見真似で、美しい芸を身につけていきます。
    それは、彼の体にかかった呪いにも変化をもたらしていく。

    盲目であるが故に、犬王の醜い姿が見えない旧来の友人で琵琶法師の「友魚(ともな)」が、世間で人気の「平家物語」に絡めつつ、犬王の呪われた生まれから芸の求道に至った数奇な人生を街角街角で語るものだから、彼の名声と話題性は、とみに高まっていく。

    長じた犬王は、平家物語の新しい演目を次々と生み出し、人気の大夫(舞手)・興行師となります。

    しかし、「窮極の美」を獲た二人には、あっけない終わりが待っていて…。

    室町の時代を生きた犬王と友魚の物語は、二人の人生を主軸としながらも、ありとあらゆる要素が盛り込まれて、断片的かつ雑然としたまま展開し、終わっていきます。

    窮極の美を求める狂おしい欲望、美と醜の対比と表裏的な関係性、犬王・友魚それぞれの対極的な父子関係、語りの概念、物語における通説と異説の関係性、隆盛と衰退、知名度向上のためには話題性とそれを取り上げる宣伝担当が必要であること…。

    平家の隆盛と衰退という主軸がありながらも、源氏やら、公卿やら、誰かの女やら、唐天竺の逸話やら…ありとあらゆるエピソードが差し込まれて肥大化しながらようやく一つの話としてまとめられた平家物語を模しながらも、新たな局面に挑むかのように、エピソード以上に、実に多くの「観念的な要素」が、短い物語の中にぎゅうぎゅうと詰め込まれています。

    それらの要素が大きな流れとしての集約はされず、独立したままで終わるのも、平家物語によく似ています。

    ただ、惜しむらくは、これほど平家物語の構造に忠実に、なおかつ作者の古川さん独自の色も加えているのに、平家物語の哀切に満ちた美しさだけはないことでしょうか。

    そうはいっても、平家物語に着想を得た意欲的な物語として、十分楽しめる作品でした。
    短い物語なので、秋の夜長に手にするのにもいいですね。

  • 好きな脚本家、監督の手によって映像化されるとのことで、待ちきれず原作を手に取りました。
    一気に読んでしまった、自分の脳内に語り部が宿ったかのように、リズムよく物語が進んでいく。
    設定がとてもよい、犬王と友名(のちの友一、友有)の生い立ちや出会いは事柄起こるべくして起こったといえる。すべてに意味がある筋書きに、ものすごい構成力を感じる…。
    犬王が美を得て、それ「魚名」がいっきに吟い上げていく後半はほんとうに面白かった。そして権力者足利家によってその言葉が封じられていくさまに、いまの日本の姿が重なった。芸能(芸術)や伝聞の類がいまの時代まで語り継ぐことのできなかった派生の歴史は幾数かしれず、消えていったほんとうの真実への供養になるといい。
    (野木さんがこの作品に選ばれた orもしくは選んだ?理由がなんとなくわかる気がする。)

  • 古川日出男にしては入り組み方はそれほどでも。でも設定はさすがな感じ。
    犬王が穢れを落としていく過程と、友魚がかえっていく過程をたどっていく。

  • ヴォリュームこそまったく違うが、初期の大傑作「アラビアの夜の種族」を彷彿させる構造の組み方に、独り背筋がゾクと泡立つぐらい静かに興奮してしまった。
    ディテールについて特に重ねる言葉も思いつかないが、とにかく古川日出男氏のこの匂いが好きな人には堪らない作品となっている。
    松本大洋氏による装画も、インパクト充分かつ物語とバッチリ整合している。

  • 古川日出男の文体はテンポがあまり崩れないので落ち着いて入って行ける。能楽や歴史の基本知識があればとても楽しく読めるけれど、なかったら「シテ」といわれましても…という感じかも。史実と伝説の隙間を縫っていく物語はあわいがあって面白い。

  • 頁数は少ないんだけど、物語は重厚だった。この急かすような感じはなんだろうか。とても良かった。

  • こんなに端的できれいな日本語があるのか……!と久し振りに小説読もうと思えた本。古川版平家物語も絶対読みたい。

  • 疾走感が半端ない。疾く走れ、走れ。
    ボリュームには欠けるものの、ひとまとまりの物語を読みきった満足感はある。

    壇ノ浦に沈んだ宝剣を取り上げたことで、盲者となってしまう友魚。
    猿楽一の位欲しさに、子に数多の呪いをかけ、人あらざる姿に産み落とされた犬王。
    二人の欠けた者が『平家物語』を軸に、世を風靡してゆくお話。

    当道座と覚一本の成立という、大きな柱が打ち立てられる中で、友魚が語る『平家物語』と犬王。
    今尚、覚一本が在ることの偉大さの裏で、消えていった物語を想う。
    しかし。犬王かっこいい。犬王。

    ちなみに同じ古川日出男が訳した日本文学全集09『平家物語』が黄色く光って待っている。
    手を出したいけど、こちらはボリュームがやばすぎる(笑)

  • 読了。久しぶりに読んだ古川日出男はやっぱりカッコ良かった。『DJは全てだ』と教えてくれたのは「聖家族」だったか。日本の古典文学という財産を、ヒップホップ的な思考で読み換えて、新たな文学を駆動させる。犬王が駆けていく。そのスピード感、語り口、びりびりと痺れるカッコ良さ。古川日出男は変わらず「凄い」小説を書き続けている。松本大洋のイラストもね、河出さん良い仕事ですわ。最高!

  • ちなみに平家物語の話ではない。
    平家物語を語る琵琶法師とその友人の能の舞手の話。

    一章一章が短く、古典モチーフだけどさくさく読める。
    最後の方は舞台で演じてるのを読むようなリズム感。
    演劇とかダンスとかにしたのを見たい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。98年『13』で作家デビュー。『アラビアの夜の種族』で推協賞、日本SF大賞、『LOVE』で三島賞、『女たち三百人の裏切りの書』で野間文芸新人賞、読売文学賞。最新作は『ミライミライ』。

「2018年 『作家と楽しむ古典 平家物語/能・狂言/説経節/義経千本桜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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